第6話 約870文字の80年代にありがちな雰囲気だけの文

なんとなく空が見たくなって屋上に来た。


コーラとローストしたナッツを持って、ブルーシートに寝転んで手枕で空を仰ぐ。


まだ少し寒いからフリースのジッパーを上げる。 フェイクなファーが首を温めてくれる。


冬と春の境界線っていつだったんだろう。 


来るときは一気に来るくせに、帰るときはさりげないって武士かよ冬。


なんかメリハリがないのが嫌になって息を白めたくなった。


アイスペールに500mlのコーラを突っ込んで、氷が溶けるまで待ってみる。


1時間かけて冷やしきったコーラは味がしないほど冷たかった。 


俺の息で雲を作ろうって思ったのに、冷え切った口から漏れた息はどこまでも透明だった。


まぁいいや。


空が見たい。 そんな衝動だけで来てしまったから、スマホも文庫も持ってきてない。


こういうときに何かについて考えてみるけど、浮かんでは消えていくから、屋上の隅に溜まったホコリに書き留めておくことにした。


色褪せてセピア色みたいになったプラスチックの布団たたきで、ホコリに「俺はどう生きればいいか?」と書いたらバラバラになった。


プラスチックも水分がなくなると死ぬんだね。


欠片で書くことも出来たけど止めることにした。 死体をいじっているみたいで気持ち悪かったから。


することがないのは修行だ。 そう考えるとゲームばっかりやっているのも、勉強ばっかりしているのも等しく現実逃避だ。全部取り上げられると自分を見つめるしかない。 


そんなときに浮かぶのは昔の話。 帰るって選択肢は面倒くさく思えた。


だから空に語りかけて見ることにした。 中学時代に部屋に遊びに来たアイツは俺が好きだったのかな?って。


雲が動くばかりで何も返ってこない。 当たり前か。


いつまでここにいようか? いる理由はないが去る理由なら「退屈だから」って充分なのがある。


でも、退屈で何かを求めるのって逃げじゃないのかな? ねぇどう思う?


空は何も答えるわけがない。 だけど、ひとつの雲の塊が笑っているように見えた。


笑ってんじゃねーよ。


笑いすぎて赤ら顔になった空に悪態をついたらローストナッツを噛じる。


煎りすぎてて少し苦かった。


少し肌寒いな。

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