第2話 1000文字のSF

 ――聞こえますか? 


 風が強い夏の日、どこからか女の子がささやく声がした。 思わずボクは「えっ!?」と立ち止まった。 


 田園を貫くように走る生活道路、その脇に申し訳ない程度に作られた歩道、街灯すらまばらでスマホのブルーライトのみが頼り。 そんな寂寞とした場所を歩いているのだ。 そりゃ驚く。


 ――聞こえますか?


 ビュウと吹く風に混ざる声。 かすれながらボクにまとわりつく声。 聞こえる。でも、ボクに向けたものか? 反応に困ってやり過ごすことにする。


 ――聞こえますか?


 だからなんだ。 ボクは何も聞こえない。 


 ――聞こえますか?


 何度も繰り返す。 これはボクに問いかけているのだろう。 きっと彼女は困っている。 


 ――聞こえますか?


「聞こえてるよ。 どうしたの?」


 大声で返した。 コンビニに行っただけなのに、なんでこんな目に遭うんだ。 そんなことを思いながらスマホのライトを起動して周りを照らしてみる。 


 こんな小さい光なんて焼け石に水だけど、探しているアピールにはなるだろう。 


 ――聞こえますか?


 青々とした稲の間を、路傍に生える背の高い雑草の間を、隙間という隙間を照らしながら歩く。 彼女は見つからないが、徐々に声は大きくなる。


 ――聞こえますか?


「聞こえてるよ! どこにいるか分からないの!」


 大声を張って返す。 この辺りには間違いないはずだ。 風に潮の香りが混ざり出した。 もしかして海岸の方だろうか。


 ――聞こえますか? 聞こえていると信じて伝えます。 3年前、空から悪魔が来ました。 彼らは水や生き物と同化し……私達の国では、ほとんどの人間が悪魔になりました。 数日後、私もあれに……これから存亡を賭けた最後の戦いに行きます。  


 月が映る海面と、踏む度に「キュッ」と鳴る白浜。 子供の頃から見ている風景。 波打ち際でさらされている黒い箱だけが非日常だ。


 ――だから生き残った人たちに託します。 お願いです。未来を守ってください! アイツらの弱点は……


 どうすれば良い? 相談すべきは自衛隊、いやカウンセラーの可能性だってある。 イタズラの可能性だって。 でもボクが問題提起出来るのは、コイツの音量だ。 そうなると警察だね。 


 ――やだよ……チカァ、ハルキィ……怖い。怖い、怖い、嫌だ、嫌だ、嫌だ! 死にたくないよ!


 面倒を直視するのが煩わしくなった。 何気なく空を仰ぐと、ペルセウスの近くに巨星があった。

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