EpisodeFinal ストーン・トラベルは終わりを告げる その③

最期の日―――PM2:30


 睦月とシルバーは、エクサタの下へと向かう為、電話で連絡を受けたルートを正確に進んでいく。シルバーの体力もそこそこは回復したので、ダッシュである。


「エクサタ君の話通りなら次は――――この交差点を右!!」


「……」


 銀髪を揺らしながら走っていた彼女が磨きがかかった黒いブーツで地面を踏みしめるのを止める。そして、何かを気にするように背後に振り向きはじめた。

 睦月はその行動に困惑の色を示し、シルバーの行動を読むように観察しながら口を小さく開く。


「シルバーどうし……」

「おかしい――――」


 その突っ込みは、睦月の発言が終わる前に挟まれた。


「…おかしいって――――洗脳兵が全くいない事が?」


「エクサタの足跡が無い…いや、途切れている。

 アイツのセンチビートは、発射元が硬い物質なら、小爆発を起こすから、

 何らかの痕跡が残る筈……」


 実際、地面に目を凝らすとエクサタが通った道にはコンクリートの表面が軽く弾け飛んだような痕跡が残っていた。


「―――ゴールドが何かしやがったな…

 奴は私達をエクサタの下へ向かわせないようにしている」


「………――――」


「引き返すぞ。」


「―――シルバーさ、やっぱり変わったね。」


「????????何が……?」


「キミ、彼の事―――

 本気で心配し始めてる、昨日、いやついさっきまでは凄く警戒してたのに。」


「………一応、信頼できる奴だったからな…」


「フフ…」


――――――――慈母のような静かなる微笑みの表情。

彼女にとっては、シルバーの精神の変化は、好ましいものであったのだ。


(……エクサタ君はみんなを生き返らせる願いを叶えると言っていた……

 でも―――――たとえそれでシルバーが生き残ったとしても……

 また再び、DDFの更なる争奪戦に彼女は巻き込まれていくだろう……)


しかし、その笑いの表情は次第に恐怖の顔に変化していく。

顔を青くして、少し過呼吸になっている。


「どうした睦月…?」


「なんでこんな間の悪い時に。」


 シルバーにとって睦月は親しい友人でありながら後輩でもある。故に表では厳しく評価しているが、実は心の中では真に実力のある人間と言う評価を押しているのだ。

 その睦月が、急に絶望的な表情を見せる。


「さっき曲がった突き当りの壁、あそこ、どうやらそのまま

 まっすぐ進めたみたいなんだ。恐らく洗脳兵達が私達を騙すために

 壁をカモフラージュしたんだ。エクサタ君の走った痕跡もある。

 う、うん、痕跡……見つけたんだけど………」


「………」


「……あそこに倒れている、シルバーと瓜二つのあの顔………」


「…………まさか。」


「エクサタ君は……百賭とゴールドの体が、

 入れ替わってるって、言っていた…ならばあれは………」


 運命とは、さも残酷なものである。

 時に人と人との巡り合わせと言うのは、悪天候の時程狂っている。



「――――夜調牙百賭が、そこにいるのか…………?」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

最期の日―――PM2:26

瓦礫の山、睦月とエクサタが入っていったマンホールの地点から、

約300m。


「これでようやく400人抜きね――――」


 体に無数に血痕をこびりつけた東結金次郎が、両手を上げながら、値を上げたように言葉を口遊む。

 400人――――彼は既に400人の洗脳兵を氷のツタで束縛していた。しかし今だ周囲にはその数倍もの洗脳兵たちが集い、足音を鳴らしている。


「多いったりゃありゃしないわ……万全の状態ならともかくこれは……」


 疲労で東結が膝をつく。

 ―――そして次の瞬間、隙を伺っていた無数の洗脳犬達が死角から襲い掛かる!


「くっ………ダメか……」


 しかし――――洗脳犬の体部分が一瞬にして結晶に包まれる!!


「『結晶の鍵<クリスタル・ロック>』…………」

「!!!――――なんですって!?」


 ふと気が付くと洗脳兵の前で、初老のジジイが歪なポーズをしながら立っていた。


「あなたは…」

「東結様、上です!!!」


 若い女子の声が聞こえたと同時に、洗脳バードが15体ほど上から降ってくる!!!しかし――――何か緑色の触手のようなもので全部巻き取られ縛られた!!


「油断は禁物ですわ――――『プラント・ヴィクティム』……」


 緑の触手の元を眼で追う。触手は、緑色の肌をした女性の伸びた指だった。

 ならばこの女は植物人間――――


「その能力。アンタらは――――」


「東結金次郎様。貴方様の活躍、我々一同、拝見しておりました。

 我々も、微力ながら、お力添えさせて頂きます。」


 東結は知っていた…この二人の乱入者の正体を知っていた…


「岐阜探偵事務所・社長にして、ご当地最強探偵<岐阜>――――

 冥錠錠次郎さん。そしてその娘、冥錠幽夢ちゃんね。」


「いいえ、我々だけではありません。」


 岐阜最強探偵二人の背後に10人ほどの探偵の影が現れる。


「我が社に勤務しているカースアーツ使いの探偵共です。」


「何故………家に引きこもってればいいものを……」


「見過ごせますか?」


「!」


「この惨状を、我々が護るべきだった平和の景色が、

 異端なる者どもに理不尽に蹂躙されていくこの無力さ――――」

 

「成程、アタシと同じってワケね。ええ、許せないわ。

 異世界のクソ外道ども―――必ず仇を取り、一人の多くの人を救い、

 この地獄を終わらせないと――――」


「………ふふ、まさかとは思いましたが、あのマレフィカルム本部、

 それも三羅偵の一人だというのに、貴方の心は何処か澄んでおられる。

 我々と同じようだ。」


 この男、冥錠錠次郎率いる岐阜探偵事務所団は、カースアーツを使って時には無法を押し通す事もあるマレフィカルムに対し不信感を抱いていた…

 その為、カースアーツを使って裏からマレフィカルムのネガキャンをしまくり、岐阜県民の百賭に対する支持率を密かに下げたりとかしていた………


「………まさか、こんな田舎県に、

 アタシと同じ気持ちを抱いていた探偵がいるなんてね。」


「何を言っておられます。羊を助け、悪を打ち倒す。

 それこそが探偵の在り方でございましょう。」


「フフ………そう、そしてアタシたちは、

 それを生きがいにするために探偵になったのだわ。」


 三人が背を合わせ、無数の洗脳兵達と対峙る――――――


「近隣の県の探偵達にも、この事を知らせておりますわ。

 彼らが来れば、洗脳兵が1000人いようと2000人いようと

 一気に鎮圧する事が出来ますわ。」


「残る問題は、この事件の首謀者、探偵王・百賭。

 奴は恐らく我々の戦力では敵わぬ存在でしょう。

 …………出来ますか?」


「私に―――殺れと言うのね。」


「ええ。」


「わかってるわ。いつかこんな時が来るとは覚悟をしていた。」


―――――――――――


「――――しかし、何故かしらね…何か予感がある。

 気が付けば、アタシが氷で束縛している数より、

 はるかに多くの洗脳者達が既にこの場を離れている―――

 10000人はいたはずなのに―――今は、その5分の1も―――」


 東結金次郎は、絶望の中、更なる絶望を予感していた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

最期の日―――PM2:27

ガラスの散らばる商店街、

エメラルド・スペードの交戦地点から、北西約1km。


「フフ―――」


 エクサタが立ち上がり、アメジスト・イーグルの方に向かってダッシュする。そしてその光景を見ながら、ゴールドは笑みをこぼさずにはいられずにいた。まるで翼を捥がれ地に落ちた鷲を上から見下すかのごとく、大物ぶっていた。


「やはり自我を持つという行為は危険だと思うヨ。特に友情と言う自我は毒の危険さ。

 自分の状況を客観的に観なよ。逃げれば生き残れたのに、生きても何も為せないのに、君はどうしてここにいる。」


 ハッキリ言ってゴールドはかなりの合理主義。

 そんな彼女の眼に映る復讐に燃える男の姿というものは、感情と言う名の糸に手足を動かされる滑稽なピエロとしてしか映らないものなのだ。


「嗚呼哀しいヨ、あのビルの中で君をちゃんと殺してやるべきだった。」


 哀れみの言葉とは裏腹に黄金の王は笑みを隠さずにはいられなかった。ドライでドス黒い笑みだ。


 当然、その大物ぶった姿はゴールドの動きを警戒していたエクサタの目に映っていて、エクサタは少々気分を害していた。だが、彼はもう何も言わない。今此処で逆上して奴に飛びかかれば、自分はきっと2人の能力にハメられ、ハチの巣になるだろう。


(奴は強い。見立てでは、レンガ・ウーマンには及ばないが…それでも、奴がIQ全快の状態だったならば、勝負にすらならなかっただろう。)


 アメジスト・イーグルとエクサタの距離――――約20m。


(だがいつもでそうしていられるか――――

 いつまで王の玉座に座っていられるか――――お前こそ

 ――――その断崖絶壁の崖の手前に立つその王の玉座に!!)


 エクサタがガラスが刺さりまくった腕を胸に思いきりぶつける。


「行くぞ……ニーズエルッ!!」


 矛先にいるアメジスト・イーグルに対し、あらゆる感情をこめて吼える。


『クハハ………!

 分かっているぞ怪盗よ!!お前は先ほどの空白の数分間の話を聞き

 ゴールドのIQが低下していると思うておるだろう!

 だからこの我から仕留めようと決めたのだろう!』


「………」


(……ガラスの散弾は――――あえて受けた。

 俺のセンチビートは、一度の衝撃につき一つのエネルギー弾が作れる。

 壁を三回蹴れば、3つのエネルギー弾を生成できる。

 しかし、今のこの複数のガラスが刺さった腕ならば。)


 ガラスでついた胸の複数の傷が、金色に光り出す。

 アメジストもその行為を興味深く観察している。


(一度に複数の傷を付ける事が出来るから、

 一度の動きで複数のエネルギー弾が作れる。

 エネルギー弾が切れても直ぐに補充できるようになる。)


 全方位から攻撃されても対応できるよう衝撃エネルギーの塊を体中に張り巡らせ、アメジストとの距離を詰める。


『成程、全身に光のエネルギー波を――――ならば、これはどうだ……』


 辺りからガラスが割れるような雑音が聞こえる。

 ビショップ・オブ・ヘルスナイパーの能力でアメジスト・イーグルが通過したルートに落ちていたガラスの破片が浮き始めたのだ。


 無機物の弾幕がエクサタを襲う。エクサタも全身にめぐらせたセンチビートの衝撃エネルギー波を放ち、ビショップ・オブ・ヘルスナイパーを撃ち落としていく。しかし衝撃波の数30に対しヘルスナイパーの弾数およそ1000。一撃一撃はセンチビートのエネルギー波の方が重いとしても物量差では圧倒的不利。


 しかし、エクサタにはまだ策があった。

 センチビートの衝撃エネルギーは、本体が物体に与えた衝撃の強さに依存する。

 弾丸の衝撃をあえて受け、その衝撃の勢いで体を地面にたたきつければ、今まで以上に強力なエネルギー弾を作る事が出来る!!


(センチビート!)


 さらに衝撃エネルギーを発射し、弾丸をあらかた打ち落とす!!!

 残り100発だ!!!


『残り100発……(だが100発もあれば貴様の頭を完全に破壊する事が出来る。

 さぁ間髪入れず最後の攻撃といこうではないか)』


(………今だ!!!)


 瞬時―――――――――――ゴウオン!!!!!!!!!!!

 近くのマンホールが下から何かに吹き飛ばされ、3mほど吹っ飛ぶ―――!!

 下水道にいた時、センチビートの衝撃エネルギーを密かに走らせていたのだ!!!


「百賭か!?」


 エクサタがふっとんだマンホールの方向を指さし、そう叫ぶ。

 しかし誰もいない!!彼は嘘を叫んだ!


「!?」


 百賭に対し恐怖心を抱いていたアメジストとゴールドはその言葉に反応し背後にあるマンホールのある方を振り向いてしまう。


『しま―――――――』


タッッッッッッッ!!!!!


「遅い!!俺はすでにセンチビートの力を利用してジャンプしている!!!」


 気を取り直したアメジスト・イーグルが残りの弾丸を放ってくる!!

 しかし着弾前にエクサタはそれを蹴り上げ、踏みつぶす!!!


「オオオオオオオオオオオおおッッッ」

『待て――――――

 (こ、コイツ……馬鹿な……戦闘経験が豊富だ……!!

  戦闘能力、怪盗の中では――――)』


 アメジストを踏みつぶすエクサタの足の裏と地面が黄色く光る、

 そして瞬時―――それは爆裂した。


『!゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛』


新アトランティス帝国

射将アメジスト・イーグル―――――――――――――爆散。

国 民 あ と 一 人


ゴールド最後の部下の末路は、非情にあっけの無いモノであった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 アメジストは死に、何かエクサタとゴールドの一騎打ちが始まらんとしているが、時を同じくして、別の場所でもこの長きにわたる戦いの運命を大きく変える出来事が起きていた。


「―――――!!!本当に………コイツが…………」


 それは、最期の日―――PM2:28

 エクサタを追う少女二人の前に立ちはだかったそれは、道端にあおむけに倒れ呻き声を上げる一人の子供。外見は…シルバーと瓜二つの顔、瓜二つの体型、神聖なる褐色肌、髪と服はプラチナ色。そして睦月とシルバーの二人は、その正体を紛れも無く知っていた。その正体を知っていたからこそ、二人は大きな精神の動揺を見せていた。


「う………あ……あ……ゲホッ………」


(…………確かに、私そっくりの肉体だ。気持ち悪いぐらいにな。)


「―――!!あ、貴方達は……」


 プラチナの少女が、二人の存在に気づき、上半身だけ身を起こす。そう、彼女は、ゴールドの外見をした、夜調牙百賭。


「………シルバー………さん…ですか……?」


「動くな…!」


 シルバーが警戒をして銃を構える。狙いを定めるは、百賭の真上。時を操るデティクティブマスターの円盤を出現させられても即座に弾き飛ばせるようにするためだ。


「お前が百賭である事は知っている。ゴールドと体を取り換えた事もな……

 しかし腑に落ちないことがある―――何故おまえがここで倒れているッ…!

 その傷はなんだ――――」


「ゴールドは、私と体を取り換える瞬間、自分の体に大きな傷をつけた。

 だから私も、今はまともに動く事が出来なくなってるの。」


「……―――――ッ!!!」


 シルバーが何かに気付いたかのように大きく目を開ける。百賭の会話の内容に反応したのではない、もっと重要かつ、運命的な何かに気付いたのだ。

 そして彼女は距離を詰めるように、肩を小さく竦めながら無言で歩いていく。

 

 睦月はそんなシルバーの行為を危険なものだと思い、シルバーに歩み寄り方を掴む。しかし―――彼女を制止させようと手に力を入れた瞬間、睦月は胸を大きく突き飛ばされ尻もちをつく。一瞬何が起こったのかわからなかったが、シルバーの後姿を再度心を読むように凝視し、今の自分の行為が、非常に愚かなものだと悟る。

 その時の睦月の目には、シルバーの後姿は、怒りの感情が渦巻いた鬼の形が映っていた。その姿を見た睦月は、人生で初めて、怪盗シーフ・シルバーに対し恐怖心のようなものを抱いていた。


「"同じ"だ……完全に"同じ"だ――――

 10年前、"あのニュース"で見た、お前の口調と表情と――――」


 そして睦月は"もう一つの事実"に感づきはじめていた。


「…はじめまして、かな。」


「…うん、初めまして―――だよ。」


 それは、百賭の"喋り"の変化。テレビや、廃デパートで聞いたときのような、荒々しく、闘気を感じさせるようなものでは無く、どこか優しく透き通るような印象があった。


「私は、貴方の両親を殺してしまいました。」


 そう、彼女はもはやエンゲルではない。

 エンゲルの影に隠れ、ひっそりと生きていたもう一つの人格…

 ―――夜調牙百賭。


 シルバーと百賭。二人が―――目を合わせる。


「ごめんなさい。本当に―――ごめんなさい。」


 タッ………バシィン!!!

 シルバーが仰向けに倒れた百賭にかけより、頬に強烈なビンタをかました。

 アトランティスの本気パワーで放たれるビンタの威力は凄まじく

 百賭は血を吐きながら、先ほどの謝罪の重みを再実感した。


「うあっ……」


 シルバーが百賭の肩を強く掴む。


「ふざけないで……!本気で申し訳ないと思ってるなら……!

 なんで今まで死ななかった…!!」


「ハ……ハハハ……………」


 手の震えが止まらない。心臓の高鳴りが止まらない。復讐の対象を目の前に、彼女は感情を抑えきることが出来なかった。


「ハァッ……ハァッ……」


 息を整え、その場に座り込み、百賭と対面する。


「どうして、今更になってその人格で出てきた………

 私を怒らせるため―――?」


「違う……

 "エンゲル"がピンチになったから、"私"を無理やり呼び起こしたの――――」


「………」

(その白金髪のゴールドの姿が――――

 ニュースで見た子供時代の百賭の姿と被る……)


「精神力の高さでは、エンゲルの方が上だけど……

 戦闘センスは、10年経った今でも、私の方が勝っていたから―――」


 夜調牙百賭とは、マレフィカルムの完璧なる探偵を生み出す計画の過程により遺伝子操作によって生み出された試作の天才。彼女には生まれつき精神力が弱いという致命的障害があり、研究者たちからも失敗作と見なされてしまっていたが…


 心が弱くとも、彼女の精神には圧倒的な戦闘センスが染み込まれていた。

 9歳のころに既に350ものIQ値を計測されており、精神の弱さを除けば、世界最強と言っても過言ではない優秀なカースアーツ契約者と噂されていた。

 事実、10年前、ウィザーズ最強格と噂されていたプラズマス・グランとサリス・グラン(シルバーの両親)との戦いを無傷で制したという記録さえもある。


 対しエンゲルは、デュアルを作り出すためにつくられた、“人間“の人格を増幅させる試作装置で創造された、人工の人格。装置の未完成仕様により、精神力最強ではあったが戦闘のセンス自体は普通の人間並のものであった。


「―――つまり、エンゲルが勝てない相手が現れた時のみ、

 お前の人格が呼び出されることになっていたと――――――」

「…精神力の最も強い人格が、人格選別の主導権を得る。

 それが多重人格の基本的なルール。

 だから、彼女の許可が無ければ私は表に出る事が出来なかった。」


 精神力の"エンゲル"、戦闘能力の"百賭"、その二つの精神は、肩を甘噛みしあうに、互いの利点を利用し合っていた。百賭は殻に籠るため、エンゲルの内側に。エンゲルは戦いの為に、この百賭の内側に。


「だけどエンゲルの人格は不敗の戦績を持つが故に肉体の損傷に慣れていない。

 だから今、彼女の精神はとても不安定になっている。」


「―――………本当に、弱いんだな、お前……」


 シルバーが銃を構える


「だが、お前がエンゲルを産んでしまったせいで――――

 あのエンゲルが掲げる絶対正義のせいで―――」


「フフ………あは………あははははははは!!!!」


「何がおかしい!」


「エンゲルが掲げる絶対正義の夢――――

 アレはね……もとはと言えば、この私が望んだ世界なんですよ。

 シルバーさん。」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

最後の日―――PM2:30、ガラスの散らばる商店街。


「フン―――エクサタ一人にも勝てないなんて、やはり後方支援は

 所詮後方支援――――」


「これで邪魔者は死んだ。残りはお前だけだ

 悪いが一瞬で決めさせてもらうぞ!

 (あと一人……!!!あと一人………!!!!)」


バン!!!

エクサタ足を撃たれた………


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


「ジャジャーン…♪」


ゴールドの周りには、十人の武装した警察官が!!!


「フゥム、君如きに銃持ちを使うのはもったいないけど―――――」


「洗脳ポリスメンか!?!?」


「解説しようか?」


「解説は不用!!!」


「こいつらの持っている銃はニューナンブM60…

 新中央工業によって開発・製造された国産リボルバー。

 日本警官の標準装備にして小型のハンドガンだ!

 全長172mm重量0.665kg装填数は5発、まず試し撃ち!」


「キャイーン!!!!」


近くの犬が試し打ちの的にされて死んだ……


「そして本撃ち。終わりだ、先祖の実行意志の下!!!

 こいつらの銃で君の頭を吹っ飛ばしてやる!!」


ガシャシャシャシャ!!!警察官構える!!!


「アディオス・エクサタ!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

一方その頃。


「シルバーさん!私はね―――ずっと、ずっとずっと、

 道徳の教科書に書かれている言葉や、法律や偉い人の言葉が――――

 何よりも正しいものだと教育されてきたんです!」


 かつての殺した相手の子と対面し―――百賭はもはや冷静さを失っている。

 10年分の感情が溢れ出し、洪水のように自分の過去を曝け出す。


「でも――――違った!10年前のあの日――あの時――――

 絶対悪だと思っていた貴方の両親を殺してしまって、私は酷く後悔した!

 今まで真実だと信じてきたものは、所詮多数派が生んだまやかしだと気付いてしまった!!グローバル化は糞よ!!!

 だから私はエンゲルを作り―――DDFを回収し――――

 個人個人の正義―――

 パーソナリティこそが最も尊重される世界を創ろうとしたの!!

 エンゲルは計算より多少暴走してしまいましたが、それでもまだ私の計画の範疇からは外れてはいない。」


「―――」


 対するシルバーも、自分の親を殺した相手がどのような人間なのかという興味を抱いていた為―――百賭の話を清聴せずにはいられなかった。

 しかし、その瞬間、百賭の全身が、一瞬だけ影に隠れる―――そして瞬きもしない間に、百賭の体を紫色の蟻がつつんでいた。


「む、睦月―――!」


「シ、シルバー!!まだ時間がかかるのか!?

 このままじゃエクサタ君が―――――――」


「――――!はっ……!!」


「それに百賭はもうその傷だ!もう戦えはしない―――

 ダークウォーカーを百賭の全身に纏わせた!!

 これでいつでもコイツの頸動脈を蟻の顎で噛み切ることができる!!

 どうする!殺すか、それともこのままにしておくか―――」


「……そうだな…」


「私は―――コイツの事を、許せない。」


 シルバーが正気を取り戻す。

 目つきが鋭くなり、百賭から離れようとする。


「話によれば、お前はゴールドから4つのDDFを奪ったと聞いたが―――

 間違いないな。」


 しかし――――カランカラン!!!

 百賭が服から、4つの黒い宝石が落ちる。

 涙目になりながら、シルバーの顔を見上げる。


「どうぞ………ゴッフォーン・グランとの3500年の因縁に決着を…」


「…睦月、怪しい動きをしたら、問答無用で奴の頸動脈を噛み切れ。」

(ゴッフォーンって誰だよ…?)


 シルバーが前かがみになり、DDFをせっせと拾い上げていく。


「フフ、そこの睦月さんの口から、エクサタさんの名前が出た途端―――

 目つき、変わりましたね。

 あの時と、同じだ――――

 エンゲルと戦ってた時に見せた――――あの、目つき……」


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「あと少し……あと少しなんだ―――」

「馬鹿な、まだ生きている―――なんだお前は……

 今のお前は、誰だ?誰の動きを模倣している――?誰に敬意を払っている?」


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「………やっぱり、貴方は…………」


「―――――――行くぞ!エクサタがやられる前にアイツと合流するんだ!!」



だが瞬時、

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突然のゴウオンに二人がビビる――――!


「何の音!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「……」


百賭の表情が憎しみと殺意に満ちた表情に変わっていく。―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 エクサタのセンチビートには、単発ならともかく複数の銃弾をすべて叩き落とすほどの精密性は無い。銃を構える警察官を前にエクサタはこの商店街の中で、銃弾の威力を防げる遮断物を探していた。

 横脇にある店に入れば、それも見つかるのだろうが、生憎現在エクサタは通路のド真ん中―――この距離では走って店に入るより、警官の銃弾で蜂の巣にされる方が早い。


ガチャリ………


 洗脳兵達が銃を構えトリガーに指を通す。反射的にエクサタは右方向に走り抜けようとするが―――――――


バン!!!!


 まず両足を三発の銃弾が貫通し、脚を動かす事が出来なくなってしまう。


「グゥゥ…!!!」


 間髪を入れず他の警官たちもエクサタに対し銃を向ける。このままではやられてしまう―――――――――


 しかしエクサタはまだ屈しない。攻撃用に用意していたセンチビートの衝撃エネルギーを自分に向かって放ち、自らの体を打ちあげて近くの書店に入り込んだ。

 痛みを抑えながら這いつくばって店内を駆け巡り、中の棚や段ボールなどを盾にする。


「ハァ………ハァ………ここには敵の気配が無い…

 今奴を守っているのは本当に銃を持った警官数人程度だけなのか――――」


 エクサタの脚が回復する。


「―――………さっき東結金次郎と同行していた時には10000人ほどの洗脳兵が襲ってきた……そして此処にいるのは約10人ほど………

 百賭やシルバーを倒すために向かわせているのか…?いや、だとしてももう少し本体の護衛に洗脳兵を動かしても良い筈―――」


 ポケットから砂の入った瓶を取りだし、地面にばら撒きはじめる。そしてそれを何度も踏みつけた後、手ですくって強く握りしめる。


「まさかこのゴールドも偽者か……?しかしともかく―――――奴を殺さねばすべては始まらない!!」

(念には念を。センチビート・レギオンも用意しておこう。)


 ダン!!!!

 ―――エクサタが足で思い切り地を蹴り、センチビートの衝撃エネルギーを生成する。そしてそのエネルギーをを地面から這わせ、警官の真下に回り込ませる。そして発射、10人の警官の内――――4人を気絶させる。


「何――――――ウグエッ…………」


 ゴールドが警官に気を取られたその一瞬の隙に、エクサタがゴールドの背後を陣取る。細い首に腕を回し、ゴールドの体を警官たちの方に向ける。


しかし、ゴールドがエクサタのみぞおちに強烈なひじ打ちをかます。


「ドア!!!!!!!!!!

 何だこのひじ打ちの威力は――――腹が痛いぞ――――!!!」


「フフフフフフ………」


 痛みのあまりゴールドから腕を放す。


「人間の身体能力には限界がある――――とはいうが、それは表の世界での話。

 カースアーツ使いをはじめとする人間を越えた超人共が蔓延る

 裏世界には―――常識を超えたイカれた力を持つ奴らがごまんといる。

 この百賭のボディも………完全には使いこなせてはいないが……

 かなり上質なものだ。」


「ハァ……ハァ………カースアーツだけでも恐ろしく厄介なのに…

 クソ…本体までも強いとは……」


「"知識"は選択肢。"知能"は選択肢を選ぶ判断力。

 百賭や三羅偵に知能の力で及ばないと事前に悟っていたボクは

 この世すべての知識を身に着け、その知能を使い今日の日の為にあらゆる

 準備を施してきた。」


「センチビート・レギオン!!!!」


「まだ立ち向かうか…フフ、まあそうだろうな。

 それがお前たちの強さ、お前たちが幸せを掴める唯一の道なのだからな。

 しかし…」


エクサタが全ての衝撃エネルギーを右手の砂の中に集中させ、手の平を広げ攻撃を発動する!!!


蛇のように自在に動く衝撃波は複雑な動きでゴールドの背後に周り、背中からゴールドの首を貫き落とそうとした!!!


「お前たちが救いを求め、希望を育む行為事態が、ゴッフォーン様の怒りを買う事に…

 なぜ気づかぬ!?!?!?」


ドンゴン!!!ゴールドが後ろ蹴りでセンチビート・レギオンの衝撃波をゴッ飛ばす!!!


「は…?」


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[図解]

  ※ ◎の〇の棒人間=エクサタ

  ※ ◎の●の棒人間=ゴールド

  ※ 砂=センチビートで衝撃エネルギーを纏わせた砂。

  ※ →=センチビートの衝撃波


            砂→→→→砂→→→砂→→→砂→→→砂

             ↑                 ↓

             ↑         ↑       ↓

   ○        ↑      ヽ●丿↑      ↓

    | ̄→→→砂→→→砂        \∧←←砂←←←砂

  / >                  /

--------------------------------------------------------------------------


「クソ――!!!これでも駄目なのか………」


「フフフ……正直君如きがアメジストを殺した時はビビビッっとしたよ。

 でもやっぱり確信した。僕一人で十分だ。」


エクサタが腰からレイピアを取りだそうとする――――しかし!!!


ズパパパパパパ!!!!


レイピアを取り出す前にエクサタ撃たれまくる!!!!


「ヌアアアアアアアアアアアヌアアアアアア!!!!!!」


ドサッ!!!

顔面を数発撃たれ、地面に落ちた木の板を蹴り上げ、仰向けに倒れてしまう!!!


「銃を持ったしもべはまだいるんだよ!?

 だけどあと残弾は3発か――――

 ……そして、アレが来る前に君を殺すつもりだったが」

「ヌアアアアアアアアア………!!!!」


 ゴールドが指を指すと同時に―――――銃を持った洗脳兵たちが、エクサタを取りかこむ!!


「まぁいい。予定とは常に狂うもの。

 そして――――これでDDFを一つ確保できた――――

 ゴッフォーン様、誉めて!」

「ヌあア…!!!!」


 洗脳兵たちが――――エクサタの喉、耳、目、心臓目掛け銃弾を連発―――


「フハハハハハハ!!!アハハハハハ!!!!!!!!!

 ゴッフォーン様!!!!!!私が!!!!私が勝ったのです!!!!!!」




ヒュッ―――――――――――――――――――――


ゴォン!!!!!!!!!


ゴールドの後頭部を、光の閃光が打ち抜く!!!!


「ぐぇッ………!?」


木の板――先ほどエクサタが上空に蹴り上げた木の板から閃光が放たれた――――



「計画通り、そして計算通り……やはりお前の集中力はかなり下がっていた。

 俺のアホのような奇声を聞いたお前は、勝利に酔いしれ正気を完全に失っていた。

 そして―――――――」


 エクサタが先ほど仰向けに倒れた時に作ったエネルギーの塊で自分の体を起こし、レイピアを引き抜いてゴールドの顔面目掛け投擲する!

 狙い通りゴールドは頭を貫かれ、それと同時に周りの警官たちが意識を失って倒れていく。


「本来なら、俺はお前に敵う事など無かった………御前が手負いでなければ、

 俺は一瞬のうちに負けていただろう、天の導きに感謝だな………」


 エクサタが勝利の余韻に浸る。復讐相手をズタズタに出来た喜び、自分よりはるか格上の敵を仕留めた喜び――――その二つの余韻に、エクサタは酔いしれた。

 そして脳を破壊するという完全なトドメを刺すため、エクサタは近くのチェンソー屋に目を向ける―――――しかし、その勝利もつかの間――――エクサタはある一つの異常に気付く。


「空が――――まだ赤い――――弯曲十字はまだ消えていない――――!?」


 瞬間――――――――――――――


 パリィィィィィン!!!!!!!!!

 商店街の天井が砕け、触手状の肉の塊が落ちてくる。(太さは象の胴並だ。)


「!?な、なんだこれは――――!?」


 触手状の肉の塊は、暫く止まっていたが、ゴールドの体が動くと同時に動作を始める。ゴールドを肉の中に取り込み、引き上がる様に商店街の天井から姿を消した――――


「まさか洗脳兵が異常に少なかったのは!!」


Voooooooooooooooooo…………


 エクサタが嫌な予感を胸に抱き、商店街から脱出、そして上を見上げ、敵の正体を確認する。

 ――――触手はその"巨体"の一部分にすぎなかった。肉に見える部分は、よく見ると、複数の人間が絡み合っているだけだった。それは、全長400mにも達しているだろう蛇状の肉と骨の塊。


VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!


 弯曲十字を背に、赤く煌めく巨大な合体人間。

  

  ク  ォ  ォ  ォ   ォ  ォ  ォ  ォ  ォ

「f⌒!.                          

  {__メ、 し| (_) (_) (_) (_) (_) (_) (_) 

  ォ  ォ  ォ   ォ  ォ  ォ  ォ  ン ッ !!!

                             /

 (_) (_) (_) (_) (_) (_) (_) l'^! .・  」


 ゴウオン!!!


「………!!………!!」


 エクサタはまず、恐怖より嫌悪を感じた。恋人が寝取られるような、薄気味悪く、どす黒い拒否感と嫌悪感をその化物に感じ、呆然としていた。


「ウウ……ガハッ………」


 気が付けば吐いていた。いったい何人の人間の命が失われた―――?

 しかしドンゴン!感傷に浸っている暇はない。合体人間が胴体から触手を伸ばし、鞭のように横に薙ぎ払ったのだ。そしてエクサタはなすすべもなくその攻撃を受けた。


「ぐわああああああああああ!!!!!」


 商店街の入り口から出口まで勢いよく吹き飛ばされ、意識を失いかける。


「再生が間に合わない………避けられない………そして今の触手―――」


死体だ――――死んだ人間は鞭状にして利用しているんだ――――


(再実感した………勝てない――――"格"が違う。

 こいつは人間じゃない――――たった一つの目的を達成するために、

 人間はここまで残酷になれない!!


 ……対して俺は手段を"選ぶ"………

 最も効率的な作戦があったとしても、それが残酷すぎると判断したならば――

 死んでもそれを"選ばない"!奴は選べる!!)


 合体人間の胴から、次は3つの触手が伸びる。


(―――)


 エクサタが死を覚悟し目瞑る。目の前に映し出されるのは、ニーズエル、エクス、アルギュロス、そして、亡き家族の虚像。


(死んだら俺は、また貴方達に会えるか……?)


<うん、また会えると思うよ……>


 ニーズエルの虚像が、エクサタの質問に答える。しかし―――


<『常識とは、プライドを殺す剣<つるぎ>だよ』

  『常識とは、プライドを殺す剣<つるぎ>だよ』

    『常識とは、プライドを殺す剣<つるぎ>だよ』>


「ニーズエルッ!!!!」


ニーズエルは殺された………!!




(――――――ニーズエルが死んだのに、奴は堂々と生きているッッ!!!)


合体人間が三本の触手を縦に振り上げる。


(だけど、常識を持つ人間では奴を殺せないッ………!!!

 誰か――――誰かッ………アイツを殺してくれッ!!!)




ヒュッ――――――――――――――


  / ̄/  /''7''7  / ̄/ /'''7  / ̄ ̄ ̄//''7''7  / ̄/ /'''7

  /  ゙ー-;ー'ー'    ̄  / ./    ̄ ̄/ / ー'ー'    ̄  / ./

 /  /ー--'゙     ____.ノ ./   __/ /     ____.ノ ./ 

/_/        /______./  /__________ /      /______./  


轟音が鳴り響く――――


「………?」


しかし、エクサタは無事だった。


「もう大丈夫だ。目を開けろ。」


「あ………あああ………」


 少女の声がした―――目を開け、振り向くと、そこには銀髪・褐色の少女がいた。その人は――――この戦いで、何度も強敵に立ち向かい、戦いを制してきた、

憧れの人の孫にして、自分よりはるかに強い戦士。


「シ………シルバー殿!!!!」


 彼女達アトランティス人は神の目的の為だけに生きる人形…。初めはすごい人間だと思ってたが、ゴールドと出会った後、俺は彼女の事を俺は何処か哀れな存在だと心の中で思い始めてしまった。しかし――――――――――――


「生きてて良かった――――エクサタ!!」


 今目の前にいる彼女は、今までと違い、どこか爽快であった。ゴールドと比較するのを失礼に思う程、輝いていた。青空のような安心感があった。


 シルバーが前に3歩進み、ビルに巻き付く合体人間と対峙る。


「どれだけデカくても、目が見えなきゃデクの坊だね。」


「………」


 辺りを見回せば、合体人間の触手鞭は三本とも俺の横15mほど先に落ちていた。


「奴は今肉の中。あのデカブツの表面の材料になっている人間の目を経由して、私達を見てるんだ。だから私のストーン・トラベルは――――そいつらの目の表面を全て石化させた。」 


-―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

合体人間の中。


「あば――――があがああ―――――ゲああああ……

 エクサタ………おのれエクサタ――――おのれシルバー………」


 頭にレイピアを刺したゴールドが、苦しんでいる――――


「マダダ――――怪物の内側の洗脳兵と、外側の洗脳兵を取り換えれば―――

 視界は取り戻せるッ!!!こんなくだらないことでこのゴールドが敗北するはずがない!!!」


<何をやっているゴールドッッッ!!!!!

3500年の計画だ――――失敗は許さんぞ!!!!!!!!>


邪神、キレた!


「待て、待ってください―――勝てる―――!!!

 奴らには、この合体人間の中にいる僕を殺すすべはないッ!!!」


<しかし貴方の体は現在進行形で朽ち果てている。このまま時がたてば―――

貴方は死ぬ。それは我々の敗北ではないのか…!?>


「先祖様違うんです!DDFだ―――!!!すぐにDDFを見つければいい――――!!!!

 夜調牙百賭が残りの4つを持っているはずだ!!!ああああああ!!」


<貴様ごときが百賭に勝てるかな………この役立たずごときが!!!>


「この切り札なら――――何とかできるよ!!!!

 この合体人間の実験の為に僕は――――努力を惜しまなかった!!!

 努力した者は必ず報われる!!!」

//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

そう、かつて、ボクはこの洗脳能力で、様々な人体実験を行っていた。

とくにあの実験は――――部下の四天刃すらドン引きさせた……


「ビエエ!エエエエエエ!!!」

「ゴ、ゴールド様――――何してんですか!!!」

「二人の人間を物理的に合体させ、一つの生命体にする実験だよ。

 黙ってみていなトパーズ。」

「えぇッ……!?」


ボクは、いや、"ボクの中のボクたち"には思想があった。

人間は単体では不完全な生命体。

一つの意志の下、群れを成してはじめて、その種としての強さは完璧なものになるのだ――――と。


「アクラ村」

「アクラ村――――?」

「アクラ村を潰す。」

「潰すのですか―――なぜ?」

「人体実験だよ!!アクラ村に住む69人の人間!!

 そのすべてをボクの能力で操り、一つの合体人間にする!!!」

「69人!?お言葉ですが、無理ですよ!重さで潰れてしまうのがオチです!!」

「失敗を恐れるな!たとえ失敗したとしてもそれは明日の糧にすればよい!!

 あいにくこの国には潰しても良い村はいくらでもある!!

 実験なら何度でも出来る!!」

//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////


「先祖様見てください!そう、人間と人間が一つになり――――

 一つの目的の為に規則正しく動くことこそ、人間の完全なる姿―――

 完全なる人間芸術!!!!


 この巨体、この力こそ!!!この街の人間8945人が一つの形になった

 究極の合体人間!!!!!!!!!!!!!!


 シルバーは無視だ!!!この人間賛歌で、百賭を探しだし――――

 圧倒抹殺してくれるわ!!!!!!!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 シルバーが合体人間の方向に、一歩一歩歩みを進める。


「シルバー殿、勝てるのか……勝てるんだな……!?」


「嗚呼。奴を始末する策はある。」


 シルバーが4つのDDFを取りだす。


「そのDDF………まさかあの百賭を――――!!!」


「………」


//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////


「百賭!そんな作戦に私は――――!!」


「…私は貴方の親の仇。

 そんな奴の言葉を信じるのは、確かに難しいでしょう………

 でも―――――」


 百賭がデティクティブ・マスターを出現させ、そして――――


「はっ………!!!」


 シルバーの目の前に血に濡れたシルバーの両親が映し出される。


「パパ……ママ……!?」

「やめろシルバー!!!!罠だ!!!!」

「――――いや……」


 百賭の目から、涙が流れる。


「貴方に謝るため…10年間ずっと消さずに残していました…

 貴方の両親に頼まれて、貴方の両親の最後を記録していたんです。

 最後のメッセージを伝えるために、あの人たちはッ――――!」


 シルバーが、二人の手を取る。


<見てるか、シルバー…すまないな、こんな姿になってしまって――――

いっぱい、悲しませてしまっただろう。>

<ゴメンね、もう好物のホットケーキも作ってあげられないわね。

でも、彼女を恨まないであげて―――彼女は………>


//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////


「ゴォルドォォォ――――――――――――――ッッッ!!!!」


 シルバーが大声で叫ぶ――――そして、建物の上に上り、屋上を経由しながら、合体人間に向かってダッシュしていく!!!


―――――


 ゴールドが内側から目の見える洗脳兵を出し、シルバーの姿を確認する―――


「シ――――シルバー……どういう事だ、こっちに向かって走ってくるッ!!!」


 彼女の手にはDDFが握られていた。


「な―――――――――なにィィィィィ!!!!!!!!!」


 シルバーが、4つのDDFを上に向かって投擲する!!!

 その光景を目の当たりにしたゴールドは、シルバーが次にどんな言葉を発するか、どんな行動に出るかを確信した。


 次にとある言葉を発した者こそが―――――勝利を掴む。

 この戦いはそういうものだ、そう確信した!!


    「深き闇を再接続する――――繋げッ!!!」

      「深き闇を再接続する――――繋げッ!!!」


 ゴールドとシルバーが同時に発したのは、割れたDDFを手元に呼び寄せ、一つにする言葉――――

 シルバーが先に言葉を発する事が出来れば、ゴールドを合体人間の中から引きずり出し、倒す事が出来る。ゴールドが先に発する事が出来れば、ゴールドは願いを先に叶えることが出来る。


 そして―――――――――――決着は。


「フフフ…………アハハハハハ!!!ボクのDDFが動いていないッッ!!!

 それはつまり、奴の持つ4つのDDFが動いてボクの方に近づいていることを示しているッッ!!!勝ちだ――――勝ちだ勝ちだ勝ちだァァァ―――――!!!!!

 ついに3500年の因縁に決着だあああああ!!」


「バーカ、よく見ろマヌケ。」


「ハッ………!!」


 ゴールドが目を凝らし、自分の方に向かっていく物体を再確認した。

 それは――――DDFでは無く…………


「デティクティブ・マスターの円盤ッッ!?!?バカなッ!!!

 すごいスピードでこっちに飛んでくるぞッ!!なんでぇ!?」


「残念ながら、早口言葉大会はお前の優勝のようだ――――

 私の持つDDFが、お前の方に向かっていったからな。

 だから――――その軌道上に、

 デティクティブ・マスターの円盤を置かせていただいた。

 この円盤は、重力を無視して動くから、落下したりは決してしない。

 DDFに押されて―――――まっすぐ御前の方に向かっていく。」


「うわああああああああああああああああああ!!!!

 マズい―――――このままじゃ!!!た、助けて!!こ、ここで死んだら…」


 ゴールドが、合体人間の頭から自分の上半身を出す。


「僕が生まれてきた事に意味が無くなってしまう!!!」


 シルバーが静かに片手で銃を構え、ゴールドに狙いをさだめる。そして、シルバーの後ろから、睦月がやってくる。


(シルバーは、銃を撃つ時―――必ず両手だった。

 何故なら君は―――両手で銃を撃つことに自信が無かったから。

 

 奴との距離―――約200m。当てられるか――――?)



――――――



「……私は、自分の事を、心の弱い人間だと思っていた。」


 そう、私は…………心が弱い。


「他人を失う事が、酷く怖いんだ。ショックも受けやすいし、

 両親や、右堂院、ジジイが死んだときだって――――

 自殺すら考えていた。」


 だから――――私は神に頼っていた。神の啓示する運命。それに従えば、心を強く保てるから―――――


「確かに、私は弱い。でも、それだけじゃない。この人間としての心を殺し戦ってきた石の旅<ストーン・トラベル>で私は―――

 ロル以外の初めての仲間を得て、もう一つの真実に気が付いたんだ。」


 トリガーに指を入れる。そして、静かに力を込める。


「全ては表裏一体。

 仲間を失って誰よりも傷つきやすいという事は、

 仲間を失いたくないという気持ちが――――誰よりも強いという事。


 ――――

 私は、仲間の事を思っている間だけ、誰よりも強い人間でいる事が出来た。」


 だから、私は仲間の事を思い、銃を持つ。

 そうすれば――――何物にも邪魔されることがなく、引き金を引く事が出来る。

 たとえ片手であろうと―――――

 震え一つおこさず、絶対なる自信を持って――――。



バンバンバンバンバン!!!

ワン!!!ツー!!!スリー!!!フォー!!!ファイブ!!!


全弾ゴールドの顔面に命中!!!!



そして――――――――――――



「シックス――――(六発目)。」


バンッッ………


ゴールドが、合体兵士の上から落下する。


水風船が割れるような音が鳴り響くと同時に、

天空は蒼く晴れ、日光が辺りを照らす。




弯曲十字が――――――消えたのだ。





新アトランティス帝国 帝王。ゴッフォーン末裔。

エンペラー・ゴールド/セクンダー・グラン―――――――――――死亡。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「コールドは死んだ…百賭は戦闘不能(念のため私が蟻を纏わせている)…

 や、やったのか…ついに…!私たちは…!!」


「…ああ。」


そしてゴゴゴゴゴゴ…!!突然の地震!

地が揺れ、そして倒れた合体人間が内側から紫色の閃光を放つ!

合体人間の中から、正方体の黒い宝石が浮かび上がるように姿を見せる!


『暗黒の至宝の一つ。DDF……3500年ぶりに復活せし。』


遠くで宝石が美しく喋った。


「伝説と同じだ。あれは、あの黒い宝石は間違いない…」


『さあ、我と契約を結ばんとする者よ、姿を見せるがいい。』


「D…DF!」


 そう―――後は、願いを叶えるだけ。

 『DDFを滅ぼすという願い』を…


「終わりね。」


 シルバーのその呟きは、弱弱しく、睦月には聞こえてはいなかった。



一═┳ Silver



 「―――――――」


 ためらいがないと言えば嘘になる。

 なぜなら行けば、死ぬ。

 この晴れた空が私には、天からの迎えのように思えた。

 だが―――――


「フッ、今一瞬迷った私はクズだな。」


 10年間、この時を待ち続けていた。


「――――いかねば。」


 神の使命を達成する、この最後の一日の終わりを。自分の未来を捨てるのは惜しいが、これが私にできる最良の生き方なんだ。ここでDDFが失われることによって、多くの未来が救われる。

 ポケットから携帯端末を出す。そして、着信履歴を見る。

 睦月、エクサタ、ロル。

 ニーズエル、エクス、ジジイ、右堂院君、怪盗島風。

 そして、今まで出会った、沢山の裏世界の人間。思い返せば、辛い思い出も、沢山あった。でも、楽しい事も沢山あった。人では無く、神の剣として生きてきた心算だったが、何時の間にか、私の中には、消す事の出来ない記憶が生まれていた。

 だから、この思い出は、地獄まで持っていく。

 

 しかし――――何か一つ、忘れていることがあるような。


「………」


 私の肩を強く掴む人物がいる。その手は震えていた。

 ああそうだ――――別れの言葉を、忘れていた。


「こういう時は、なんて言えばいいんだろうな。」

「………」

「睦月、震えすぎだ。死ぬのは、私の方なんだぞ。」

「き、君だって全然歩けてないじゃないか………」

「………」

「不思議な事だ。常に自分の事を考えずに生きてきた女が、

 今は――――自分を………」

 

 もう泣かないと決めたんだがな―――――


「泣いても良いと思う。」

「――――!」


 私の向かう先に、エクサタがいた。


「エ、エクサタ!」

「シルバー殿、睦月殿………後は、任せてほしい。」

「エ、エクサタ君!まさか――――」


 エクサタが、何もない地面を見つめる。


「……睦月殿、安心してほしい。シルバー殿の願いは必ず叶う……

 俺は、もう、迷いはしない……」

「―――!」

「だから、せめて最後まで……シルバー殿に付き添ってやって欲しい…

 最期まで大切なものの側にいてやれないのは―――俺だけでいい。」


 …エクサタは、この戦いでニーズエルを見殺しにしてしまった。だから、せめて、私たちが、そんな末路を辿らないようにと、気を使っている。

 ――――エクサタ。


「ありがとう。」

「………機会があれば、いずれ地獄で。」


👆Exata


 さっきまで俺は、仲間を裏切ろうとしていた。

 ニーズエル、エクス殿……いや、このDDFを巡る戦いで散っていた、人間達を蘇らせるために―――――睦月とシルバー殿を裏切り、DDFを横取りしようとしていた。

 しかし―――もうそんな気は無い。

 結局俺は、何の活躍も出来なかった………何の価値も無い男だった。そんな俺が、シルバーや睦月を騙し、ニーズエルの思いを裏切ってまで願いを叶えるなんて―――後で呪われても仕方がない…

 

 ――――………あの巨大な合体人間が崩れ、その素体になった人間が、何人も死んでいる―――絶望と悲しみの呻き声を鳴り響かせている。そう、思えば彼らは今回の戦いとは無関係の人間だ。俺も、ごく普通に生きていたはずなのに―――体を改造されて家族を殺された……


「!」


 DDFに向かって歩きながら横を眺めると、遠くに東結金次郎とその取り巻きらしき探偵たちが見えた。取り巻きは、俺を見るや、走って此方に向かうそぶりを見せたが、東結金次郎がそれを左腕で征する。そして、何やら彼らに命令をし始める。

 10秒もたたないうちに彼らはバラバラになり、合体人間の素体になった人たちの救助を開始する。息の無い人間に必死で心臓マッサージをする、東結金次郎……


 ―――………その光景を見て決意が固まる。ここで絶望している彼らは、俺だ。

 理不尽によって家族を失った――――俺と同じだ。


『汝か………我を呼び覚ましたのは。』


「………そうだ。」


『二つの質問をしよう。汝の名は?汝の目的は?』


「俺の名はエクサタ・フィン・レンブレーヌ…我が目的は……」


 俺の願いは、ただ一つ。


「DDFを―――この世から完全に消滅させる事。」


『………』


 それは、ニーズの願いであり、睦月の願いであり、シルバーの願い。


『なるほど。いつかこの日が来るとは思っていたが……。フフ…』


「叶えられないか?」


『いや、ルール従い、汝が望み、叶えよう』


 黒い宝石は光を放ち、上空に浮かび上がる。


『去らばだ―――――――我がパートナーよ。』


 バ――――――――――――――――


 DDFが自分を中心に凄まじい光量の閃光を放つそして――――

 爆発し、光の雨を辺りに降らした――――


「あ―――――――――――」


 その光の中に、ニーズエルとエクスの影があった。


「ニーズ、エクス殿……――――」


『エクサタ君、これでよかったのよ、これで…………』

『これが、俺達の勝利なのだ――――

 俺達"五人"は―――勝利を打ち勝つ事が出来た…………』


「嗚呼………そうだな………」


『私たちは逝く――――

 ごめんね、貴方だけはこっちに連れて行きたくないから。』

『元気でやっていけよ、体には気を付けてな。』


「…………逝かないでくれ――――」


 しかし――――無慈悲にその二人の影は雲の中に消えていった。



/\< /\`>\ Mutsuki


「睦月、震えすぎだ。死ぬのは、私の方なんだぞ。」


 私は―――ここに来てロルの言葉を思い出していた。それは、彼自身がシルバーの為に調べていた、デモニック・スカーフの悪魔を消滅させる方法。

 『転約』。それは、悪魔が自分の契約相手を、別の人間に取り換える事。それをあのクラークと言う悪魔に実行させることによって、恐らくシルバーは……


 ロルが言っていた方法は簡単。あの悪魔の苦手とする言葉を――――悪魔のすぐそばで囁けばいい。…ただ、それだけなんだ。



「なぁ、睦月………あのさ………」

「どうしたの……シルバー……」

「色々さ、エラそうな事言って―――悪かった。」

「…言ってたっけ……」

「同じ歳なのに散々先輩面してさ。」


 フフ…シルバーが自分を犠牲にすることをあんなに批難してたのに―――今私は……私の命を失ってでも、目の前のシルバーを救いたくなっている…!!どうしよう、体が止まらないなぁ………


「フフ、そんなシルバーの事も、私……好きだったよ。」

「愛の告白じゃないよな―――」

「愛の告白じゃないよ。」


 シルバー、君は私の事、本当はどう思っている?

 私は―――私は………

 

「あの、私も………」

「?」

「睦月の事、好きだったよ。愛の告白じゃないけど……」


 シルバーが、恥ずかしながら、その言葉を口にする。

 馬鹿――――そんな言葉、こんな場面で言われたら………


 ギュッ……


「フフ…」


 シルバーを背後から抱きしめる。唇を首の魔法陣が書かれてる箇所にそっと近づけ…


「『Waiting for you beyond the deep sea<深淵のその先で貴方を待っています>…』

 さようなら、シルバー。」


 そして、最後の別れの言葉を―――口にする……

 瞬時―――DDFが爆発し、光の雨が降り注ぎ、私の目に写る最後の景色となった。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――


―――――――最期の一日・岐阜県におけるDDF争奪戦。

死亡者…エンペラー・ゴールド、アクアマリン・クラブ、ルビー・ハート、

    エメラルド・スペード、アメジスト・イーグル、トパーズ・ダイヤ、

    黒霧四揮、グレトジャンニ、マレフィカルム専属探偵11人。

    一般市民(7454名)。

行方不明者…夜調牙百賭、一般市民(1204名)。

損害…岐阜県崩壊。

勝者…シルバーとエクサタ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「あれ、まだ死んでない………あと………」


 シルバーは、自分の体にとある違和感を感じていた。


「睦月?どこ………」


 自分を後ろから抱いていた睦月が急に消えた。

 状況が飲み込めなかった彼女は立ちあがり、辺りを見回し始めた。


「…あれ、ほ、本当にいないぞ―――おーい!睦月!!」


 しかし返事は無い。


「冗談キツイな………最後の最後に、何処行ったのよ……!」


 ………その現場に、エクサタが近づく。


「えっ………シルバー殿?」

「エ……エクサタ!睦月を、睦月を見なかった!?」

「睦月殿……?いや、シルバー殿と一緒にいたのでは…」


 ―――――……


「――――得れば失う。失えば得る。全ては等価交換。

 彼女はそう言っていた………まさか………!」

「エ、エクサタ………?」







 そう、転約は成功した。










怪盗睦月/ジェーン/加賀美 響姫―――――――――――――死亡。



―――――――――――――――――――――エピローグへつづく。
















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