第11話 逆転

啓志は、次に絵里の意識にダイビングした。




絵里ちゃん、聞こえる?さっきのお兄ちゃんだよ―――。




絵里の心の中に届いた声に驚くと、彼女の目は泳ぎ、


壁にもたれかかって、気を失っているように見える啓志の方を見た。




「うん、聞こえるよ」




絵里は、弱弱しく、か細い声で答えた。




お兄ちゃんが、三つ数えるから、その合図で


おっきな声を上げて。できるかい?




「うん、できると思う」




「うおおおお!キングコインが60倍に上がった!


売るなら今だ・・・」




植木がマウスを操作する瞬間、


啓志は、絵里に呼びかけた。




3、2、1、絵里ちゃん、今だ!




雪村絵里は大きく息を吸い込むと、一気に声を上げた。




「きゃあああああーッ」




雪絵の悲鳴が、植木の集中力を大きく削いだ。




「うるせえええッ!」




植木は狂ったように、両手で自分の髪を掻きむしっていた。




啓志は。何とか立ち上がると、両足をふらつかせながらも


パソコンの電源であるコンセントにたどり着き、


それを引き抜いた。


パソコンの電源は切れ、モニターがすべて真っ暗になる。


それと同時に、啓志は再び倒れ込んだ。




「わあああああッ」




植木の絶叫が、部屋に鳴り響いた。




その間、凛子と藤堂の闘いは続いていた。


圧倒的に凛子の方が、押されていた。


彼女の攻撃は、筋肉の鎧で塞がれて、


藤堂にダメージを、ほとんど与えられなかった。




一方、凛子は藤堂の強烈な突きを、


かわしきれず、腕で防御しながらも、


吹き飛ばされた。彼女の両腕は紫色にはれ上がり、


息も入れ切れだ。




藤堂は余裕の笑みを、口元に刻んでいた。




その時、凛子の意識に、意識の朦朧とした啓志の声が届いた。




凛子、珍しく苦戦してるようだな―――。




「何よ。勝手に、あたしの頭の中に、入らないでって


言ったでしょ!」




「何を、ぐだぐだ言ってる?」




藤堂は、奇妙なものを見るような視線を、凛子へ向けた。




再び、啓志の声が、聞こえる。




凛子、その大男の動きを一瞬止める。


その時が、チャンスだ―――。




藤堂の剛拳が、凛子を捉えた―――。




その瞬間、藤堂の動きが、止まった。




今だ!




啓志の声が、凛子の意識に飛び込んだ。




凛子は、藤堂の金的へ、思い切り前蹴りを叩きこんだ。


藤堂はたまらず、くの次にかがみこんだ。


凛子はひざ蹴りで、藤堂の顎を蹴り上げると同時に、


彼の頭頂部に、ひじ打ちを打ちおろした。




藤堂は金的を抑えながら、もんどり打った。


手足を痙攣させて、白眼を剥いている。




続いて、錯乱状態に陥っている植木の顔に、


一撃を喰らわせると、彼は、呆気なく気絶した。




凛子は肩で息をしながら、隣りの部屋で


壁にもたれかかっている、啓志へと向かい、


彼の頬を乱暴に叩いた。




啓志は、頼りなくフラフラと、ようやく立ち上がった。




凛子は、部屋の片隅で拘束されている、


絵里に駆け寄った。

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