僕が任されたクラスの生徒の名前はパッと見普通です
田中勇道
本編
僕が任されたクラスの生徒の名前はパッと見普通です
今日は僕の勤める高校の入学式。新一年生の初々しい姿を見て高校時代の事を思い出す。
三年間友達といえる存在はおらず、授業以外の時は自分から話すことも、相手から話しかけられることもほとんどなかった。連絡先を知っているのは家族だけ。本当の意味で僕は『ぼっち』だった。……いかんいかん、ネガティブなことを思い出してしまった。もう忘れよう。
それにしても教師になって三年目。僕は初めてクラスの担任を持つことになった。しかも一年生の担任だ。二年や三年なら見慣れた生徒がいるからいいが、一年なので全員知らない子。うーむ、不安だ。
入学式が終わり、僕は担任する一年一組の教室に入り教壇に立った。
「あ、先生だ」
見れば分かるだろう。ほかの生徒は微妙な笑いを浮かべていた。まだ中学を卒業したばかりだからな。こういう生徒もいるか。僕は男子生徒の言葉をスルーして話を始めた。
「えー、みんな入学式お疲れ様。あんまり
みんな緊張な面持ちになった。そりゃそうだよな。
「そんなに難しく考えなくていいよ。出身の中学とか、自分の趣味や得意なことを言ってくれればいいから」
僕は出席簿を出して出席番号と名前を確認する。えーと……。
「じゃあ、一番の
「先生、私『ぜんだ』です」
「あ、ご、ごめん」
クラスが大きな笑い声に包まれる。初日からやってしまった。教師が生徒の名前を間違えてしまうとは……。前田さんはやや不満そうな表情で立ち上がり、自己紹介を始める。僕は念のために名前にルビを振った。
前田さんの自己紹介が終わり、次の生徒が立ち上がる。二番は
「出席番号二番、
あ、『いのぐち』か。『の』が要るのか。これも一応ルビ振っとこう。えーと、次は
「出席番号三番、
まさかの『もくむら』!? いや、そうとも読めるけど普通『きむら』だよね。中々レアだな。なんか熱く語ってくれてるけど、読み方が意外すぎて内容が頭に入ってこない。
次は
「出席番号四番、
どれでもなかった。『こや』か。なんだろう……このクラス、名前はパッと見普通なのに読み方が変わってるな。特に
単純に読むなら『ひがしやま』だけど『とうやま』とも読める。声優で
「出席番号五番、と……」
……と?
「……
一瞬『父さん』と脳内変換されてしまった。クラスも少しだけざわついている。東山さんはお父さんをなんて呼んでいるのだろうか。
さて、次は『新田』。候補は『にった』か『にいだ』だな。『しんた』はさすがにないと思うけど……。
「出席番号六番、
マジかよ。というか名前も『しんた』だったら『しんたしんた』じゃん。もう訳がわからない。
次は『上野』か。……まあ『うえの』ではないだろう。今までの傾向を見るとこのクラスは音読みの生徒が多い。となると『じょうの』が最有力。そして新田君の自己紹介が終わり
「出席番号七番、
……読めない!! 『上野』で『かみつけ』とは普通読めない。これはルビ振らないと絶対間違える。
その後も
ちなみに僕に『あ、先生だ』と言った生徒は
そして最後は『山田』
これは『さんだ』『さんでん』『やまでん』とか色々候補が挙がるけど、可能性として高いのは『さんだ』だ。さすがに『さんた』はないよな……。
「出席番号三十五番、
……うん。なかったね。というか最後だけ普通なんだ。
こうして全員の自己紹介が終わり、出席簿は僕の筆跡で薄く汚れていた。
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