三羅偵強襲編

Episode8-2 夜のハイウェイにて

[国道を走る車]


「怪盗シルバーが指名手配…!?」


 車の中に男女がいる。

 一人は手配書を見るひとりの女…その女、アイマスクをしていて、目を隠している…だが、文字は読めるようだ。

 アイマスクの女性に運転手の老人が話しかける。


「報酬は100億円。150年はハワイ旅行できるほどのヤバい金です。怪盗シルバーはかなりの強敵だが…それだからこそのこのヤバき額。」


 運転手の老人は探偵王の側近の一人「グレトジャンニ」。


「100億あれば女も買い放題です。世界196か国の女子を集めて、淫乱の世界旅行をすることもねェ………」

「わたくしは女。それよりわたくしは100億よりもシルバーの命に興味がある!」


 アイマスクの女が手を強く握りしめる。


「興味?あのチンピラとあなたに何か因縁が?奴は今兵庫の国道を走ってるはずですが…」


 瞬間、グレトジャンニが車の外に放り出される!!


「おじああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 車はアイマスクの女のみを連れて走り去る!!

 しかし5点着地をしたグレトジャンニはノーダメージで立ち上がる!!


「私の車が盗まれてしまった……だがまぁいい。あの『殺し屋』とシルバーに因縁があるのは嬉しい誤算!」


 ネクタイを締め、服の誇りを払う。

 グレトジャンニがシャドウに投げ出されたことで車道は止まったが、彼は車のライトをスポットライトにして雄雄しく立っている。

「しかし貴方は探偵でも怪盗でもない……意気がいいのはよろしいが【カース・アーツ】もなしに、奴を殺せますかね?」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

[夜・国道]


ブロロロロロロロロロロロロロロロロ!!!


 睦月とシルバーが車に乗りながら、雑談をする。運転しているのはシルバーだ。

 だがシルバーは驚いた顔をしている。


「睦月…なんだって…?」

「前見て運転してくれ、シルバー。」

「ああ…すまん……」


 睦月が掌に『紫色の蟻』を15匹ほど『具現化』させる。

 怪盗試験の時に【カース・ミラー】より得た彼女の【カース・アーツ】の『能力』だ。


「私の『能力』は自分や自分が触れた物体の『影』に『最大10000体近くの蟻を召喚する』能力…名をつけて【夜を歩くもの<ダークウォーカー>】。」

「………『使役獣召喚型』のカース・アーツだな。意思の疎通もできるのか?」


 睦月がこくりとうなずく。


「………蟻と私はある程度の視界共有が可能で、それを使って車の四方上下を監視していたんだが…」

「怪しい奴が、いると。」

 二人が後ろを振り向く。黒い車があった、窓は埃が溜まっており、中の乗員は見えない。

「怪しい奴ね……」

「あいつ、一時間前からずっとつけて来てるんだ。」


 黒い車が赤いライトで睦月たちの乗るT-BOXを照らす。

 そしてしばらくたつと中から運転手の左腕が伸びた。黒い衣服で包まれ肌が見えず…片手で火炎放射器を握っていた。


「!!なっ―――」


 BOWA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 次の瞬間、その銃口からシルバーたちの車に向かって炎が走った!!

「う――――――うおおおおおおおおおおお!!!!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

[黒い車の中]


「クックック…見つけたぜシルバー…」


 アイマスクの女がそう言いながら新しい飴をほおばる。そして服を脱ぎ棄てる。腹の場所に6発の弾痕があった。


「5年前のこの傷のことは忘れたことは無い……だが【No Life lovers<命無き恋人>】…この俺の新たなる力!この力で貴様に復讐を遂げる!!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

[夜・国道]


 後続の黒い車より火炎放射器は放たれた。だが、シルバーたちは燃えなかった。


「も――――燃えないッ!?何をしたんだシルバー!!」

「あのタイプの火炎放射器は、可燃性の『液体』を投射し着火する兵器。つまり私の【ストーン・トラベル】でその液体を『石化』すれば、その攻撃は無力化出来る!!」


 火炎放射器の銃口が石化していた!!直後、ドンゴン!!運転手の左腕を巻き込みながら爆裂した!!


「フン……ざまあみろわよ。睦月、『蟻達』を奴の車まで這わせた?」

「ああ、見ればわかるだろ?」


 車の周りには、睦月の能力【夜を歩くもの<ダークウォーカー>】で召喚した蟻が100匹ほど張り付いていた。うちに一匹は『燃えたマッチ』を顎でつかんでいる。


「互いの車は同じ速度で走っている。この距離の追尾なら、『蟻』は外に飛ばすだけで後続車に張り付いていく!」

「国道を抜けるわよ!追われる身である以上一般人を巻き込むのはマズい!」


 睦月たちのTBOXが国道から逸れ、脇道へと移動する。それを追うように黒い車も道を外れる。

 黒い車のフロントガラスが割れ、中からロケットランチャーの先端が顔を見せる。


「火炎放射器の次はロケットランチャーか。女二人に随分な武装なようで。」

「シルバー、いいんだよね?」

「ああ、撃たれる前に殺れ。」


 次の瞬間、黒い車が爆発する!!!後続車に張り付いていたマッチを顎で掴んでいた『蟻』…それが車のガソリンを燃やしたのだ!!シルバーたちは爆裂する車を哀れに思いながら先を進む。


「………一体何だったの?【カース・アーツ】らしき攻撃でもなかったし…」

「単独犯的な手法…そして『能力』に頼らない戦い方を見るに、只の殺し屋かしら?【カース・アーツ】は探偵と怪盗しか持ってないはずだからね…ま、どっちにしてもアレじゃもう助かりようはないか……」


『【カース・アーツ】……じゃあないなぁ……』

「!?」


 機械的な声が聞えたと同時に、シルバーの車に並走する黒い車が再度現れる!

 赤いライトを照らし、その中は漆黒がかかったかのように不可視!!


『取りあえず自己紹介しとこうか…

 これは悪魔の力『No Life lovers<命無き恋人>』…『No Life lovers<命無き恋人>!!』それが我が力の名称!!』

「【悪魔の力】ですって!?」

「知っているのかシルバー!?」


 シルバーは悪魔の力に思い当たりがあった。


「【悪魔】……人間の生命を己の糧とする裏世界に蔓延る『怪物の一種』。命を喰らう契約と引き換えに人には力を授けると言われているが…」

「力…カースアーツの様なものか!?」

「嗚呼…だが、命を糧にする分その能力は強力なのが多い!!」


 【悪魔の力】…それは、【カース・アーツ】と同じ『外付けの超能力』。

 死者の魂を媒体とした【カース・アーツ】と同等の能力を【悪魔】から授かるが【悪魔】との約束が果たされたとき…その魂は【悪魔】の糧となる!!

 かつては、『探偵協会マレフィカルム』や『怪盗』の間でも研究されていた、超能力ではあったがその代償の重さから【カース・アーツ】の発見と同時に、忘れ去られた力となった!

 黒い車のボンネットが開き【悪魔】のようなシルエットが姿を見せる。


「命を捨ててまで力を得たかったのね……!」

『そうだ……オレは悪魔から新たな力を授かった!!貴様に復讐をする、ただそれだけの為にな!』

「フクシューですって!?」


 ドンゴン!!

 次の瞬間、先ほどと同じ方法で…【夜を歩くもの<ダークウォーカー>】がマッチを持った蟻でその【悪魔】ごと車を爆裂させる!!

 しかし【悪魔】は大跳躍し、別の車に飛び移る!!そして【悪魔】は中の人間を殺し、車に触手を張る!!

 直に車は黒色に包まれ、ガラスの中が見えなくなる。


「乗り物を乗っ取る……『能力』!?」

『はははははははははは!!ここは夜とはいえ国道!!我が武器は無尽蔵に湧いてくるぞ!!』


 黒い車がシルバーたちの車にぶつかる!!


「うおおおお!!シルバー!!」

「睦月、クールになって衝撃だけに供えなさい。歩道までこの車は転がすわ。」

「えっ?」

「奴の『能力』を乗り物を乗っ取る能力とするのなら、奴は恐らくもうロケットランチャーや火炎放射器のような武器を残していない。さっき跳躍しているときに何も持っていないのを見たからね。

 ならば次奴が選ぶ選択は、直接的な攻撃<ダイレクト・アタック>!!奴は直接車の中に乗り込んで私達を殺すわ!!」


 TBOXがガードレールにぶつかり、吹っ飛ぶ!道外れまで横転がりし、上下反転した状態で停止した!

 黒い車はすかさずそれを追撃しようとエンジンを吹かす!!

 然し二度あることは三度ある!!睦月は再びマッチを掴んだ蟻を使い、車のエンジンを爆裂させる!!


『はははははは!!そこまで車がグチャグチャになれば最早中の人間は瀕死寸前の筈!!この俺が直接乗り込んで殺してくれよう!


 爆裂から逃げるかのように、悪魔が車の中から脱出し、跳躍する。

 そして、シルバーの車をこじ開け、中に入ろうとする。しかし、中に入った瞬間、悪魔の体の全体に紫色の蟻が召喚された!


『な、なにィィィ~~~!!!』

「睦月の『能力』は、『自分の影』や『触れた物体の影』に『蟻の魔物』を召喚すること。『睦月』が触れているこの車の中に入った時点で、お前の敗北は決定してたのさ。」


 フッ…と笑う血まみれの睦月とシルバー。だが【悪魔】もまた諦めない。


「HYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA<ヒィアアアアアアアアアアアア>ッッッ!!!」

「!!」


 黒い【悪魔】の体の中から、単眼の女が現れた!!女は蟻と共に【悪魔】の体を脱ぎ捨て車の外に出て、『全身に仕込んだ武器』を構える!武器とは服の隙間から顔を出す、無数の銃口!!!グレネード!!アサルトライフル!!ショットガン!!


「改造人間<サイボーグ>…!?アンタは確か……!!殺し屋『天野 水晶』!!」

「な、なんだこいつは~!!シルバー!!やばい!!」

「5年前私は貴様に敗れ……!!この美しい体に傷を負った…!!傷は殺し屋の恥……!!お前に敗北したことで、俺は仕事を9割失い、世間体を失った!!だが俺にもプライドがある!!」


 殺し屋・『天野 水晶』が指先のトリガーを引こうとする。

 おそらくそれ引くだけで、全身の銃はフルバレットファイアし、シルバーたちはハチの巣となる!!攻撃まで残り0.3秒!!!

 その間に『天野 水晶』の指を吹き飛ばせば攻撃を止めることは可能だが、シルバーは今四つん這いの態勢で、銃は今腰のポケットにある!!『人間』ではここから銃を構え、攻撃を阻止することは不可能だ!!二人の生存率0%!!

 殺し屋・『天野 水晶』の復讐は今まさに果たされる!!


「『能力』で目を石化しても止まらないでしょうね…ならスピード勝負…ってところかしら。」

「死ねシルバー!!敗北者としての生より、勝利者としての死だあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 残り0.1秒!だが次の瞬間…ワン!!ツー!『天野 水晶』の人差し指が銃弾によって吹き飛ばされた!!


「私、早撃ちと跳弾には、自信があるの。」

 シルバーは人間ではない。人を越えた力を持つ『在日アトランティス人』だ。

 人間にできない芸当もシルバーにはできる!人間の0%はシルバーの50%だ!!


 三発目の銃弾が…『天野 水晶』の心臓を打ち抜いた。


「かッ…ぶえ!!まだだあああああああああああああああああああ!!!」

 殺し屋はまだ立ち上がる…だが。

「ぐぼええッ……!!!」


 瞬時脱ぎ捨てたはずの【悪魔】が殺し屋の脳を引きちぎった!!


「なんですって……!?」

『ゲヒャヒャ…ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!!!!』


 笑う、黒い【悪魔】が、そう笑う。


「なぜ殺した…?」

『コイツノ契約期間ハ、シルバーヲコロスマデノ事……ダガコイツハ今シルバーヲ殺セナクナッタ。契約ガ終了シタトキ、契約者ノ魂ハ【悪魔】ノモノトナル!!!』


 悪魔が、脳を食す。


『…魂ハ持ッテイク。諸君…僕ハ【悪魔カーバンクル】。』

「……」

 その酷な光景をシルバーたちは黙って見つめていた。

 だが、悪魔はそれをあざ笑い空を飛び場から消える。ここには用済みといわんばかりに。


 【カース・アーツ】とまた別の超能力…【悪魔】それがこの実態である。この実態であるがゆえに、人はこの力を一度捨てたのだ


マッレウス・マレフィカルムに雇われた殺し屋

天野 水晶―――――――――――――死亡。


「悪魔の力……か。」

「ふーなんとかなったぁ…でもあの能力は使いたくないなぁ。デメリットなしで使える【カース・アーツ】の偉大さを思い知ったよ。」


 後ろから、睦月の子が聞こえる。


「シルバー、車の横転は直したいんだけど、手伝ってくれるか~?」

「レンタカー借りて乗り捨てるよ、そのボロ車。そんなんじゃかえって目立つしな。」

「ええ~!!新車なのにーーー!!」


 【悪魔】を乗り越え、二人は先へ進む。

 そして二人は岐阜に向かう為、兵庫を越えて大阪へ――――――――


――――――――――――――――――――つづく。

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