第13話 ただの変態・2

「バルトでもいいだろ!バルトの魔力量もかなりのものだろ!てか絶対そっちの方がいいって!」


 ユウナは保身のためにバルトを犠牲にすることにした。

 バルトは勇者になりたがってた。その勇者の剣と寝るんだ。たぶんいいことだ。うん。


「確かにーバルトもよかったよー。でもユウナには劣るのー。あ、でもバルトの魔力はなんかすごい焦らされるの、あともうちょっとってところでいっつも焦らされてそれが癖になってきてるっていうかあ、気持ちいいっていうかあ――。」


 バルトの方をちらちらと見ながら美青年が頬染めて腰をくねらせている絵面にユウナの顔はさらに真顔になっていった。


「――焦らしプレイ最高♡」

「バルトと末永くお幸せに。」


 ユウナはそれしか言えなかった。とりあえずこの男と一緒になりたくない。それだけだった。


「それはダメ。我はユウナがいいのだ。ユウナに近い存在はいてもユウナ以上はおらぬのだ。なあユウナ勇者となって一緒に魔王を倒そうではないか。」

「いやだ。」


 間髪入れず答える。

 なぜ私がそんなめんどうなことを勇者なぞバルトでもいいだろうに。


「言っておくがバルトでは魔王は倒せぬぞ。」


 ユウナを思考に答えるように勇者の剣がいやらしい笑みを浮かべ言葉を発する。


「バルトは確かに魔力量は多い。しかしそれは有限。回復するまでの時間がユウナと大違いだ。ユウナ、お主は戦いながらも魔力が回復するのだよ。今回のオークは初めて魔力を使ったせいで制御が出来ず一気に使ってしまい倒れたがユウナなら魔力切れで倒れることはない。」


 男の言葉を聞きながらユウナはどうやって勇者にならないで済むか一生懸命考えていた。


「ユウナ諦めろ。大人しく我の手を握れ。」

「いやだ。」


 普通に嫌に決まっている。変態の手なんて触りたくもない。


「はあー。強情よな。バルト、お主の言った通りだな。」


 ユウナはばっとバルトへと顔を向ける。バルトはゆっくりと起き上がる。その動作はとても寝ていた人物とは思えない意識のはっきりした者の動作だった。


「バルト、いつから。」

「最初からよなー。ユウナが起きる前に我が起こしたんだもーん。で、バルトよ。お主は選ばれたわけではない。ただのおこぼれ勇者なわけだがどうする?」


 口角を吊り上げ嘲笑うようにバルトを見下ろす。バルトはその視線を真っ直ぐ受け止める。


「俺はたとえおこぼれだったとしても自分でなるって決めたんだ。それに――。」


 バルトがユウナの方を見る。


「お前こそ本命に断られたんだ。俺に縋るしかないだろ?ユウナの次に俺の魔力が質も量もいいって前に言ってたよな。」

「んーそうなんだよなー。でもそしたらお主めちゃめちゃ修行しなきゃ魔王と戦って死んじゃうぞ。」

「死ぬかなんてやってみなきゃ分からないだろ。勇者はこの俺だ。」


 確かな意志を持った瞳が男を射抜く。男はその目に満足そうに笑う。


「仕方ないのー。我心ちょー寛大だからバルトで我慢してあげるー。バルトが死ぬ所我が見ててあげるからのー。」


 バルトが死ぬ。それは、それは……。


「待て!」


 ユウナは気づくと声を上げていた。

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