Episode10 アタシの体温はマイナス一億度 その②

岐阜県――ホテル『SaveAndPeace』ROOM223

        ――――「睦月とシルバーの部屋」・部屋には睦月一人だけ。


 呪増酒の副作用を早期に抑えるために必要な対策は主に3つ。

 1つ、それは呪いによって狂いゆく精神の制御。

 2つ、それは増大する呪いのエネルギーの操作。

 3つ、精神を安定させる経絡秘孔<ツボ>に対し定期的に刺激を与える事。

 そう、この3つの対処法を的確に施せば施すほどに、呪増酒の副作用は早期に収まっていくらしい。


 ――――まぁ、字面にすれば簡単に思えるが、実際は肉体的にも精神的にもかなりきつい。呪いのエネルギーの操作にはコツがいるし、精神が安定しない状態で、定期的かつ的確にツボに刺激を与えるのはかなり難しい。何より一番エグイいのは…精神の制御だな。


 あの酒を飲んだときからずっと、頭に黒い霧がかかっているような感覚に陥っている。例えるなら、一睡もせず二日続けて勉学に励んでいるような状態だな。何も頭に入らず、気が付くと何度も記憶が飛んでいる…だが、エクスさんの指導のお蔭かこの状態もそろそろ慣れてきた。



 洗面所にて、私は服を脱ぐ。フード付きの黒いパーカーとズボン、下着を脱いで、放漫な胸、透き通るような白い肌を露わにしていく。水を浴びて、少し精神を落ち着かせたいのだ。



 シャワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!


「んっ……んんっ……」



 クロスさんから一つ言われていることがある。


 『自慰<オナニー>はするな。副作用が悪化する。』


 これがかなりキツい。なぜなら今まで私は…"我慢"したことが無かったから…

毎日何回もしてたのに―――急にやめろって言われても…

 

 湯船に入って肩まで浸かろう―――精神<せいよく>を落ち着かせるんだ。


「シルバー……」


 私の"妄想"の中には、いつだって彼女が現れる。彼女が私を力強く包んでくれる。

 私は―――強くてカッコいい男の人が好きだ。でも、私の中での強くてカッコいい存在と言うのは…あの日、私がウィザーズの一員になった日、たけしがこの私の父を殺したあの日に塗り替えられた…

 私はレズビアンではない…でも、私の中に彼女よりカッコいい人がいないから…私は彼女で体のほてりを慰めなくてはならない…


「もし私か君のどちらかが男だったのなら…既にセックスだったのだろうな…」


 シルバー、私は君に並び立ちたい。キミの足手まといには決してなりたくない。

 そう思いながら、私は精神を落ち着かせていく。そして精神が落ちついた。


 バスルームを出て、メインルームで髪を乾かすついでにテレビを見る。ニュースが流れていた、なにやらこの岐阜県でレンガを持った女性が子供を一人殺害して逃走中らしい。

 子供の死体は頭部が粉々になっている上、身分を証明できるものを所持していなかっので、身元の特定が難しいとか。


「五歳の子供か…可哀想だな…。なんで犯人はこんな事をしたんだ…?」


 私とは関係の無い事件だが、少しだけ、気分が悪くなった。


-――――――――――――――――――――――――――――――――――――

路上


「ンンンンンンンンンンだオラァ!!!!!」

「ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッすぞオラァ!!!!!!!」


ヤクザ二人が喧嘩している


「やめなさい!!!!!!!」


「「アア――――アアアアアア!?」」


「何してんのよ❤大のヤッさんが路上でけんかするとカタギに迷惑よ❤」


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


東結の凍結!!!!!!!!!!!!!

ヤクザ凍結!!!!


……東結金次郎が現れる。


「ウフ❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤


 ――――――これがLGBTの力よ。」


東結が不敵に笑う。


「さて――――行くわよ…

 あの娘たちがDDFを集めるのは構わないけど、

 私がこの作戦に失敗したら、そうなったら百賭け様は絶対に

 三羅偵最後の女『黒霧四揮』を復活させるわ…

 あのお方は内心岐阜県民などいくら死んでも構わないと思ってるからね…

 それだけは阻止しなくてはならない…」


-――――――――――――――――――――――――――――――――――――

最期の日―――AM6:22時

岐阜県―――道路。


車内には…怪盗エクス・クロスと怪盗シーフ・シルバー。

ボンネットの上には、ヘリのプロペラを持った、

怪盗ニーズエル・E・G・アルカンステル。


エクスとシルバーが会話している。


「三羅偵・東結金次郎か、それとも博物館か、

 我々の行くべき先は、どっちだと思う。」


「もちろん東結さ。奴は必ず私達を始末しに来る。

 だが――――向かう先は奴がさっきいた場所では無い。

 水場だ。

 そこの通路を右に曲がって数km先、湖がある」


「湖…?

 なるほど―――お主の能力を生かすための水を補給しに行くのだな。」


「ああそうだ、奴の冷気は恐らく液体ですら瞬時に凍らせてしまうだろう。

 今の手持ちでは心もとない」


「なるほど…

 ニーズエル!聞こえるか?急カーブするぞ!」


キュイイイイイイイイイイイン!!!

ドリフトしたことによりボンネットの上に乗っていたニーズエルがバランスを崩す


「キャッ…あぶなっ!!おい・・・・エクスおい!!!!

 カーブするならするって言え!!!」


「言ったろ!」


車走る…


「―――エクス、一ついいか?」


「なんだ?」


「私はニーズエルの能力は知っているが―――あいにく怪盗エクス、

 アンタの能力は欠片一つ知らない。

 全部はばらさなくては良いが―――何が出来るか、

 何が出来ないか…私の能力とどう連携できるか、

 ざっと教えてくれるか?」


「……フッ、シルバー、ようやくこの私との信頼を築く気になったか。」


「築かざるをえないだろ、敵は三羅偵だ。」


「フッ」


ハンドルから左手を離したエクスは、頭にかぶっていたシルクハットを右手の薬指と中指の間に挟んで固定する。

そして力を込め、左手になにかを出しやがる!!!


「その爪がカース・アーツか…

 アンタのその左手から伸びている銀の長い爪の武器が…」


エクスが左手の甲をシルバーに見せる。


「これが私のカース・アーツ…『PNG<ピー・エヌ・ジー>』ッ!!

 能力は…」


エクスがPNGの平でシルクハットをなでる。

すると――――シルクハットが紙のように薄くなる。


「触れた物質を二次元的薄さにする事!!!

 シルバー、側面を触らないように、このシルクハットをつまんでみたまえ。」


シルバーうすシルクハットをつまむ…


「これは―――なるほど、まるで紙のよう―――いや、それ以上の薄さ。

 そして堅い…形が一切崩れていない、硬度をそのままにして薄くできるのか。


 ……しかしエクス―――能力を全部私に見せて良かったの?」


「私はお前さんを信用している。

 そして、これからお前さんに信用してもらわないといけないと思っている。

 能力を教える事が信頼につながってくれると、うれしいんだがなぁ。」


「…それは、私への信頼というか、あのジジイへの信頼なんじゃあないか?」


「それもある。だが、それだけではない。」

(お主の父と母、そしてアルギュロスには恩を感じているが、

 それだけではない…

 この数日、ブラックへブンでお前さんと出会ってからの数日、

 私はお前さんの熱い意志を見て信頼できる戦士だと、

 守るべき戦士だと思った。)


BLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLL!!!!1


「――――湖が見えてきた、じゃが、人が立っているな。

 どうする、シルバー…このまま突っ切る事は出来んぞ?」


湖まで―――あと250m

車の先に黒髪の女の人が立っている。


「待って、アイツ…こっちを見ているのにこっちに気付いていない?

 馬鹿な……まさか探偵では?だったら潰さないと…」


「―――まだ判断は早い、女だし、東結金次郎ではなさそうだが……」


シルバーが窓から顔を出す。


「ニーズエル!100m先にいるアイツをどうにかできるか?」


「――――。わかった。」


ニーズエルが手に持っていたヘリのプロペラの残骸を大きく振りかぶって…


「お、おいまさか…やめろ!それはまだ早い!

 奴がまだ探偵かカタギかは分からないんだぞ!」


「いえ、わかりますよ。あのハンバーグ級のブサイクなクソアマからでてる臭気、

 アレは探偵特有のモノ…」


「は????????????????????????????????」


「シルバーはさあ~不殺派?それとも確殺派?私は確殺派。

 探偵なんて全員強姦魔級のクズよ!!

 死んで死ねばいい。そして――――」


ニーズエルがプロペラを女に向かって投げる!!


「私に食われればいい!!!!!!」


ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!!!(回転)

プロペラが女に向かって回転し飛んでいく!!!


ガッ!!!!!!


プロペラが女に当たった!!!!!

そしてプロペラは女の眼前で、制止する…


「やった!!!!」


「いや―――待って、なんでプロペラが彼女の体を貫通しないんだ…?」


「――――あっ!」


プロペラが――――女の眼前で…地に落ちる。


「人間じゃない―――新手の探偵だ!!!

 そして、よく見ると、変装だ、女ですらなかったようだな…


 あの身長―――あの目―――姿はかなり違うが、恐らくさっきの東結金次郎!

 我々は先回りされていた!!」


女は東結金次郎だった!!女装した東結金次郎!!

東結が頭上で腕をクロスさせ、こう呟いた。


「『アタシの体温はマイナス一億度<アイアム・ワースト・オーバー>』」


瞬時、東結の背後から巨大な氷のツタが大量に現れ、

エクスの運転していた車を掴む!!!

時速100㎞で走っていた車の運動量がゼロになった為、車内に大きな衝撃が走った。


「ぐわあああああああああああ!!!こ、この衝撃!!!」


車内の二人はダメージを受けたが。

ニーズエルは翼で飛んで氷を回避する事により、

間一髪、東結の攻撃をまのがれた。


「アンタら犯すわ!――――――――バトルファックよ!!!❤」


「お前…雌に化けてやがったな――――ムキムキの男が女に化けてる…

 道理でブサイクだったわけだ…」


「男が女に化けている?ちょっとそれは違うわねぇ❤

 ウィザーズの犬共。女が男に化けていたのよぉ~」


トコン、トコン


「私は…男の体を持ちながら女の精神を持った―――いわゆるオカマ。

 オネエ、中性、男の娘とも言うわ。

 それにしても……ブサイクに見えたのはちょっと理由があるのよ。

 本来なら女の姿で活動する前には2時間の化粧とかしたり、

 AMAZONに7000円で出品されていたJカップのオッパイを胸に固定したり、

 黒いブラジャーとパンティーを身に着けたりしないといけないのだけど、

 時間が無かったのよねェ❤❤」


ニーズエルが――――息を大きく吸う……

そして、息を吐くとと同時に、東結に向かい口から火を噴いた!!!!


「貴方のドランゴの能力、火炎放射も出来るのね!!

 この熱、ゾクゾクするわ…でも――――

 炎が氷に勝てる訳ないじゃない。」


フゥッ……!!!

「マーッッッ!!!!!!❤」

東結が息を吐き出すと同時に、火炎放射に向かって氷のツタが伸びる!!!

氷のツタはニーズエルの炎を一瞬で書き消し、ニーズエルの半身を掴んでいった。


「なッ……馬鹿な…鉄すら溶かし尽くす私のブレスをッ…

 氷を自在に操る能力ッ――――こいつ、無敵かッ!?

 それに―――さっきヘリで対峙した時より凍るスピードがヤバい!」


「ブレスは所詮は竜化能力のサブウェポンね。


 でもこんなものがあの伝説の仲間?

 ロンカロンカを倒した伝説の――――まるでお話にならない。」


東結ニーズエルの脚に3発銃を撃ちこむ!!

しかし竜化したニーズエルの体には通じなかった!!


「やっぱり『自己強化特化型』ね。倒すのには時間がかかるわ…

 ふぅむ―――あの娘に構いすぎていると、

 シルバーちゃんたちに逃げられるかもしれないわね…


 そこで黙っていなさい!後で遊んであげるから(はぁと)」


「オカマがぁッ……!!」


ニーズエルが口から火炎を放射し、氷を解かす――――しかし。


「く……溶けるスピードが遅すぎる……」


ガタン!!車の中から血まみれのシルバーとエクスが出てくる!!!

シルバーはリボルバーを取り出している!!

エクスはポケットからPNGで平面化された銃を取り出す!

そして能力による平面化を解除!!


二人は同時に銃を構え――――

「「アタック!!」」


同時に銃弾を撃ちこむ――――!!!

しかし銃弾は東結の力で凍結して止まってしまう!!


そしてその次、エクスは左手の指で挟んでいた5枚のトランプを――――

上方向に向かって投げる!!!


投げた先には……電線ッ!!!


「剣というモノは鋭ければ鋭いほど―――切れ味を増す……

 鋭ければ鋭いほどに…斬る対象の抵抗が無くなるからのう…

 そしてこの私のPNGは―――物質の硬度を保ったまま、

 物質を最大限にまで薄くする能力ッ!!

 その薄さは分子や原子のサイズを圧倒的に下回るほど!!」


トランプが電線を切断する!!


「電線を切り裂いたッ!?」


「私のトランプは万物を切り裂く派手な剣<つるぎ>。」


電線が垂れ下がり、その先が東結の頭上に垂れ下がるッ!!

だがしかし……


「――――なぜ温度が下がると、水が氷と化してしまうのかしら。

 それは超低温の中では全ての物質が運動をやめてしまうからよ。

 流れる水は止まって固体になるわ…」


止まった―――垂れ下がる電線が一瞬のうちに凍り、動きが停止した!!


「すべての攻撃の動きは――――完全に止まるのよ。」


「な――――やばい、コイツの能力、かなりやばいぞッ……!!」


トコン……トコン……


「さぁ!!仕上げよ!!アイアム・ワースト・オーバー!!!」


東結の体から、謎のキラキラが放出される!!

冷気だッ!!冷気を射出しているッ!!!


「ぐわああああああああああああ

 こ………この冷気ッ!!!!」


「うふーふ!!!

 -10度!!-20度!!-30度!!まだ下げるわッ!!!」


エクスとシルバーを強力な冷気が襲うッ!!!!

湿っていた唇や目の膜、鼻の穴が一瞬のうちに凍結し。

がもだえ苦しむッ……


「クソッ……口の中から出てくる空気さえも、凍り始めているッ……このままではヤバいな……

 指さえも動かなくなってきたよッ…!!」


「これが三羅偵ッ………!!!!東方金次郎!!!」


ドトン!!!

シルバーが車の中から石を取りだし、前方向に投げるッ―――

そしてリボルバーを再度構え、その石を撃ち抜くッ!!!


「――――んっ?」


すると――――石が爆発し周りに炎が飛び散ったッ!!


「その石は事前に石化させたガソリンだッ!!」


「おのれ熱気おわあッ!!」


 飛び散った炎を確認したオカマが冷気攻撃を止め、後ずさりする。シルバーとエクスが炎に包まれ、凍結の状態異常が解除される。

 シルバーとエクスが炎に包まれ、凍結の状態異常が解除される。


「そして―――東結金次郎。お前のその能力―――

 どうやら無敵ってわけではなさそうだな……弱点が見えてきたぞ。」


「――――怪盗シルバーちゃん…頭がキレるわね。

 流石、ロンカロンカを倒しただけはあるわ。

 一筋縄ではいかない…でも……」


――――トコントコン

東結がシルバーたちに近づく。


「成程…その怯え、その絶望の目、ロンカロンカに勝ちながらにして、

 ロンカロンカに呪われたというのね。

 そして奴に奪われたものの幻肢痛に未だに囚われているわよ。」


「―――――――――――ッッ!!

 東結―――貴様ッ…何者ッ!」


「あの悪魔の底知れぬ悪意と底知れぬ精神力に蝕まれ、克服できていない。

 その隙がこの私の勝利を生むわ。

 マーッッッ!!!!!!」


東結が一括すると同時に、シルバー、エクスと東結に挟まれて燃えていた炎が

一瞬にして消える!!!そして、

氷のツタがシルバーたちに向かって再度伸び始めたッ!!


「シルバー、奴の弱点と言うのは…」


東結に背中を見せ二人が逃げ、それを東結と氷のツタが追う!!


「エクスッ!!奴の能力のリーチは奴の位置から半径10m以内だッ!!

 それ以上離れれば奴の攻撃を受ける心配はないッ!!走るぞッ!!!」


「に―――逃げるだけでは埒が明かんぞ!!

 奴を倒す方法は無いのかッ!?」


「ある―――だが、私はそれをまだ見切ってはいない…」


「見切っていない…?」


「……チッ…この先は壁か…」


シルバーたちの前にはシャッターで閉まった家があった。


「今は午前6時。

 建物の中に入ろうにも、何処も閉まっているんじゃないかしら。

 さあ!!氷のツタは貴方達を囲んだわよ!もう逃げ場はないわ!!」


「避けろエクス――――!!!」


ドンゴン!!!

エクスがシルバーに突き飛ばされる!


「ッ……!!シルバー―――何を!!」


「エクス!!奴の能力は―――――私と同じ、『条件攻撃型』だッ!!

 奴の攻撃には条件がある!!それが奴の弱点だ!!」


シルバーが氷のツタに囚われる!!!


「行けエクス!!うっ………おあああああああああああ!!!」


「くっ……」


シルバーが氷のツタに締め付けられ、動けなくなる。


「…」

(シルバー。

 ―――今のお前さんは希望へと向かうと同時に絶望にも向かっている。

 全てが終わった後、自分の存在すらも終わらせようとしている。

 ………私はそんな事は絶対に認めぬぞ。

 世界を救う事にアレだけ必死になっている少女が―――

 世界を救った後に地獄に落ちるなどそんな展開はC級映画染みたラストなど

 …誰が認めても、私は断じて認めない。

 そういう性格なんでね!

 絶対に救ってやるわい。それが私の今の戦う理由ぞい…)


「シルバー、お主のメッセージ、受け取ったぞ…!必ず勝って助けてやる!」


氷のツタがエクスをおそう!


(奴のカース・アーツの能力は、

 ニーズエルの『魔龍の契約<ドラゴニック・エンゲージ>』のような

 『自己強化特化型』でも、

 睦月の能力のような『使役獣召還型』でも、

 私の『PNG<ピー・エヌ・ジー>』のような『装備型』でも無い…


 シルバーの『石の旅<ストーン・トラベル>』と同じ…『条件攻撃型』。


 『条件攻撃型』はとある条件が重なりあったときに、

 特定の物質を、別の物質に変える事の出来る能力。

 普段は実体化していないカース・アーツ…

 

 奴の冷気や氷の攻撃には恐らく何らか条件がある、

 そしてその条件を満たしていない時こそ…


 奴の無敵の防御が崩れる時っ!!!)

「チッ……この氷…どこまで追跡する!!」


 追跡する氷…しかし、エクスの目の前に氷に掴まっていたはずのニーズエルが下りてくる!

 火炎放射で自身の呪縛を解いたのだ!


「ゴメンッ…氷を火炎放射で解かすのに時間が結構かかったわ!!」


「ニーズエルッ!!」


ニーズエルがエクスを掴んで空を飛ぶ!


「シルバーアイツ、貴方を庇って……まさか……死んだ?」

「いや、気絶しているだけだ…あの東結―――おそらく不殺主義だ。」

「しかし同じことじゃない…奴に全員捕まれば、私達はマレフィカルム支部まで連行されて、処刑はまのがれない…どうするッ!?湖まで向かう!?」

「奴の攻撃リーチは10m!!お前はその距離を保ちながら奴の周りを旋回するんだ!!」

「お、お前はって―――エクスさんはどうするのよ!!」


エクスはニーズエルの腕をほどいて、高度6mから地上に落下する!!!


「あ奴の能力を暴く。」


「バ―――バカッ…自殺行為よ!!!」


ドンゴ!!エクスが東結の正面に5点着地する!!!


「来たわね。これが貴方にとっての――――ラストバトルよ!!!」

「――洞察するわい。―――お主の全てを、お主の周りの全てを。」


エクスが東結の周りを走って旋回する!!!

しかしそのスピードは人間並みだ!


「フ―――遅いわね!!」


「エ、エクス!!走るのはいいけどなんでそんなに遅いの!!

 普通の人間並みよ!!

 あの酒を飲んだアンタならもっと速く走れる筈なのに!!」


氷のツタがエクスに向かって伸びる!!!

しかし――エクスは氷が命中する瞬時に高速移動し、それを回避する!!!


「な――――――――――避けた!?

 バカな、人間のスピードでは避けられないように速度を調整した筈。」


エクスが歩き始めた…


「アイアム・ワースト・オーバー!!!」


何本もの氷のツタが、エクスに向かって伸びる!!!

しかしエクス.pngはそれらを全て、華麗に回避するッ!!!


(あのオカマは、このエクスが呪増酒を飲んでいることをまだ知らない…

 だからあえて普通の人間のスピードで移動し、

 敵を油断させる…敵を観察する時間を稼ぐために!!)

「――――東結は今、シルバーに集中している。

 私はシルバーの奴を助けに行くか。」


ニーズエルがエクスの元まで飛び立つ


「ぐっ――――その動き、増呪酒を飲んでいたわねッ…!!

 有りえない!!

 アレを飲むと数日間強烈な副作用でまともに戦えないはずなのに…!!!」


エクスが左手に銃を持ち、東結の方に向け弾丸を二発発射!!!

一発は東結の左肩を貫き、二つ目は右胸を貫いた!!!


「ウッ――――――――――まさか、見切られッ……

 ギャアアアアアアアアアアア!!!!」


「そして、どうやらお主の能力、永続的な攻撃は出来ないようだな。

 一定時間の攻撃の後、一定時間の休憩が必要になる。

 その休憩のタイミングは――――お主が息を吸うタイミングと全く同じ!!


 つまり息を吐く時でしか冷気の操作は行えない!!!」


しかし東結瞬時に立ちあがるッ!!


「ウッ――――――――――まさか、見切られッ……


 でも私は……負けるわけにはいかないのよ!!

 私が負ければ!あの娘は復活する!!!

 三羅偵最後の女『黒霧四揮』が復活するッ!

 それだけは阻止しなくてはならないッ!!」


東結が傷口を凍結させる!!それと同時に自分の周りに氷の壁を出現させる!!


「あの怪物『黒霧四揮』だけはァァァ………

 ヒュッ……ヒュウウヒュはッああああああ

 攻撃をくらったのはあああ―――何時ぶりかしらああ……」

「弾丸の周りに猛毒を塗っていたが、

 傷口を凍らされては無意味か――――。」

「自分の上半身を並々ならぬ硬度を持つ氷の盾で防御すれば!!

 呼吸のタイミングも決してバレないわッ!!!

 さぁ、どうする!?」


「そうすると思ったよ。」


ポチャン……

東結金次郎が、水たまりを踏む。

その瞬間―――――――


「なっ……水が……水たまりが………」


「ニーズエルは、自分の氷の拘束を、

 火炎放射で溶かして解いたと言っていた――――

 氷は溶けると水となる。

 アンタが今踏んでいるのは、ニーズエルを拘束していた氷………」


「シ、シルバー!?ま、まだ気絶していなかったの!?」


「……ストーン・トラベル!!奴の踏んでいる水溜まりを石化しろ!!!」


水たまりが石化し、東結金次郎は足元の動きを固定される!!

-―――その瞬間、エクスは弾丸を三発発射!!!


東結は三発の弾丸を足に撃たれ、ダウンする………


「そ、そんな、この私が――――!!」


東結の周りを囲っていた氷の壁が溶け、消滅する。


エクスが東結に歩み寄り、銃を構える。


「強い、わね…」


「お主、凡才じゃな。

 何の先天的才能を持たない――――ただの一般人。」


「……バレちゃったわ…

 そうよ、あたしはただの一般人。名探偵を目指した―――たった一人のね…」


「マレフィカルムの幹部でありながら、一般人の感性、一般人の倫理観。

 そして不殺主義。化物の世界に入りきれなかったのだな…。」


「―――勘違いしないでよね。私は何もビビりだから不殺だったわけじゃない。

 私の目指した探偵、理想の探偵がそうであったから…私もそうなっただけよ…

 

 怪盗を殺しまくるのが探偵の仕事?

 一般人を何人も虐殺する、ロンカロンカのような悪魔が最高の探偵?

 呪いの力?裏世界?

 そんなもの―――――私の美学、私にとっての理想の探偵ではないわ。


 だから私は、人間の―――一般人の限界と知恵、倫理観、正義で最高の探偵に

 なる事を目指した。

 でもそれも――――その正義も、もう潰えるわね。」


「…………」


「私を倒した貴方に敬意を払って最後に一つだけ忠告しておくわ………

 DDFは諦めて、この街から出なさい…

 『黒霧四揮』が―――来るわ…………」


「――――!」


東結が気絶する………


マッレウス・マレフィカルム日本支部『三羅偵』

動かぬ探偵 東結金次郎―――――――――――――戦闘不能。


-――――――――――――――――――――――――――――――――――――

エクスの車


シルバーとニーズエルがエクスの車の後部座席に座っている。

エクスはトイレに行っているようだ。


「―――悪いな、ニーズエル。ここまで運んでもらって……チッ…それにしても、まだ体が冷えてやがる。」

「…………。」

「どうした、私の事をそんなに見つめて。」

「ねぇシルバー…なんでエクスの事、助けたの?」

「わからん。ただ、咄嗟に動いたのさ。」

「私たちの事を、信頼してくれたの?」

「エクスの事は半分信頼している。」

「じゃっ、じゃあさー、私の事は?」

「………」


シルバー沈黙する…


「うううっ……あの、私さー…」

「何だ、ニーズ。」

「もう気づいていると思うけどDDFを全部集めたら、シルバーを裏切って、自分の思う願いを叶えようと思っている!」

「……そうか。」

「お、怒らないのね。」

「それをいきなり告白するお前への驚きの方がデカいよ。」

「で、でもさー、そうなると…私とあなたの関係は、引き裂かれてしまうよね~

 でも私は――――そうはしたくないのよ。願いを叶えて、貴方とも今の関係のママいたいなぁーって思ってる。」

「我儘な奴ね。」

「どうすればいいと思う?」

「そ――――そこで私に回答を求めるのか!!

 それは自分で考えろよ!!!」


「か、考えてもわからなかったから、貴方に振ったのよ!

 わ、私こういうの苦手だからさ!!」


「ふーっ!全く!!

 これから裏切る奴の発言じゃないよ…

 ふーアンタと話してると、冷えた体の事を忘れてしまうよ」


…………


「――――やっぱり、私には答えられないよ。

 それはアンタが考えるべき事だ。」


「だ、だよねぇ…」


「でもまだDDFが集まるまで時間はある筈だ、

 それまで、じっくりと悩めばいいさ。

 それまでは、今の一応味方同士の関係でいてやるよ。」


「―――シルバー!」


トイレを終えたエクスが運転席に戻ってくる。


「何の話をしておったんだ?」

「ひみつ。」

「はぁ…ニーズエルなんか変な事企んどるじゃろ。」

「た、企んでないよ!ほら、さっさと車走らせて!一旦睦月ちゃんたちの所まで戻るんでしょ!」

「まったく―――後話は変わるがお前さんたち、先ほど、このあたりで殺人事件が起きたようだ。」

「殺人事件?」

「ああ、背の高い20代程の女性が両手に持ったレンガで一般人を無差別に襲っているようなのだ。聞いた話では既に12人程殺されておる。」

「無差別か、探偵ではなさそうだな。で、今もそいつは逃走中ってわけか。」

「我々の敵では無いとは思うが、一応用心しておけよ。」


-――――――――――――――――――――――――――――――――――――

岐阜県――ホテル『SaveAndPeace』ROOM223

                ――――「睦月とシルバーの部屋」


「この感覚、この集中力―――間違いない。

 私はいま、呪増酒の副作用を乗り越えた……

 ようやくシルバーと共に戦える。


 ―――多分。」


「………」(コクッ)


部屋のテーブルの上に睦月と携帯端末を弄るエクサタが立っている。


暫く立つと睦月はテーブルを降りて、部屋のキッチンまで移動する。


「エクサタ君、その身体の動き、喉、乾いてるだろ。

 コーラ飲むか?」


しかしエクサタは微動だにしない。


「あー炭酸は嫌いなんだな。じゃあこれは。」


睦月が冷蔵庫からポカリを取り出す。

しかしエクサタは微動だにしない。


「炭酸じゃなくてジュースがダメなのか…。じゃあこれ。」


次に取り出したのは、爽健美茶。

しかしエクサタは微動だにしない。


「成程、これか。ほら、どうぞ。」


エクサタが睦月から茶のペットボトルを受け取る、

そして、キャップを開け、ごくごくと飲み始める。

一気飲みだ、全部飲みやがった。


「―――その眼の動き、テレビを付けたいのか?」


睦月がテレビを付けると同時に、

エクサタはテレビの正面にあったソファーに座る。

そしてそのすぐ隣に、睦月がちょこんと座った。


エクサタはしばらくテレビを眺めていたが、

暫くすると携帯端末を取りだし、ポチポチとボタンを撃ち始めた。


するとそれを見ていた睦月も同時に、携帯端末を取り出す。


「―――フフ、私にメールしたいんだね。」

(エクサタはニーズエル以外とはなぜか一切喋らない。

 故に他人とどうしても言葉を伝えたいときは携帯のメールで意思疎通する。)


ポチ!


「あ―――来た。えっと内容は…

 『睦月殿のカース・アーツはヒトの心を読み取る能力なのか?』

 かぁ。


 あぁ。これは違うよ。私のカースアーツはそんなんじゃないって。」


エクサタは再度携帯端末を取りだし、ポチポチとボタンを撃ち始めた。


ポチ!


「『能力ではないのならなんなのだ。明らかに私の心情を察した

  行動しているではないか。』――――か。


 嗚呼、これはね…ただ洞察力が強いだけだよ。


 私の一族……怪盗の一族だったらしいんだけど、

 代々洞察力が強くて、人の心を読むことに長けていたんだって。」


ポチ!


「『テレビの動物番組とかでよく動物の心の声を聞き取れる設定の人が

  出てくるが、アレと同じようなものか』―――


 まぁそうだね、でも、人間の心は、動物の心なんかより、

 ずっと読みやすいかな。」


「………」


「後さ、聞きたい事あったんだけどさ、

 エクサタ君って、もしかして……ニーズとそういう関係なの?」


ドンゴン!!!

エクサタがソファーからずり落ちる!!


「あ、あはは…ゴメン、まだなんだね。」




『テレレレン!!(警告音)

 緊急ニュースです


 岐阜県岐阜市にて、例の20代後半、身長2mを越える女性が、

 中央小学校に乗り込み、両手に持ったレンガで学生、教師含め

 無差別に80名ほど殺害、

 現在も逃走中との…………』


「80人…!?」


-――――――――――――――――――――――――――――――――――――

商店街の中を、身長205㎝程の巨大な女性が狂いながら歩いている。

両手にはレンガを持っている。


「お、大きい御嬢さん、大丈夫ですか?」


「あーーーはっはっはっは…!!

 だめだメダめ……

 これ以上解放しちゃうと……あはハハハハ!!

 レンガ・ウーマンを………抑えられなくなる………!!!」


――――――――――――――――――――――――――――つづく。






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