第2話 不細工な月
砂まみれのスカートに、傷だらけの腕。
本当はあの時、あなたはわたしを
だけど、それでも優しく
認めてくれた。
その
わたしは素直ではなく、第一印象は最悪だっただろう。
そう、わたしとあなたの出会いは、
一
月明かりだけが照らし出す、山の細い
街灯など存在しない暗闇の中で、
いくら月明かりが有ったところで、暗闇の中。
もちろん足場などの確認もせず後ろに跳ぶので、
道の
実年齢よりどうしても幼く見られてしまう。
しかし、つり目から覗くその大きな瞳は、幼いながらも、意思の強さを感じさせていた。
瞳の先の暗闇の中からは、二匹の犬が
彼女は素早く立ち上がると、踊るようにコートを回転しながら犬達をやり過ごし、振り向くと犬を
太股まで包み込むオーバーニーソックスも少し
しかしそれは、あくまでも中の衣装の話である。
夜でも
しかし、彼女も好きこのんで、こんな格好をしている訳ではない。
これから行う作業に必要だからだ。
ただ、
そのロングコートの半ばから
刃渡りが二十二センチ、太さが八センチとナイフよりも大きく、小刀より小さい。
犬達は頭を低くした警戒の姿勢で
そんな犬達を前にして、危険なことに、
空は雲一つなく、
「………
そして顔を戻すと、二匹の犬に対して、彼女は口元を
「それでも、今から
奈良の中腹部に位置する、
おかげで、朝九時に出たと言うのに、目的地に着いた頃には、辺りはすっかり暗闇に支配されていた。
一日中座りっぱなしで、痛みと疲れを引きずった身体にむちを打ち、バスを降りた
まったく、田舎の信じられないところだが、もう一時間遅ければ、最終バスに乗れなくて来るのが
終点のバス停は、道の駅と連なっており、バスは
たしかに、現在バス停に居るのは、バスから降りた
しかし、まだ夜の八時を回った所だと言うのに、道の駅はもう店終いをしていて、飲食店が一店舗だけ何とか頑張っているようすは、街で暮らしている
そのせいなのか、辺りは深夜のような静けさが
市と付く
だから、
ただ、
観光に来るなら良さそうな土地だ。
まぁ、あくまで観光としてだが。
仕事としてとなると足がいりそうな土地だ。こんなことなら愛車のバイクで来れば良かったと、
それから少し充電の不味いスマートフォンでナビを呼び出し、現在地と目的地を探した。
一番
歩いて十五分ほどの場所だろうか。
街とは感覚が違うので、掛かる時間が読みにくい。
まぁ、ここまで来た時間を考えると、もうすぐ着くのに変わりがないと
目的の場所には、道の駅から真っ直ぐ進み、
その坂道は、山の横を抜ける峠なのだろう。
そして、その峠を
さほどに高く無い山だが、緑が濃く森は深い。
その山の
もう後、
赤や黄色ならまだしも、
そう解りながらも目に入ったものは仕方がないと、疲れた身体に再び
これも自分の
いつの間にか、
後ろには彼女を追いかけるように、首輪をした黒い犬が一匹と、首輪もしていない、白い色が茶色に見えるほど汚れた犬が一匹。
両方とも前屈みになり走り、今にも跳びかかりそうな姿勢のまま
その犬達は、普通の犬と幾分も変わった所は見当たらない。
素人目には、両方とも少し痩せた犬だと言う印象しがないぐらいだ。
しかし、良く見てみると両方共に、鼻先が少し尖り、口元の頬が細くなり、顔付きが変わっていて、
霊感の強い者が見れば、その犬達の中には低級霊の集合体が見えただろう。
最近になり、この辺りには、どう言う訳か
それと同時に、低級霊やそれに取り
木々の生い茂っている場所では不利になるので、
上手い具合に獲物の犬達二匹も、
彼女は自分の思い通りの状況に、再び口元を緩めた。
しばらくして、獣道の横の草むらの間に、草に埋もれた獣道を見つける。
その先は、月明かりだけで見えにくいが、木々は少なく開けた空間があるようだ。
犬も直ぐに横から草に潜り込むが、ここで襲われたら不利になる。
彼女は一気に草むらを駆け抜けた。
そして、樹の枝に隠れていた何かを
確かに草も短く木々が少ない、
そこは落ち葉が多く、
神社と言っても
しかも見たところ、よりにもよって、
先ほど枝に隠れていたのは
この場所に
その
戦闘は避けられないだろう。
後で
最悪は、お
黒い犬の二メートル右手前に、お札の付いたダガーを投げつけ、地面にそれを突き刺す。
そこから横に移動しながら、素早くコートからダガーを抜いては、半径一メートルほどの円を描き、等間隔でお札の付いたダガーを投げつけ、地面にお札を突き刺して犬を囲っていく。
これは、囲い師と言う名前の
〈囲い〉とは、お札を等間隔に並べて円を描き、ドーム状の結界をはる。そして、結界の中の霊を、死後の世界へと無理矢理に送り返す、お
風で飛ばないのなら、単純に直接地面に置いていてもいい。
お札の枚数は霊の強さにより異なり、枚数が多いほど強力な結界がはれる。
その中でも、一番単純な結界に当たるのが、五枚のお札を使う、五つ囲いと言う囲いだ。
五枚のお札で
囲いにはルールが有り、図形の描けない一枚、二枚の囲いは無く、三枚や、四枚は
図形はあくまで左右対称が基本で、七枚や、十一枚、十三枚などと言った五枚以上の素数も囲いが偏った図形になるため使えない。
結界は
もちろん、肉体も魂と繋がっているから、肉体も囲いは越えられないと言う訳だ。
そして、今回使うのは最も単純な五つ囲いである。
犬の身体に憑いているのは、霊の集合体とは言えど、
砂那は犬を囲いから出さないように、お札の付いたダガーで
そして最後の、五本目のダガーを突き刺すため、砂那はバックステップで距離を取った。
それに合わせ、低級霊に憑かれた黒い犬は飛びつき襲い掛かってくるが、砂那はそれを避けながら囲うための様子をうかがう。
出来れば二匹同時に囲いたい。
しかし、そんな甘い砂那の考えとは裏腹に、犬は
白い犬の方は、砂那が傷を負ってから
本来なら取り
たまに悪霊などはこうして立ち向かって来るが、ここまでしつこく追いかけてきたり、攻撃して来るのは珍しい。
今回はまるで狩りだ。
焦りで少し立ち止まった
犬の口元は刃物によって切れるが、そんなこともお構い無しで、牙が折れるほどに強く噛みつき引っ張ってくる。爪も強く地面を引っ掻くので、抜け落ちて出血しているが、一向に力を緩める気配はない。
自身の身体の事を微かにも考えず、力任せに向かってくる。
生物は本来、自分の身体に負担が掛かることは、脳が無意識にセーブして出来なくしている。
当たり前だが、自分の骨が砕たり、筋や血管が切れるような、無茶な行動は出来ない様に成っている。
しかし、
だから普通の犬よりも数倍力が強い。
噛み付かれれば、
相手の力は強く、無茶な行動をするので、二体同時に囲う事は出来ないかもしれない。
しかし、囲いが上手く行かずに、
彼女は無理な体制からダガーを投げつけ、何とか囲いの元を完成ると、黒い犬を蹴り跳ばして囲いの中に入れる。
犬を傷付けるのはこれで最後だ。
白い犬は蹴り跳ばされた黒い犬を避けて、囲いの中から飛び出す。
先ほどと逆になってしまったが、このまま囲ってしまおうと
左手は奥の手の原語に当たり、囲い師の
蹴り倒された黒い犬は、直ぐに立ち上がり囲いから出ようとするが、結界に
これで黒い犬の方は囲えた。
白い犬は走り
「
左手には、薄い氷やガラスのような、卵大の物を握り潰す感覚があり、低級霊の集合体は、流れるように囲いの中心に吸い込まれて行った。
それと同時に囲っているお札が破れ、結界が消える。
囲いは成功だ。除霊は上手くいった。これで残りは白い犬一体となる。
黒い犬はその場に屈んだが、直ぐに意識を取り戻し、驚いたように直ぐに立ち上がると、山に向かって逃げ出した。
取り憑かれていた者が無くなり、正気に戻ったのだろう。
そして、手の甲で額の汗を
一度使った囲いは、お札が破れてしまうために使えない。もう一度、最初から囲いを張らなくてはいけない。
「あと一匹、覚悟してね」
再び犬の攻撃をかわしながら、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます