第59話

 川をどんぶらこと流されかけていた、俺とキルファさん。

 ロルフさんが投げたロープにより、無事救出された。


「あんちゃん……ホントに、ホントに無事でよかったぜ」


「これも神々のご意思でしょう」


「…………わたしは信じてた。シロウが生きてると」


「シロウと離れ離れになるぐらいなら、ボクも川に飛び込めばよかったにゃあ」


 四人に囲まれ、再会を喜び合う。

 俺は安堵から涙が出そうになっていたけれど、それは四人も同じだったみたいだ。


「あんちゃんが見つからなかったから、おれは……おれはよぅ」


「…………わたしはシロウに助けられてばかり」


「己の無力を恥じるばかりです」


「もーボクから離れちゃダメだよ?」


 みんな目に涙を浮かべていた。

 四人との間に確かな絆を感じた瞬間だった。


「ご心配をおかけしました」


「あんちゃんは何も悪かねぇ。悪いのは守れなかったおれたちだ」


 悔しそうに拳を握るライヤーさん。


「…………シロウ、あのときは助けてくれてありがとう。それと……ごめんね」


「あんちゃんがネスカを突き飛ばしてくれなきゃ、今ごろエライことになってたかもしれねぇ」


 ライヤーさんとネスカさんは視線で示し合わすと、同時に頭を下げてきた。


「あんちゃん、ネスカの命を助けてくれてありがとう。パーティリーダーとして、なによりネスカの恋人として礼を言わせてくれ! 本当に――本当にありがとう!」


「…………シロウのおかげでわたしは命を救われた。これで二度目。この恩はいつか必ず返す。…………シロウ、ありがとう」


「ちょっ、頭を上げてくださいよ」


「いいや、こんなんじゃ足りねぇ。あんちゃんにはいくら礼を言ったって足りねぇんだ。ありがとなあんちゃん。そしてすまなかった! あんちゃんを危険な目に遭わせたのは、全部リーダーであるおれの責任だ。ギルドに報告するときは全部おれの責任だったと伝えてくれ!」


 あのライヤーさんが、真剣に頭を下げている。


「それは違うにゃ。ライヤー、ボクたちは仲間でしょ? 失敗も成功もみんなで分けっこしないとダメなんだにゃ」


「…………パーティの責任はパーティのもの」


「でもよぉ、おれはリーダーなんだぜ? リーダーってのはミスしたら責任取らなきゃいけない立場だろ」


「ライヤー殿、私たちはパーティ――仲間なんです。共に歩み、共に成長していく仲間なんです。失敗を犯してしまった時は、みなで反省すればいいのですよ」


 悔いるライヤーさんをみんなが慰める。

 俺はにやりと笑い、それに乗っかることに。


「そうですよライヤーさん。俺たちは仲間なんでしょ? 蒼い閃光がミスしたって言うのなら、それは一緒にいた俺のミスでもあります。かっこつけて一人で責任を背負い込むなんてさせませんからね」


 しれっとした顔でそう言うと、


「「「「……」」」」


 四人ともぽかんとした顔をしていた。


「な、なに言ってんだ。だってよ、あんちゃんはおれたちのせいで――」


「ライヤーさんこそなに言ってんですか。あれだけ仲間だ友だちだと俺をその気にさせといて、肝心なときは仲間外れにするんですか?」


「い――いやいやいや! 待て待て、待ってくれあんちゃん! 確かにあんちゃんは仲間だ。俺たちの大事な仲間だよ。でもよぉ、それとこれとはなぁ……」


「ひどい! 口では仲間と言っても、ホントは俺の心を弄ぶのが目的だったのねっ。ライヤーさんのいけず! リア充! もうマッチ売ってあげないんだからっ」


「だから待てって! あんちゃんさっきから――ふががっ」


 なおも食い下がろうとするライヤーさんの口を、キルファさんが塞ぐ。


「まーまーライヤー。シロウがこう言ってるんだにゃ」


「…………いまはシロウの好意に甘えるべき」


「はっはっは。シロウ殿は徳が高いですな。神に仕える身として私も見習わなければ」


「好意でもなんでもないですよ。みんなが俺を必死になって護ってくれていたのは、護られていた俺が一番よくわかっています」


「いやいやあんちゃん、冒険者は結果でしか――」


「結果はもう出てるでしょう? 俺は無事です。そして仲間と合流できた。これ以上の結果はありますか?」


「うぐぐ……。前から思ってたけどよ、あんちゃん口が達者だよな」


「そりゃ商人ですからね」


 俺はドヤ顔をキメ、続ける。


「とにかく、俺は無事だった。仲間とも合流できました。それでいいじゃないですか。結果だなんだと堅苦しいことを言うのはやめにしましょうよ。俺たちの――仲間内の間だけでもね。堅苦しいのは仕事だけで十分です。だから俺は冒険者ギルドに報告するつもりなんてありません。これっぽっちもね。この話はこれで終わりです!」


 俺はやめやめとばかりに手をぱたぱた振る。

 これは俺の本音だ。仲間内だからこそ、ただ再会できたことを喜べばいい。


「あんちゃん……ああっ、わかった。わかったよ! あんちゃんがそう言うならそれでいい」


「やっとわかってくれましたか」


 ライヤーさんが頭をガシガシとかきむしる。

 俺がなにを言っても聞き入れないことを、やっと理解してくれたようだ。


「ま、ギルドはいいとしてもよ、あの町長にバレたらしこたま怒られるだろうけどな」


 現状俺は、ニノリッチに居を構える住民という立場に有る。

 そしてニノリッチの住民が危険な目に合うことを、町長のカレンさんは良しとはしないタイプだ。


「……」


 バレるかな?

 バ、バレないよな?

 でもアイナちゃんに「蒼い閃光と森に行ってくるね」って言っちゃったんだよな。


「……」


 カレンさんの怒った顔が思い浮かぶ。

 ……ちょっと怖い。いや、けっこー怖い。ただただ怖い。


「こうしてあんちゃんが生きてたんだ。町長にバレたときはいくらでも怒られてやんよ」


「ライヤー殿、共に怒られましょう」


 開き直ったかのようにライヤーさんが言い、ロルフさんが同調する。

 なのに、


「ボ、ボクは遠慮しとくにゃ」


「…………わたしの分はライヤーに任せた。しっかり怒られてきて」


 女子チームのまさかな発言に、ライヤーさんが目を剥いて驚く。

 次いで俺の肩を掴み、


「あんちゃん! あんちゃんは一緒に怒られてくれるよな?」


「いやー、俺は冒険者じゃなくてただの商人ですからねー。カレンさん、俺のことも怒ってくれるかなー」


「そりゃないぜあんちゃん……」


 ショックから膝をつくライヤーさん。

 ロルフさんはその背を叩き、「神に祈りましょう」と慰めていた。

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