第7話

 俺はアイナちゃんと一緒に市場へと戻ってきた。

 無事に手続きも終えたし、明日から露店とはいえお店を出すんだ。

 となると必要になってくるのが――


「市場調査だよね」


 この町に住むひとたちがどんな物を求め、どんな物が売れるか調べなくてはいけない。


「……シロウお兄ちゃんはなにを売るの?」


 アイナちゃんが訊いてきた。

 異世界人の俺がなにを売るのか、興味深々って顔だ。


「ははは。手続きしといてなんだけど、実はまだなにを売るか考えてないんだよね。……そうだ! この市場ってなにがよく売れるのかな? アイナちゃん知ってる?」

「んとね、町には『ぼーけんしゃ』がいっぱいいるから、ぼーけんしゃ向けのものが売れるみたい」


 言われてみれば確かに市場はゲームやアニメに出てくるような格好をした、冒険者らしき人たちで賑わっている。

 露店で売られているのも、冒険に役立ちそうな物が多い気がするぞ。


「ふーん。冒険者かー」

「そう。ぼーけんしゃ。森にね、モンスターがたくさんでるから、ぼーけんしゃはみんな……そ、そざい? をねらって町にくるんだって。おかーさんが言ってた」


 え? 森ってさっき俺が歩いてたとこだよね?

 モンスターが出るって……。ま、まあ、無事に町まで辿り着けてよかったぜ。


「冒険者向けの物ねぇ」

「うん。ぼーけんしゃ向けのもの。……だからね、アイナのお花を買ってくれるひと……あんまりいないんだ」


 アイナちゃんは哀しそうな顔でそう言った。


「そうなんだ……」

「でも今日はシロウお兄ちゃんにいっぱいお花買ってもらえてうれしかったの。アイナね、シロウお兄ちゃんにあえてよかった」

「えー、やめてよー。そんなこと言われると照れちゃうじゃん。でもそっか。冒険者向けねぇ」


 市場を歩きつつ、お店を覗いていく。

 ロープやナイフや砥ぎ石。

 ランタンに火打石らしき物。

 マントや寝袋に鍋や木製の食器類。


 アイナちゃんが言ったように、確かにアウトドア用品が目立った。

 そりゃここで花を売っても、誰も買ってくれないわけだ。


「市場の半分以上が冒険者向けっぽいな」

「ね。アイナがいったとーりでしょ?」


 隣を歩いていたアイナちゃんが、えっへんと胸を張る。

 アイナちゃんは、俺が市場を見終えるまで一緒にいてくれるらしい。

 というか、


「シロウお兄ちゃん、あそこは『ほぞんしょく』のお店だよ」


 市場に不慣れな俺を、ずっと案内してくれていたのだ。

 なんて献身的な子なんだろう。こーゆー子がいいお嫁さんになるんだろうな。


「それでね、あそこがランタンのあぶらを売っててね、あそこはお鍋を売ってるの。こっちのお店は――――……」


 市場を回り終える頃には、俺とアイナちゃんはすっごく仲良くなっていた。

 後半なんか手を繋いで歩いていたほどだ。

 早くお嫁さんと可愛い娘が欲しい。

 俺は切実にそう想った。


「シロウお兄ちゃん、どうだった? なに売るかきめた?」


 腕組して考えを巡らす俺に、アイナちゃんが訊いてくる。

 出会った時とは違い、アイナちゃんは自然な笑顔を俺に向けていた。

 それだけ俺に懐いてくれたってことだろう。


「うん。決めたよ」

「ホント? なにうるの? おしえておしえて!」

「それはね――――……」


 日本から持ってくる商品を聞いたアイナちゃんは、小首をかしげて、


「それ、なーに?」


 と言うのだった。


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