Episode9 アタシの体温はマイナス一億度 その①

大阪府!

大坂!摂津国!タコ焼き!西日本の経済の中心!

知っているか?大阪の人間の9割は東京人に殺意を抱いているという噂があるが、

あれはウソらしい。マジかよ。


シルバーと睦月は、DDFのある岐阜の宝石博物館を目指す前に、

とある用事を済ませる為、この大阪と言う地に足を踏み入れていた。


「イカ焼きタコ焼きお好み焼き寿司―――

 ふむ、この辺りは色々な和食店が並んでいるな…

 プレム、"あそこ"に行く前にどこか寄っていくか?」


「和メシか、なんか慣れないんだよな―――

 特にシーフード。タコや魚を生のママで食べるヤツとか正気とは思えん。」


「刺身食べられるロシア人もいるってテレビで見た事あるけどなぁ。」


「あんなの一部の物好きだけだよ。さっさと行くぞ。

 ランチは仕事が済んだ後の方がウマい。」


シルバーと睦月はとあるホテルに入り、

中央のエレベーターで地下13階まで向かう。

いったいどこへ向かっているんだ……


「DDFゲットの準備をするために"あそこ"に行くのは結構なわけなんだが…

 実は私、"地下"に行くのは初めてなんだよ。」


睦月が黒いローブを羽織る。


「フードまでしっかり被ってマスクで顔を隠せ。

 目立つ格好をすると面倒な奴らに目を付けられるぞ。

 睦月は目つきが悪いのはともかく顔は良いし胸も大き目だから

 変態の格好の的さ。」


「わ、わかってる。着にくいんだよ。

 無駄にブカブカのを買ってしまったからな。」


睦月顔を黒いフードとマスクで隠す…


「"ブラック・へブン<黒い天国>"。通称地下。

 ネオ大阪地下深くに存在する、資産家共が作ったらしい地下ネオン街。

 知り合いのロシア怪盗はここを『日本で最高の街』と呼んでいる。」


エレベーターのドアが開き、明るい通路が見える。

通路を抜けた先には、彩度が高い数々のライトを装飾した人工物と

スーツを着たいかにも金持ちそうな者達が歩く異様な景色であった。


「すごい…」


睦月が唖然としてその光景に見とれている。


「あんまりキョロキョロするなよ。

 さっきも言ったが、変人に目を付けられたら面倒だ。」


「………カルチャーギャップを起こしそうだよ。」


「街の住人の殆どは金持ちや金持ちからの依頼を請け負いに来た仕事人。

 ウィザーズの怪盗やマレフィカルムの探偵達もここを利用している。

 見てみろ、数百万から数億と言った金が動く取引がそこら中でされているぞ。」


がやがや


「ああ~~街中で社交ダンス~」


「この依頼を成功させることによって一万憶円が手に入る可能性が……」

「一万憶円ッ…!すなわち一兆円かッ…!」


「いい女アルね、いくら?ウチ、100億ドル持てるアルよ。」


―――――――――――――――――――――――――――――――――

ブラック・ヘヴン内 超高級喫茶店―――『天・舞・蛇』


シュラーイ――――1杯・25万円

10億分のレベルの最少のクラスター値を持つ水に

5mほどのエリクサーの結晶を入れたもの。


「ぼ、ぼったくり……」(おいしいけど。)


睦月がストローでシュラーイを飲みながら上を向く…


「ジェーンはさ、

 怪盗がなぜわざわざ何のメリットも無い盗みの予告状を出してから

 盗みを行うのか知ってる?」


「…スリルを求める為、

 もしくは嘘のターゲットを盗むと知らせ

 敵の意識を本命の"ターゲット"から逸らす……とかかな。」


「まぁうん、二つとも正解よ。

 でも、ほとんどの怪盗にとって予告状を出す一番の目的は……売名さ。


 実力のある怪盗として名が売れれば、

 この街にいる資産家どもから法外レベルの金が手に入る

 依頼を請け負う事が出来るようになるし、

 あまり表世界に顔を出さないプロの錬金術師<アルケミスト>や

 情報屋<インフォーマント>、死霊術師<ネクロマンサー>との

 交渉も捗るようにもなる。」


「パパも言ってたよ、怪盗にとってこの街での取引こそが

 金の最高の使いどころだって…」


ここでいう法外な額の金が手に入る依頼とは、

暗殺、捕獲、諜報活動、敵軍の秘密工作、怪物退治等である。

カース・アーツを持つベテラン怪盗だからこそ出来る依頼ばかりだ。

だがそんな事今はどうでもよかった。

なぜならシルバー達の今日の目的は…


(情報屋イノックに会う事。会って岐阜に関しての情報を得ること…

すしてイノックは奇数の日の12時から13時の間にこの喫茶店に現れる…)


「プレム、12時だ。」


睦月の腕時計の針が12時を回ったと同時に

シルバー達の前の座席に一人の男が座り込み、新聞紙を広げ始める…


そしてシルバーは懐から札束をこっそりと取り出し、

新聞紙の下からこっそりとその男に受け渡す。


「チッチッチッ」


「また値上げしたのか?」


「悪いな。」


「しゃあねぇなぁ」


シルバーは更に札束を受け渡す。

そう、このおじさんこそ―――情報屋イノックそのものである。


「この手触り、偽札ではないようだ。

 ―――フフ、しかしお前、あのロンカロンカに殺されたと聞いていたが。」


「やめろ。アイツの話題も名前も今は聞きたくない。

 そんな事より今は情報だ。」


「いつにもなくシリアスだな。

 まぁなんにせよ、お前さんが生きていてくれてよかったよ。

 金払いも良いしな。して、要件は?」


「情報だ。マレフィカルムのトップが今どうなっているかが知りたい。

 私を追っているのか、私が生きていることに感づいているのか…

 あと岐阜の宝石博物館に関する情報もだ。」


「フゥ~~」


イノックが新聞を読みながらパイプをふかす。


「まず一番最初にお前さんと逢う瀬するのは間違いなく―――

 『三羅偵』東結金次郎だろう。

 あやつは今、ネオ鳥取市でお前さんの死体を探している。」


「あのテレビによく顔を出す男か…」


「東結金次郎。年齢42歳。非常にマイペースな男だが、正義感がとても強く、

 マレフィカルムの探偵でありながら不殺かつカタギに迷惑をかけないような

 推理を心掛けている。

 ここまで言うと甘い奴かと思うかもしれないが、実力は本物、

 一筋縄ではいかんぞ。」


「……能力は?」


「カースアーツを使うらしいが、詳細は知らない。

 奴と対峙した怪盗は全て逮捕されておるからな。


 そしてもう一つの情報だが、夜調牙百賭とその配下の探偵数人が、

 出張で今、マレフィカルム日本支部を開けているらしい。」


「―――おそらく、博物館で私達を待ち伏せにする気だな。」


「ちなみに先に言っておくが、百賭の能力は私とて知らん。

 配下たちの能力は、この紙に記している、ほれ。」


新聞紙の下から一枚のメモ用紙が出てくる。


「ありがとう。いい仕事だ。」


「さて、もう一つの情報……岐阜の宝石博物館についての情報だが……

 こいつは別料金だ。

 一度の交渉で一つの情報、それが俺のルール。」


「くそう。ちょっと待ってるよ…」


シルバー懐に手を伸ばし始める…!しかし―――――

スッ!誰かが、新聞紙の下に手を伸ばし、イノックに札束を明け渡す!!


「な、何ィ~~~~!!!」


「金は用意した。話を続けてくれるか。」


「ジェーン、お前!!」


そいつは睦月だった…


「お前にばっか金を使わせるのは、私もいい気分じゃないからな。

 私は君と、対等の立場でありたいと願っている。」


「しかし、これは私の問題で…」


「いいじゃねえかいいじゃねぇか。気に入ったよ。

 プレム、いい友人を持ってるな。」


そして情報屋イノックは岐阜の宝石博物館の事を語る……

そこにある二つのDDFが本物である事…

そのDDFは探偵協会が罠の為に配置したことを……


「そんな所かね。」


「………罠、か。だが我々はどうしても諦める事は出来ない……

 ありがとう、じゃ、いくよ。」


「待ちな、大サービスだ。もう一つ情報を教えてやるよ。」


「サービス…だと…?」


イノックがにやりと笑う。


「お前さんたちがこれから向かう運命の道筋、恐らく『吉』だ。

 神に恵まれているな二人共」


「………??????????

 アンタ、占いにでもハマったのか?」


「ああそうさ。口内炎占いにな。」


「は???????????????????????????」

「口内炎?」


「口内炎が多い日ほど、厄日になる。

 お前さんたちにそんな経験は、ないか?」


「「??」」


「世間では星の配置で今日の運勢を決める、星占いってのが流行ってるらしいが、

 アレと同じようなものさ。」


「それって口が痛くて集中できないから仕事を失敗しやすくなるとか

 そういう奴なんじゃ」

「口内炎か、私、なったことないな……」


「口内炎を甘く見ない方がいい……

 かつて北斗七星の配置で唇に7つの口内炎が発生していた日があったが……

 あの日に俺の愛犬は―――――死んだ。

 私はアレを口内炎・北斗死兆の配置と呼び、恐怖している……」


「で、今日のアンタの口内炎の数は0って訳か。

 『吉』だもんなぁ~~」


「―――――――2つだ。」


「二つで『吉』かよ。」


そして睦月とシルバーはイノックに別れを告げ、喫茶店から脱出する。

―――しかしその瞬間。二人は奇妙な3人組とすれ違う。


「―――!」


「どうしたんだ、プレム。」


「今の三人のうちの一人、

 シルクハットをかぶったスーツでちょび髭の伊達男。

 どこかで見たことがあるような………」


そのままその3人は、先ほど睦月とシルバーが座っていた座席に座り、

伊達男がイノックに札束を渡す。

そして、伊達男はイノックに一つの質問をする。

伊達男の声は国民的アニメ、

『クレパスけんちゃん』に出てくる主人公の父親、

――――――――――野花せましと似たような声質だった。


「ネオ鳥取で怪盗シルバーが持っていたDDF。

 アレを今持ってる奴と、そいつの居所を知りたい。」


「ブフッ!!!」


衝撃!

アトランティス人特有の超聴覚で長距離からその話を小耳にしていたシルバーも

吹き出してしまった。


「ど、どうしたんだプレム。」


「む、"睦月"すぐにこの街を出て地上へ行き、

 ビルの手前に車を用意しろ。急用ができた。」


「―――!わかった。」

(シルバーの今のしぐさ、何か不吉な事を感じ取ったのか?)


睦月とシルバーが別れて行動しようとする、だが!

二人の前に一人の女性が落ちてきた!さっきの3人組のうちの一人だ!


桃色のロングヘアー。

肌は吸血鬼のように白く、顔には刃物で横に切られた傷跡がついていて、

目はツリ目で銀と金のオッドアイ、鋭い八重歯が生えている。

身長はシルバーよりわずかに小さく(147㎝程か?)、

それでいて胸の大きさに恵まれている矛盾の体型。

緑のマント、黒いカチューシャを身にまとうその女はまさに

――――人の形をしていながらも人から外れた風貌であった。


「いつの前に私たちの前に……」


桃髪女がシルバーの右肩、睦月の左肩を掴む……


「キャハハ!もう少し待っていただけると嬉しいんだけどなぁ。」


その女、邪悪な顔でにやりと笑いやがる。


「こ、こいつ……」


「睦月、この街で能力は使うなよ。

 こんな所で暴れたら資産家たちに目を付けられて終わりだ。


 それにこいつ…いや、こいつらは敵か味方かもわからない。

 ここで戦うという選択肢を選ぶのはあまりにも早すぎる。」


「そうそう、素直がいちばんだよ!」


桃色女がシルバーと睦月の肩から手を放す。

そして、シル睦の背後から伊達男の声が聞こえる……


「よくやったニーズエル。そしてプレム君とそのご友人。

 引き留めて済まない………」


睦月とシルバーが伊達男の方向に振り返る―――

しかし……


「そして喰らえプレム君!!!!

 パオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!」


「何!」


ドンゴン!

その瞬間伊達男が両腕でシルバーのみぞおち殴る!!!


「ぬぅ!腹の肉を張る力で我が全力のみぞおちパンチを受け止めたか、

 流石、在日アトランティス人。」


「――――!!何者だ!私が在日アトランティス人だと知る人間は、

 睦月以外にはいないはず!」


伊達男が被っていたシルクハットを脱ぐ。


「私の正体についての話をすれば、長くなるぞ?」


「……」


―――――――――――――――――――――――――――――――――

ブラック・ヘヴン内 レストラン


シルバーの横に睦月、そしてその正面に、

伊達男、ピンク髪の女、そして軍服と軍帽を被る身長175㎝程の金髪男が座る。


「まず自己紹介をしよう私の名は、怪盗エクス・クロス。」


「聞いたことがある。確かオーストラリア出身の…」


「ほほ、あの伝説に知っていて貰えて光栄だよ。

 さ、そして、私の右手にいるこの軍帽をかぶった男は怪盗エクサタ。

 そして、左手にいるこのピンク髪の少女が―――」

「はい!怪盗ニーズエルです!

 本名はニーズエル・E・G・アルカンステル。」


自分に指を刺した桃髪女(ニーズエル)が喰い気味に自己紹介をする。


「よろしく!」


ニーズエルは、睦月とシルバーのいる方向に手を刺し伸ばし、

二人と握手をする。


「本名と怪盗名が同じなのか。」

「住所を持たずに活動してますからね~。」


「さて、私は怪盗エクスだが、自己紹介はここまでにして、

 キミがアトランティス人であることを知っている

 その理由を話させていただこう。」


「「――――――!」」


「……銀の老獪、アルギュロスから聞いたのだよ。」


「アルギュロス?

 確か、コミュニティで二番目に腕が立つとかいう……」


「!なんと!君は自分の祖父が、怪盗アルギュロスであることを知らないのか!」


ガタッ!睦月が立ち上がる!


「な、なんだと―――!

 シルバーのおじいさんが、あの怪盗アルギュロスッ!

 大先輩にして敬うべき相手じゃないか!!

 私は、なんて失礼な事を……!」


かつてアルギュロス(プロメテウス)に対し、

カントリーマアムを取りに行かせたり、

目の前でわざと乳を揺らして反応を楽しんでいた睦月がうつむいて顔を赤くする。

(Live Sexの才能がある)

だがそんな事はどうでもよかった。


「なるほど、アンタらはジジイの知り合いか。

 なら私がアトランティスの民だという事を知っていてもおかしくないな。

 そしてあの情報屋イノックとのパイプも私と同じジジイ経由か。」


「流石はあのお方の子孫だ。汗一つ流しはしない。」


「で?アンタらの目的はDDFか?」


「そうじゃ、アルギュロスに言われたのだ。

 ワシや孫が死んだら、お前達が闇の宝石を回収し、滅ぼせ…と。」


「…残念だが、私はまだ生きている。つまりDDFを滅ぼすのはまだ私の役目だ。

 あの宝石は渡せない。」


「在日アトランティス人の性<SAGA>…か。」


直後、睦月がシルバーの肩に腕を回し、小声で何かを話し始める。


「プレム、彼らを旅の仲間にするというのはどうだ?」

「駄目だ、信用できない。」

「私はそうは思わないがな。横の二人はちょっと気になるが、

 怪盗エクスさんのあの眼差しとしぐさ―――

 アルギュロスさんに対する恩義と、DDFを滅ぼすという信念を強く感じる。

 そしてあのアルギュロスさんの知り合いだというのなら間違いなく

 かなりの実力者怪盗だ。きっと、良い戦力になってくれると思うが…」

「ジェーン、相手の心を読むのに自信があるのかは知らないが、

 それだけじゃ、信用にはならないぞ。」


「何を二人でコソコソ話してるのかは知らないけど…」


ドヒュン!!!

二人の小声会話にしびれを切らしたニーズエルが二人の間に手を突きだす。


「DDFを渡さないというのなら、

 アタシ達が貴方たちの旅について行くまでですよ!

 そもそもの互いの利害は一致してるんだし。いいよね?」


「……いつDDFを盗み出すかわからん奴らをそばに置いておけると思うか?」


「なら、互いに一定の距離を取りながら行動すればいいじゃないですか!」


「それは…」


「言っておくけど、私たちはあのアルギュロス様に恩義があります!

 そして恩義は返すべきものだと思っている!

 止めようと思うんなら殺してでもないと止まらないよ!」


「……むう…」


こうして、エクス、エクサタ、ニーズエルの三人が

シルバーと睦月の旅に少々距離を取りながらも、同行することとなった。


この後シルバーが30分ほど席を外し、再度合流。

5人は本日の寝泊まり先へ向かう。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

地上・大坂のどこかのホテル


「エクスさん!

 アタシとエクサタは先に部屋に戻ってるからね!」


エクサタとニーズエルがホテルの部屋に戻り、

ホテルのロビーに3人が残される。


「私とプレムで1部屋、ニーズエルとエクサタで1部屋、

 そして、エクスさんが一人で一部屋。


 ……しかし、ホテルは一室4人までいけた筈だけど…

 なんでエクスさんはあの二人と一緒の部屋じゃないんですか?」


「とある事情があって―――な。」


「とある事情?」


「そのうちわかるさ。そのうち…ね。」


3人がホテルロビーのソファーに座る。


「……で、エクス。この私に聞きたい事って?」


「アルギュロスの最期の事だ。

 私はあの人の一番弟子だった、

 あの人が何故ロンカロンカに殺されてしまったのかを、知りたい。

 知らねばならん。」


「……。ロンカロンカ。」


「シ、シルバー……」


シルバーがうつむく。


「あの老獪アルギュロスは正直言って

 私の知る怪盗の中で最高と言っても良いほどの実力者。

 その彼が、戦って死ぬなど…考えにくいのだ。」


「聞いても怒んなよ。」


「ああ……」


シルバーが前を見る。


「――――嘘を付くのはなんだからハッキリ現実を教えてやる。

 あのジジイは……アルギュロスは、恐らく、

 あのロンカロンカに全く手も足も出ないまま、

 一度のダメージを与える事も無く、殺されてしまった。」


「なっ―――!」


エクス拳を握りしめ立ち上がる。


「馬鹿な!さっきも言ったが、あの人は……」


「――――――私も、詳しい事は知らない。

 あの日は、ジジイに気絶させられて、

 目が覚めたら、ロンカロンカに襲われていた。

 奴はジジイを地獄に送ったと言っていて、それでいて無傷だった。」


「馬鹿な―――どうやって倒したんだ……

 …あの人は、10秒後の未来を予知する無敵の能力を持っていた。

 正直言ってあの能力を敗れる策は私でも思いつかない…


 彼のあの能力を見て生きている者は私以外にはいない……

 ならばロンカロンカは、初見の対峙であの能力を破ったという事になる…

 しかも無傷―――あ、ありえない……


 な、ならばお前さんは、そんな化物のような敵に、

 どうやって勝ったというのか!」


ドンゴン!シルバーが机を叩いた!!


「勝った―――?ふざけるな、私はアイツに勝ってなどいない……

 ただ、殺せただけだ…!

 二度目の戦いで、幸運と言う幸運が何重にも積み重なり、

 仲間、それもあのロルを味方に付けるという、

 私が考えうる中で最も私に優位だった状況で、

 それでようやくギリギリで殺せたんだ……!」

(そして何より、奴は誰よりも黒く光り輝く太陽だった…!

 誰よりも悪を突き進んでいるくせにだれよりも前向きに生きていたヤツの姿は…

 正義の道を歩むことが正しい道だと信じてきたこの私の心を

 ズタボロにしていった……)

「お、落ち着いてプレム!」


「―――!……三羅偵の水準は、そこまで高かったのか……」


「怖気づいたのなら、今からでも国に帰った方がいい。

 今後の旅で、残りの三羅偵二体や百賭との激突は絶対に避けられない。

 奴らもなぜか本気でDDFを狙っているらしいからな―――」


「………」


エクスうつむいて考え込む……


「じっくり考えるがイイさ。私はもう部屋に戻ってるよ。」


「――――いや、駄目だ。

 三羅偵がそこまで強いというのならお前さんたち二人だけじゃ無謀。

 絶対に駄目だ。やはり私達も、お前さんたちについていく事にするよ。

 二人より、五人で立ち向かった方が勝てる可能性は高い。」


「――――。忠告はした、事実も伝えた。

 それでもなおついてくるんなら、私は何も言わないさ。」


プレムが立ち上がる。


「しかしそれでも、それでもなお、三羅偵がそこまで強いというのなら、

 5人で立ち向かっても勝機は少ないじゃろうなぁ。


 プレム君、少し待っていただけるだろうか。」


「……次は何だ。」


「これを見たまえ。」


そういうとエクスは服のボタンを開け上着を脱ぎ始める。


「わっ……!!」


その行為をセックスと勘違いした睦月が頬を染め顔を手で覆う。


エクスは上着の内ポケットから灰色の液体が入った瓶を取り出し始める。

禍々しい瘴気を感じる瓶だ。


「呪増酒<バフボトル>―――!」


「そうだ、北欧の悪派錬金術師<ダーク・アルケミスト>が、

 対異能ハンター用に造り出した呪力強化の技術。

 探偵協会と戦う為、地下街で10本ほど買ってきた。」


「プレム、あれを飲むと、どうなるんだ……?」

「カースアーツの持つ呪いのエネルギーが増強され、

 単純に身体能力が上昇する。

 だが、アレには面倒な副作用があって……」

「面倒な副作用?」

「カースアーツ使いがアレを飲むと、20日ほどカースアーツの増強された狂気に

 脳が支配され、思考能力が低下する。最悪死ぬ。

 とてもじゃないが、"今"使えるものでは無い…今は時間が無い。

 そう、20日も経ってしまえば、岐阜のDDFは誰かに奪われてしまう。」


「――――。20日の副作用か……

 だが私なら、副作用を5日で抑える事が出来る。」


エクスは瓶を開け、中に入っている灰色の液体を一気飲みする!!!


「グ……オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 アボオオオオオオオオオオオオ!!!ヴチュッ……

 ヴッチュッ………!!どわあああああああああああ!!!

 ハァ……ッハァッ……!!」


何という!

あまりの呪いのエナジー故、エクスが痙攣したりイカれたりする!!!!!!!!


「な、何ィィー―――――――!!!!だ、だがあの副作用を抑えている…!!」


「副作用を抑える、方法は、ある……私が身を持って証明した…

 あのアルギュロスさんが編み出した方法だ―――

 ヘヘ、ケッコー苦しいけど…

 この方法を使えば、アトランティス人の君なら、きっと、

 3日で抑える事が…可能だろう……


 探偵協会の兵力は強大だ。今の我々ではどれだけ努力したところで、

 太刀打ちなどできんだろう。ならば我々に残された最期の法は、

 人間の限界を超えた努力をする……ただ、それだけだ。」


「………ジジイが、編み出した、方法か………」


「エクスさん、その瓶、私にも一本下さい。」


「!」


睦月が立ち上がり、鋭い視線でエクスを見る。


(間違いない…いま彼の行動を見て分かった。

 彼は本気だ。そして、副作用を抑えるという言葉も絶対に真実だ!)


「ジェ、ジェーン!!!」


「面白い娘だ、まだ新人とは聞いていたが……ほらよ、

 受け取るがいい。怪盗界で最高の酒だ……」


エクスが呪増酒を睦月に投げ渡す。

そして、睦月は瓶のふたに手を付け……


「待て睦月!!まだ飲むな!!」


「プレム、何を……」


「私も一緒に飲んでやる。エクス、私にも瓶を渡せ!」


「プ、プレム……」


「―――!Gooood!」


そして二人は同時に瓶を蓋をあけ、

同時にその中身の気色悪く気味の悪い灰色の物体を一気飲みする……


「ウオオオオオオオオオオオオオ―――――――――――!!!!(シルバー)」

「えっぐ………あひゃ~~~~~~~~~~~~~!!!(睦月)」


><←睦月こんな顔になっている


「誓おう、5日、いや4日でお前たちの副作用を抑えると………

 我が師、アルギュロスに誓おう……」


―――――――――――――――――――――――――――――――――


夢………私…プレイマー・グランは夢が好きだった――――


しかしプレイマー・グランにとって最近の夢は地獄そのものであった……


なぜなら…そう、あの女と出会ってしまうから……


……ロンカロンカと出会ってしまうから……。




乗り越えてやる……ロンカロンカ、DDFを守り抜き…

いつか心の中のお前を撃ち滅ぼしてみせる……


なんてことはない!乗り越えて成長してやる…!


―――――――――――――――――――――――――――――――――

ホテル・ROOM403「エクサタとニーズエルの部屋」


「ふーん、怪盗シルバーと睦月、ちゃんとあの瓶飲んだんだ……

 もぐもぐ……」


ニーズエルが何かを食べている。


「今なら……あのDDFを………盗み出す事も簡単だろう……

 どうする……?」


「そうだね、可能だと思う。でも、今盗み出しても何も意味は無い。

 DDFは5つ揃って初めて効果を発揮するからね……

 其れに敵はすごく強い。五つ揃えるまでは、

 あの二人は味方にしておいた方がいい………もぐもぐ」


肉だ……ニーズエルが肉を食ってやがる……いや、この音、骨すらも……


「そう……だな………」


「もぐもぐ……今日もありがとね、エクサタ。」


この形、この指……ニーズエルが食べているのは、人間の腕だ……

ニーズエル・E・G・アルカンステルは、アントロポファジー・カニバリズム。

人間を食べる人喰い怪盗であった。


「在日アトランティス人の血肉って、どんな味するんだろ?気になるなぁ。」


―――――――――――――――――――――――――――――――――

1日が経過した!


睦月とシルバーは、

怪盗エクス・クロスに呪増瓶<バフボトル>の副作用を抑える方法を学んでいる!!


「呪に対抗するは強靭な精神のエネルギー!!

 勇気のエネルギー!!」


「オオオオオオオオオオオオオオ!!!」


「プレム!睦月!精神を集中させ、瞑想せよ!!

 そして、増強する闇のエネルギーを自らの手足の如く操作するのだ!!」


「わ……わからない……」


「今から瞑想中のお主らにナイフを投げる。

 これを、"座った体制のまま瞑想しながらかわしてみろ"!!

 精神エネルギーは、死の一歩手前にて覚醒する!!!」


「な―――――!!」


「いくぞプレム!!パオ!!!」


「ウオオオオオオオオ!!!」


プレムが座った姿勢のままジャンプを行い、ナイフを回避する!!!


「なんと!」

(男座りの状態で2mの跳躍!なんたる習得速度!信じられん!

 流石怪盗シルバー、10歳でコミュニティのメンバーになっただけの事はある。

 とてつもない才能と力を秘めているのかもしれん……

 この少女なら、DDFを滅ぼし、世界を救う事も可能かもしれん!)

「じゃが……増呪力撲殺蹴ィィ<増呪パワーキィィ――――ッック>!!!!!!!!

 パオオオオオオオオオン!!!!!!」


「な―――ぐわあああああああああああああああ!!!」


ドンゴ!

怪盗エクス・クロスの強烈な膝蹴りが、

空中ジャンプ中のプレムの顔面に炸裂する!!


「お前さんもエクス・クロスになるがいい<†十字架を背負え†>………」


プレムが鼻血を出し、後頭部から地に落ちる!!


「エクスさん何を!!」


「まだだ!

 今の攻撃をかわせぬ程度ではまだ呪増酒の副作用を克服できたとはいえんぞ!!

 次はジェーン、お主の番じゃ、座れい!!!」


そして呪増酒の副作用を克服する修行は続いた…


―――――――――――――――――――――――――――――――――

そして3日目―――――

岐阜のホテルの屋上………


シルバーと、ニーズエルが対峙っていた…


「あははっ……」

「……」


「最終試験だ。プレム、お主はカースアーツを用いずに、

 このニーズエルの頭に一撃を与えてみせよ。」


「……舐められたものだね。増呪酒を飲んだとはいえ

 カースアーツを使わない、しかも生身の人間なんかが、

 私に一撃与えられるとは思えないよ。」


「シルバー、ちょっといいか。」

「なんだ、睦月?」

「あいつ……あのニーズエルと言う女なんだけど、

 少し警戒したほうがいい。

 この3日間、アイツの事をずっと警戒していたが……

 アイツの目は常に、私達を信用していない、

 仲間として見ていない眼差しだった。

 そして……」

「そして?」

「一度、アイツの部屋に間違って入った事があるんだけど、

 そこでアイツ……あるものを食べてたんだよ……知ってるか?」

「……いや、知らないけど…」

「人間の腕さ。アイツ、カニバリズムだ。

 ニーズは、人間じゃないかもしれない。」

「―――――――!!」


「睦月ちゃーん、いつまで待たせるつもり~?」


しびれを切らしたニーズエルがあくびをしながら、二人の会話を制止する。


「さて、そろそろ始めようか。距離は、5mでいいだろう。

 では―――3、2、1…」


更に対峙る……そして、ゴン!エクスの合図とともに勝負が始まる。

合図と同時に、シルバーが後方に向かって走る!


「な――――逃げるの!?ま、待てッ!!」


ニーズエルがシルバーを走って追いかける。

しかしそこでシルバーは5mほどの跳躍を行い、ニーズエルの頭上を通り越し、

背後を取る!


「なるほど、これはいい、軽い!」


そしてさらに跳躍!ニーズエルの後頭部に向かって飛び蹴りをかます!

しかし――――――――


「なっ、消えた………」

「こっちだよ!」


シルバーの背後からニーズエルの声が響いた………

危険を察知したシルバーはさらに跳躍し、ニーズエルとの距離を取る。


「こいつ……ニーズエル、お前その姿……やはりな!!!」


シルバーと睦月がニーズエルの姿を見て驚く!

頭部からは二本の鋭い角、尻から太く長い尻尾、背中から大きな翼が生え、

体中に鱗が生成され、目の白黒が反転している。

腕は爪が鋭く狂人に太くなり、脚が逆関節に代わっていく……!!


「こいつは珍しい。北欧で怪物退治のアルバイトをやっていた時には

 吸血鬼<ノスフェラトゥ>や人狼<ウェアウルフ>みたいな化物と逢瀬したが、

 竜人<ドラゴニュート>と出会ったのは初めてだよ!」


「これが私のカース・アーツ。魔龍の契約<ドラゴニック・エンゲージ>……

 しかしその間合いの取り方、アタシの能力を知ってたんだ…?」

「お前のその人外じみた風貌とカニバリズムという特性を考えれば、

 お前のカースアーツが『自己強化特化型』の能力と

 特定するのはたやすい事だった…」


「それも知ってたんだ…私が人の肉を食べているという事も。」


「カースアーツは、

 死んだ人間の憎しみや怨念などの負の精神エネルギー"呪いの力"を

 具現化した武装超能力。すなわち死人を武器化した力だ。


 『自己強化特化型』のカースアーツは、その憎しみや怨念のパワーを

 直接自らの全身に見に纏わないといけない為、

 使用者の肉体と精神が激しく変異するという副作用がある。

 そう、使用し続けていれば、いずれその身は人外になる…


 お前のその人外じみた風貌と、その人食欲求も自らの意思では無く、

 そのカースアーツによって仕方なく得てしまったものなんだろ?」


「正解。シルバー、アンタは面白いね。

 ふふ……その褐色肌を見つめてると、欲求が抑えられなくなってきたな…

 食べたい、その身体を引きちぎってやりたい……フ……

 あはあははははッ…!!!


 ―――――キャハハ!!!」


ニーズエルが地面を強く蹴り、シルバーに向かってジャンプする!!


「ッ……想像以上のスピードだ…!!」

「ドラゴニックエンゲージは最高のスピードとパワーを持つカースアーツよ!

 その動きは人間ごときに見切る事は出来ないねッ!!」


シルバーは間一髪でニーズエルの攻撃をかわし、更に距離を取る。


そして、銃を、リボルバーを構え……ワン・ツー!!

二発撃つ!!


一発はあられもない方向に飛んで行ったが、

もう一発は、ニーズエルの顔面に命中する!!!!

いや…


「―――!!あ、あぶなッ…まさか味方同士の戦いで銃を撃つなんて!!

 頭に弾が当たるとこだった…」


ニーズエルはその超人じみた反応速度で銃の弾丸をつまんで防御していた……

しかし―――――


「グ―――アアアッ!!」


ニーズエルの背後から弾丸が一発炸裂する!!背中が鱗に覆われていたため、

大した傷にはならなかったが、驚いて怯んでしまったッ!


「な、なんだ―――!?」


「跳弾だ、背後の壁で弾を反射させた、そして……」


「―――!!」


ニーズエルが再び正面を向くと、そこには、シルバーの膝があった。


「このまま、膝蹴りを、させてもらうぞ……」


「おぶっ!!!!!」


ニーズエルが顔面に一撃を受ける。

しかし、怯まない。


「あははッ…なるほど、確かに強いね…!!

 今の跳弾、アルギュロス様と戦った時を思い出しましたよ。」

「顔面に蹴り食らっても怯まないか…自己強化特化型はホントに厄介だ…」


シルバーとニーズエルの戦いが終わり、

エクス・クロスが拍手をする。


「素晴らしいよシルバー。あの増呪酒の副作用を3日で克服するとは。」


「……ああ、3日待ったかいがあった。三羅偵とも戦えるかもしれない…」


「睦月君はまだ、克服できていないようだな。その様子を見ると、あと二日か。」


「も……申し訳ありません…」


「謝る必要はないよ、睦月。じゃ、今日はもう部屋に帰って休むぞ。

 ありがとう、怪盗エクス・クロス。睦月の事もよろしく頼むよ。」


「ああ…」


タッ…

部屋に戻ろうとするが、

腕を広げたニーズエルとエクサタが二人の前に立ちはだかる。


「ま、待って、二人共…待って欲しいの…」


「どうしたんだニーズエル。」


「あの…その……」


ニーズエルが汗を流しながら下を向く。


「私が、人の肉を食べてるって知って、どう…思った?」


「―――!」


「やっぱり…気持ち悪い…よね…」


「……」

「気持ち悪いとは思ってはいないけど…

 日常的に無関係の人間の命を襲って生きているような怪物と、

 私はわかりあえるとは思ってはいない。」

「シ、シルバー!!」

「ついてくる分になら、好きにすればいいけどね。」


「ち……ちが……わ、私は……」

「……」


その様子を見ていたエクサタが背中から無言でのこぎりを取り出す。


「…何のつもり?」


「……」

「ま、待ってエクサタ、こんな所で…!」


エクサタが右腕の袖をまくり左手に持ったのこぎりで右腕を切刻む……!!


「な―――――」

「な、何やってんだコイツ……

 何時も無口で何考えてるかわからない奴だったが…

 更に訳が分からなくなってきた…」


「睦月君、シルバー切刻んだ腕を、彼がよく見てみなさい。」


背後からエクスが語りかける。


「あっ…」

「さ、再生している……?」


「そうだ、エクサタ…彼は再生能力という特殊な体質を持っている。

 腕が千切れようと…一時間たてば再生するほどの強力な能力だ。

 そして彼女、ニーズエルはエクサタの肉しか食べない。

 彼女にはまだわずかな理性が残っていて、

 無関係の人間を襲って食べるという行為はほとんど行わない」


「……なるほど、酷い事を言ってしまったかもしれんな。」


「彼女はもともと、ロシアのマレフィカルムの探偵だった。

 だがある日、カースアーツの力に目覚め、抑えられない人食欲求で

 彼女は自分の家族全員を食い殺してしまったのだ。

 その後、ボロボロになりエクサタと共にスラム街を放浪していたところを、

 アルギュロスさんが見つけ、我々ウィザーズが保護して、今に至る。」


ニーズエルがエクサタに歩み寄る。


「ごめん…いつもごめん…エクサタ……」


―――――――――――――――――――――――――――――――――

そして二日後―――明け方―――岐阜ホテル前……


BLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLL!!

黒い車がエンジン音を鳴らす!!


黒い車の運転席に、エクス…

後部座席に、ニーズエルとシルバーが座っている。


「いよいよ明日が、博物館襲撃決行の日……

 そして三羅偵や百賭との最終決戦になるだろう。

 今日はその偵察だ…

 二人共、準備は良いな。」

「あ、あの…」


そして外に立っていた睦月が何か言いたそうにしている。


「私とエクサタ君は、どうすれば。」


「君たちは待機だな、

 二人共、まだ少し呪増酒の副作用が取れ切っていないようだ。」


「わかりました…お気を付けて」


―――――――――――――――――――――――――――――――――

車が走り出して5分。


「走り出して5分が経過した。ニーズエル君、尾行車はいないか?」


「依然いないですよ。」


「そうか、しっかり確認しておけよ。

 ……ネオ岐阜市まで、あと10分だ。」


「……わかってるよ。」


シルバーが横方向を確認し、ニーズエルが後部を確認する。


「………」


ニーズエルが何か考え事をしている。


(正直言って私は……睦月ちゃんやシルバー、エクスとは違う。

 アルギュロス様の言う、

 DDFを破壊するという使命に従うつもりは――毛頭ない。

 私はあの宝石で……自分の呪いを消し去りたい。

 もう人を食べたくない。エクサタを苦しめたくはない―――

 

 確かにアルギュロス様には感謝しているよ。だけど―――

 私はそれ以上に人間になりたい。一瞬でもいいから、戻りたい。

 これ以上人としての倫理観を失いたくない……


 シルバーには悪いけど、あの宝石は前向きな使い方をするべきだと思う……)


ドンゴン!!(重圧)

車の前方向に直径10mほどの巨大な氷塊が落ちてきた!!!


「なッッッッッ!!」


ンキュップィイィィィ―――――ッッン!!!!


エクスが車のブレーキのペダルを踏み、

猛烈なドリフトをかまし氷を回避する!!!


「こんなことする奴は探偵しかいない!!

 シルバー、ニーズエル!!敵は、敵は何処にいるんだ!!」

「わ、わからないよ……後ろや横にはいない!!」


「上だ。」


「えっ……」


「この上方向から聞こえる風を切る音……まさか――――」


パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ

パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ

パパパパパパパパパパパパパパパパパパパぺパパパパパパパパパパパパパパパ

パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ


シルバーが窓ガラスを開けるボタンで窓ガラスを開け、上方を確認する!!


「ヘリコプターだっ!!奴らヘリコプターで追ってきがった!!」


そこにはヘリコプターがあった。そして、

ヘリの脚の部分に片腕で捕まる男がいた………


その男は……

外見は40代ぐらいのファッションセンスがカスのオッサン

――――其れ以上に的確な例えが無い。

黒いキャスケットを被り、「Welcome to this crasy Time」と書かれた

黒いTシャツを着ている。


「あいつ、テレビで見たことがあるぞ……まさか……」


『三羅偵』東結 金次郎<とうけつ きんじろう>!!



「ケケッ…ようやく動いたなシルバーちゃんよ。

 そしてどうやらエクスクロスを仲間に付けたようだな。

 だが博物館までは辿りつく事はできねぇぜぇぇぇーーー!!!」


東結が片手をエクスたちの乗る車の方に向け、パーの形にする。

すると、目の前に、氷の大塊が生成される。


「シルバー、お前のストーン・トラベルで何とか出来んのか。」

「残念だけど、

 私のカース・アーツは、固体となった水分を石化することは出来ない。」


「これが俺ちゃんのカース・アーツ。

 『俺の体温は-273.15度<アイアム・アブソリュート・ゼロ>』。

 凍てつくしてやるぜ……ケケッ!!!」


ガン!


「あ゛?」


「あははッ…!!

 探偵の肉ってのは、遠慮なく食えるし、呪いの力が宿っていて

 良い味がするんだよね」


ヘリの上から少女の声が聞こえる。


「誰だ!?」


ニーズエルだ!ニーズエルがヘリの上に立っている!!!


「なっ、てめぇ確かエクスと一緒にいたあの……」

「三羅偵って、どんな味がするんだろうなァァァ!?

 ドラゴニックエンゲージ!翼を生やしてヘリのメインローターの上まで、

 飛んできた!!」


ニーズエルが全身を竜化させる!


「なんだよありゃあ、まるでドラゴンじゃねェか……?

 写メで取ったらダチに自慢できっかなぁ~?」

「あはは、その減らず口、すぐに叩けなくしてあげますよ。」


ニーズエルが東結に向けて腕を伸ばす…


「やめろ!!そのままプロペラに腕を切断されるのがオチだぜェェーーー!!」


ガン!!


「えっ?」


回転するヘリのメインローターが竜化ニーズエルの腕に当たるが、

切断はされなかった。

それどころか、ヘリのメインローターの回転が止まっているではないかッ!!


「なっ…馬鹿な、なんてパワーッ……!!!」


そのままニーズエルはヘリのプロペラを引きちぎり、

片腕に持ってヘリコプターを串刺しにする!!


「どわああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!

 なんて奴だあああああああああああああ!!!!」


東結とヘリが落ちていく!!!

そして、ニーズエルはそのままプロペラを持ちながら黒い車の上に着地する!


「さ、策もクソもあったもんじゃないな。」


「策?戦法?ハハハッ…勝敗を決めるの圧倒的なパワーと

 相場が決まっています。」


「あの男は死んだのかね?」


「いや、あの程度で死ぬ三羅偵ではない。見ろニーズ、自分の左足を。」


「ッ……まだ凍っているな……」


「奴が死んだならその凍結も解除される筈…」


「奴はまだ生きているって事ね…」


―――――――――――――――――――――――――――――――――

壊れたヘリの残骸付近。


「フ……フフ…困ったな…

 このヘリ、高かったのに、ボロボロだ……

 やはり、男では駄目だ…あの姿にならないと……」


「"女"に………ならねば………」


東結金次郎がポケットから化粧グッズを取りだし、

自分の顔を整え、神をオールバックにする。

そして、服を脱ぐ。服の下には、肩出しのエナメルの黒い服…

そして、傷口から噴出する自分の血を……唇と、目のくまに、塗る。


その姿―――まさに、男にして女だった。


「ウフフ、この姿、久しぶり❤

 これが私の本当の姿❤」


そう、これこそが、東結金次郎の真の姿。

男に生まれながらにして、女以上に、女。


「犯すわよ。

 この姿なら、限界だって越えられちゃう❤」


東結の全身が白いオーラを発する!!!

カースアーツが活性化している!!!


――――――――――――――――――――――――――――つづく。


■怪盗名鑑 #03:銀の老獪アルギュロス


プレムの祖父にして在日アトランティス人。

プレムと同じく、神の使命―――DDFを滅ぼすというのもとに生きている。


運命の航海術<フォーチュン・ナビ>と呼ばれる、

視界に移る10秒先の未来を見通す無敵のカースアーツを持っており、

ウィザーズの中では2番目の実力者であった。

彼を尊敬する怪盗は、エクス・クロス、ニーズエル、エクサタをはじめ、

数多く存在する。


普段の性格は陽気で心優しい。

シルバーにはDDFの使命を背負って欲しくは無いと思っていた。









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