第12話 You're gonna carry that weight
心に翳るこの寂寞をなんて名付けようか。
雨の中を走ってるときに考えるのはそんなことばかりだ。
五月雨式に降ってくる仕事の合間に、むりくり捩じ込んだ休日。
遅く起きすぎたせいで、仕事の一環である洗車をしたら今日は終わりだ。
そんなことで虚しさを感じるほど子供じゃない。
だけど雨の日は別だ。過去からの透き通った血液が、フロントガラスに叩きつけられて、未練がましく流れていく。そんなことを考えると、俺の心に霜が出てくる。
そうなると頭の中に、昔が断片的に通りすぎていく。とりとめもないどうしようもできないことが浮かんでは消えていく。
カーステから流れる軽快なトークと最新のヒットチャートが、空虚と郷愁を焚き付けていく。
いたたまれなくなってタバコに火をつける。ただでさえ悪い視界に白煙が混じって、白い部屋に来たみたいだ。そんなバカげたことを鼻で笑ってごまかした。
何回目かと問われたら、数えてられるかと言い返すほどのワイパーの先に、先月行ったパチンコ屋が潰れていたのが見えた。
最後の状況を思い出したら無理もないが、かつてギャンブラーだった俺としたら、パチンコ屋が潰れていく姿を見るたびに悲しくなる。戦友がまた帰ってこなくなったみたいだからだ。
またパチンコをやろうかって思ったけど、そんな気にもならない。あの頃の熱狂は、知らないうちに過ぎ去っていた。
ふと燃費計に目を落とす、通常より悪い数字になっていた。タイヤに雨と水溜まりのせいで、法廷速度を出すにも、いつもよりアクセルをふかしているからだ。
そうか、と思った。見えないだけでまとわり続けているんだ。心に沁み出した寂寞の名は? 増え続ける重荷だ。透明な姿で忘れてくれるなって泣いてるんだ。
両目で過去を見て、それでも雲間に晴れを望んで、アクセルを踏んだ6月10日の夕暮れ。
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