第2話観覧車で

小夜子は、和巳に話しかける機会をうかがっていた。

ある事を思い付いた。

中学校の同級生、北好秀が、隣の6組に居た。


「北君、一生のお願いがあるんだけど」

「何だい」

「私と手をつないでほしいの」


「えーっ」

「どうしてだい」

「私、松本君が好きなの、なんとかして仲良くなりたいの、松本君にやきもちをやかせて、松本君の気を引きたいの」


「いいよ」

「ありがとう」


こうして、小夜子と北好秀は、松本和巳の前で、わざと手をつないで歩いた。

そしたら、案の定、松本が小夜子を気にしだした。


小夜子「ウ・うん」

和巳・ピクッ


小夜子が後ろの席で、せきばらいをするたびに、和巳はピクッとした。

これは、完全に小夜子を気にしている証拠だ。


ここは、一つ、のるかそるかで、和巳に話しかけた。

「松本君、お願いがあるんだけど」

「何ですか」


「デートしない」


「デートですか。ちょっと3日ほど考えさせてください」

3日後

「今田さん、デートしてください。場所は天王寺でいいんじゃないですか」

「バカね。みんなに丸わかりじゃない」


「心斎橋の大丸デパートに行きましょう。待ち合わせ場所は、大丸デパートの御堂筋側の入り口。タクシーが停まってて、ドアボーイが居る所。あそこに、次の日曜日の11時でどう」


「はい」


10時50分 小夜子が先に来て待って居た。

10時55分 和巳が来た。驚いた。和巳は黒いつめえりの学生服で来た。


小夜子は、カジュアルな、ボーダーの半そでTシャツに、ピンクの台形のミニスカートで来たのに。

「こんにちは」

「こんにちは、学生服を着てこなくても良かったのに」


「そうなんですか、僕、デート初めてなもので」

デパートで、ウインドウショッピングを楽しんだ。

紳士服、婦人服を見て、大食堂でランチにした。


「私は、オムライスにするわ」

「僕は、とんこつラーメンにします」


昼食後は、屋上遊園地に行った。

「ねえ、観覧車に乗りましょうよ。思い出の観覧車に」

「ねえ、あのとき、どうして私を観覧車に誘ったの」


「いやあ、それは、そのう」

「どうしたのよ」


「今田さんが、合格発表のとき、僕を見つめていたのを知っていたし、入学式の日も教室に入ったら、ずっと見つめていたのを知っていたからです」


「へーえ。私のことを見ていてくれたんだ」


「気になっていました」


「私は、和巳君のことが好きよ。和巳君は」

「小夜子さんのことが好きです」


「なんか、観覧車のことが大好きになりそうだわ」


翌日、学校で、お互いに知らん顔をしていた。

二人とも、つらかった。でも、みんなのウワサになるわけには、いかなかった。

知らん顔をしているのは悲しかった。


二人は、知恵を絞って、待ち合わせできる場所を考えた。

「市民病院の精神科の待合室は、どうかしら」

「それなら、生徒が来る心配もないしね」


市民病院の待合室で、おしゃべりをした。

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