第9話 MAXの殺意

停電だと何も出来ないな、そんな感じでふと考えながら俺は浴室の方向を見る。

幸いにも貯めて沸かす様なタンク式のオール電化の風呂なので、今現在、午後9時だが、結菜と京は一緒に暗闇の中。


懐中電灯を照らして節約しながら風呂に入っている。

結菜と京という信じられない組み合わせに心配になりながらも節約を思えば、と俺は溜息を零した。


「.....ハァ.....」


「.....大丈夫かい?修兵くん」


「.....あ、大丈夫っす」


冷たいお茶をお互いに飲みながら、懐中電灯の明かりを水道水の入ったペットボトルで照らしつつ柔和に俺を見てくる祐介さん。


因みに母さんは現在仕舞った自家発電機を動かしに行っている。

俺達は念の為に待機という事だ。

呼ばれれば向かう、そんな感じで有る。


「.....えっと、久しぶりだね。二人で一緒って言うのも」


「.....そうっすね」


目線を横にしながら答える。

未だにやっぱり苦手なんだな俺は。

祐介さんの事が、だ。


そんな祐介さんは少しだけ気遣いをしながら俺を見ていた。

結菜の事を聞いてくる。


「.....幼馴染のあの子、可愛いね」


「.....そうですね。でも実際、10年振りぐらいで俺も驚愕しましたけど。まさかあそこまで美人になっているとは思わなかったんで」


どう、視線を向けたら良いのか。

探すが、見つからない。

恥ずかしいとかじゃ無い。

ただ、見つからないのだ、本当に。


「.....えっと、久しぶりに会えて嬉しかったかい?」


「そうですね」


その為、会話が途切れ途切れになる。

誰でも良いから戻ってきてほしいもんだな。

暗闇の中、俺はその様に思いながら立ち上がる。


「.....すいません、ちょっと洗面所行って来ます。さっきなんか変なもん触ったんで」


「.....あ、ああ」


そして俺は頭を下げて、洗面所に向かう。

何だよそれ、俺は俺に腹が立った。

そんな言い訳をしてまた逃げるのか、祐介さんから。

立ち向かえよ、俺。


駄目な人間だな俺って。

何だか苦手なんだ祐介さんの顔が。

何故かって言われたら、父親の顔に似ているから。


『修兵!人●ゲームすっか!ハッハッハ』


親父のあの笑顔が忘れられない。

でも実際は父親じゃ無いんだよな。

だから立ち向かえよ俺。

なんで逃げるんだよ。


「.....」


考え事をしながら暗い洗面所に懐中電灯を彷徨わせながら入る。

そして誰かに勢い良く打つかった。

俺は尻餅をつく。

相手も尻餅をついた。


「.....!?」


「.....しゅ.....修兵!?きゃ.....」


真っ裸で股を開いている結菜が居た。

俺は見開いて、真っ赤に赤面して美貌に注目してしまい直ぐに目を逸らした。

なんてこった!


急いでバスタオルを纏う結菜の背後を見ると、赤い目のニコッとした京が.....ぎゃあああ!鬼だ!


「.....ノックぐらいしてよ.....お兄ちゃん.....」


「.....そ、そうだよ.....修兵」


「す、すいませんでした!」


その場から思いっきり逃げ去った。

いや、殺される!これは間違い無く!

ってか暗闇の中、何でそんな目の色に出来るの!?

俺の義妹って怪物か何か!?



「.....お兄ちゃん?流石にノックも無しに乙女が入っているお風呂場に侵入ってのは許されないし。聖域だから。しかも暗闇の中なのに」


「.....は、はい」


「もう.....修兵のエッチ.....」


「.....す、すまなかった」


俺の部屋にて。

祐介さんと母さんの手によって自家発電が動く明るさの中。

折り畳み式ちゃぶ台の向こうに目の前に正座させられ俺は説教を受けていた。


いや、京の目が怖いし、結菜が許してくれない。

助けてくれと俺はビクビクしながら俯く。

マジで威圧が半端じゃ無い。

胃が痛いと思っていると。


「.....でも悪く無かったかな.....」


「.....ん?なんか言ったか?結菜」


「な、何でも無い。修兵のエッチ」


胸元を隠す様な仕草を取る、結菜。

俺は溜息を吐いて俯く。

そして説教を受け続けた。


「これぐらいにしといてあげるけど。.....で、結菜さんは何処で寝るんですか?」


「そういや、寝る場所ねぇよな?」


「.....じゃ、じゃあ.....この部屋で寝ようかなぁ.....なんて」


がっちんガッちんに凍った。

まさに凍て付く様に。


京の目がギロチンの様な鋭さになった。

は!?俺悪くねぇよな!?

いや、この部屋で寝るって結菜って結構、根性有るね!

俺は顔を引き攣らせる。


「.....じゃあ私もこの部屋で寝るから。.....監視しないといけない」


「え?」


「.....え?おま、自分の部屋.....」


「何か文句でも有るの?.....お兄ちゃん.....?」


ギンッと効果音でも鳴りそうな感じで見てくる、京。

いや、胃が痛いんですけど。

そのハイライト失くした目、マジで止めてくれ。

めっちゃ怖い。


「じゃ、じゃあ、どうやって寝るんだ。狭いぞこの部屋」


「あ.....じゃあ私、昔みたいに寝ようかな」


ワザとなの?それとも何?

俺は顔を青ざめさせる中、え?と結菜は言う。

滅茶苦茶だ。


マジで無自覚なのか、何なのか。

俺は恐怖にブルブル怯える。


目の前の京はハイライトの無い様な、● ●の目をして黒のオーラを吹き出し半端じゃ無かった。

そして折り畳み式ナイフを.....おい!


「マジで殺す」


「京!落ち着け!」


「ん?何が?」


物凄いGが俺に掛かった気がした。

俺はそんな京を説得しつつ、?を浮かべている結菜を見た。

この子はあかんと思いながら。


「.....俺は床で寝るぞ」


「えー?昔みたいに一緒に寝よ?」


「.....結菜、もうちょっと黙ってくれ.....」


凄まじい、ゴゴゴと音がする。

だ、駄目だ、MAXレベルになった。

俺の義妹の殺意が、だ。

誰か何とかして下さい.....。

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