第47話

 ニノリッチから自宅へと戻ってきた俺。

 仏壇では、ばーちゃんが呆れるぐらいの笑顔でダブルピースしている。

 遺影の両サイドを飾るは、アイナちゃんが摘んできたお花。


 アイナちゃんは俺の店働くようになっても毎日花を摘んできては、俺にプレゼントしてくれていたのだ。


「ばーちゃん、ずっと俺に言ってたよね。困ってる人がいたら助けてやれって」


 はじめて言われたのは、俺がまだ幼稚園児だったとき。

 ばーちゃんは、事あるごとにこう言っていた。


『士郎、自分の手が届くところで困っている人がいたら、出来る限り助けておやり。そうすればいつか士郎が困ったとき、いままで助けてきた人たちが士郎のことを助けてくれるからね』


 俺が『情けは人の為ならず』ということわざを知ったのは、それからずっと後の事だ。


「見ててくればーちゃん。俺、いまから人助けしてくるよ」


 いまの俺の手が届くところで困っている人がいる。

 しかも、ただ困っているだけじゃない。

 誇張なしに生命の危機レベルで困っている人だ。


「さーて、いっちょやりますか」


 俺は銀貨を一〇枚取り出す。


「等価交換スキル発動!」


 目の前で銀貨がしゅんと消え、代わりに一万円札が一〇枚現れる。

 俺はこの一〇万円を軍資金として、ドラッグストアでビタミン剤を買い占めた。

 購入したビタミン剤を全て空間収納にしまい、再びアイナちゃんのお家へ。


「お待たせしました!」


 買い物に時間がかかったため、すっかり日は沈み窓からは月明かりが差し込んでいた。

 みんなが見守るなか、俺は握りしめていた手を広げる。


「ステラさん、これを飲んでみてください」


 そう言い、握っていた小瓶からオレンジ色の錠剤を取り出す。


「その橙色のものをですか?」

「ええ。見た目はちょっと毒々しいかもしれませんけど、実はこれ『生き腐れ病』を治す薬なんですよ」

「この丸薬が……?」

「はい」


 俺の手のひらにある錠剤を、まじまじと見つめるステラさん。

 何を隠そう、この錠剤こそが日々命をすり減らしているサラリーマンの最後の生命線であり、日本で一番有名なビタミン剤の『チョコラータBB・ミラクルマルチビタミン&ミネラル』だ。


 この錠剤を朝晩一錠ずつ飲むだけで、必要な各種ビタミンがまるごと摂れちゃうすぐれ物。

 口内炎だってすぐ治っちゃうぐらいだから、その効果は折り紙付きで、俺が自信を持ってオススメできちゃう一品だ。 


「シロウ、疑うわけではないが、その……本当に効くのか?」


 カレンさんが訊いてくる。

 町長として、質問せずにはいられなかったんだろう。


「一回飲んだだけでは治りません。ですが毎日飲み続けることによって少しずつ良くなっていき、やがて完治します」

「このお薬を毎日……ですか」


 ステラさんがなにやら思い詰めた表情で言う。

 やっぱり色か?

 この錠剤のどぎついオレンジ色に抵抗があるのか?

 とか思っていたら、


「……お薬ということは、やはり高価なものなんですよね?」


 とステラさん。

 あ、気にしていたのはそっちか。

 俺は首を横に振る。


「お代のことは気にしないでください」

「ですが……」

「それに、お代は後からキッチリ回収させてもらう予定ですから。アイナちゃんの笑顔でね」

「っ――」


 ステラさんが言葉に詰まり、俺を見返してくる。


「俺はこの町に来て、アイナちゃんにとても助けられました。こんどは俺がアイナちゃんを助ける番です。さ、飲んでください」

「シロウさん……」

「おかーさんお薬のんで」

「アイナ……」

「はやくはやく」


 アイナちゃんが水の入ったコップをベッドまで持っていく。


「……うん。頂くわ」


 アイナちゃんが手伝い、ステラさんがビタミン剤を飲む。


「この薬は朝晩一粒ずつ飲んでくださいね」

「わかりました」


 ステラさんが頷く。

 そしてみんなが見守るなか、


「……んく。…………これでいいのかしら?」


 ステラさんはビタミン剤を飲み込むのだった。

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