第12話 能力者は紅く染まる

「天野絵里ちゃんね?」




凛子はそう言いながら、絵里の手足を縛っている


ガムテープを引きはがした。




凛子の問いに、少女はコクリとうなづいた。




「啓志、彼女をお願い。あたしは、念のため、あの3人を


縛っておくわ」




彼女は言うが早いか、傍らに転がっている


ガムテープのロールを手にすると、江村、植木、藤堂の


順に、後ろ手に手足をぐるぐる巻きにした。特に、藤堂は念入りに縛った。




それから凛子は、江村の内ポケットから、スマホを取り出すと、


絵里に訊いた。




「パパの電話番号は、知ってる?」




うん、と絵里は答えた。




啓志は、凛子が何をしようとしているのか、


咄嗟には、わからなかった。




凛子は少女の言うがままの。ダイヤルをタップした。


1コールで、相手は出た。




「どなたですか?」




男性の強張った声が、耳に届いた。おそらく天野哲郎自身だろう。


警察も聴いているはずだ。彼の声は、小刻みに震えていた。




「娘さんは無事です。犯人グループは拘束しています。


それにキングコインは、すぐに売ってください。そしたら


被害は最小限に抑えられると思います。


娘さんのいる、その場所は・・・」




凛子は、このマンションの住所を伝えた。


まだ何か訊きたそうにしている彼の電話を切ると、


啓志へ向かって、急いで伝えた。




「さあ、引き上げるわよ。すぐに警察が来るはずだから」




啓志が立ちあがると、絵里が彼の体に抱きついて来て、


そして言った。




「お兄ちゃんの声、聞こえたよ・・・」




それを聞いて、啓志の口元に、微笑が浮かんだ。




彼は絵里を抱えると、玄関へ向かった。


凛子も、彼の後を追った。




マンションの階下に降りると、啓志は絵里を降ろして言った。




「ここで、待ってるんだ。もうすぐパパに会えるからね」




うなづいた絵里の顔に、やっと笑みが戻った。




「啓志、何ぐずぐずしてんの?早く行くわよ」




凛子は、スクーターに跨り、ヘルメットを被りながら言った。


啓志もヘルメットを被って、タンデムシートに腰を下ろした。


彼女はアクセルを捻って、急発進した。




スクーターのバックミラーに映った天野絵里の姿が


小さくなっていく。




その時、けたたましいサイレンの音が、近づいてきた。


対向車線を走る、5台のパトカーとすれちがう。




そこで啓志は、思い出した。




「報酬の、80億円はどうなるんだ?」




「何か言った?」




凛子のくぐもった声が、問いかけてきた。




啓志は落胆した気持ちで、西に沈む夕陽へと


目を向けた。


紅色に染まった空は、今までに見たことも無い


綺麗な光景だった。




ふと、助けた少女の声が、啓志の脳裏をよぎった。




お兄ちゃんの声、聞こえたよ―――。






「ま、いっか・・・」




啓志の顔には、微笑が浮かんでいた。






スリープ・ダイバー  END

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スリープ・ダイバー ESP who can sleep(短編) kasyグループ/金土豊 @kanedoyutaka

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