第46話

 申し開きをするのは、なかなかに骨が折れた。

 単純にお母さんが泣いていたことを心配するアイナちゃん。


 厳しい顔つきで詰め寄ってくるカレンさん。

 無言のままメイスを握りしめるロルフさん。

 ステラさんが事情を説明してくれなかったら、いったいどうなっていたことやら……。


 想像するだけで恐ろしい。

 でも、誤解が解けたあとはいつも通り。

 みんなの意識は、俺の冤罪から『生き腐れ病』を治す手段へと移っていた。


「この生き腐れ病はですね、俺の故郷では『脚気』と呼ばれています」

「「「「カッケ?」」」」


 四人の声がきれいに重なる。

 俺は頷き、脚気について説明をはじめた。


「脚気は、十分に栄養を摂れていないときにかかる病気なんですよ」


 人間が生きていくには各種ビタミンが必要で、それが足りなくなると病気になる。

 そんなビタミン欠乏症の代表とも言えるのが、現在進行形でステラさんを蝕んでいる『生き腐れ病』こと『脚気』だ。


 脚気かどうかを判断する材料として、膝の下のくぼみを叩いて足が跳ね上がるか試す方法がある。

 健康な人は膝のお皿の下の部分を叩くと反射で足が跳ね上がるけど、脚気になった人にはこの反応が出にくくなるのだ。


 ステラさんの膝下にチョップしたとき足が跳ね上がらなかったことから、俺は『生き腐れ病』と呼ばれている病の正体が脚気だと確信した。

 脚気は進行すると手足が痺れて動かなくなり、最期は心臓が止まり死に至る。


 日本でも大正時代に年間数万人もの死者を出した恐ろしい病気だけど、治療法は至って簡単。

 不足しているビタミンを摂取すればいいだけなのだ。

 そしてビタミン剤なんか、日本じゃ薬局どころかコンビニでも売っている。


「というわけで、俺は一度店に戻って薬を取ってきますね」

「シロウ、生き腐れ病を治す薬があるというのか!?」


 俺の言葉にカレンさんが驚く。

 その隣では、いつもニコニコしているロルフさんも目を見開いてビックリしていた。


「シロウお兄ちゃん……おかーさんをなおすお薬があるの?」


 アイナちゃんが声を震わせ訊いてくる。

 涙が浮かぶ瞳には、僅かに希望の光が灯っていた。 

 俺はしゃがみ、アイナちゃんと目線を合わす。


「ああ、あるともさ。急いで薬を取ってくるから、待っててもらえるかな?」

「うん。アイナまってる」

「よし。いい子だ。じゃあ俺、ちょっと行ってくるよ」

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