僕の大切な友人へ

 やあ、久しぶりだね。

 君と再会を約束したあの日から、ずいぶんと時が経ってしまったよ。

 あれからいくつもの季節が過ぎ去っていき、最近ではペンすら重いと感じるようになってしまった。


 君に細い細いとからかわれていた僕の腕は、もっともっと細くなってしまったんだ。

 いまの僕を君が見たら、またあの時のようにからかってくれるだろうか?

 それとも優しい君のことだ。

 あの頃からずいぶんと縮んでしまった僕を見て、心配するだろうか。


 ……からかってくれると嬉しいなぁ。

 走ることはおろか、もう歩くことさえ難しくなってしまったけれど、あの時のように君とふざけ合い、また森を駆け回りたいよ。


 僕が作った首飾りを、君はまだ持っているだろうか?

 そう。君が僕にくれた綺麗な石で、僕が作り君に贈った首飾りのことだよ。

 君はあの首飾りを、僕との友情の証だと言っていたね。


 正直に白状すると、僕はこの首飾りを息子に譲ろうかとも考えたんだ。

 けれど、直前で思い留まったんだ。

 この首飾りは、君と僕との友情の証。息子とはいえ、譲って良いものではないと考えたんだ。

 息子には申し訳ないけれど、いま書いているこの手紙と一緒に保管しておいてもらうつもりだ。


 ――いつか、君に届くまでずっと。


 ……この手紙は君に届くだろうか?

 ずっとずっと先の未来で、君がこの手紙を読んでくれる日がくるだろうか?


 届くといいなぁ。

 きっと届くよね?

 うん。僕たちは親友だから、絶対に届くよ。


 実はね、偶然知り合ったエルフから妖精族はとても長生きだと聞いたんだ。

 僕たち只人族よりも、ずっとずっと長生きだとね。


 君は変わりないだろうか。

 いまも元気でいるだろうか。

 あの時と変わらず太陽のように眩しい笑顔を浮かべているだろうか。

 君が笑っているといいなぁ。


 ずっと黙っていたけれどね、僕は君の笑顔が大好きだったんだ。

 君が僕に笑顔を向けてくれるだけで、不思議と僕も笑うことができたんだ。

 体はヘトヘトで、とてもお腹が空いていたはずなのにね。


 開拓民として辺境に連れてこられた僕たちは、その日の食べるものにすら困っていた。

 一緒に連れてこられた者たちは次々と死んでいき、僕もいずれそうなるのだと覚悟していたんだ。


 でも、あの日食べ物を求めて森に入り、そして君と出逢った。

 君は弓を上手く使えない僕を笑い飛ばし、情けない僕に代わって角ウサギを獲ってきてくれたね。

 あのとき食べた角ウサギの味は、いまもはっきりと思い出すことができるよ。

 だから僕はね、あのときの味と感動を忘れないために、角ウサギの串焼きを村の――おっと、そういえば最近は『町』と呼ぶんだった。

 角ウサギの串焼きを、僕が作り育てたニノリッチの町の名物にすることにしたんだ。

 いつか君がニノリッチに来ることがあったら、ぜひとも食べてほしい。


 食べ物にうるさい君のことだ。

 絶対に『おいしくないぞっ!』と文句を言うに決まってる。


 ……君と別れたあの日から、いろいろとあったんだ。


 田畑を耕し、いくつも家を建てた。

 愛する妻と出逢い、子を授かり、たくさんの孫にも恵まれた。

 満足のいく人生だったと思う。


 けれどね、ここのところなぜか君のことばかり思い出すんだ。

 森で出逢った君。

 太陽のように眩しい妖精の君。


 『運命を切り開く者』と名付けられた美しき妖精――パティ・ファルルゥ。


 …………驚いた?

 僕が君の名前を知っていて驚いたかい?

 驚いたのなら僕の勝ちだ。

 君とはよく勝負をして、僕は負けっぱなしだったけれど、最後の最後で僕が勝たせてもらったよ。


 ……ああ、理由がまだだったね。

 さっき話したエルフに、妖精の言葉を教えてもらったんだ。

 妖精の言葉で『運命』がパティ。『切り開く』がファルルゥ。

 どうだい、当たってるだろ?

 妖精の言葉を教えてくれたエルフが太鼓判を推してくれたから、絶対に当たっているはずだ。


 パティ・ファルルゥ。


 素敵な名前だね。

 この手紙を書きながら、僕はずっと君の名前を――パティの名前を口にしているよ。


 パティ。

 僕の大切な友人。

 僕の運命を切り開き、幸せを運んできてくれた誰よりも優しい人。


 おっと、僕の名前をまだ教えていなかったね。

 僕の名前はエレン。

 エレン・サンカレカだ。


 よろしくね、パティ・ファルルゥ。


 そして、僕と出逢ってくれてありがとう。



             君の友人、エレン・サンカレカより

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