第3話 選ばれたのは・2

「ユウナーーー!?」


 背中に当たるユウナに驚きながらもユウナが地面と接する前に慌てて手を離して両手でユウナの体を支える。


「ユウナちゃんだいじょうぶ!?だいじょうぶだよね!?」

「ユウナちゃん!どうしようユウナちゃんがしんじゃった……!」

「え……!ユウナちゃんしんじゃ――」

「フィアーのばか!まだしんでない!きぜつしているだけだ!」


 ユウナの体を支えるバルトはユウナが呼吸していることに気づいた。死んでないと分かったカナリアとフィアーは気が抜けたようにしゃがみ込んだ。


「よかっだー!ユウナちゃーん!」


 大粒の涙を零しながらカナリアがユウナの首元に抱きつく。


「なあ、どうしてユウナはきぜつしたんだ?」

「え、ああ!わすれてた!さっきのながれぼしがユウナちゃんのあたまにぶつかってそしたら、けんになって、ほらそこ!」


 フィアーが地面に落ちている剣を指さす。そこには傷一つついていない美しい剣が横たわっていた。バルトは訝しげに剣を見る。


「けんがユウナのあたまに?」

「ねえもしかしてこれゆうしゃのけんじゃない?だって絵本のとそっくり!」


 フィアーが手を振りながら興奮した様子で話す。勇者の剣。その言葉にバルトの眉がピクリと動く。


「ゆうしゃの……!」


 誰もが夢見、憧れる伝説が目の前にある。男の子の心がくすぐられバルトはじっと謎の剣を見つめる。

 ゆっくりと剣に手をのばし始める。


「ねぇ、そのはなしだいじ?」


 ピタリとバルトの動きが止まる。


「いまはユウナちゃんのほうがだいじじゃない?」


 冷たい目でバルトとフィアーを見据えるカナリアに二人はバツが悪そうにユウナの方を見る。


「ユウナちゃん起きそうにないね。」

「……。」


 フィアーがユウナの顔をのぞき込む。バルトはユウナの顔を見ていると黙って手をユウナの顔の上に翳す。突然のバルトの行動に二人の頭にハテナが浮かぶ。


「アクア」


 バシャリ。

 バルトの手から水が現れユウナの顔にかかる。


「バルトくんなにやってるの!」


 カナリアが怒りの顔を向ける。だがバルトに気にした様子はない。


「ん……うーん……。」

「ユウナちゃん!?」


 バルトの水のおかげかユウナの口から呻き声が漏れる。ユウナの目がゆっくりと開く。


 ユウナが起きて一番最初に目に映ったのはカナリアとフィアー。特にカナリアの赤く腫れた目がユウナの目を引いた。


「カナリアちゃんないたの?どこかけがした?」


 ゆっくり体を起こしてカナリアの頬に手を当てる。


 だれか泣かした?泣かすとしたらだれだろう……わかんない。それよりなんか顔つめたい。


「ユウナちゃーん!」


 突然カナリアがきつくきつく目の前のユウナへと嬉しさのあまり抱きつく。


「ど、どうしたの本当に?」


 ユウナの頭は混乱でいっぱいだ。


「カナリアちゃんよりユウナちゃんなんともない?きぜつしてたから。」

「き、きぜつ?」


 気絶と聞いて驚くユウナだがすぐに額の痛みと共に思い出す。額をゆっくりさする。

 なんだったのあれ。すっごいいたかった。


「やっぱりまだいたい?」

「だいじょうぶだよフィアーちゃん。それより私にぶつかったのは?」

「そこにあるけんよ。」


 ユウナはフィアーが指した剣をなんとか見る。未だカナリアがきつく抱きしめているので動きに制限がかかっている。

 そろそろはなれてくれないかなー。と考えながら剣をじっくりと見る。


 ん?これってえほんの――。


「ゆうしゃのけん……。」


 面倒な予感がするなー。いやだなー。帰りたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る