第14話 不毛
ネットだろうか、それとも映画やテレビだっただろうか。髪の毛は体温調整と衝撃緩和のために生えている、そんな雑学を知った。
なるほど確かにそうだろう。毛量が多ければ蒸れるし、叩かれてもモフっと感があった方が痛くない。
髪の毛はダメージを減らし、快適にするものなのだ。それならばきちんとケアをしようとコンディショナーもしたくなるし、なんならアロマオイルでも塗り込んでオリジナリティでもつけてやろうとも思ってしまう。
しかしだ、ハゲはどうなるのだ? 地肌を丸出しにして頭部という急所をさらけ出して、街中を闊歩しているハゲは、生き物として不完全なものなんだろうか? 弱性の劣等種に当たるのか?
バカ野郎だ。こんなことを考えているボクはバカ野郎だ。ハゲが弱いわけがないだろうが。髪という防具を取り払った強者だ。長い友達に別れを告げた孤高の修羅なのだ。また、急所をさらけ出していることから「私は争わない」と宣言している、こんなことも考えられるんじゃないか?
何の因果か無抵抗主義のガンジーだって、髪を神に捧げたのか、頭頂部をさらけ出しているじゃないか。長年の友に惜別を告げ孤高に生きる強さを持ち、武器を神に捧げた平和の使者、攻められても攻めることをしない優しさの権化、それがハゲだ。
だからハゲを見て馬鹿にする奴は愚かだと思ってほしい。敬愛する猪木さんは詩集・バカになれで言っていた。
「鏡の中の自分、我が取れたら神になる」。
その言葉を借りて、僕はこう言おう。
「鏡の中のハゲ、我を加えたら我ハゲ」。
体毛を失うことで得られる強さがあると気が付いた自粛生活。脱毛クリームを塗りたぐりながら、ふと思う。
「玉毛よ、お前は守る気があるのか? 」
心臓むき出しみたいな陰嚢を守るのに、お前という奴は…一本ごとの太さは…太く黒々しく、なるほど、生命力に満ち溢れておるな。しかしだ、カバー面積で見たら圧倒的に少なすぎるんじゃないか? 金的は髪の毛のごとく、面で守らないと意味がないんじゃないか? それとも俺が間違っているのか? 自然界では点で攻めて来る奴の方が多いというのか。いや、犬猫であっても陰嚢は毛で覆われている。人だけじゃないか、あんな進化を遂げているのは。
防御面積が少なすぎるのだ。納得がいく説明が欲しい。じゃないと外敵から俺のボールは守れる気がしない。いざとなったら、ハリネズミのごとく硬質化するのだろうか? いや、今まで生きてきた中で、陰毛が武器化したことはない。人を刺しぬくレイピアや、モーニングスターのようになったことはない。すごい膨張率を誇り、下半身の中では殺傷力があるかな?って感じのマイサンをもってしても、自信を持って言えるよ。外敵と女性の前では無力だと。
なんのための進化なんだよ、玉毛ってやつはよぉ?教えてくれよ。
ハゲへの賛歌をしたためてからの玉毛への不満を綴りだして1時間。この不毛な考察の末に、もう一つの仮定を生み出した。それはこうだ。
「玉毛とは男子特有の、遊び心である」
言うなれば長い年月を経てたどり着いたオシャレだ。とうとう気が触れたと思うかもしれないが、まぁ書かせてもらいたい。
僕はハゲは争わないと書いた。その理論を陰嚢に当てはめてみるのだ。例えば犬猫のように陰嚢をさらけ出して歩いていたとしよう。奇異な目で見られるのが関の山だ。少し不運ならば通報されて、臭い飯を食わされるかもしれないが、誤解を恐れずに言うなれば、それで済むのだ。臭い玉をさらけ出すと、臭い飯を食うところに保護されるのだ。陰嚢を攻撃される恐れは、こちらが過剰な行動取らない限りは皆無と言っていいだろう。
“玉毛の少なさは、治安国家の安全性と天敵がいなくなったことの証でもある”
そう言えるのではないだろうか?かたや女性の方は、何もしなかったら密林になるが、それでいいのである。さらけ出していると男が黙っていないから。世界にはヌーディストビーチとかあるが、あれは人が守るべき理性を取っ払い、全裸を見ても性欲を湧きあがらないるこということだろう? ある種のサイコパスじゃないか。健全じゃないよ。
話が逸れてしまった。こうやって話がすぐに脱線するのはボクの悪い癖だ。しかし、それも良いと思っているんだ。工学的ストーリー創作入門でLarry Brooksは「話がすぐに脱線するが、その中でボクが言いたいことの全体像をつかんでほしい」とか言っていたが、うるせぇと言いたい。字数を稼いで小銭稼いでないで、さっさと要点を言えというのだ。僕はさっき脱線するのも良いと思っていると書いたが、あれは矛盾だ。有体に言えば意味のない嘘だ。字数稼ぎすらも意図してない、ただ筆が進んだだけのことだ。
そもそもこの不毛な考察になんの意味があるというのだ? ハゲも玉毛も悠久の時から連なる遺伝、それで済む話じゃないか。後付けのように仮定を積む話でもないし、伝えたいこともないのに、こんなことをしていても不毛じゃないか。しかしだ、不毛なことほど楽しいのも事実。物書きのはしくれとして、ひとつの決着をしようじゃないか。もちろん玉毛のね。
玉毛はオシャレとして進化した、これをより言語化してみよう。先ほど玉毛は、人間が生態系の長となり、外敵もいなくなった果てにたどり着いた象徴であると書いた。言うなれば男の冠である。その絶対的な強さを考えれば、本来ならば不毛の大地でも良かったのだ。しかし、それだと傲り高ぶっているじゃないか。あまりにも不遜じゃないか。哺乳類は恐怖を覚え、それを学習する生き物だ。人間も例外じゃないから、玉毛を残した。勝って兜の緒を締めよという奴だ。玉毛が生命力に満ち溢れた太さと長さを讃えているのは、能ある鷹は爪を隠すよろしく、玉を見せる相手に対し「いざとなったらヤるぞ」と暗喩しているに違いないのだ。あれ? オシャレじゃなくて脅しじゃないの、これ?
こうやって考察を重ねていくと、当初導き出した仮定から予想もしなかった着地をすることもある。今回はまさにそうだ。工学的ストーリー創作入門でLarry Brooksはそんなことを書いてはいないが、ボクはそれで良いと思っている。キャラクターが走り出したという奴だろうか? たぶん違うんだろうけど。まあとにかくだ、言いたいことはこうだ。
”玉毛は無力を装った脅しだ”
久しぶりも投稿がこんなんなのも少し悲しい気もするが、それもまた巡り合わせなんだろう。さぁ、そろそろ脱毛クリームが浸透したころだ。俺は王者の冠を洗い流してくるよ。じゃあ、またいつかどこかで。
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