第2話
今日も今日とて穏やかに男装で過ごしているシャオメイ。
先日、兄と自分が危なかったことなど露知れず勉強をしている。
『さっき一緒に歩いてた子誰?』とエイシュンに聞かれ、『少し道案内してもらっただけです』とレンは答えた。
『ふ~ん』と面白げに笑うエイシュンに、ちっとも面白くないと心で悪態をつくレン。
そして、頑張れよとも心で呟いた。
ーーーー…
書簡に目を通しているエイシュン。
が、なかなか乗り気にはなれない。
部屋においてある桃を見ると、何故だかシャオランみたいだなと思った。
警戒している時の顔から、クスクスと笑った時の顔が浮かんだ。
「今日はしょっぱい物でも食べさせるか」
いくつか部下に書簡を持たせるとシャオメイの部屋に行く。
途中、庭の大きい岩に座っている彼女を見つけ立ち止まる。
桃を一人で食べていた時、何故だかしゅんとしていた事を思い出して心配になった。
部下にここで待っていろと指示し、彼女の後ろから近付く。
ぼぅと考え事をしているようだ。
彼女の肩に顎を乗せてみる。
少しの間を置いて、仰け反るシャオメイ。
本当に驚いた時は声もでない。
さらにぐっと距離を詰めた彼の口を両手で防いだ。
「ふごふごふご(無礼ぞ)」
「すすすすぃません!あまりに驚いてしまって」
彼女の手首を掴み優しく離すとにっと笑った。
「では、そなたの部屋でもてなしを受けるとしよう」
「えっ」
部屋につくと寝台に座るエイシュン。
部下が机に書簡を置き、彼の前に机を運んだ。
なぜそこに座るんだと訝しげに思っていたら、他に大きい机と椅子を買ってくるように兵に命じた。
「ここは陽射しが気持ちいいねぇ」
私の部屋を奪うつもりなんだと思いつつもお茶をいれる。
「王様は今日は私に何をお試しにこられたのですか?」
「何をそんなに警戒しているんだ。仕事が捗らないから、気分転換にここにきただけなのに」
話ながらも押印していく。
確かに捗っているようだ。
鼻歌さえ歌っているほどに。
シャオメイはふぅと息を吐くと、椅子に腰かけた。
そういえば昨日貰ったお金で菓子を大量に買ってきたのを思い出した。
ひとつ口に含み、柔らかいか確認する。
よし、大丈夫そうだと皿に移し差し出す。
「昨日はお金をいただきありがとうございました。これはそのお金で買って参りました。どうぞ」
「饅頭のような柔らかな生地だな」
「この塩のきいた生地に、いろんな餡が入っていて美味なのです」
「そなた、相当な美食家な気がするな」
と、彼は食べながらにやりとした。
それに彼女はくすりと微笑みを返しながら、再度お茶を差し出す。
この部屋は確かに陽射しもそよ風もはいり居心地がいいのは彼女がいるからだ。
思っていることが表情にでてしまうので媚びていないことがわかる。
適当に相槌を打つのではなく、時には否定したり褒めたりしてくれる。
「先程は何を庭で考えていたんだ?」
「…」
「悩み事か?」
「…悩みという程ではありませんよ」
ただ実力の差が悔しい。
それと、彼が自分の国を属国にしたのも欲だけではなかったともわかっているから溜息がでる。
「ほぅ」
涼し気な顔をして微笑む彼を見て恨めしく思う。
茶金の髪が太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。
「で、それはなんだ?」
「陛下です」
「無礼ぞ」とニヤリ。
「では聞かないで下さいよ」と溜息。
「今日は部屋を占領している俺の方が無礼だから聞いてやる。だから言え」
「………その茶金の髪を触ってみたいのです」
「ほう」
咄嗟に言ったが疑ってはいないみたいだ。
「では触るがよい」
おずおずと左手で髪を撫でてみる。
柔らかい髪が思ったより気持ちいい。
髪を手ぐしで梳いてみる。
両手で髪を束ねてみる。
案外しっかりとした首筋が見えドキリとしてしまう。
「でまかせかと思えば本気か」
「あっ」
気がついたら長く触っていたようだ。
さすがにいたたまれなくなったのか、エイシュンは彼女の両手を掴んで静止した。
気分を害してしまったかと冷汗をかきながらエイシュンの顔をちらみする。
照れているのか頬が少し赤い。
迂闊にも胸がきゅっとしてしまう。
「もう少し触りたいです」
「絶対だめ」
「ちぇ」
両手が自由になったので席に戻った。
それからテキパキと仕事を片付け彼は夕方帰って行った。
忘れて行った彼の上着が寝台に置いてあった。
それを拾い上げると柔らかな香りが鼻をかすめる。
その服に顔を埋める。
「ヤバイ…変態か私は」
こんなよい香水を仕事中に着けるのは勿体ないし狡い。
自分も姫の時はよく香水を着けていたものだ。
髪もエイシュン以上に艶を磨いていた。
やはり恨めしく思うシャオメイだった。
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