第70話

 けっきょく、次の日も、その次の日も見つからなかった。

 捜しはじめて、もう一週間。

 首飾りを頼りに町を何周もした。特徴を書いた張り紙だってした。

 それでも、パティの友だちは見つかっていなかった。


「「「……」」」


 仕事の合間に探し、閉店後にも捜す。

 夕食時になってしまったため、今日の人捜しはこれまでだ。

 店に戻ってきた俺たちは、二階に上がりソファに腰を下ろしていた。


「……」


 パティは落ち込んでいた。

 それも、思い切り。


「パティちゃん……」


 落ち込むパティを見て、アイナちゃんもしょんぼりだ。


「ひょっとしたらニノリッチの町を出ちゃったのかもしれないな」


 俺がそう言うと、やっとパティが反応を返してきた。


「ど、どういうことだ?」


「只人族が住む場所はさ、この町だけじゃなくたくさんあるんだ。だからパティの捜してる人が、他の町に行ってしまったのかもしれない」


 ニノリッチは田舎町。若者ならもっと発展した町に移り住んだり、出稼ぎに行っていてもおかしくはないという。

 日本でも進学をきっかけに都会に引っ越す若者は多いしね。で、そのまま移住することも。


「そういえば族長もそんなこと言ってたな。只人族はいくつも里があるって。いくつだ? 只人族の里はいくつぐらいあるんだ?」


 答えたのはアイナちゃん。


「パティちゃん、只人族がすんでるところはね、いっぱい、いーっぱいあるんだよ」


「いっぱい!? じゅ――いや、に、二〇ぐらいかっ?」


「ううん。もっともっといっぱい」


「じゃ、じゃあ三〇かっ?」


「もっともっといーーーーっぱい、あるの」


「そんなにあるのか……」


 アイナちゃんの言葉に、パティががっくりと肩を落とした。


「そんなの、どうやって見つければいいんだよ……」


 パティの目に涙がじわりと浮かぶ。

 それだけ大切な人なんだろう。

 なんて言葉をかけていいか悩んでいると、


 ――――ドンドンドンッ


 不意に、店の扉を叩く音が聞こえた。

 次いで、「シロウいるか?」との声も。

 窓から下を覗くと、カレンさんの姿が。


「カレンさん?」


 二階から声をかける。


「よかった。ここにいたか。実は君たちが探していた首飾りについてわかったことがあってな」


「ホ、ホントですか?」


「ああ。よければ中にいれてもらえないだろうか?」


「い、いまカギを開けますね」


 ◇◆◇◆◇


「あの首飾りのことがどうにも気になってな。家に帰って調べてみたよ。これを見てくれ」


 カレンさんが手に持っていた木箱を開ける。

 そこには、パティと同じデザインの首飾りが入っていた。


「っ!? こ、これ――これです! これを探してたんです!!」


「やはりそうか。君たちが探していたのはこの首飾りだったのか……」


「カレンさん、この首飾りをどこで?」


「なんてことはない。見たことがあるはずだ。この首飾りはわたしの高祖父が――ニノリッチの初代町長が持っていたものだ。シロウ、君が捜していた首飾りの持ち主は、わたしの高祖父ではないか?」


 カレンさんの言葉に俺は呆然としてしまう。


「シロウお兄ちゃん、こーそふって、なぁに?」


「おじいちゃんの、そのまたおじいちゃんのことだよ」


 そう説明すると、


「っ……」


 アイナちゃんも黙り込んでしまった。

 それがどういう意味か、わかってしまったからだ。


「シロウ、どうして君たちがわたしの高祖父を捜していたんだ?」


「それは……」


「えっとね、カレンお姉ちゃん、その……んと……」


 俺とアイナちゃんが言いよどんでいる、


「あたいが頼んだんだよ」


 パティがカバンから出てきた。

 そのままアイナちゃんの肩に降り立つ。


「そんな……妖精……? し、シロウ、彼女は……これはいったい……」


「事情を説明しますね」


 俺はカレンさんに事情を説明した。

 森でパティと出逢ったこと。命を助けられたお礼に、人捜しをすることになったこと。


 その捜している人が、首飾りの持ち主――つまり、カレンさんの高祖父だったこと。

 すべて話した。


「……そうか。にわかには信じがたいが、わたしの高祖父とそこの妖精――パティが知り合いだったのか」


「知り合いなんてもんじゃない。あたいとアイツはお互いに唯一の友だちだったんだぞっ」


 カレンさんを見つめたまま、得意げに語ってみせるパティ。


「それでお前、アイツはいまどこにいるんだ?」


「ン、どういう意味かな?」


「アイツだよ、アイツ。お前、アイツの子供の子供の子供の……と、とにかく、お前はアイツと血が繋がってるんだろ?」


「そうだが……?」


「じゃあアイツがどこにいるか知ってるんじゃないか?」


「君はなにを言って……っ!?」


 カレンさんがはっとする。

 そして、


「そうか。……そういうことか」


 何かに気づいたように一人呟いた。


「パティ、君たち妖精族の寿命はどれぐらだ?」


「寿命? なんだってそんなこと――」


「大事なことなんだ。教えてくれ」


「あたいたち妖精族の寿命は三〇〇〇年ぐらいって族長が言ってな。あたいはまだ三〇〇年ぐらいしか生きてないけどさ」


「「っ!?」」


 明かされた衝撃の事実に、俺とアイナちゃんは言葉を失ってしまう。


「……只人族の寿命は、一〇〇年もない。つまり、君が捜しているわたしの高祖父は……その、ずいぶん昔に亡くなっているのだ」


 カレンさんが申し訳無さそうに説明する。


 それを聞いたパティが、呆然とした顔で呟く。


 「……ウソだろ」

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