第25話 シュタイン王国・3

 中から疲れた顔をしたバルトとバサラが出てきた。


「……お前バサラに何をしたの。」


 キアラがバルトを睨む。ほかの二人も僅かばかりにバルトを睨みつける。


 対してユウナ達は悟る。ああ、勇者の剣のせいか。同一の剣。さらに疲れた顔。勇者の剣のウザさを知っているユウナ達は同情するしかなかった。


「──コーリン、エンラ、キアラ。バルトくんは間違いなく勇者だよ。」

「──バサラも間違いなく勇者だ。」


 二人してお互いを勇者だと認めると熱く握手を交わす。


「大変だったんですね。」

「そっちこそ。」


 バサラの仲間は何一つ分からなかったが一先ずは両方が勇者ということで落ち着いた。





「バルトくん達はこれからどちらへ? 」


 管理人の小屋から出てバサラがそう訊ねてくる。


「俺たちはここから一番近い村か町に行こうかと。」


 バルト達は誰もシュナイン王国については知っておらず道なりに進みそこで見つけた村や町で宿泊しようと考えていた。


「それなら私たちと行きませんか。どうせ行く先は一緒ですし。それにどうやらバルトくん達はシュナインについてあまり知っていないみたいですから。」


 バサラの申し出はとてもありがたかった。バルトは特に難色を示すことなく首を縦に振った。

 総勢8名。大所帯で森の街道を移動するのが決まった。


 8人での移動は騒がしいものだった。各々が自然と話し始めるのだ。バルトとバサラは先頭で勇者までのことを話し、フィアーとエンラは戦闘の話しかしていない。カナリアとコーリンは表面上はとても穏やかだが一歩間違えば大変なことになりそうな気がする。

 6人の愉快な様子を一番後ろでユウナは眺めていた。そしてユウナの右手はキアラこ左手と繋がっていた。


「えーと、キアラちゃん?」


 恐る恐るキアラへと話しかける。


「……キアラ。」

「え?」

「キアラでいい。」


 前を向きながらぶっきらぼうに答える。


「それならキアラ。どうして私の手を掴んでいるの?」

「……なんとなく?どうしてだろう?」


 どうしてってこっちが聞きたいのに!特に困ることがあるわけじゃないからいいけど……。


「……落ち着く……ユウナお姉ちゃんの手、落ち着く。」

「お姉ちゃん!?」


 突然のお姉ちゃん呼びに驚きの声を上げる。


「どうしたのよユウナ。」


 フィアーが一番に振り向いて訊ねたと思うも他の人も振り向く。そしてバサラがユウナとキアラの繋がれている手を見て目を見開く。


「キアラがもう懐いているってユウナさん何をしたんですか?」


 爽やかな笑顔をユウナに向ける。だがその笑顔に何故かユウナは警戒心を抱いてしまう。少し心を引き締める。


「特に何もしてないですけど気づいたら掴まれて……。」

「〜〜♪」


 隣にいるキアラを顔を見下ろすと笑顔で上機嫌そうだった。小屋にいた時との違いに驚く。


「キアラちゃんが笑っている!私初めて見ました!」

「へー、キアラって笑うんだねー。」


 コーリンとエンラも同様に驚いている。


「うるさい。のろまにばばあ。」


 コーリンとエンラに言われたからか無愛想な表情へと戻り二人を罵倒する。直球な言い草にユウナはキアラへ軽くチョップした。


「こら。そんな言い方しない。仲間でさらに年上でしょ。」


 年上と言うのは当てずっぽうだ。エンラはともかくコーリンも年上かは分からない。


「……べつに。いいだろ。」


 年上はあっていたみたいだ。キアラの見た目は15に満たないほどで実年齢もそれぐらいなのだろう。

 片手で頭を抑えながらどこか不満げだ。


「良くないよ。これから一緒にやっていく仲間なんだから。まあ、仲良くする気がないんならそれでもいいけど。」

「あの……ユウナ様。私達は気にしてないので。」


 コーリンが申し訳なさそうな顔をする。エンラも苦笑している所を見ると日常的に言われているのだろうか。


「わかりましたコーリンさん。」


 ユウナはそう言うとキアラの手からするりと抜けた。


「え……ユウナお姉ちゃん!」

「残念だけど私に罵倒される趣味はない。」


 縋るようにキアラがユウナに手を伸ばすがユウナは止まらずカナリアとコーリンの間にはいる。


「ちょっと失礼。」

「──いいの?」

「何が。」

「お姉ちゃんって呼ばれて嬉しそうだったよ。」


 子を見る母のように笑うカナリアに首を振る。


「嬉しくはないけどあの子を思い出してね。」

「あの子って……ああ!たしかにそうね。ユウナちゃんのことお姉ちゃんって言ってたものね。」

「ユウナ様には妹がいたのですか?」


 後ろのキアラをチラチラと見ながらユウナへと質問をする。


「妹分かな?というより弟子?まあ、一緒に暮らしていた年下の女の子がいたの。」


 元気にしているだろうか。万が一私に何かあった時のために最低限の生きる術は教えているから生きてはいるはず。


 ユウナは家にいる年下の女の子を思い出しながら振り向きキアラを見る。肩を落としてしょげているのを見ると罪悪感が僅かばかり生じる。


「ユウナ。いいの? あの子ほっといて。」


 フィアーが気になったのか話しかけてくる。


「いいよほっておいて。ああいうワガママは今のうちに直しておかないと。将来困るだろう。」


 ため息をつきながらエンラが代わりに答える。彼女なりにキアラのことを案じているのだろう。


 ワガママか……。


 ユウナはどこか思うところがあるのかキアラの隣に立ち手を握った。


 キアラが隣のユウナを見上げる。


「次またああいうことを言ったら二度と繋がないから。」

「……わかった。」


 そう言ってきゅっとユウナの手を握ってきた。その様子をバサラは横目で興味深そうに見ていた。

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勇者は義務じゃないです〜変態勇者の剣に選ばれて〜 村本鹿波 @muramoto_kanami

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