第8話 勇者の剣・3
「カナリア!」
フィアーがカナリアへと駆け寄る。
「どこ行ってたのよ!テスト終わったらすぐ消えて!魔法の練習に誘おうと思ってたのに。」
腰に手を当ててちょっと怒った感じに言うが本心から怒っていないのは見て取れる。
「ごめんね。ちょっと用事があって。」
「せっかくバルトもいたってのに。カナリア来ないって言ったらバルトすぐ帰っちゃったし……。」
目の前で落ち込むフィアーにカナリアがおろおろと慌てる。
「やっぱりバルトって……いや、まだ希望はある!……ってあんた誰?なんでカナリアといるの?」
フィアーの不審がる目と言葉にユウナは少なからず傷ついた。
うーん。やっぱりずっと会ってないと忘れられるか。でもフィアーはバルトの次に実力があってバルトの魔王討伐には確実と言っていいほど参加するから忘れられてた方がいいのか。変に関わりがあるとどういう形で面倒事に巻き込まれるか分からないし。
ユウナはすぐにフィアーに忘れられていることをいい方に変換した。
「フィアーちゃん忘れたのユウナちゃんだよ?」
カナリアー!余計なこと言わなくていいのに!
ユウナは心の中で絶叫した。
「ユウナ……え、ユウナ!?ほんとに!」
フィアーはユウナという言葉ですぐに思い出した。フィアーがユウナとすぐに気づかなかったのは年数もあるがユウナの服装が問題であった。現在のユウナの格好は狩猟の服装のままであり、幼い頃のフィアー達と遊ぶ時は女の子らしいワンピースなど纏っており当時の印象のままのフィアーはすぐに気づかなかった。
「久しぶりフィアー。元気だった?」
「うん!そっちこそ!ユウナのことは人伝に聞いていたけど本当に狩猟に明け暮れているのね。」
上から下までじっくりとユウナの姿を観察する。
あんまりじろじろ見ないで欲しいなー。そんな大層なものじゃないし。
「おいフィアー!お前どこいってたんだ!」
フィアーがじっくりとユウナの格好を見ているとフィアーの後ろから声が飛んできた。フィアーが振り返るとそこにはバルトがいた。
「なんでバルトが学校から!?」
「なんでってセリフはこっちだ!お前俺の話聞いてたのか?カナリアが来ないなら勉強するぞって言ったの。」
「え、そうだったの?」
「そうだ!」
つまりフィアーがちゃんと人の話を聞いていないと言うことか。昔から思い込みが激しいというか直情型というか変わってないんだな。
感慨に浸って二人を見ているとバルトと目が合う。バルトが目を見開く。
「ユウナ!?それにカナリアも。」
フィアーの横に並びバルトがフィアーとカナリアを見る。
「久しぶりだなユウナ。」
「どーもお久しぶりです。勇者様。」
つっけんどんにユウナが返すとバルトが苛立ちを顕にする。
「あれはもう謝っただろ!それに俺がしたことは別に悪いことじゃないだろ!」
「そうだね。悪いことじゃない。けれど私にとっては最悪のことなの。」
二人の間に見えない火花が飛び散る。
最悪。こいつの顔を見るなんて。またあのことを思い出してきた。
以前ユウナが森で狩りをしていると餌用の罠に掛かったラビットを森に修行に来ていたバルトが逃がすということがあった。ユウナとしては貴重な餌、もしくは食料になり得る獲物を逃がされたのだ。バルトに対してあらん限りの怒りをぶつけたのだ。拳とともに。
なにが『お前は腕がいいから沢山取れるからいいだろ。目の前の苦しそうなラビットを放っておけなかった』だ!お前は苦しんでいるやつだったら魔王でも助けるってのか!くそ偽善者が!また腹が立ってきた。もう一回殴ってやるか。
「みみっちい女。」
「偽善者男が。」
二人の顔がいっそう険しくなる。事情を知らないフィアーとカナリアは二人がここまで怒っている理由が分からずどうすればいいか困り果てていた。
カーン!カーン!
二人が睨み合っていると鐘の音が鳴り響いた。
すぐさま四人は動けるよう構えた。他の村人も動きを止めた。
『南西の森にて魔物が現れた!繰り返す!南西の森にて魔物が現れた!』
それ聞いてユウナがいの一番に動いた。
「ユウナちゃん!」
「ユウナ!?」
カナリアとフィアーが追いかけようとする。その二人に気づいたユウナは一瞬振り返って笑う。
「家に戻って!自分の身を守って!」
気遣いの言葉。けれどそれはついてくるなという意味。すぐに察した二人は足を止める。きっとユウナは家に帰っただけ。そうに違いない。二人は自分達に言い聞かせた。
バルトはユウナの走っていった方を見ながら勇者の剣の柄を握りしめていた。
「俺、行ってくる!」
そう言うや否やバルトが駆け出した。圧倒的速さにフィアーは呆然とする。
「ユウナちゃん……。」
お願い!無事でいて!
胸の前で手を組みカナリアはユウナの無事を祈った。
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