パティの話
はじめて会ったときさ、アイツ狩りしてたんだよ。
なんていうんだったっけな……あの棒っ切れを飛ばすヤツ。
……ん?
あっ! それだそれっ。ユミヤってヤツだ!
アイツ、そのユミヤで角ウサギを追いかけてたんだよ。
こーんな顔しながらな。
アイツはユミヤを使うのがホント下手くそでさぁ。なんどもなんども角ウサギに逃げられてたんだ。
笑っちまうだろ?
あたいは背の高い木の枝にからアイツを見てたんだ。ずっとな。
アイツ、何度も何度もヤを外しては、逃げられるたびに泣きそうな顔するんだ。それ見てあたいは大笑いさ。
でもさ、しばらくしてアイツが地面に座り込んじゃったんだよ。
ぽろぽろ子供みたいに泣きながら。
仕方がないからこのあたいが手を貸してやったんだ。
アイツの見てる前で角ウサギをこう……えいってやってな。
一発で仕留めてやったよ。そしたらアイツ……くふふ。
角ウサギよりあたいにびっくりしてたなぁ。
目を丸くしてこう言ってきたんだ。
……コホン。
き、君は……ようせ――ん? なんで裏声かって?
う、うるさいなっ。アイツの真似してるだけだぞっ。
…………。
そ、そんなこと言うならアイツの話は終わりだ! 終わり!
…………。
………………ほんとか?
……よ、よーしわかった。なら続きを話してやるよ。
あたいを見たアイツは、君は……妖精なの? ってあたいに訊いてきたんだ。
見ればわかるのにおかしなヤツだよな?
だからあたいもこう言ってやったんだ。
そう言うお前は只人族だろ? ってさ。
……それがあたいとアイツの出逢いだ。
そのあとアイツと一緒に角ウサギを焼いて食べたんだよ。
あたいは角ウサギを食べるのははじめてだったけど、これっぽっちもおいしいとは思わなかったな。
でもさ、アイツはあたいと違って、角ウサギの肉を食べながら、おいしいおいしって涙を流してたんだ。
あのときは只人族は舌がバカなんだなって思ったよ。
けど話を聞いたらさ、アイツはまともなご飯を食べるのが一〇日ぶりだって言うじゃないか。
一〇日ぶりだったから、角ウサギなんかの肉でもうまく感じたらしいぞ。
あたいは只人族をはじめて見たからさ、只人族はひょろ長い種族なんだなって思ったんだ。
でもそれは、アイツが痩せっぽっちなだけだったんだよな。
角ウサギを食べ終わったアイツはさ、あたいにありがとうって言ってきたんんだ。
空腹で死ぬところだったって。君のおかげで命が繋がったって。
だからあたいは言ってやったのさ。
あたいは『運命を切り開く者』だから、とーぜんだってな。
………‥い、いまのはな、その……妖精族の言葉でパティ・ファルルゥが『運命を切り開く者』って意味だからだぞっ。
……な、なんだよその顔は?
やめるか? あたいはやめたっていいんだからなっ。
……。
…………しょうがないな。
そんなに聞きたいなら続きを話してやるよ。
……どこまで話したっけ?
あ、そうだそう!
あたいが『運命を切り開く者』だって。そう言ったらさ、アイツは驚いた顔をしたあと……笑ったんだ。
笑って……あたいの名前を訊いてきたんだ。
……そのときのあたいは……さ、アイツに名前を教えなかったんだよ。
もっと狩りが上手くなったらあたいの名前を教えてやる、って言ってな。
だ、だってそう言えば、アイツががんばるかもしれないだろっ?
とにかく、あたいはアイツのことをを『只人族』って呼んで、アイツはあたいのことを『妖精さん』って呼ぶようになったんだ。
それからあたいは、いっつも腹を空かせてるアイツのために狩りを手伝ってやることにしたんだよ。
か、狩りだけじゃないぞっ。ほ、他にもいろいろしたんだからなっ。
えと……そうだ! 二人で勝負なんかもしてたぞ!
木登りだろ、スライム潰しだろ、あと……あ! ハチの巣落としなんかもしたなっ。
ま、勝負はいっつもあたいの勝ちだったけど!
ん?
…………。
………………ああ。そうだな。
あたいとアイツは……友だちだったんだよ。
たった一人のな。
アイツはあたいしか友だちがいなくて、あたいもアイツしか友だちがいなかったんだ。
一人ぼっち同士だったんだよ。
アイツは……あたいといるとき、よく『ふたりぼっち』なんて言ってたけどな。
アイツは……うん。どんどん狩りが上手くなっていったよ。
角ウサギの他にも、鳥や大蜥蜴なんかも一人で狩れるようになってたな。
最後にはフォレストウルフを狩ってんだ。
あのフォレストウルフをだぞ!
……あたいの前でフォレストウルフを狩ってみせたアイツがさ、言ったんだ。
どうだい、僕も成長しただろって。生意気な顔してさ。
妖精さん、そろそろ君の名前を教えてくれないか? ってね。
訊かれたあたいは、つい……次会ったときに名前を教えてやるよ、って言ったんだ。
それが……あたいがアイツと会った最後だった。
だからあたいは……アイツにあたいの名前を教えないといけないんだっ。
そして――そしてアイツの名前を訊かないといけなんだ。
だから……だからっ、あたいはアイツに会いたいんだよっ。
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