いつでも自宅に帰れる俺は、異世界で行商人をはじめました ～等価交換スキルで異世界通貨を日本円へ～

第40話

　町に『妖精の祝福』の支部が置かれる。

　この発表にニノリッチの住民たちは大いに沸き立った。

　カレンさんから聞いた話では、やれ酒場を建てろ、いやいや宿屋が先だろうと、役場は町の開発計画で盛り上がっているらしい。

　辺境にあるニノリッチだけど、土地と木材になる木だけは無駄にある。

　冒険者ギルド『銀月の使徒』の宿舎が完成するのに合わせて、何軒もの宿屋と酒場、それに鍛冶屋や道具屋なんかをオープンさせる予定なんだそうだ。

　そんなわけで、まだ建築がはじまってもいないのに町は活気に満ちていた。

　そして俺はというと……

「ありがとうございましたー！」

　今日も商売に精を出していた。

　支部ができる話を聞きつけたのか、町にやってくる冒険者の数も日に日に増えている。

　ライヤーさん曰く、ほとんどが『銀月の使徒』に所属する冒険者らしい。

　町は賑わい、店の売り上げもずっと右肩上がり。

　順風満帆な日々が続く中、気がかりなことがひとつだけ。

「アイナちゃん、そこにある大きいマッチを取ってもらえるかな」

「……」

「アイナちゃん？」

「……」

「おーい」

「あっ！？　ご、ごめんなさいシロウお兄ちゃん。えと……ホウキだっけ？」

「ううん。マッチだよ。大きいマッチ」

「は、はい。いまもっていくね」

　いまみたいに、アイナちゃんが上の空な感じになることが多くなってきたのだ。

　仕事熱心だったアイナちゃんにしては珍しい。

　悩み事でもあるのかな？

「ありがとうございましたー」

　店にいた最後のお客が帰っていった。

　ちょっと早いけど、今日は店を閉めちゃおう。

「アイナちゃん、今日はもうお店閉めちゃおうか？」

「……」

「アイナちゃんやーい」

「あっ、えっ、あ……う、うん！」

　また考え事をしてたみたいだな。

　ここは店長として、じっくり相談に乗ってあげますか。

「それじゃ閉めてくるね。アイナちゃんは店の掃除をお願い」

「はい」

　入口の扉に『本日の営業は終了しました』の札をかけ、店に戻る。

　次は売上の計算だ。

　カウンターに入り、硬貨を一枚ずつ数えていく。

　本日の売上は、銀貨五二枚と銅貨が四五六〇枚。

　日本円にして九七万六〇〇〇円だ。

　ここのところ、毎日これぐらいをキープしている。

　ほぼ一〇〇万円だ。一〇〇万円。

　これが一年間維持できたら、三億六〇〇〇万円か……。

　異世界ドリームにもほどがあるぞ。

「さてっと」

　売上金を空間収納でしまったタイミングで、ちょうどアイナちゃんも店の掃除を終えていた。

　よし。いまからアイナちゃんの悩み事を聞き、大人らしく的確なアドバイスとかしちゃうぞ。

　とか思っていたら、

「あの、シロウお兄ちゃん……」

　なんとアイナちゃんの方から俺に話しかけてきた。

「ん、なんだい？」

「えとね……あのね……その……」

　アイナちゃんは何か言おうとして躊躇い、どこか泣きそうな顔で俯いてしまう。

　でも、服の裾をぎゅっと握ると、意を決したように顔をあげた。

「あ、あ、あのっ、あのねシロウお兄ちゃん」

「うん」

「えと、アイナにね、」

「うん」

「アイナに……アイナにね」

　目には涙が浮かび、出てくる声は震えている。

　それでもアイナちゃんは真っすぐに俺を見つめ、勇気を振り絞ってこう言葉を続けた。

「アイナに……お、おカネをかしてくださいっ」