未定
りりにゃん
第1話
江華国の属国となりシャオメイは宮廷に使えている。
元敵対していた麗華国の一人娘だった第一王女シャオメイは、戦乱の最中、属国に下るときに病死に見せかけ、いない筈の第2王子とされた。
属国の姫と言えど捕虜にすぎない。
貞操を守るための苦肉の策だった。
胸ほどにまである長い髪を常に帽子にいれ、肌が小麦色のように濃く見えるように毎日化粧をし男装をしている。
江華国の王、エイシュンは若い王ではあるがむやみやたらに殺生はせず、他にも属国の姫はいるが手を出したことはない。
「王様のおなーりー」
「!!」
シャオメイの部屋に突如、エイシュンが入ってくる。
「おっ、王様っっなぜここに」
彼女は慌ててひれ伏した。
「そなたに用があるからだ」
ごもっともでと心で納得し、顔をゆっくりとあげる。
微笑しつつ、顔を傾けながら彼女を眺めているエイシュンが視界に入ってくる。
茶金の髪に目鼻立ちが整った顔つき。
身長は180ぐらいか。
この男が王でなかったなら、市場で女達の人だかりができるであろう。
普通の娘であれば、一瞬にして恋に堕ちたであろうが彼女は違う。
いつかは再び敵になるかもしれないと警戒しているからだ。
椅子に腰掛け外を眺めるエイシュン。
その行動がわからず眉間にシワを寄せるシャオメイ。
しかし、間が持たないのでお茶をカップに淹れる。
「ははっそなたが淹れるのか?」エイシュンは関心しながらその様を見た。
「さようにございます。私は下女は断っておりますゆえ。どうぞ」
毒味もしていないお茶を何の躊躇もなく飲み干す。
艶めいた唇がにっと笑う。
それにさっと身構えるシャオメイ。
「夕方、俺の部屋に来い」
「なぜ…です?」
「そなたに見せたい物がある」
「わっ私はおなごに興味はありません!」
「はは、違う違う」
「では、どういう?」
「全部聞いてしまったら楽しみが減るだろ?秘密秘密」
「ご遠慮いた…」
ずいっと急に距離を縮めたエイシュンに硬直するシャオメイ。
その開いた口をエイシュンの人差し指がなぞる。
唇に触れた指に背中がぞわりとした。
「そなた、お茶で俺を試したではないか。今度は俺の番だ」
「そん…」
「無礼だぞ、王を試すなんて」
そんなつもりじゃない、そう言おうとした彼女の言葉を遮る。
血の気がさぁっと引き、彼の触れる部分のみが暖かみを感じる。
彼女は瞬時に悔やんだ。
警戒しているつもりだった。だが、心のどこかでお飾りの王と侮っていたからだ。
例がないだけで、彼が自分を殺さないとは限らない。
この王の意向ひとつで自分の生死は決まってしまうのだ。
この目の前の王にすがるしかない。
この優雅な声が「死ね」という言葉を発するなんて想像すらしてなかった自分が愚かしい。
硬直してしまった彼女の頭を撫でるエイシュン。
優しく微笑みながら「来るよな?」と凄む彼に「ハイ」としか言えなかった。
水さえも喉に通らず、夕方まで我慢できずに早めに王の部屋の前に行き正座をしている。
「そなた、まだ夕方ではないと言うのに早いな。中に入りなさい。」
近衛兵が気をきかせたせいで、部屋の外にいるのが彼に伝えられてしまった。
「いっいえ!夕方までここに…」
「反省してるのか、まだ抵抗しているのかそなたはわかりにくいな」といいつつ彼女の手を引き招き入れた。
思ったよりも力強い王にびくつきながらも、椅子に座れと命じられるまま腰をおとした。
部屋は思ったよりも質素で、贅沢品は何一つ置かれていない。
机が2つと寝台が置かれている。
官吏の部屋よりはましなぐらいとしか言えない。
「失礼します」
宮女が皿に桃を5個並べて運んできた。
まさか毒当てを始めるのかとごくりと唾を飲み込むシャオメイ。
それをにこりと眺めつつ、宮女が剥いた桃を口に運ぶエイシュン。
「そう警戒せずとも毒は入ってないぞ」
自らも皮を剥き、桃を一欠片彼女の口に押し込む。
「甘いっっ!」
思わず驚きでいつもより声のトーンが上がってしまった。
「これは凄く甘い桃ですね、初めて食べます」
低くく声を整え、彼女は素直に感想を述べた。
「これが新たな特産だ」と少々誇らしげなエイシュンに、口元が緩んだ。
「さすがに甘いだけではいかんがな。甘いにはしょっぱいも付き物だからな」と続けた彼にクスクスと声を出して笑うシャオメイ。
「止まらなくなるやつですね。おなごを太らせる気ですかひどい」
「ふくよかな身体こそが母性に道溢れているんじゃないか」
「偏見ですよ陛下、細くても母性はあります」
「ほぅ」
彼女に残りの桃を渡すと、彼は書簡に目を通し押印をし始めた。
じっと眺めていると、エイシュンはくすりと笑った。
「王と言うのは名ばかりで、国の奴隷だな」と自嘲気味に笑う。
「そんな事はありません。王がどれだけ国を思っているかは民には伝わっている筈です。そして、民からの思いが貴方を慕って贈られたとその素晴らしい桃が物語っているのですよ」
「はは…真面目だなシャオランは」
仮の名を呼ばれ、気がついたら素の声で喋っていたので少々焦ってしまう。
自分の言葉にちくんと傷つきながらも桃を口に運ぶ。
王女として過ごしていたときは、民のために何か貢献できたことはない。
エイシュンとの差がありすぎて凹んでしまう。
しゅんとして気持ちが沈んでいくのに、食べるのを止められない。
いっそ元王女だと民にばれないように太ってしまおうかと思ってしまう。
「王様失礼します」
「あぁ、入れ」
エイシュンと同じぐらいの背丈の、髪の黒い男が中に入ってきた。
「!!」
見覚えのあるその顔に、シャオメイはグッと涙を堪えた。
「王様、本日はこのような機会ありがとうございます。」エイシュンにひれ伏すと、シャオメイをちらりと見やる男。
「兄弟仲良く本日は過ごすといい」とエイシュンが言うと、男と彼女は深く頭を下げた。
場所は移り、城下町にあの黒髪の男とシャオメイはきた。
彼女たちは護衛もつけず、エイシュンが門限だけ決め、城下町で遊んでこいとお金を受け取ってきていた。
「兄様ご無事でなによりです」途中、下町の女性の服に着替え直したシャオメイがはぁと吐息を吐いた。
「ばか、それはこっちのセリフだ。人質なんだからなお前は」
「兄様がくるならくると教えてくれればいいのに。あの王は…はぁ」
今度は深くため息をついた。
「何を考えているかさっぱりわからない」
「お前は真面目すぎるからなぁ。たんに驚かせて見たかったんじゃないのか」
「今日は生きた心地がしませんでしたよ。度が過ぎます度が」と一部始終を話し口を尖らせるシャオメイ。
「なるほど、ドッキリだな」
「巧妙なドッキリですとも」
「母上から男装用の化粧の粉渡すように言われてたんだった。後で部屋に置いておく」
「あぁ、ありがとうございます。なくなったら最悪、土を塗るとこでしたよ」
「土は完全アウトな」と呆れ顔で答えつつも、今日は本当にこれて良かったと兄レンは思った。
人質にさえやって居なければ、自慢の妹の可愛らしさを存分に披露するのに。
お洒落をしたい年頃な娘に男装で過ごせとは哀れだ。
しかし、ドッキリの一件で血の気が思いをしたのは彼女だけではない。レンもだった。
王は、妹より頭の回転が早い。それがとても恐ろしい。
王宮に帰ってすぐ、エイシュンはレンに声をかけた。
「さっき一緒に歩いてた子誰?」
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