13.人ならざる者達(2)
「ええー、何だソレ、つまんな。ルグレ、私も恋バナってやつやってみたかったのに!」
そう言って唐突にルグレへと泣きつくアリシア。対し、ルグレは態とらしい悲壮感の漂う表情を浮かべた。何もかもが胡散臭いのはある種の芸術である。
「ああ、可哀相なアリシア。というか、アリシアの考えが間違っていると?」
「こわ・・・・・・。強火過ぎるよ、ルグレさん。間違っているというか、暴走しているというか」
――というか、もしかしなくてもアリシアさんって全然オルヴァーさんの事に気付いていない感じなのかな?
思い返してみれば、アリシア&ルグレの攻略中も、或いは本編での関わりの中でもオルヴァーの感情に対する言及は一切無かった。いや、オルヴァールートで詳らかにされている可能性は高いのだけれど、地雷故未プレイである。
ちょっと、流石に可哀相。オルヴァールートではヒロインがいてくれるから良いけれど、他ルートで彼の救われる道がなさ過ぎて辛い。でも、アリシアとルグレを引き離すのも、それはそれで地雷。どこにもいけない、これが拘りが強い拗らせオタクの末路という訳か。
鎌掛けてみようかな、と悪しき考えが脳裏に過ぎる。
どうせ、アリシアがルグレから離れる事は絶対に無いのだ。パーティの内情がどうなっているのか、ちょっと確かめるくらいバチは当たらないのでは?
少女漫画みたいな展開になってきたな、と冷静な自分がそう思っているのを尻目に訊ねてみることにした。
「――こ、恋バナがしたいんでしょう? 私ではなく、アリシアさんの事が気に掛かっているとか、そんな事はないの?」
「ああ? 私ぃ?」
「そう。や、既にルグレさんとセット扱いだからどうしようも出来ないだろうけれど、もしそうだったらどうするんです? ほら、パーティ内とかドロドロしそうだし」
IFの体で話をしてみる。考えてもみなかったのか、それとも別の感情か。キョトンとした顔のアリシアはややあって問いに答えた。
「別に。それならそれで、受け入れるけど」
「え? つ、付き合うって事? 恋人同士になってもいいんですか?」
「うん。オルヴァーがそうしたいのならね」
――え!? そういう感じなの、この人等。
混乱しつつ、話を続ける。答えがあまりにも予想外だったので俄然、興味が湧いてきたからだ。
「それじゃあ、ルグレさんは? どうするんですか?」
「ああ? ルグレ? ルグレもそのままだよ。私達は対。切っても切り離せない存在だし。まあ、ルグレを最優先にする訳ではないけれど、でも離れる事は無いよ」
「ええ? よく分かんなくなってきちゃったな・・・・・・。え、ルグレさんこう仰ってますけど? いいんですか」
ええ、と迷う事無くルグレが頷く。
「別に構いませんけど」
「訳わかんなくなってきたなあ・・・・・・」
要するに、とアリシアは存外静かな声で言葉を発した。いつも溌剌としている彼女の、静の一面に思わず二度見してしまう。
「四六時中、一緒にいるパーティ仲間・・・・・・この時点で私はアイツ等の事が大好きだよ。ウザい奴等だったら長続きせずに殺しちゃってるだろうしね。まあ、そんな訳だからオルヴァーが私に人間で言う所の恋人的な関係になって欲しいって言うなら、そうしてもいいぞ。ただしルグレを切り離す事は出来ないけれど。ああ勿論、言い出したのがシーラでも回答は同じさ」
――あ、人外だったなこの人等・・・・・・。
ストンと腑に落ちた。アリシアの言い分、理解は出来ないけど分かりはした。ではアリシア強火担のルグレはどうなのか? 恐る恐る、そちらへ目を遣る。
「え、こんな事言ってるけど、ルグレさんもそれでOKな感じなんですか?」
「構いませんよ。というか、何なら逆もありましたし。長く生きているのでね、その時折です。それに、生物には寿命がありますので。その短い生の中、やりたいようにやればいいんですよ。どうせ、瞬きの一瞬ですから」
「ま、マジか~」
「驚かれているようですが、どうでしょう? 貴方の事も存外、気に入っていますよ。アリシアがね。僕の事が恐いのでしたら、貴方が生存している間は女性の姿を取っても構いません」
「せ、性別もあんまり関係無い感じだったのか~」
色々と違い過ぎる上に、アリシアに見られているせいでルグレにも見られている事が発覚して普通に恐怖を覚えている。
根本的に考え方が違うので、分かり合う事は出来ないだろう。彼女はオルヴァーの望む物を最大限差し出せるだろうが、きっと本質には寄り添えないのだ。推しが不毛な恋をしていると知ってしまい、胸が痛い。何故わざわざそこに、とは思うが本人も不毛である事は気付いているのかもしれない。
しかし、人の心配ばかりしていた私に対しアリシアが思わぬ言葉を投げかけてきた。
「なあ、シキミ。お前も私達のパーティに入らない? 事務員なんて辞めちまおうぜ。最近、クエストばかり行ってるし同じようなものさ。お前が来たらオルヴァーが喜ぶし、何より私が楽しいからな」
「いやあ、流石に場違い過ぎるので・・・・・・。オルヴァーさんの為に、足を引っ張る私の面倒は見たくないでしょ?」
はは、とアリシアが乾いた笑い声を上げる。
「可愛い事を言うじゃん。さっきまでの私の話をもう忘れちゃったのか? 嫌ってくらい面倒なら見てやるよ。お前、普通の人間と違うみたいだし・・・・・・なんだろう、空気? 匂いかな? 全く違う価値観の場所から連れてきたみたいで、面白い」
「・・・・・・」
「ずっと前からギルドにいたはずなのに、ある日を境に個性が出てきたよね? まあ、お前が相談室を始める前に何をしてたのか、書類上でしか知らないんだけど。あんまりにも没個性過ぎて」
「うーん、頭をぶつけたショックかな・・・・・・」
「まあ、何だっていいや。だからさ、私という囲いの中で伸び伸び生きろよ。見てて飽きないし」
「それは・・・・・・ペット扱いと同義なのでは?」
「うん? そうかな。何にせよ、私はお前の事が大好きだよ。そうさね、食べちゃいたいくらい?」
――こっ、恐すぎィ!!
物理的に本気で食べられかねないコメントである。涙目で首を横に振る。本能的な恐怖で声すら出なかった。
それでも流石に意図を汲み取ったのか、アリシアは形容し難い笑みのような複雑な表情を浮かべて首を横に振る。
「そ? ざんねん。まあいいや、また来るから。ルグレ、帰ろうか」
「ええ。ではシキミさん、また今度」
実にあっさり退いて行った事すら恐ろしい。二人が去った後で、私はぐったりと肺に溜った息を吐き出す。ああ、とんだ恐怖体験だった。
それにしたって考える事が多すぎる。
けれど今日はもう疲れたし、これ以上何をする気にもなれない。溜息を吐いて、相談室のドアに鍵を掛けた。もう店仕舞いだ。
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