私が任されたクラスの生徒の名前はパッと見普通じゃない

 今日は私の勤める高校の入学式。新一年生の初々しい姿を見て高校時代の事を思い出す。

 入学してすぐ一年上の先輩に恋をしてフラれ、二年はクラスメイトに恋をしてフラれ、三年は後輩に恋をしてフラれた。結局全戦全敗。……ああいけない、ネガティブなことを思い出してしまった。もう忘れよう。

 それにしても教師になって四年目。私は一年生の担任を持つことになった。二年生と三年生の担任はすでに経験があるけど、一年生は初めてなので正直緊張している。

 入学式が終わり、私は担任する一年二組の教室に入り教壇に立った。

 

「あ、先生だ」


 見れば分かるでしょう。ほかの生徒は微妙な笑いを浮かべていた。まだ中学を卒業したばかりだからこういう生徒もいるか。私は男子生徒の言葉をスルーして話を始めた。

 

「えー、みんな入学式お疲れ様。あんまり長話ながばなしするのもなんだし、さっそく自己紹介してもらおうかな」


 みんな緊張な面持ちになった。そりゃそうだよね。


「そんなに難しく考えなくていいよ。出身の中学とか、自分の趣味や得意なことを言ってくれればいいから」


 私は出席簿を出して出席番号と名前を確認する。……え?


「じゃあ一番の……か、迦統かとう君から」 


 彼は「はい!」と大きく返事をして自己紹介を始めた。『加藤』は何回か見たけど、この『迦統』は初めて見た。なかなかレアだなぁ。えーと、次は、


『高梁』


 これ何だろう。見たことはあるんだよね。確か地名だったと思うんだけど……。

 私はなんとか思い出しそうとしたけど、その間に迦統君の自己紹介が終わってしまった。仕方ない。本人の口から答えを聞こう。


「出席番号二番、高梁たかはし裕也ゆうやです」


 あ~、『たかはし』か。そうだ! これ岡山の地名だ。うわぁ、悔しい! ……とりあえずルビ振っとこう。私は悔しい気持ちを抑え出席簿に目を移す。次は


『翫』


 はい、無理! 分かりません! 見たことないよこの漢字。これも本人の口から答えを聞こう。


「出席番号三番、いとう里香りかです」


 えぇ!? これ一文字で『いとう』なんだ。これ書くの大変じゃない?

 さて次は……え、嘘でしょ? これホントなの?


「出席番号四番、砂糖さとう孝行たかゆきです」


 私は思わず口が開いた。ホントにいたんだ『砂糖』。……このクラス名字自体は珍しくないけど漢字が珍しい。えっと次は……


『藺上』


 も~、また難しい漢字来たよ。いや、生徒は悪くないんだけど何度も難読漢字が続くと嫌になるなぁ。砂糖君は除いてみんな絶対訊かれるでしょ。「これなんて読むの?」って。大人でも読むの無理だよ。私がそんなことを考えている間に砂糖君の自己紹介が終わり、次の生徒が立った。


「出席番号五番、藺上いのうえ雪野ゆきのです」


 へぇ、これで『いのうえ』か。翫君もそうだけど名前書くの大変そう。

 次は『仲邑』か。『仲』はいいとして問題は『邑』だよね。『邑』の読みは確か『ゆう』だったはず。でも『なかゆう』はなんか違和感がある。『なか』から始まる名字で私が思いつくのは『なかむら』『なかがわ』ぐらい。ありえそうなのは『なかむら』かな。さあ、どうだ。

 

「出席番号六番、な……」


 ……な?


「……仲邑なかむら香菜かなです」


 キタァー!! 当たったー!! 私は内心でガッツポーズした。 


 ただその後は茉本まつもと錫木すずき兒林こばやしなど普通に読めない名字の自己紹介が続き、私は兒林さんしか当てられなかった。

 ちなみに、私に「あ、先生だ」と言ったのは権藤こんどう君だ。


 そして最後は『東海林』


 これは『しょうじ』でいいよね。もしかしてもしかするのかな?


「出席番号三十五番、東海林ひがしうみばやし達也たつやです。


 そのまんまなの!? いや、そんな気はしてたけど!! 

 こうして全員の自己紹介が終わり、私は生徒全員の名前をちゃんと覚えられるか不安になった。

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