第19話 クルリ王国・2
「みんな一旦外に出ない?ここじゃ迷惑になると思うの。」
カナリアが控えめに発言する。
確かに店の中じゃ迷惑だよね。出ますか。
ユウナは特に返事をする訳でもなくて外へと出た。誰か一人が出ると他の人もつられて宿から出る。
宿から少し離れた場所にユウナが止まると皆も倣って止まる。
「さて、部屋割りですけど――。」
「それなら我にいい考えがあるよー!」
ポンッと音を立てて勇者の剣が人型になって現れた。
「きゃあ!」
カナリアが驚いて短い悲鳴を上げる。勇者の剣に関しては王都にいる時にバルトがフィアーとカナリアに説明をした、というより実際人型になる所を見てもらっていた。
「カナリアは可愛いのー。ユウナもこれぐらい可愛げがあればのー。」
「考えってなに?ささっと言え。」
勇者の剣の発言はスルーして問い質す。
もう!ユウナのいけずよなー。とちょっと拗ねたが一つ咳払いをして口を開いた。
「我と寒空の下近くの林で温めあおうぞ!」
「サンダー。」
「ぴぎゃあ!」
突然勇者の剣に細い雷が落ち変な声を漏らして勇者の剣が崩れ落ちる。
「ユウナちゃんになんてこと言うの。次また変なこと言ったらもっと強力なの落としますから!」
犯人はカナリアだったようだ。
カナリアありがとう。でも、たぶんこいつは……。
ユウナはよーく勇者の剣のうつ伏せになった顔を見ると口角が上がっていた。
魔法の雷だもの。魔力が流れて気持ちいいんでしょ。相変わらずの変態っぷりだなー。
「カナリアありがとうね。でも、こんなやつに魔法使うのなんて勿体ないから。」
「ユウナちゃん……。わかった次からはこの杖で懲らしめます!」
あー、なんでそうなるのかなー。そういうところほんと好きだけど。
「ユウナ……あんた大変ね。あんな変態に目を付けられるなんて。勇者に選ばれなくて僥倖と言うべきか。」
フィアーの気遣いの言葉にバルトの眉がぴくりと動く。
「幸いって言ったところかもね。で、ほんとにいい考えってそれなわけ?」
勇者の剣を立たせて訊ねる。立たせた時さすがに可哀想だと思ったのでユウナは少しだけ魔力を流しておいた。それに気づいた勇者の剣は慈愛の目をユウナに向けた。
その時の顔はイケメンだとフィアーが後に語った。
「我ちょー真剣だから!ふざけたことなんてないもん!」
「常時おふざけみたいなのが何言ってるんだ。」
バルトが辟易とした顔で苦言を呈す。誰よりも勇者の剣と共にいるバルトが誰よりも苦労している。全員が憐れみの目をバルトへ向けた。
「むー!でもどうするのだこのままだ皆野宿とな
るぞ。」
野宿は嫌だ。ユウナ以外の顔にそう書いてある。
野宿……?ああ、そうか。その手があったか。
手をぽんと叩く。
「私狩りに行ってくる。そしてそのままそこで寝るね。ということでフィアーとカナリアが同室。バルトが一人で使えば解決!はい、宿に入って!」
「え、ちょっとユウナ!」
「ユウナちゃん!?」
先にフィアーとカナリアを中へと押し入れる。一番文句を言うとしたらこの二人だし。
そしてバルトは首根っこを掴み投げるように宿へと送る。
「ユウナ!俺も!」
「バルトは狩りの邪魔の天才だから来ないで。」
ずっと前のこと忘れてないから。睨みつけてそう言えばバルトは押し黙る。
忘れてはいないけどもう怒ってはいないんだよねー。有効だからしばらく使っていくけど。
「じゃ、みんなの事よろしくねー。餞別に魔力どうぞ。」
勇者の剣の横を通り過ぎる時に肩に手を置いて多めに魔力をあげる。
勇者の剣が魔力を与えれば素直に言うことを聞いてくれることはユウナは知っている。
「仕方ないのー。今晩はバルトと楽しく過ごすとするかのお。」
ユウナが触れた肩にそっと触れ宿へとそのままの姿へと入っていった。
カウンターの女性が困惑していたがバルトとフィアーとカナリアは苦笑いを浮かべてなんとか誤魔化しながら手続きを済ませた。
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