第12話

 異世界の朝は早い。

 なぜなら、俺が朝の七時に市場へ行くと、


「おはようシロウお兄ちゃん」


 もうアイナちゃんが待っていたからだ。


「おはようアイナちゃん。もう市場にいるなんて驚いたよ。ひょっとして待たせちゃってた?」

「う、ううん。そんなことないよ。アイナもいまきたばかり」

「……本当は?」

「…………ちょっとだけ待ってた……かな?」


 小首を傾げたアイナちゃんは、そう言って「えへへ」と笑う。


「シロウお兄ちゃん、それよりね――」


 アイナちゃんは視線を俺の露店スペースの前へ向け、続ける。


「もうお客さんまってるよ」


 そうなのだ。

 開店前からお客が長蛇の列を作っていたのだ。

 手に昨日配った整理券を持つ人もいれば、持ってない人もいる。

 なんか、町の住人全てが集まってきていると言われても信じちゃいそうな人数だ。


「……こ、こんなにいるの?」

「がんばろうね、シロウお兄ちゃん!」


 オープン前から呆然とする俺に、ふんすふんすと気合を入れるアイナちゃん。

 ゆっくり準備したかったけど、この行列を見てはそうも言ってられない。


「しゃーない。アイナちゃん、店を開く準備をするよ」

「うんっ」


 リュックを開け、レジャーシートを取り出す。

 空間収納しててもよかったんだけど、スキルを使うところは見られない方がいいと考えた結果だ。

 この世界のスキルの立ち位置とかぜんぜん知らないから、念には念をってね。


 レジャーシートを広げ、リュックからマッチを取り出していく。

 マッチを取り出していると、行列を作る人たちから「おお……」とか、「あれが噂の……」みたいな声が漏れ聞こえてきた。


「アイナちゃん、俺が『小』って言ったらこっちの小さいマッチで、『大』って言ったらこっちの大きいマッチね?」


 俺の説明を聞き、アイナちゃんがこくこくと頷く。

 とても真剣な顔だ。


「それで俺が『小何個、大何個』みたいに言うから、そしたらアイナちゃんは俺が言った数をこの紙袋に入れてお客さんに渡してもらえるかな?」


 俺はリュックから紙袋を取り出し、アイナちゃんに渡す。

 これもホームセンターで買ってきた物だ。


「うん、アイナにまかせて」

「よし。わからないことがあったら何でも訊いてね。じゃあお店を開くよ」

「はーい」

「お待たせしました。いまから本日の営業をはじめさせていただきます。じゃー、整理券をお持ちの方からどーぞ」


 こうして、出店二日目がはじまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る