第31話

「それでどうだったシロウ。冒険者に同行することで得るものはあったかな?」


 椅子に座ったカレンさんは、肩を借りてた気まずさを誤魔化すかのように話題を変えてきた。


「ええ。たくさんありました。仕入れが間に合いさえすれば、きっと視察に来た人もうちの店に並んでる商品にびっくりすると思いますよ」


 俺の言葉に、カレンさんが含みのある笑みを浮かべた。

 そして俺の耳元に口を近づけ、


「フフ。『仕入れが間に合えば』か。隠さなくていい。君は収納スキル、もしくは収納アイテムを所有しているんだろう?」


 と小声で言ってきた。

 耳元に口を寄せたのは、アイナちゃんに聞かれないためか。

 不覚にも俺は、核心を突いたその言葉にドキリとしてしまった。


「ナ、ナンノコトデショウ」

「ふぅ。君は嘘がつけない男のようだな。そこは君の美徳だとは思うが、商人としてはどうかと思うぞ」

「……」


 正論にぐぅの音も出ないぜ。


「勘違いしないでくれ。別に君をどうこうしたいわけではない。収納スキルやアイテム持ちは確かに珍しいが、これまでにも数人会ったことがあるのでね。そして私は、君を一目見たときから、彼らと同じ匂いを感じていたんだ」

「匂い、ですか?」

「そうだ。直感と言ってもいいだろう。それで……どうなのかな? わたしの直感は当たっているだろうか?」


 俺は降参とばかりに手をあげる。


「大正解です。俺は収納スキルを持っています」

「やはりそうだったか。君がこんな辺境のどこからあんなにも大量のマッチを仕入れていたのか不思議だったが……ふむ。なんてことはない。最初から大量に保有していたのだな」

「あれ? その言い方だと直感ていうのは……?」

 カレンさんは、にやっと笑いこう言ってきた。

「嘘だよ」

「ええーーー!?」


 思わず大きな声が出てしまった。

 おかげでアイナちゃんが心配そうな顔でこっちを見ているぞ。


「シロウお兄ちゃん……どうかした?」

「ああ、ビックリさせちゃってごめんね。なんでもないよ」

「ん」


 俺は再びカレンさんに向き直り、ちょっとだけ拗ねた顔をする。


「ウソだったんですか?」

「ふふふ。駆け引きの練習になったかな? 君の今後を慮ってのことだ。そう怒らないでほしい」

「別に怒ってませんけど……そっか、俺はもっと駆け引きを身につけないとダメなんだな」


 商人になるということは、化かし合い騙し合いでもある。

 ばーちゃんにも、俺は人の話をすぐ信じちゃうところがあるから気をつけるんだぞ、ってよく言われてたしな。


「そういうことだ。取引相手が必ずしも誠実とは限らない。場合によっては駆け引きが必要になることもある。君はそのことを頭の片隅でもいいから留めておくといい」

「……がんばります」


 不貞腐れたフリをしてそう言うと、カレンさんは楽しそうにカラカラと笑った。


「さて、それでは話を戻そうか」


 カレンさんは咳払いをひとつ。 

 きりりと真面目な顔になる。


「いま現在君が所有している商品の中に、視察の者が――冒険者が欲しがるようなアイテムがあるんだな?」

「はい。自信はあります」

「ふふ。ずいぶんとハッキリ言うのだな。だが心強い。君と出逢えた幸運を神に感謝しなければな。もちろん、君自身にも」

「やだなー、大げさですよ」


 俺とカレンさんは二人で笑い合う。


「ところでシロウ、いったいどんな物を店に並べるつもりなんだ? いや、商人である君を探るわけではないのだが、よかったら少し見せてはもらえないだろうか?」

「アイナも! アイナも見たい!」


 カレンさんの言葉を聞き、アイナちゃんがたたたと駆け寄ってくる。


「別にいいですよ。俺が視察の方に見せようとしている物はですね……これらです!」


 俺はリュックを広げ、青い閃光のみんなに好評だったアイテムを取り出していく。


「これはお湯さえあればどこでも食べられる保存食です。あとで一緒に食べてみましょう。こっちは『サバイバルシート』といって、毛布の代わりになる耐寒アイテムですね。そしてこのくるくるに丸められているのは折りたたみ水筒といいます。持ってみてください。とても軽いでしょう? こう見えて冒険者が常備している水袋よりもずっと水が入るんですよ」


 一つひとつ説明をしながらカウンターに置いていく。

 どれも冒険者体験で使うかもと、密かに用意していた物だ。

 何に使うかわからないアイナちゃんは、きょとんとした顔で首を傾げるだけ。

 だけど並んでいるアウトドアグッズが、どんなに便利な物かを察したカレンさんは目を見開いて、


「こんなアイテムが存在していたのか……」


 と真顔で呟くのでした。

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