第13話
「アイナちゃん、小が三個に大が二個だ」
「うん…………はい、おまたせしました!」
「次は小が一個に大が一個!」
「んっ…………はい!」
「小を五個お願い!」
「……はいっ。どーぞ!」
俺が会計で、アイナちゃんが商品の受け渡し担当。
お客の数は昨日よりずいぶんと多い。
だけど、アイナちゃんが手伝ってくれてるおかげで昨日よりずっと楽だった。
そして三時間が経つ頃には、本日もマッチは完売するのでした。
「すみません。今日の分はもう完売してしまいました」
「「「えええ~~~~~~~」」」
市場に露店を出して二日目の今日も、見事完売御礼と相成った。
ぶっ続けで接客していたから、俺もアイナちゃんもヘトヘトだ。
でも、
「シロウお兄ちゃん、ぜんぶ売れてよかったね!」
やっぱりアイナちゃんはニコニコ笑っていた。
「アイナちゃんが手伝ってくれたおかげだよ。さーて、今日の売上を数えておくか」
俺はありえないぐらい詰み上がった銅貨と銀貨を数えていく。
「ひのふのみのよ~――――……」
マッチ小(定価銅貨五枚)が六〇〇個売れて、銅貨三,〇〇〇枚。
マッチ大(定価銅貨四〇枚)が二〇〇個売れて、銀貨一七枚と銅貨六三〇〇枚。
一個銅貨五〇枚の値をつけたサバイバルマッチが一〇〇売れて、銀貨三四枚と銅貨一六〇〇枚。
トータルで銀貨五一枚と銅貨一〇,九〇〇枚の売上だった。
日本円で一,六〇〇,〇〇〇円。
マッチの購入資金が一二七,五五〇円だから、その分を引いた純利益は一,四七二,四五〇円。
「……なんてこった」
昨日は一時間で二〇万円稼いだと思ったら、今日は三時間で一五〇万円近くも稼いでしまったぞ。
「時給換算したら四九万円か……。いったいどこの富豪だよ」
大金を前に呆然と呟く。
おっといけない。
手伝ってくれたアイナちゃんにバイト代を払わなくては。
俺は封筒を取り出し、銀貨を一〇枚ばかり入れ、
「はいアイナちゃん、今日の分のお給金です」
アイナちゃんへと手渡した。
「あ、ありがとうございますっ」
「そのおカネでお母さんと美味しいものでも食べてね。今日は本当にありがとう」
「ううん。アイナこそありがとう! アイナをはたらかせてくれて…‥ほんとうにほんとうにありがとうシロウお兄ちゃん!」
「助かったのは俺なのに、そんなたくさん『ありがとう』って言われると照れちゃうよ。だからもう『ありがとう』は禁止ね」
「ぶー。アイナもっといいたいのにぃ」
俺は照れてるのを隠すためアイナちゃんに背を向け、銀貨と銅貨をリュックへとしまう。
背負うとかなり重い。空間収納を使っても良かったんだけど、スキルは無暗に人前で使わない方がいいと思ったから使わないでおいた。
「あんなにいっぱいあった『まっち』をぜんぶ売るなんて……シロウお兄ちゃんはすごいなぁ」
アイナちゃんは何度も「すごいすごい」と言っていた。
目の前でマッチがどんどん減っていくのを嬉しそうに見ていたアイナちゃん。
商品が飛ぶように売れる経験は、かなり新鮮だったようだ。
「あはは、凄いのはマッチで俺じゃないよ」
「ううん。そんなことないよ。シロウお兄ちゃんがすごいの!」
両手をぎゅっと握り断言するアイナちゃん。
でも手に力を入れすぎちゃったからか、
――ぐぅぅぅ。
とアイナちゃんのお腹が鳴ってしまった。
ぼっと赤面するアイナちゃん。
慌ててお腹を押さえ、恥ずかしさからか俯いてしまう。
「あのっ、こ、これはね、その――」
「朝からぶっ続けだったからお腹も空くよね。アイナちゃん、よかったらこれ食べる?」
俺はリュックからサンドイッチとおにぎりを取り出す。
どちらも朝コンビニで買ったものだ。
「これ……パン?」
アイナちゃんがサンドイッチを指さして訊いてくる。
「そうだよ。ハムや卵をパンで挟んだものだ」
「アイナ、まっしろなパンはじめて見た」
「そうなんだ。食べてごらん」
「……いいの?」
「いいさ。俺も食べるし」
「……ありがとう」
「あ、また『ありがとう』って言ったな」
「いまのはちがう『ありがとう』だからいいんだもん」
アイナちゃんはそう言って笑うと、小さな手でサンドイッチを持ち、ぱくり。
瞬間、アイナちゃんの目がキラキラと輝いた。
「おいひいっ! しろーほにいひゃん、これおいひい!!」
と、サンドイッチをあむあむしながらアイナちゃん。
こんなに喜んでくれるなんて、嬉しいよね。
喜ぶアイナちゃんを見ながら、俺もおにぎりを食べていると、
「すまない。少し良いだろうか?」
美人なお姉さんが話しかけてきた。
歳は二五歳の俺と同じか、ちょっと上ぐらいかな?
クール系な美人さんで、スタイルもかなりいい。
「俺ですか?」
「そうだ。この市場で『まっち』とやらを売っているのは君のことだな?」
「確かに俺ですけど……ごめんなさい。今日の分のマッチは売り切れてしまいました」
「いや、まっちとやらを買いにきたのではない。私は君に会いにきたのだ」
「俺に?」
「そうだ。ああ、まだ名乗っていなかったな」
お姉さんはクールに笑い、続ける。
「わたしの名はカレン・サンカレカ。この町で町長をやっている者だ」
クールビューティーは、まさかの町長だった。
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