Episode17 ストーン・トラベルは終わりを告げる その②

百賭……そうです――――


法律―――命令―――ルール――――そして多数決―――――


それのみが、この世の万物の勝ちを図る理―――――

それのみが正義なのです――――



(何が正義――――!!こんなに苦しいのに――――

 こんなに悲しいのに――――!!!


 私はグローバル化を…………許さない!!!!!!!!!!)


――――――――――――――――――――――――――――――――

岐阜の戦争開始から――――既に6時間。

生き残りは――――

  ・シルバー(レンガ・ウーマンの戦いで左腕損失。

        百賭けとの戦いで瀕死の重傷。)

  ・睦月(遠隔から戦っていたので無傷。)

  ・エクサタ(再生能力により無傷。)

  ・東結金次郎(シルバー達との戦いが原因で両脚を損失。)

  ・夜調牙百賭(左腕損失。シルバーとの戦いで重傷を負っていた。

         生死不明。)

  ・ゴールド

  ・エメラルド・スペード(ロルの正体。)


――――――――――

 瓦礫の山。



「ここまで来るのに―――3分―――と言ったところだが……」


 東結金次郎、睦月、エクサタは、目的地に到着するが、目の前のその光景を前にして―――たじろぐ。


「何があった――?ここに敵はいたんだよな…」


「つ、つい2分前まではいたのに……」


 柱には磔にされていたシルバーの姿は無く、辺りには無数の洗脳兵の死体、ゴールドとそっくりの3つの死体。


「ロルさんとの通話が突然切れて、私の蟻が洗脳兵で潰される2分前までは…!」


 エクサタが前に出て、ゴールドそっくりの死骸の一つに歩み寄る。


「………ゴールドは死んだのか…」


「エクサタ、弯曲十字のヤツなら、まだ生きていると思うぜ。まだ"上の十字"が消えてねえ。」


 東結金次郎が、後ろを指さす。そこには、アイアム・アブソリュート・ゼロで氷漬けにされて、うーうーと唸りを上げる洗脳兵達がいた。


「あの弯曲十字は恐らく召喚型のカースアーツ。契約者が死ねばその効果も消える筈だ。最も、渡りを行っているとしたら、例外もあるかもしれないがよ。」

「じゃあそこに転がっているゴールドの死体は―――何だ!?」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

数分前―――瓦礫の山。


 足音が聞こえる―――固体と固体がぶつかるような音では無い―――何か―――その音には、粘り気のようなものが混じっていた。音の上には―――左腕の欠損した赤き人影、背中からは、四本の槍が生えている。


「エンペラー・ゴールド…………」


「フン、ついに出てきたか百賭。」


 百賭は生きていた―――――――いや、あの程度で死ぬはずが無かった。

 それはシルバーも、ゴールドも、睦月も、誰もが予想していた事であった。


 百賭がゴールドの顔をなめまわすように見る。 


「随分とガキ臭い女が出てきたな。」


「ボクが女と思ってるのかい?外見だけで敵を判断するのはやめた方がいいよ。」


「ああ分かっている。

 俺はガキが相手だからと言って手を抜くようなまねはせぬ。」


 百賭がデティクティブ・マスターを出現させる。


「いいよ、百賭、末路を見届けてやるよ。だけど王は自らの手を汚さない。」


 ゴールドが右手を上げる。そして、椅子からわずか2㎝ほど腰を上げ、

 間合いを詰められても直ぐ動けるような態勢に入った。


 ズタタタタタタッ!!!!!!!!

 ハンドサインと同時に狂気の十字に魅せられた兵団が動き出す!


「見ろよ…この、『パーフェクト・ボディ』を」


 ゴールドがラバースーツの首元に付いたチャックを摘み、ゆったりと下ろしていく。フロントジッパーが開き、上半身から膝にかけて神々しい褐色の肌が露出る。股間も見えていた。


「………その身体は…!?」


 筋肉は発達しておらず、まるで子供のような体である。

 あとくびれが美しくエロスであった…。

 しかし胸があるべきところに胸が無い。ペニスがあるべきところにペニスが無い。

 ―――性別を感じられない体であった。男か?女か?


「僕が女と思ったのか!?馬鹿が!!!

 見ろ…見ろ!この男も女も無い最強の体を!

 性別概念を超越し、神に近づいた人類の進化系の裸体を!

 ボクは一切のセックスを必要とせず子を成す事が出来る!!

 誰もボクを犯す事は出来ない!!!」


「フン…初めて見たぜ、貧乳の言い訳に人類の進化系なんて言葉〈ワード〉を使う女は…」


 ゴールドがマントで裸体を隠す!!!

 そして、マントの中でジッパーが閉まる音が鳴り響く!!

 そして――――――


「この体の価値がわからない奴め…EmerarudoSupeedOOOOOOOOッ!!!!!!」


激闘が―――――始まる!!!!!!!!!!!


―――――――――――――――――――――――――――――

現在、瓦礫の山。


「やっぱり、ロルさんとの通話がつながらない―――

 あの人、俺の能力でサーチするからダークウォーカーは

 しまっておけといってたけど。」


睦月がダークウォーカーを出現させ、無数に散らばらせる。


「もう聞いていられない。

 空には赤い雲がかかっている。遠くまで飛ばせるはず。」

「睦月殿―――何を。」

「シルバーを探す。」


東結が地面に開いたクレーターに手を添える。


「この攻撃の跡――――――ホワイト・キネシスの攻撃跡だ。

 恐らくついさっき、ここで百賭様とゴールドが対峙ったんだ。」


「――――問題は、ここにいた全員が何処にもいないという事だな。」


「……………」


 3人が辺りを見回す。


「――――――!!見て、みんな、血の跡がこの先に続いてる―――!!」


 睦月が指差した方向に謎の血の跡がべっとり続いてた。


 そして――――――

 タッタッタッタッ――――――――


 向こう側から――――走ってくる―――――

 褐色肌、金髪の髪という外見だが、その怒りに満ちた醜い顔…

 その姿はもはや神聖さとは程遠い…


「あ―――あの顔――――あの髪―――――」


 そいつば血まみれのエンペラー・ゴールド!!


 愛する人を殺した宿敵の顔を見て、エクサタが武者震いをする。


「ニーズ………」


 瞬間ッ!!!エクサタが二人を置いて走り出すッ!!怒りをカースアーツに込め、ゴールドに向かって走り出す!!!


「エ、エクサタ君!?」

「『センチビート』………!!!」


「な―――馬鹿!!やめろ!!お前が敵うような相手じゃない!!

 それに――――――――――」


 東結がエクサタを追いかけようとするが、脚が痛んでしまって駄目だった。


「何故ゴールドが俺達にわかるよう本体を晒したのか考えろ―――!!

 油断や慢心じゃない―――いいか、そいつらは

 3500年も目的の為だけに生きてきた怪物!!そんなに甘くは無い!!!」


 三羅偵は経験が豊富だから超な推理が出来る。


「そいつは『釣り餌』だァァァァ――――!!!!」

『もう遅いよ。』

「えっ。」


 睦月と東結の背後から可愛らしい声が聞こえてきた。

 睦月が咄嗟に振り向くと、"そこにも""ゴールド"が立っていた。

 ゴールドが2頭いる……!?

(以後走ってきているゴールドをゴールドA、睦月の背後に立ってるゴールドを

 ゴールドBと称する)


 ドンゴォ!!!!!!!!!!!!!!

 睦月、ゴールドBの攻撃で背中から手刀で胴を貫かれる!!!!!


「あ―――――――――」

「む、睦月―――――――――」


 そして睦月のズボンが破かれ、DDFは盗み出される。


「む――――睦月殿ッ!?」

「こっちにも僕はいるんだけどな………」


 ヒュンパ!!!!!!!!!

 ゴールドが手に持っていたナイフでエクサタの肩を貫く!!!


「が―――あっ!!!」

「あえて軽傷にスル――――あえてダ。」


ドギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!


「ゴ―――――ゴールドが―――二人!!?!?!?!?

 いや、そこで死んでる3体を含めたら――――5人!!!!!!」


「クスクスクス…………カース・アーツ戦で最も重要な要素は頭の回転の早さ。

 即ち『IQの高さ』と言われてイル。

 そして、カースアーツ戦においてIQの次に重要視されてるのが今回お見せした―――――――『事前準備』だ。」


「まさかテメェ……」


「今立っているこのボク達は―――今日の日の為に作られた僕の影武者。

 適当に誘拐した子供の外見を僕そっくりに作りかえた偽の僕さ。

 (新アトランティスの帝王は量産型となったのだ…)

 こういう事前の努力が戦局を大きく変えてくれる。」


「む――――睦月殿――――!!!」


 エクサタが振り返り、睦月の方へと走るが、

 背後から現れたゴールドAが彼を押し倒し、腕と足を封じる。


「がっ………」


「DDFは新アトランティス人にのみ所有権がアル。

 これでひとつ―――ようやく保守ができタ!!」


「……そうかな」


 東結がスウッ…と小さく息を吐く。

 瞬間――――


「―――――うっ!!!」


 氷のツタが一瞬にして伸び―――二人のゴールドの体を拘束したッ!!!!


「「何――――お前の攻撃範囲は4m程度の筈じゃ―――」」

「残念だったな、その2倍はある。

 お前、さっきから何度も俺の能力の弱点を暴くために

 洗脳された奴らをよこして来ただろ?バレバレなんだよ。」


東結が腹を刺されて地面に倒れている睦月に手を差し伸べる。


「――――立てるようだな―――」

「ハァ………ハァ………刺された胴体部分の傷と、内臓の穴を、

 ホッチキスの留めのようにダークウォーカーの顎で無理やり

 繋ぎとめた―――そして攻撃の瞬間、奴の手は私の体の影に入っていた」


シュバオンン!!!

睦月が手を上げると同時にゴールドの手に蟻が出現しDDFをその手から奪い取った。


「お、おのれ!!(畜生………畜生!!!!)」


「おいゴールド、何を焦ってんだ?例のスナイパーはどうした?撃ってこないのか?」


「く………」


ゴールドと東結が対峙る-―――………


「フフ……フハハハ………ハハハハハハハ!!!」


「どうした?俺の絶対零度からは決して逃げられんぞ。

 お前の能力と俺の能力の相性は―――ハッキリ言って最悪と言っても良い。」


「お前たちはまだ―――ボクの本体を見つけられていない!!

 キミたちはまだ―――ボクの掌の上にいるんだよッ!!!」


建物の影、ビルの中から、無数の人間たちが出てくる!!

そして―――襲い掛かった!!!


しかし東結の凍結攻撃には意味が無かった!!!

すぐに生きたまま氷漬けにされてしまった!!!


 エクサタが起き上がり、睦月に駆け寄る。


「睦月殿………大丈夫か…………?」

「う―――うん。エクサタ君、無茶しないで。」

「すまぬ……」


「大丈夫か、睦月、エクサタ。」


「………(コク)」

「百賭はシルバーとの戦いで重傷を負っている―――つまりこいつを倒せば、

 この悪夢の一日は終わる筈…………

 シルバーはいないけど、ココを乗り越えれば何とかなる筈なんだ。」


『ハッハッハッハ!!!マダダ!!まだ終わってない!!!』


「ち――――」


ザ――――――――――更に無数の人間が出てきて、睦月たちのいる

瓦礫の中心に向かって一歩一歩歩き始めた。


 気がつけばその数―――1千――5千――いや、1万。

 最後の敵はエンペラー・ゴールドただ一人。しかしその一人は1万の物量を越える生命の群れ。一人にして無数。無数にして一人、それが王。それがエンペラーなのだ。


「『弯曲十字の聖歌隊<バッド・コントロール・クルセイド>!!』我が下部は無限なり!」


「ッ………何人操ってんだ―――」


 最強の敵を前に、東結が歯を剥き出しにし、虚空を強く握り潰す。

 絶望の具現。レンガ・ウーマンのように何度も渡りを行ってきたその強大すぎるエネルギー。それはこの世のものとは思えない程におぞましいものだった。だが彼の心を導くのは、恐怖では無い。生けとし生ける者の意思を侮辱したその醜悪な能力に対する怒り、ただ、それだけだ。


「『アタシの体温はマイナス一億度<アイアム・ワースト・オーバー>』―――」


それを操り、王のように振る舞う黄金の悪魔が許せないと。

そんな決意を胸に秘め――――氷の装飾を身に纏う。

 

 しかし――――――


「東結!」


 睦月が東結を制止する。


「―――睦月、どうした?」


「さっきの血の跡を追わせていたアリ達がシルバーを見つけた。」


「――――!!」


「この数を相手に戦うのは無理だ。ここは一旦退くぞ!!」


「退く!?どこに―――」


 睦月が近くのマンホールを指さす。

 それを見た東結は、一瞬頷くようなそぶりを見せた後、正面の敵を強く睨みつける。


「なるほど、その中に―――だが―――――

 そこに行くのはエクサタとお前だけだ。」


「―――なぜ!」


 東結が息を吐き、白い氷の壁で三人を包む!!


「正直な。お前たちじゃそのマンホールに入っても

 直ぐに追いつかれてしまうだろう。」


「何を………」


「…………フゥ………だからアンタらがそのマンホールに入った後、

 オレが氷でマンホールを隠してやる。

 恐らくゴールドはまだそのマンホールに気付いてはいない。

 しばらくは時間を稼げるだろう。」


東結は怪盗たちに感謝していた。

自分でさえ歯が立たなかったマレフィカルムの暗部、レンガ・ウーマンやロンカロンカを倒したと聞いたとき。本当に勇気づけられたんだ。ヘタレだった俺に成し得なかったことを、この一週間でお前たちは成し遂げた―――――と。


「………俺の冷気の能力は、壁や障害物を越えて発動する事は無い。

 俺の中心から一方通行。俺が入ったら、マンホールを隠せない。」


「さぁ行け。

 怪盗を相手に―――いがみ合っている暇なぞ無かった。

 お前らがレンガ・ウーマンを倒せることを知っていたら―――

 お前らと最初からこうして組めていれば、

 岐阜はこんな大惨事にならずに済んだんだ……。

 だから協力してやる。」


「――――わかった。」


睦月たちがマンホールの蓋を開け、中に入る。


「あばよ。怪盗と一緒の夢を見るってのも、悪くなかったぜ。

 さぁ――――犯すわよ♥️」


―――――――――――――――――――――――――――――――――

―――PM2:12 下水道。


「睦月殿―――シルバー殿のいる場所は―――」


「このまま真っ直ぐ―――1㎞先!」


 走る――――二人が走る………しかし――――


 バリバリ!!!!!

 睦月の神経に高電圧が走る。


「ウッ………!!」


「睦月殿……!?」


「い――――痛い………さっきゴールドにやられた傷が……急に痛んで……!!

 がぁぁぁぁ!!!!」


 無理も無い―― 一瞬とはいえ、応急処置をしたとはいえ、指四本分の穴が腹に開いたのだ。常人なら色んな意味で死んでいる。しかし―――睦月にはこの現象は予想外の事であったようだ。


「な、なんで……シ……シルバーは………銃の弾丸を何発撃ち込まれようと、

 刺されようと、腕が千切れようと……決してのた打ち回って痛がりはしなかったのに―――なんで―――!!」


 そう、シルバー達のようにこの程度の傷なら耐えられると過信していたのだ――


「睦月殿―――一旦、休んだ方が――――」


「いや――――休む暇はない―――

 シルバーは、最後の四天刃に抱えられて―――移動している!!」


「四天刃―――」


「…………やっぱり……私みたいな下級怪盗じゃ―――シルバーには……

 追いつけないというのか………私はいつも足手まといだ…」

「………手を貸そう。」


 エクサタが睦月を抱える。お姫様だっこだ。


「っ……エクサタ君……」


そして走り出す………


「―――………」


「ゴメン……」


「…(その謝罪の意味が分からない。)」


「―――あの、エクサタ君……」


「…?」


「キミも、DDFで、何か叶えたい願いがあるんだよね。」


「―――………」


 エクサタが顔を逸らす。


「やっぱり………」


「うむ……」


 睦月が、エクサタから顔を逸らす。


「ニーズエルの復活――――か?」


「…………」


「いや、違うな。キミが望んでいるのは………」


 そう、エクサタが失ったのは――――それだけではない。


「"みんな"を生き返らせること。」

「隠し事が出来ないのは―――困るな。」

「ごめん…」


 しかしそれは―――シルバーの意思には従わないという事。


「睦月殿は―――どっちにつく。俺か、シルバーか。」


「わからないよ…」


「悪魔の生贄になりつつあるシルバーも救われるかもしれんのだ。」


「…」


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『いや、こちらから会話は聞き取っていた。

 そういえば睦月の嬢ちゃん、シルバーはクラーケって悪魔に取りつかれていたと

 そう言っていたな。』

「うん、レンガ・ウーマンは確かにそう言っていた。」

『なるほど、それなら…』

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『睦月、さっきの話の続きだが、実は一つだけ、シルバーの親友である

 お前に言う事がある―――――。』

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「………さっき、ロルさんが言ってたんだ……」


「………?」


「私たちがブラックタウンにいった三日前、ロルさんも丁度そこにいて、

 シルバーが悪魔の力を手に入れてるのを目撃してたんだって……」


「……」


エクサタが不機嫌な顔をする。


(ロル……怪盗ロル……シルバー殿は信用していたが、

 彼の流す情報は正直役に立たないし、通話にも出ないしで、

 イマイチ信用できん……)


「だから彼は、悪魔の契約を破棄にする方法を今日までずっと調べていたらしい。」


「………まさか。」


「彼は、さっきの通話で、私にとある方法を教えてくれた……

 でも、得れば失う。失えば得る。全ては等価交換。

 私があれをやって、シルバーが助かっても…………」


「それはどういう………」


 睦月が目を見開く。下水道の奥に先行していたダークウォーカーが何かを発見したようだ。


「待ってエクサタ君―――そこの横の道に――――」


 そしてそれは、瞬きもしない間にやってきた。

 ドンゴ!!!!横の通路から10人ほどの洗脳兵がやってきた!!!!!!!


『百足<センチビート>!!』


 ズパパパパパ!!!

 エクサタが地面を蹴ってセンチビートを発動!!衝撃のエネルギーを放ち洗脳兵を吹き飛ばす!!しかし――――――――――


「数が多すぎる――――全ては対処できない!!」

「あと少しなのに―――!!」


『ガアアアアアアアアアアアア!!!!!!』


「………!!エクサタ君………私を抱えたまま、能力を使ってジャンプして!!

 天井に届くぐらい!!!」

「――――!!『百足<センチビート>!!』」


 エクサタ睦月を抱えたままジャンプする!!!

 そして、睦月が天井に向かって腕を伸ばす!!!!そして握っていた手を開き―――


「『夜を歩くもの<ダーク・ウォーカー>!!』

 天井にぶら下がって私の体を吊り下げろッ!!!!」


手の平のダークウォーカーがジャンプして下水道の天井に脚を付け、睦月の服の袖を持ち上げるように顎の力で引っ張る。エクサタも睦月の胴にしがみつく体制に入る。


「――――これならアイツらの攻撃も届かないはず」


洗脳兵がジャンプしてエクサタを捕えようとするが、捕まえられず、

下水の流れに巻き込まれる。


「ゴールドの能力は、群を操る能力。私のダークウォーカーと同じだ。

 しかし群を統率し指揮すると言ったら聞こえはいいけど、

 指揮するのは一人の人間。一体一体を精密に操れるわけじゃない。

 精密な動きが出来るのは精々二体から五体、後は予め決めた単純な

 動きしかできないはず。


 ―――――でも、何か変だ、やっぱり……ゴールドのヤツ………

 なにか、とても必死になっている。

 私たちが瓦礫の山に到達する空白の2分間、あの場でなにが起こったんだ…

 洗脳兵の動きが前と違って乱雑さを感じる。」

「……このままでは………」


更に洗脳兵現る…


「――――。睦月殿、シルバーのいる場所までは、あと少しと言ったな。」


エクサタが睦月から手を離す。

そして、下にいる洗脳兵の顔を蹴り飛ばす。

ついでに洗脳兵の顔が黄色に輝き、そこから衝撃波が放たれ、

対方向にいる他の洗脳兵を吹き飛ばした。


「エ、エクサタ君!?」


「あと少し………なら………

 時間を稼ぐ…」


「―――!!!でも………」


 エクサタが手の平を広げ、右腕を出口の方向に伸ばす。

 手の平は黄金色に光っている。


「む、無茶しないで!」

「………睦月殿。

 大切な人を失うというのは……とても辛いことだ……

 …早く行ったほうがいい……」

「…!」 


 それは、長年尊敬していたアルギュロスやエクス、そしてニーズエルを失ったからこそ出る言葉………そして睦月の悲しむ顔を見たくないという思いから出る言葉。

 手のひらから――――衝撃波が放たれる。

 衝撃波が先を阻む洗脳兵を吹き飛ばしていく。だが衝撃波の射程範囲は精々2m程度。しかし――――――


「『センチビート・レギオン<群体>』」


 衝撃波の先端に、黄金に光る砂粒が舞い上がっていた。そして、その砂粒から更に衝撃波が放たれる。そう――――エクサタは、センチビートで衝撃のエネルギーを吸収させた砂を、手の平に乗せながら、手の平から衝撃波を放ったのだ。


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[図解]

  ※ 〇=センチビートで衝撃エネルギーを纏わせたエクサタの手の平

  ※ 砂=センチビートで衝撃エネルギーを纏わせた砂。

  ※ →=センチビートの衝撃波

                           →出口のある方向

 〇砂砂

 〇砂砂

 〇砂砂

 〇〇〇


                           →出口のある方向

 〇→→→→→→→→→→砂砂

 〇→→→→→→→→→→砂砂

 〇→→→→→→→→→→砂砂

 〇〇〇


③        

                           →出口のある方向

 〇→→→→→→→→→→砂→→→→→→→→→→砂

 〇→→→→→→→→→→砂→→→→→→→→→→砂

 〇→→→→→→→→→→砂→→→→→→→→→→砂

 〇〇〇


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 つまりそういう事だ。砂から更に衝撃波、その先の砂から更に衝撃波が放たれ、出口とエクサタの間を阻む洗脳兵がすべて吹き飛ばされる。


「――――み、道が開いた!」


「…」(それに、これ以上こいつを思い通りにしてはいけない。)


ダクウォカが天井から顎を離し、睦月がエクサタのそばに落下する。


「エクサタ君…」


「…」


反対側から洗脳兵がやってくる。エクサタは彼らを相手に時間を稼ぐつもりだ。

睦月がエクサタの顔を見る…そして、彼の手を強く握った。


「あと少しなんだ…あと少しでこの戦いも終わる筈なんだ……

 死ぬなよ、全員、生きて帰ろう。」

「…(コク)」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

―――PM2:16 血だらけの歩道。


「ハァ………ハァ………クソ…DDFを持つ睦月をおびき寄せたのはいいが……

 俺には今―――武器が無い。」


 シャドウの脇に、黒い小型トラックが停まっている。荷台の上には、柱とそれにくくりつけられた眠れるシルバー。

 そしてその陰で、この俺、エメラルドはカメレオンのようにひっそりと隠れている。


「俺の能力は、『クイーン・オブ・ヘル・レーダー』ただ一つ。

 "銃弾の軌道を曲げる能力"は、今俺の"手元"にはねぇ…

 色々と予定が狂っちまった……アレもコレも……全てあの"女"の……」


 自らの肩を揉みほぐし、レーダーの能力でシルバーがしっかりと寝ていることを確認する。すべての決着が終わりそうな今、こいつの顔を見ると、なんだか、色々な事を思い出しちまうな。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「怪盗ロル――ですか。」

「そうだ、ロルっていう凄腕の無線サポート専門怪盗。己の正体に関する情報は一切明かさない慎重派とも聞く。」

「ありがとうございます。一回、試してみますよ。」



「なるほど、これはいい。ロル、お前とはいい商売相手になりそうだ。」

「だろシルバー、俺の『ザ・レーダー』よりサポートに優れた能力は存在しない。

 (よし!このまま上手い事こいつを騙し続けてやるぜwww)」

「うむ……性能も申し分ないんだが、何より、お前は絶対安全だから、

 気を遣わなくていいというのがとてもやりやすい。」

「昔、仲間の怪盗を失ったことがあって、

 それ以来ソロで怪盗やってんだってな。」

「ああ………なんでそんなこと知ってんだよ」

「お前の事、結構噂になってんだぜ(ずっと監視してましたからwww)」



「馬鹿!シルバー無茶だ!!!」

「いいや、行ける!!押しこむ!!!!」

「なんて強引な奴なんだ……精々死ぬんじゃねーぞ!!!

(チッ……なんで俺はシルバーの事をこんなに心配してんだ……――)」



「2時の方向!敵は自己強化特化系のカースアーツ使いだ!!」

「おおっと……流石ロル、私が聞く前に答えを出してくれるとは。」

「何度もペアを組んでんだ―――御前の事は何でもお見通しだぜ。」

「そうだな、お前とももう4年だしな―――。」



「くそ…ロンカロンカにやられたんだなッ…!

 ロル!なんでこの事を言わなかったんだ!?

 お前の能力なら彼らがいる事は分かってたはずだ!」

「言うと嬢ちゃんはそいつらを戦いに巻き込まないよう真っ先に助けるだろ!

 しかし助けるとロンカロンカに先手を取られる可能性が高まってしまう!!

 (ハァ……ハァ……一般人なんかどうでもいいだろ――――

  それに……もう二度と――お前の……お前の死に顔は二度と見たくない!!)」

「――――!そうだ!そうだけど……」

「―――」

(でも、シルバーはロンカロンカには絶対に勝てない………

 生き残っても―――オレがお前を殺さなくちゃならない―――!!!)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 俺には好きな女がいる。


<シルバーの体がピクリと動く。>


 シルバーの嬢ちゃん、アンタの事だよ。ゴールド様の命で、7年前から宿敵であるアンタの事を監視してたが…まさか心奪われるなんてな。でも、駄目なんだ。因果の巡りによって、俺たちは宿敵同士に生まれた存在。陰と陽。炎と氷。電話越しで背中を合わせることは出来ても、向かい合う事は―――出来はしない。

 だから――――利用して、殺すしかない。


<シルバーが目を開く。>


 でも俺は悪くない、オレが殺さなくても、どっちみち嬢ちゃんは自分の願いを叶えた時点で悪魔に食われて死ぬんだろう?そう、ならオレがいなくても、何も……


「―――目が覚めたか。」


<自分を見るや、シルバーが戦闘態勢に入ろうとする。

しかし、腕と脚をワイヤーに縛られていたため、動けなかった。>


「その悪魔を召喚するには首の紋章を引っ掻く必要がある。

 腕を縛られては如何しようあるまい。」

「くっ。」

「それにジタバタしても無駄だ。そのワイヤーはゴールド様の攻撃力を基準に作られているからな。」

「なぜ生かした―――」


 ガシャッ………エメラルドがハンドガンを手に持つ。


「釣り餌だ。お前が生きていれば――最期のDDFを所持する睦月が必死になって追いかけてきてくれるからな…」


 バン!!!

 銃弾が、シルバーの頬を霞め抜く。


「ぐっ……うう!!!」


 頬の傷がじんわりと回復していく。


「それに、今のお前は悪魔の力によってどうやら不死身に近い状態になっているからな。簡単には殺せない。今の俺の装備はぁこのライフルだけ、正直に言うとこれじゃお前は殺せねえ。」

「ハァ……ハァ……」

「――――む。」


 銃弾を頬に受けてもなお、瞬きをしないシルバー。痛みをものともせず、ただ、じっとエメラルドの顔を、思い切り睨んでいた。


「…………。」

「……………。」


 シルバーが呼吸を整え、男の顔から視線を腰辺りまで逸らす。


(……。)


 一瞬少しだけ口を小さく開けた。

 歯を食いしばり、視線を正面にまで戻し、男の顎辺りを見つめる。


 逸らす。今度はいつも携帯電話を入れている、自分の右側内ポッケ辺りを見つめる。

 2呼吸置いた後、目を見開いて男の目の奥を覗く。


「…………その目は…怒りか。それとも、絶望か?」


「…だまされた…………」


 目を、ゆっくりと閉じる。


「騙され……たんだ……」


 体を震わせながら、上目使いで男の顔を見据える。


「全……てウソだった……」


「―――」


「┌┴┐ ヽ / ┼ ″   ┼   /   ┼ ″ナ ゝ     /  

  _ノ    ノ  / こ つ / こ ./ヘ._) / こ . cト ア ・  」


「―――――――!!」


「7年………7年もだったんだぞ――――!」


 険しい表情は―――徐々に緩んでいき。


「ウソだったんだな――!!お前との信頼も―――時間も―――!!」


「………」


「なんで……なんでこんな酷い――――」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「なぁロル―――生身のお前って一体どんなな奴なんだ。」


「さぁな、案外、碌な奴じゃあ無いかもなァ。」


「一度、会ってみたいな。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ここまで心を侮辱されたのは初めてだ――――

 御前は……御前だけは……必ず―――この手で………」


「もう……よせ。」


「お前だけは……」


 エメラルドがシルバーの頬にに手を伸ばそうとするが、途中で止めてしまう。

 目を隠すかのように右手でシルクハットの先端を摘まみ下げる。そして、その場でくるりと回るように後退し、シルバーに背を見せる。


「――――そんなに、叫んでよ。馬鹿みたいだぜ。」


「……うるさい……」


「だってさロルは、エメラルド・スペードじゃあない。」


「…………」




「え?」


 エメラルドが大きく息を吸い、そしてこう発した。


「ククク…そう、勘違いするなよ、俺はロルじゃない。

 怪盗行為なんて一度もやったことないし、お前と思い出を作った覚えもない。

 俺はあくまでエメラルド・スペード。ゴールド様の腹心にして

 オルゴーラの血を引くお前の生涯の宿敵だ。」


「……何を…何を言っているのか意味が分からない―――

 奴(ゴールド)はお前を…」


 エメラルドが首を上げ、ビルの壁を見る。


「お前がこの言葉の真意を知る必要はない。」


 バッサ!!!黒紫色のシルクハットを、空に投げ飛ばす。


「睦月が来た。話はここまでだな。………」


 その場で回転バックジャンプをし、シルバーとすれ違う瞬間に彼女の口にガムテープを貼り付ける。口を封じたのだ。

 着地と同時に無音のダッシュ!!近くの車の影に身をひそめ、歩道のマンホールを見据えながら両手でライフルを構える。

 ――――1呼吸、2呼吸、3呼吸したところ、エメラルドの体が何かに驚いたかのように一瞬だけ震えた。


「……――――おいおいマジかよ………」


 ガリッ…ガリッ…近くのマンホールから、鉄を食いちぎるような音が聞こえる―――そして、ガン!!!マンホールの蓋が吹き飛ぶ!!!下から折りたたまれた黒い傘が突き出てきたのだ!!!

 傘が開く!!!マンホールの中から、傘を持った人影が出てくる―――!!


「傘――――なるほど、自分の体を影に隠すには、これ以上無い程手軽かつ確実なアイテムだ。弾丸は標的に着弾するまでの間に傘の影に入るから、蟻に食われてしまう。」


 それはまぎれもなく怪盗睦月。両手で二丁拳銃を構え、二の腕と胸の間に傘の取っ手を挟んだ、怪盗睦月!!


「来たな……」


 睦月が、背後を振り返り、蟻が見た景色に今自分が立っているかどうかを確認する。そこには、トラックと、荷台の石柱にくくりつけられたシルバーがあった。


「―――――……ダークウォーカー……」

「クイーン・オブ・ヘルスナイパー……見えているぞ――――」


 睦月がシルバーに向かって歩きながら、無数の蟻が出現する。右往左往散らばり、無数の視界で敵を索敵する。


「そう、やはり出すな、だが、そうはさせない。」


 ポケットから、何かを複数個取りだし、睦月の前方15m先に投擲する。


 そして、その瞬間―――――――――――

 ばっっっ!!!!!!辺り一面が、光に包まれ、辺りのダークウォーカーの姿が崩れ始める!!!


「――――こ、これは……!」


(電球だ。お前さんの蟻は強い光の中じゃ実体を保っていられないらしいからな。お前が来るのは事前に分かっていたから用意できたぜ。さて、次は―――)


 銃を構える。標的は、シルバーと睦月の間を横切る電線。


(物理攻撃がダメなら、属性攻撃だな――フフ、緊張して来たぜ。

 あの睦月を倒せば…俺は、新アトランティスの英雄になれる。

 嬢ちゃんには悪いが―――それこそ運命が俺に与えてくれた最大の幸福なのだ。


 俺はその為だけに生まれ、今日まで生きてきたのだ―――

 そう、産まれた時から与えられた、最大の命令。)


エメラルドが汗をかく。


(本来なら、俺が嬢ちゃんに、恋をする事など有りえないのだ。)


――――――――――――――


 睦月こと、加賀美響姫(かがみ・おとひめ)は、これ以上にないまでに、かつてないまでに冷静であった。カースアーツの操作に震え一つ起こさず、絶好のコンディションで動けていた。


 彼女には子供のころから父親・島風に言われ続けていたことがある。


『加賀美の血を引く者は、凡人には無い人の心を見抜く才能を持っている。

 俺達は生まれながらにしてエリートなのだ。

 だから自信を持て、お前は―――いつしか立派な怪盗になれる筈だ。』


 事実、彼の言うとおり、彼女には人並み外れた才能があった。それは父親から受け継いだそれは心を見抜くに留まらず、地頭の良さから身体能力の高さまで。

 彼女は父親の言葉を真に受け、自分と凡人を比較してこう思う。

(私は生まれながらに勝っているんだね―――)(友人なんていらない。人並みの才能しか持たない一般人なんかと、本当の友達になんかなれるはずがないよ……)

 そう思っていた。ずっとそう思っていた。12歳のころ、自分と同じ歳なのに、既に怪盗を2年もやっており、父・怪盗島風にも匹敵する実力を持っていた怪盗シーフ・シルバーと出会うまでは。その彼女が、自分とは違い…自信過剰でも無く、普通の人間達を心の中で見下さない、清らかな精神の持ち主だと知るまでは。


 睦月はシルバーと今までの自分を比較し、私はド愚かだ…と思った。強い人間のフリをすべきではないと、そう強く思った。

そして心の中に夢が出来た。強くなることを目標に生きつづけた。


 そして、睦月こと加賀美響姫は立っている。夢の人と同じ戦場に立っている。


「…………シルバー。」


 睦月が、ガムテープで口を封じられたシルバーの顔を見る。

 シルバーが難しそうに首を振っているのが見える。


(私の瞳には、人の心が写る。あの首の動き、しぐさ――――

 待てと言っているのか?何を待つのかはわからないが、

 シルバーの考えは―――信用すべきだ。)


 二歩下がる。


(シルバーを運んだ奴は―――ゴールドでは無かった。武器を持っていて、顔に生気を感じられるので、恐らく洗脳兵ですらない。だとすると、エクサタ君の言っていた、四天刃か?)


 左手の銃を構え、前方にある電球に狙いを定める。


「12個――――」


 トリガーが引き、歩きながら銃弾を数発発射。1つ――2つと電球を破壊していく。

しかし、3つ目の電球を破壊したその瞬間―――――


ドギュン!!!!!!!!!!!!!!


 鋭い銃声が聞こえたと同時に――――脇で挟んでいた傘に僅かな衝撃が走る。


(――――!!)


 瞬時―――顔に寒気が走り、体は硬直した。そう、睦月の傘の石突き(先っぽ)部分が撃たれたのだ。


「傘を破壊するつもりだ―――!私が電球に気を取られている隙に―――!?銃弾の軌道も…あたりに蟻を張っていたのに見えなかった!!ハンドガンの弾丸のスピード程度なら、ダークウォーカーで簡単に見切れる筈だが―――」


 睦月がアリと視界を共有して、辺りに純弾が落ちていないかを確認する。


「あった――――やはり弾丸……アリで見切れないスピードなら……

 何か特殊なライフルで撃ちこんできているな!!!

 銃弾の落ちているは、私から見て、3時方向に―――なら、敵は9時方向――――」


 睦月が9時方向に体を向け手荷物ハンドガンをダークウォーカーの暗黒・インセクター・アリエネルギーで包みこむ。

 そして、9時方向にあった小屋の上に向け銃弾を発射、移動する銃弾の影になった個所に紫色の蟻が出現する!!!

 そして視界共有!!隠れているスナイパーを探し出す!!


「いない!!!だが!!痕跡はある―――

 それほど遠くまでは離れていないはずだ!!!」


 睦月がさらに弾丸発射!!アリを増殖させ、敵の位置を探ろうとする!!

 しかし――――


「待てよ…痕跡と私の傘、落ちている銃弾から推理するに――――

 弾丸は直線状に飛んできた―――

 シルバーと百賭けの戦いを妨害した時のように軌道が

 曲がったりしてはいない……」


 睦月は更に考える―――


「……そもそも、弾丸の軌道が曲げられるなら―――

 傘を持っていたとしても私は一撃でやられているはず………

 まさか―――今私を撃ってきている敵は

 ―――弾丸の軌道を曲げる能力を持っていない……!?」


----------------------------------------------------------------------

「銃弾の軌道を操る能力者とサーチ系能力者のコンビの可能性もある。

 なんにせよ――慎重に行かなくてはならない。」

----------------------------------------------------------------------


「こいつの能力はいったいなんなんだ……

 まさか只のスナイパーじゃあるまいし……」


しかしその瞬間――――――――――――


PLLLLLLLLLLLLLLLLLLLL!!!!!!!!!


「ロルさんからだ――――

 さっきまで電話しても応答しなかったのに……」


PI!


「も、もしも――――」

『睦月!敵のスナイパーはそっちには無い!!!

 既に別の位置に移動している!!』

「……!」


 睦月がダークウォーカーの動きを止める。


「な、なら………どこに―――」

『反対側―――お前から見て、6時方向200m先、そこに敵は移動している。』

「な……馬鹿な、敵はさっきまであっちに―――」

『瞬間移動―――だ。奴には瞬間移動の能力がある――――

 この能力でしっかりとその動きを捉えていた――――』


――――――――――――――


『ほ、本当ですか……ロルさん!!』

「嗚呼、本当だぜ。(嘘)」


 嘘や。


『わかりました、貴方を信じます。』

「頼む、シルバーを助けてやってくれ。」


 勝った――――これで時間が出来る。睦月を倒し、DDFを手に入れる事が出来る。長年の目的が―――ついに叶うのだ!!!


『ところで』

「―――――なんだ。」

『一つ、聞きたい事が。』


 ――――まさか、バレたか?


『なんで、さっき、通話を斬ったんですか?なんでその後、何度も電話したのに応答できなかったんですか?』


 クレームが入る。瓦礫の山の上でゴールド様の近くで姿晒していたあの時、アリに見られていたのを察知して咄嗟に通話を切断してしまったが、それが裏目に出たようだな。だが、言い訳はもう考えている――――


「マレフィカルムに妨害された―――奴ら、今回の作戦にやたらとお熱でな。

 シルバーのサポートをしてる俺の位置の特定捜査を進めやがったんだ。

 さっきは本当に危なかったんだぜ。」


『そう、ですか――――』


 銃を構える――――時間が無い。ゴールド様は、時間が無いとおっしゃられていた。


『わかりました、すみません、変な質問をして――――』


 アリを退かせたな、これでお前が俺を視界に入れる事は無くなった。

 一発目はアウトだったが、コツは掴んだ、次は必中させる。二発目で傘を破壊し、3発目でお前の頭部をスイカのように潰してやる。


『仮にも、シルバーが一番信頼してる人なのに……』

「一番――――?」


 引き金を…引く……


『――――え?』

「シルバーは、俺の事を一番信頼してると言っていたのか?」

 

 引き金を…


『……今はそんな事―――』

「時間はある、聞かせて呉れ。」


 引き……金を―――


『言ってました。貴方の事を一番信頼していると―――』

「そうか、ヘヘッ……一番か……そうか……」

『んん……?なんか、嬉しそうですね―――でも、今はそんな―――』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ここまで心を侮辱されたのは初めてだ――――

 御前は……御前だけは……必ず―――この手で………」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「言われた事なかったんだ―――アイツに、そんな事さ……

 大丈夫、まだ、時間はあるからさ。」

『………時間って―――』


 気が付けば、銃を下ろしていた。


『シルバーは、』

「――――…」(もう取り返しはつかないんだ。少しだけ、いいよな…)


しかし…

ド…トドン…ガシャッ!!ガッカ!!ドンゴ!!ギャアアアム!!!(破壊の音)

瞬時――――彼と睦月を阻んでいた壁が大音量を上げる!!


「な…は…?うっ!?」


肩を誰かに押され、横に、二、三歩と歩いてしまう。睦月に身を晒してしまう。


「洗脳…兵…?」


嘘だろ!

睦月が、俺に向けて双銃を構える!

やべえ!睦月を殺さねえと!!


直後、顔面に強烈な痛みが走る。そう、撃たれたのだ。


「ぎゃああああああああああああ!!!」


ああ、そうか、これが、俺に与えられた運命だったのか。

ここで死ぬためだけに、ここで囮になるためだけに、俺の人生は…


――――――――――――――


ド…トドン…ガシャッ!!ガッカ!!ドンゴ!!ギャアアアム!!!

突然、ロルさんが言っていた方向の真逆から音が聞こえる!!


振り向くとそこにはあのゴールドの側に立っていたスナイパーらしき男が立っていた!


すかさず銃を構える!!必ず殺して見せる!!


「――」


両手の銃のトリガーを引き、スナイパーらしき男の顔めがけて三発の弾丸を放つ!!


ドスドスドス!命中!!


「ぎゃああああああああああああ!!!」


三発ちゃんと命中した!左の目玉が飛び出してる!! やった!!死ん…


「だ…?」


違和感がある。奴は死んだ、それは間違いない――でも何か違和感があるんだ。嫌な予感も…


「そう、軽くなってるんだ…」


気が付けば、傘の上部分がごっそり削れていた。

千切れとられたように削りとられていた。


ガッー!!背中に、何か鋭い槍のような何かが複数刺さる。


「が…!しまっ…」


カラスだ…!洗脳されたカラスの嘴…!

睦月が反り身になり、背中に刺さったカラスをアリで食らいつくすッ!


しかし、今度は前方から三体のカラス!!


「ぐっ…!がっ…!」



死、死ぬ…こんな、こんなところで…!!




ピィィィィ―――――――――――――ンッッッ!!!!



バサッ………バサッ…………


「え。」


「ストーン・トラベル………そのカラス共の目の粘膜を石化した。」


「あ―――」


 そこには、銀髪の少女が立っていた。


『カァァァァァァァァァァ!!!!!!!!』


シュバババババババババ!!!!

カラスたちの体が銀髪の少女の首から出た黒い気に切断される。


「シ………シ………」


「ゴメン、待たせた。」


「シルバァァァァァァァァァァァァ!!!!!」


シーフ・シルバー復活!!!!!シーフ・シルバー復活!!!!!!


「ちょっと時間はかかったけど、手首から出た血をのこぎり状に石化すれば、

 私の体を縛る針金を切断するのはわけがなかった――――


 それにしても、あのスナイパーを倒すなんて………よく頑張ったね、睦月。」


「うっ……で、でも、さっきのカラスたちにDDFを奪われてしまった、

 ダメージを受けた私たちの脚じゃ……」


「――――いや、大丈夫――――

 睦月はこっちを向いていてわからなかっただろうけど、

 彼が、彼が追いかけてくれた……」


「え……」



―――――――――――――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――――――


――――――――――


闇。

雲がかかり太陽の光も刺さぬ闇の世界。空は湾曲十字により絶望色に染まっている。

地は裂けている。空気は狂っている。

ここは、魔界か?それとも地獄か?


『トコン』


少女が一人、その中を歩いている。

身長160cm、体重48kg…。

瞳はマグマの如く輝き、髪色は深淵のように禍々しい。

体中が血まみれで左腕は欠損している。

メイド服をサイバー的にした漆黒色の服着たその女。


その姿は、美しくにして美しくは無かった。


「行かねば…深淵の死に刻まれるため…」


***********************************

           DeepDead Filler

          Episode Final

        ストーン・トラベルは終わりを告げる。

***********************************


 その女の姿は、まさに黒い百賭と言った感じだった。黒百賭だ。

 ならばなぜ髪が黒いのか、何故服が黒いのか。


「おのれ―――百賭…………」


 強い眩暈を起こし、平衡感覚を失ったような足の動き。例えるなら、水を失ったフィッシュと言ったところか。壊れた体を無理やり動かして、無機質なコンクリートの上を出口を探すように進んでいく。


「僕は大いなる意志の為の命令で動いている。

 だから、僕が悪事を働いたとしても其の罪は僕では無く

 大いなる意志に課せられる。ボクは悪くない。」


 心臓を押さえつけながら、掠れた声で独り言を繰り返す。


「痛み、苦しみ、憎しみ、負の精神も全ては大いなる意志に吸収される。

 私に苦しみは無い。あるのは快楽だけだ。しかし―――

 ならばなぜ今、僕はこんなに苦しい思いを―――

 これも、これも全て…全てカスどものせいだ……だが――――」


 バサバサバサバサ――――!!!

 黒いカラスが、睦月から奪ったDDFをゴールドの上から落下させる。


「これで一つ、DDFを取り返す事が出来た―――そして――――」


ズドォォォォォン!!!!!上空から軍服を着た男が落下してくる!!!!!

衝撃で男の脚に傷がつくが―――瞬く間もなく自己再生していく。


「エクサタか――――フフ、久しぶりだね。」

「―――!?ゴールドじゃ……無い!?黒い―――百賭……!?」


 黒い百賭けがエクサタの方を向きが両腕を大きく開く。そして、肩にぶら下げていた紫色の宝石で飾られたネックレスを力強く握りしめる。


「…………いや、貴様はやはり―――しかし……しかしその姿……

 いや、さっきのように偽者の可能性も……」

「フフフフフ……戸惑っているねえ。」

「一つ聞く、あの数分。睦月殿やロルがお前たちを監視していなかったあの数分間――――一体何があったのだ!!!!」

「フハハハハハ!!!話すと思うか……!?ここで貴様にあの数分間の出来事を話す事に……何のメリットがある!?」


 黒百賭が不敵に笑う。


「だがあえて話そう!!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『時は、十数分前、瓦礫の山の上の戦い――ゴールドと百賭の対峙まで遡る。』

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「フン…初めて見たぜ、貧乳の言い訳に人類の進化系なんて言葉〈ワード〉を使う女は…」


 ゴールドがマントで裸体を隠す!!!

 そして、マントの中でジッパーが閉まる音が鳴り響く!!

 そして――――――


「EmerarudoSupeedOOOOOOOOッ!!!!!!」


 ガシャッ!!1

 合図と同時にエメラルドスペードがスナイパーライフルを構え、百賭の頭に向けて構える!!


「成程、射程範囲外から………」


 ライフルから一発弾丸が放たれるが、百賭はそれを簡単に跳ね返す。

 エメラルドスペードが、再度弾を装填しようとする。


「『デティクティブ・マスター』………」


 百賭の上方に円盤が出現、瞬時、エメラルドスペ

ード前方の瓦礫が爆発する!!

 爆風によって瓦礫の散弾がエメラルドに向かって吹っ飛ぶ!!!


「え―――――おごあああああああああ!!!!!!!」

「フン。」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『まずボクの腹心であるエメラルドが一瞬でやられた。

 まぁ僕からすれば、「やっぱりな」って感じだったよ。

 ほかの四天刃はチンのカスにもなれずやられてしまったからね。』

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ち――――役立た―――」


 そして次に百賭は、DDFを一つ持っていた時の記録を再生する。


「深き闇を再接続する――――繋げ………」

「早い――!?」


 言葉を発したと同時に記録のDDFが宙に浮かぶ!そして――――


 百賭けの後ろの瓦礫の影から、4つの宙に浮かぶDDFと、前方に立っていたゴールドとはまた別のゴールドが転びながら出現する!!!


「「ば――――」」

「成程、妙にあっけなく正体を見せたと思ったがやはり偽者。俺や睦月たちを誘い出すための釣り餌であったか。」


 4つのDDFすべてが百賭の手に渡る。


「チッ――――!!!」

「DDF記録にはDDFに願いを叶えてもらうためには魂の契約が必要と記されている。

 恐らくお前は、洗脳兵を通じて願いがかなえられるかを疑問に思っていた。

 だから確実性を上げる為、生身で魂の契約をおこなおうとしていた。」

「――――エメラルドッ!!」


 本物のゴールドが大声を上げ、倒れているエメラルドを一喝する!

 それと同時に、シルバーを括り付けていた柱、その下部分が崩れる。


「寝てるんじゃあない!!!

 シルバーだ!!シルバーをここから持ち運べ!!!

 最後のDDFを持つ睦月たちは必ずシルバーを追いかけるぞ!!!」

「ゴ……ゴールド様……」

「気を抜くな!!

 生憎百賭はダメージでロクに走れん―――今のお前なら逃げ切れる!!」

「――――――!!!」


エメラルドスペードが立ち上がり、シルバーを抱えて逃げる。


「しまったな…せっかく集めたDDFが…」


ヒュンヒュンヒュンヒュン!

ゴールドが持っていた4つのDDFが百賭のもとまで移動する。


「僕は願いを早く叶える為―――DDFを直ぐに回収できる位置に常にスタンバイするようにしていた―――まさか位置が読まれていたナンテ………

 まいったなぁ………」

「その顔は、まだまいったとは言っていないようだが。」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『そう、ボクはまだ負けたとはうほ思っていなかった。

 何故なら僕は、10年間かけて調べ上げた、百賭唯一の弱点を知っていたから。』

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 その後の百賭は瀕死の状態ながらゴールドを圧倒的に追い詰めていた。10年築き上げた最強の戦闘スキル。2つの強力なカースアーツ。瀕死の状態とはいえ、弯曲十字の操る洗脳軍団にやられるほど、百賭も甘くは無い。

 しかしゴールドは追い詰められながらも、一つのとある策を講じていた。


「くっ……このままでは百賭に打ち取られてしまう!!

 王ここで打ち取られてしまう!!

 しかし………きたきたきたきたきたァァーーー!!!」


 近くに落ちていた紫色の宝石で飾られた大きなネックレスがふわりと浮かびあがり、ゴールドの周りを囲みはじめる。


「アメジスト!!」

『エンペラー!!』


 ネックレスから渋い男の声が発される。


「ククククク…!!!

 "射将アメジスト・イーグル"。これからはこのエンペラー・ゴールドに仕えるんだ。」

『エメラルドはいいのか?今のヤツにはレーダー能力しかないぞ。』

「四天刃は全員ゴミだった。もはや必要ない。」

『フフ――ならば。』


 ザッ…ザッ……


「装備型のカースアーツ。しかも契約者の呪縛から逃れ、自立して行動し、人間と対話も出来る。珍しい。」

「ククク……気づかなかったろー?この僕がひっそりと彼がここに来るのをおびき寄せていたのを。」

「………………」

「"それ"が君の弱点さ――――――」

「弱点だとう?」


『『ビショップ・ヘル・スナイパー』』


 アメジストとゴールドが、同時にカースアーツ名を口にする。シンクロシニティだ。

 ゴールドがポケットから3本ナイフを取りだし、真横に向かって投擲する。

 投擲されたナイフは、そのまま落下せず、変則機道を行って、百賭けの周りを旋回する。


「トランプカードには4種のスート(マーク)がある、

 即ち―――スペード・クラブ・ダイヤ・ハートの4つ。

 しかしある一時期、一部の地域で、既存の4種に"イーグル"のマークを加えた

 5種のスートを使って行われる特殊ルールのゲームが流行った事がある。

 10年も経たず廃れたけどね。」

「……」


 ゴールドが歩くと、アメジストの持つ『ビショップ・ヘル・スナイパー』の力で周りの石ころが浮かび上がる。


「この宝石が彩られたネックレスは、本体が死んだのに、カースアーツだけが自立して動いている渡り経験ありのカースアーツ。

 だから、ボクの先祖は本体が死んだカースアーツには歴史的に死んだスートの名が似合うという事で、彼の事をイーグルと呼び始めたんだ。」

「―――」

「つまり、何が言いたいのかと言うと、こいつはボクのカースアーツじゃない。ボクはデュアルじゃない。だから、バッド・コントロール・クルセイドとビショップ・ヘル・スナイパー、共に100%のパワーを発揮できる。合わせて200%、戦闘能力も単純計算して2倍。今の僕はDDFを目前にして燃えているから1.5をかけて300%。更に――――」


 ゴールドと同じ格好をした"奴ら"が3人ほど上空から落ちてくる。姿形だけが同じの偽者のゴールドだ。


「フフ、どれが本物の僕か見破れまい!

 何年も前から準備していた策を加え2500%!!!」

「………」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『………正直、瀕死とはいえ、そんな能力のタネの割れたカースアーツあつ如きで、あの百賭をどうすることも出来んと思うが……。しかも"ただ銃弾の軌道を曲げる能力"だ。』

『いや、追い詰められたよ、弱点だったからね。』

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 百賭がゴールドの一人に向けてトリガーを引く。弾丸が脳天に炸裂したゴールドが死んだが、バッド・コントロール・クルセイドは解除されない。

 アメジスト・イーグルを装着したゴールドが歩くたび、周りの石がふわりと浮かび上がる。

 気が付くと、数百を超える小石と3本のナイフが百賭の周りを旋回していた。


「―――フン、面倒だな、一気にカタを……………」


 真下の地面から突然銃弾のように小石が飛び出してくる!


「―――フン、こんな事だろうと思っていた。さてどう避け……

 どう……避け―――」


 突如、百賭の体がぐらつく。


「うっ……な、なんだ――――!?」


 体を思うように動かせず、小石が肩を貫く!!


「ぐぁ―――!!な、何だと……いつもならあの程度の攻撃―――」


「夜調牙百賭―――人工的に生み出された超天才児で

 9歳時点で350もの超IQを持っていたという記録がある。

 でもシルバーとほぼ互角の戦いを繰り広げていたのを見ると―――

 この数値はサバ読み。ボクの推測じゃあ、

 君のIQはシルバーよりちょっと高い、270程度だね。」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『キミも知っているだろ?

 カースアーツの能力戦に於いて最も重要な要素は――IQ―――

 頭の回転が早いものが勝つ。

 事前に計算された策や相性よりも状況を打開する脳が勝敗を決める。』

『………貴様のIQが、奴よりも高かったと?』

「夜調牙百賭の推定IQ270。対し、ゴールドのIQ210。

 本来なら頭脳戦でゴールドが百賭に勝つことは決して無い――――

 しかしこの数値は所詮―――

 万全…ベストコンディション状態での数値でしかない……」

「なるほど――――あの時の百賭は……」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 時によってIQは変異<メタモルフェーゼ>する。

 疲労状態や睡眠不足、射精によってその者のIQは大きく変化する。


 ギュン!!!!!!ギュン!!!!!!!!!

 宙に浮いた小石が妖な動きをして百賭に襲い掛かる!!!


 しかし百賭は大量出血によりIQが大幅に低下しており、

 小石の動きに頭の考える速度が追いつけていなかった。


「ゲホッ……グッ……やはり……"このまま"では駄目か―――!!!」


 不敗―――それは一見素晴らしい事のように思えるが、そうではない。

 全ての事柄は表裏一体。メリットがあればデメリットもある。敗北の経験の無い百賭は、初めてのIQデバフ状態の中で戦う術を知らなかった!


 百賭が血を吐いて倒れたと同時にゴールドが指を天に向ける。すると、辺りの岩とナイフが一斉に上方向に飛んでいく。

 

「死ね―――『ビショップ・オブ・ヘルスナイパー』!!」


 ゴールドが指を振り下ろしたと同時に、無数の小石の弾丸が百賭に向かって飛んでいく!!!

 しかし――――――

 笑っていた、あの女、百賭は、怪しく笑っていた――――――

 まるで自分の勝ちを確信したかのように………


「………フフ……フフフ!!!ゴールド……残念だったな…」

「――負け惜しみかい?」

「この世に――――"アイツ"より強い人間はいない……」

「アイツ……だと……シルバーの事か?」


 ズドドドドドドドン!!!!!!!!!!

 小石の雨が百賭の立つ瓦礫の山に降り注ぐ!!!!!!!!!


 まるで―――回転式機関砲<ガトリング>から放たれる弾幕のように!!

 回転式機関砲<ガトリング>から放たれる……弾幕のように………


 砂埃が辺りに舞い、何も見えなくなる。


「これで百賭は死んだ。フフフ……残りのカスどもと東結だけ………」


 3体のゴールドが、瓦礫の山に背を見せ、身を隠そうとする。


「フン………汚い埃だ。こんな所に王ゥンであるボクがいる必要はない。

 しもべどもよ、百賭の死体付近から4つのDDFの拾って来い………

 このゴールドのもとまでな。」


 5体の洗脳兵が、砂ぼこりの中に入る。


「………百賭のあの最後の言葉だけは気になる所ではあるが……」


 洗脳兵の視界から、砂埃が消える。


「―――」


Vaaaaaaaaaaaaaaaaaa………


赤と白がまじりあった無気味な影が、立っている。


影は片手に円盤を持ち、大きく振りかぶっている。


「――?。」


VAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA………


 3人のゴールドが後ろを振り向く。


 同時に、影の持つ円盤の天辺から、何か、光柱のようなエフェクトが現れた。


「『探偵マスター<デティクティブ・マスター>』。」

「まだ死んでなかっ――――」


 影が――――光柱を放つ円盤を3人のゴールドに向かってブーメランのように回転させながら投擲!!!!

 同時に円盤から放たれた光柱も、グルグルと薙ぎ払われる!!!光柱に触れた物体は、辺りの物体全てを切り裂く!!!


「あ――――――ヌアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」


 3人のゴールドが円盤を避けようとジャンプする!!!

 しかし回避できたのは身体能力がアトランティス人相当の本体だけで、他の二人はジャンプ力が足らず円盤から放たれてた光の柱に触れ上半身がジャンプした。


「なっ―――投げた!?デティクティブ・マスターの円盤を投げて攻撃するか!!」

「何を驚いてるの?完璧な絶望はここからよ。」

「!?」


 ゴールドが百賭けの姿を確認すると飛び上がるように、肩をすくめ、3歩たじろいた。


「な、何だ―――その姿………何をした―――」


 何故ならその姿には、先ほどの小石の散弾で受けたダメージが全くなかったから……そして―――


「その目は……」


 今の百賭の目つきは、先ほどまでのようにゴミを見下すような鋭く冷たいナイフのような目つきではなかった。それはまるで、憎悪と殺意の塊。


「答えろ!……ビショップ・オブ・ヘルスナイパー!!」


 ゴールドの周りに浮かぶ無数の小石の弾丸が百賭に向かって吹っ飛ぶ!!!しかし――――――――


 ゴキャ―――ギキッ……ググギギギ……………!!!!!

 まるで獣と錯覚するほどおぞましく体を震わせる百賭。全身の関節を異常な方向に曲げ、全ての弾丸をその身でかわす。

 そして―――ホワイト・キネシスを4本出現させる。後ろから自分の頭の上まで勢いよく爆風を纏わせながら貫く瞬間、デティクティブ・マスターを発動し、槍の先に時の円盤を出現させる。


「がっ……!!!」


 円盤が槍の放つ爆風で吹き飛び、先にあったゴールドの胴を破壊する!!!


「ぐあああああッッ!!!」


「……」


コツッコツッ


(か、勝てない!バカな!奴のIQは下がったんじゃないのか!?)

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『人が変わった。本当に人が変わった。まるで、猟犬がトラに変身したような感覚を察知した。』

『………』

『このボクに勝ったと確信させておき………

 ―――騙すように突如あれほどの動きと戦闘能力を発揮した!!!1』

『つまり百賭はまだエンドっていない……』

『策士―――だよ奴は………だが、僕にはまだ手があった――――』

『それが、貴様の体が百賭になっている理由か。』

『そうだよ、僕には使いたくない最後の切り札があった……』

『―――カースアーツでは無いな。弯曲十字の光はあの一分間の間に一度も弱まってはいない。カースアーツの能力を多重に発動するとき、その能力は半減してしまう。』

『シルバーと同じ――悪魔の力さ。名はビフロンス。 

 能力は―――僕の体と対象相手の体を一度だけ入れ替える。


 ククク………そうだ!!ボクと百賭は―――入れ替わったんだ!!!!』

『………』―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「解せんな。」

「ふむ?」

「なぜ俺に、その時の出来事を素直に話した。」

「察している通り作戦だよ。クスクスクス……」


 黒百賭(ゴールド)が馬鹿にしたような下品な笑いを放つパンツ。


「時間稼ぎか。だが貴様の仲間はもうその紫のネックレスしかいないだろう。」

「フフ-―――時間稼ぎの役割も持ってたけど――――本命はそれじゃあない。」


 ?


「シルバー達に、さっきの情報を知ってもらう事。それが僕の本命。」

「なるほどう。自分が勝てないからシルバーに頼るのか。

 どこまでも他力本願な女だ―――」

「ボクな万全な状態なら、今の発で、君の首から上はジャンプしていた。

 さぁ、時間をやる。シルバーに、今の情報を連絡しろ。」



――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


―――PM2:22 血だらけの歩道。


 シルバーの上着の胸部分が振動<バイブレーション>する。多分携帯端末に誰か電話したのだ。


「エクサタか!!!」


 すぐさま携帯端末を取りだし、発信主の番号を確認する。数秒の間、端末の画面を見たまま押し黙り、脇の何もない地面まで目をそらす。


「どうしたんだシルバー、青ざめているぞ。」

「ロル……まだ生きていたのか……」

「ロルさん?」


 シルバーが携帯端末を持つ手を震わせている。


「シルバー、出ないのか?ロルさんの事だ、何か重要な情報を…」

「く…」(また私を騙そうと……)

「………?」


 何も知らない睦月が疑問そうにシルバーを眺める。


「あの―――シルバー、ロルさん…さっき私にも連絡してきたんだけど。

 シルバーの事、すごく心配してたよ。」

「……」

「それに彼も、マレフィカルムの奴らに隠れ家がバレて、今大変なんだって、

 声、聞かせてあげなよ。」


 シルバーが睦月を見つめる。


「"本当"に、心配していたのか?」

「………間違いないよ。私は、人の感情の動きが読めるんだ。」

「――――」


---------------------------------------------------------------------------

「だってさロルは、エメラルド・スペードじゃあない。」

---------------------------------------------------------------------------


「ぐぐぐ………」


PI!!!!!!!!


『も――――』

「馬鹿やろう!!!!!いったいこんな時に何の用だ!!!!!!!!!!」


PI!!!!!!!!


「ハァ……ハァ……」

「えっ……き、切ってしまったのか?」


PLLLLLLLLLLLLLL!!!!


「…………あ、また…」

「クソ…次は着信拒否してやろうか……」


PI!


『おいおいなんだよ嬢ちゃん!!!いきなり電話を切るなんてさ!!!』


「なんだよはこっちの台詞だ!!また私を騙すつもりなのか!!」


『何のことだ?オレが7年間、お前を裏切った事なんてあったか?』


「すっとぼけるんじゃあ無いぞ……エメラルド・スペード。」


『何のことだ?エメラルド・スペードはもう死んだだろ?

 それとも――――俺の事をエメラルド・スペードだって言いたいのか?』


---------------------------------------------------------------------------

「ロルは、エメラルド・スペードじゃあない。」

---------------------------------------------------------------------------


「……………」


『ハハハ!!それは無いって断言できるぜ。

 アイツは睦月に顔を3発撃たれた!!!まだ微かに生きてるとしても―――

 まともに動ける状態じゃあない。』


「何の要件だ。」


『相棒のお前に、一つ、大切な事を伝えに来た。』


「――――……」(きっと……また騙そうとしている……)


 心臓に胸を当て、スウッと息を吸う。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

―――PM2:24 血まみれの歩道の脇にある一軒家内。


 顔に弾丸を撃たれ、今にも死にかけのエメラルド・スペードが―――倒れている。


『大事な事……とは?敵の情報か?』

「いや―――もう敵の情報は言えない。

 睦月の持っているレーダーの半径150m以内に敵はいない。」


 苦しい―――苦しいが―――今は、喘ぎ声の一つさえあげてはいけない…

 仰向けに倒れながら顔の傷を右手で押さえる…体の震えを出来るだけ抑えろ…


「恐らく、この電話が、俺とお前の最後の通話になると思う。」

『……!』

「フッ……睦月から聞かされてなかったか?

 マレフィカルムの奴らに追われていてよ――――しくじっちまった。」

『――――嘘だ。』

「本当さ、俺はエメラルド・スペードじゃない。」


 "その電話でシルバーを騙せ"と言うゴッフォーンの囁きから逃れる為、心を強く保つ。


「俺は嬢ちゃんの相棒、無線サポート怪盗、ロルさ。」

『――…ふざけるな。』


 嬢ちゃんの震えた声が聞こえる。確かに嬢ちゃんにとっては、ある意味最悪の気分だろう。精神の深奥をかきまぜられたような気分だろう。だが俺はオレが言いたい事を総べてぶちまけるまで―――この電話を終わらせない。


『―――7年間、お前の事は、本当に相棒と思っていたし。さっきまでも、一番信頼できる奴だと思っていた。』

「俺も、お前の事はかなり気に入ってたし、今でも信頼できるパートナーだと思っている。」

『もしお前がゴールドの手先じゃなければ、どれだけ良かった事か……』

「ヘヘッ……まだ俺の事を信用してくれないんだな。」


 ………――――しかし、あんまり時間は無いようだな。全ては言えそうにないな。心残りはあるが本当に大切な事だけ…話すか。


「シルバー、この戦いが終わった後、行く宛はあるのか?

 三羅偵を倒したことが世に知られれば、お前は今まで以上に追われる身になるだろう。」

『行く宛?そんなものはない……』

「―――そうか、ならば暫く北海道にある俺の別荘の一つに暫くは身を隠すといい。住所はさっきメールで送信した。

 あの別荘はいいぞ、いい景色が見れる。」

『この馬鹿ッ!!私がこの戦いで生き延びても悪魔の契約で魂が奪われることは知ってるだろ!!』

「フッ、生き残れる可能性だってあるだろ。悪魔にだって失敗はある……」

『………』


 片目を開けて空を仰ぐ―――弯曲十字に照らされた赤い雲が覆っている。まぁ悪党が最後に見る景色なんてこんなものか……


「すまねえ、もう時間が無いようだ。」

『え―――』

「これで本当のお別れだ。お前と出会てよかった。ありがとよ。

 色々と楽しかった―――」

『……』

「大丈夫だ、アンタなら俺がいなくてもやっていける。

 俺の死すら、力に変えてな……」

『……』

「なぁ、嬢ちゃん……」

『私も………楽しかった……』

「――――!ヘヘ、そうか、それはよかった。

 じゃ、じゃあ、元気……で―――――」


 息が止まる、限界が来たようだ。


『ロ…ロル?』


 フン、別れの言葉を最後まで言えないなんで、今まで悪さしてきたツケがまわってきたか。

 もう、ピクリとも動かない――心臓が止まって肉体が冷たくなっていく―――


 フフッ、俺は、新アトランティス人…四天刃・隠将、エメラルド・スペード。

 ゴッフォーン様から与えられた、偉大なる使命…

 『最強の魔女クロイツェン・ママゴンネードの復活』

 それを達成する事が、この俺の最大の目標。俺の、最大の幸福。





 だと、思っていた―――――――――――――――――――…………







新アトランティス帝国『四天刃』

隠将エメラルド・スペード/無線サポート怪盗ロル―――――――――――死亡。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

―――PM2:26 血まみれの歩道。


 ロルからの通話が来なくて、数秒間、呆然としていた。しかし、すぐに意識を取り戻し…携帯端末の通話を冷静に切った。


「…睦月。ダークウォーカーを使って、エメラルド・スペードが本当に死んでいるか、確かめられるか。」

「う、うん、やってみる。」


 睦月に、死体の確認をさせる。しかし――――


「死んでいる。脈拍も無いし、呼吸もしていない。完全に死んでいる……」

「―――……」

「内臓を引きずり出すか?」

「そこまではしなくていい。」


 ……頭の中が、ぐちゃぐちゃになる。何が正しくて、何が嘘なんだ。


「―――あれ。」

「如何した睦月?」

「ロルさんのザ・レーダーが無い……蟻の顎で挟ませていたはずなんだけど。」

「―――!!」


 ――――わからない。でも、心臓は高鳴って、息は苦しくて……


 死んだ……?


 死んだ……


 死んだのか……そうか……


 7年間一緒に戦ってきた、ロルが、死んだ――――


――――――――――――――――――――――――――――――――――

「これで本当のお別れだ。お前と出会てよかった。ありがとよ。

 色々と楽しかった―――」

――――――――――――――――――――――――――――――――――


 確かに、楽しかった……御前との7年……でも、それを肯定してしまっていいのか。私とお前は、決して相容れない運命レベルで混じりあわない水と油。


「シルバー、あの……」


「睦月、ロルが死んだんだ。」


「……そう、なんだ。」


 睦月も会話の内容を聞いて、なんとなく内容察せているようだ。


「ロルが死んだ… …私は、アイツの為に悲しんでやってもいいかな。」


 逃げるように、睦月に答えを求める。


「―――私は、誰が誰の為に泣いていいかなんて、

 運命にだって決められるものじゃないと思うよ。

 だから、シルバーの勝手だと思う。」


「そうか―――じゃあ、悲しむことにするよ。」


 …ありがとう睦月。


「私は本当に心が弱いな。まだ戦火の中なのに。」


「――――そうかな?

 シルバーは、誰よりも人を思う気持ちが強いだけなんだと思うよ。」


「……そうかな。」


「そうだと思う。シルバーはさ、自分の事を心が弱い奴だって自虐するけど。

 私にとってはその背中は大きすぎるぐらいだよ。」


「――――………」


 銃に弾丸を込める。6発の弾丸だ。そしてそれを華麗に内側のポケットにしまっておく。そして、前を見据え、私たちは先に進む。


「―――――――――――行くぞ。」


 ロルを失ったの悲しみと、ロルと戦ってきた思い出を胸の奥に押しこんで、私は更なる地獄に進む……

 更なる、地獄へ――――――――――――――



PLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLL!!!


睦月の携帯端末が鳴り響く。


「睦月、誰からだ。」

「エ、エクサタ君から。」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

同時刻。エクサタと黒百賭(ゴールド)。

地面には、ガラスの破片や人間のバラバラ死体が無数に落ちている。


「ああ、そうだ、それが、あの空白の数分の間に起きた出来事―――――。」


 シルバー殿では無く睦月殿に電話したのは、彼女の方が俺の心の真意を読み取れるからだ。


「そうなのだ。だが、最初に言ったよう、これはあの忌々しいゴールドの口から出た事実だ。何処まで信頼するかは、あくまで二人の判断に任せる。

 じゃあ――――――切るぞ。」


 PI!


「フフ……素直にメッセンジャーになってくれるなんて。」

「この方がメリットを感じたからだ。貴様の言っていることが本当なら、百賭を倒す事が出来るかもしれん。」

「敵の敵は、味方。ボクたちにとってもキミたちにとっても百賭は邪魔者だからねェ。」

「そうだな、貴様は敵の敵。だが同時に"敵"でもある。」


 ゴールドの顔が変貌する。強烈な笑みで俺を深く見下しやがる。ゲス笑いだ。


「フフ!ボクは君の愛する愛する彼女を殺しちゃったからねー!」

「………そうだな。正真正銘の邪悪だ。一切の光筋すら刺さない、真実の屑。

 俺はお前を――――許すつもりはない。」

「ボクもキミは用済みだと思っている。メッセンジャーとしての役割を果たしてくれた君にもう利用価値は無い。それに僕が邪悪だって?フフ!ボクの存在と言うのはそんな善悪と言う安っぽい指標で計れる程単純ではない!

 僕は新アトランティスの王にして邪神の命令実行者!善も悪も関係なく、ただ運命線から降ってきた命令を脳で読み取り遂行する、この世で最も優れた目的達成の手段!!」

「………哀れな道具だな。」

「哀れなのは君だよ。ボクはただ命令を実行しただけだ。引き金を引く役を請け負っただけだ。引き金を引けと命令したのはあくまで僕ではない。だから彼女を殺したのも僕じゃなくてボクに命令を下したゴッフォーン様なんだよ。だから僕を恨むのは全くの筋違いなのさ。ボクは命令実行者、誰もこのボクを、恨む事など出来ない!!」

「――――――………」


 ゴールドが俺に対して銃を向ける。外見からして、百賭が愛用していたハンドガン"M1911"だろう。


「さてひとつ恐怖与えてやろう。キミの正体は第二次世界大戦後、ファシスト党の生き残りが設立したとされる不死身のカースアーツ使いだけで構成された戦闘組織『アヴァンティ』。そこで作られた実験体の"一体"だ。

 となると――――君の弱点は頭部の核だろ。」

-----------------------------------------------------------------------------

「が―――あっ!!!」

「あえて軽傷にスル――――あえてダ。」

-----------------------------------------------------------------------------

「……」(さっきの傷の回復で俺の正体を暴いたのか…)


 アヴァンティ。裏世界の組織の一つ。

 当時俺はごく普通の暮らしをしていた6歳の子供だった。

 奴らは、そんな俺を不死身人体実験の適正があると判断して、誘拐し改造した。

 その際に、奴らは俺の家族を皆殺しにした。


「終わりだ、不死身のタネも知れた、たかが中級能力者一体、この僕の敵ですらない。ねぇ君はボクに勝てると思ってる?」


 俺の人生はいつも理不尽なものだった―――――――――――


「やはり貴様はドクズだ。」

「――――」

「自分の意思を持たず、只命令を実行する生ゴミ以下だ。百賭やシルバーどころか、レンガ・ウーマンにすら劣る、最悪最無価値の、人形野郎だ。」


 ゴールドが目を大きく開く。そして口を開いて言葉を発する。


「あーあー、ここは褒め「貴様への復讐を果たすために、シルバー殿や睦月殿の協力が必要だと思ったが、今貴様の薄汚れた精神を目の当たりにして、確信した。」


 ――――――そう、こんな奴。今まで戦ってきた相手に比べれば……


「不要だ。お前を殺すのに、彼女らの手を煩わせる必要などないと心底思った。

 ゴミ掃除をしてやる。来い、虚無女。」

「…『ビショップ・オブ・ヘルスナイパー』。」


 Vooooooooooooooooooooooooooooo………



 VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOoooooooo………



 VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!



 ゴールドがあらぬ方向に三発の銃弾を放つ。三発の銃弾は直線状の軌道を外れ、自由奔放な動きでエクサタの周りを囲む。

 

「天命に従って無様な墓を建てよ!!」

「『センチビート』!!」


 三発の銃弾がエクサタに向かったと同時に―――センチビートを地面から足裏に放ちエクサタが大ジャンプする!

 それでもビショップ・オブ・ヘルスナイパーで撃たれた銃弾は軌道を変えエクサタを追ってくる。

 着地したエクサタが地面を蹴り、ゴールドに接近する。


(奴はアメジスト・イーグルの能力を、"銃弾の軌道を変える能力"だと言っていた。だが、それは奴の口から発されただけの言葉であり、確証を持てる真実ではない。この車道に散らばった、無数の人間の死体と、ガラスの破片、それらから推理するに、奴の能力は――――)


 ゴールドが銃をエクサタに向けながらバックジャンプをする。引き金を引くと同時に、ゴールドのいたあたりに落ちていたガラスの破片が一斉に舞い上がる。


「違うな―――あのネックレスの周りから離れた物質を、自由自在に動かす能力。それが―――――――――ビショップ・オブ・ヘルスナイパー。」


 ブササササササササッッッ!!!!!!!!それは一斉にエクサタの全身に刺さった!!!


「ガラスの破片如きでは、俺の脳を達することは出来ん。」


 腰に差していたレイピアを取りだし。地面を切り裂きながら走る。

 センチビートの効果によって、レイピアと地面の間に、斬撃を吸収した衝撃エネルギーの塊が無数に発生する。

 ゴールドも負けじと背を見せ走りながらビショップ・オブ・ヘルスナイパーを発動し続ける。だが奴のボディはすでに半分瀕死だ。


 追いつき―――――――――――――ドンゴン!!!!!!!!!

 エクサタの背中に何か大きいものが吹っ飛んできた!!!


「な――――!?!?!?」


 車だ!!!CARだ!!!AE85だ!!!


「馬鹿な――――事前に飛ばし―――ぐゥゥゥ!!!」


 ―――――…この状況を疑問に思ったエクサタが、ゴールドの姿を見て、全てを察する。


「くすくすのくす……」


 あの紫色のネックレス――――『アメジスト・イーグル』を所持していなかったのだ。ならば――――あのネックレスは………


(左か――――――――!!!)


 浮いていた、紫色の装飾を彩られたクソみたいなデザインのネックレスが空を飛んでやがる。


『ほう、不屈の肉体。あの攻撃を喰らってなお、まだ立ち上がるか。』

「不死身だからね。だけど、今ので全身の骨は砕け、暫くは動く事はノットだろう。」

『ふむ、ならもう一撃食らわせるか。』

「いいや、既に、しもべどもがね。」


 エクサタの周りには、いつの間にか洗脳兵達が立っていた。


「――――。」

「わがしもべたちよ!!その男の頭部をターヘルアナトミアの図解の如く分解しろ!!」

「黙れ―――――――――――」


 エクサタの服の下から黄色い光の塊が無数に出現する。そう、戦う前からすでに忍ばせていた衝撃エネルギーだ。無数の衝撃エネルギー全身から放たれ、洗脳兵達を吹き飛ばす。


「無駄だ。幾ら吹き飛ばしても――――」

「黙れ―――――」 


 建物の中から数人の洗脳兵が姿を現す。


「弾切れ。今ので衝撃エネルギーのストックが尽きたか?では死刑執行だな。死んでみせろ、あのニーズエルと同じように……」

「黙れ―――」 

「嗚呼虫唾が走る!!嗚呼状況をわきまえろ!!!僕は王!貴様は罪人!黙るべきは貴様の方だ!!!」

「ニーズエルの声が聞こえない………」

「は????????????????????????????????」


 かかととつま先だけで、仰向けの状態から立ち上がる。


「ニーズエルは今も生きている。体は失ったが、今も俺の心の中で………」

「現実逃避だねえ。まだ妄想を見ているのか?」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………

 無数の洗脳兵と、無数の無機物の銃弾が、エクサタの周りを囲む。


 ―――――……だが、勝算はある。

 今ゴールドは、百賭の体のダメージで、瀕死の状態だ。それはつまり、奴の言っていたように知的能力(IQ)が大きく低下しているという事。恐らく、奴自体には戦闘能力はあるまい。だが今の奴は人並み以上の頭脳戦が出来ている。

 ならば、何故奴は頭脳戦が出来ているのだろうか、

 俺の推理では、奴らの頭脳は、あのネックレス、アメジスト・イーグルだ。奴が直接頭を使ってゴールドを操っているのだ。

 つまり、あのアメジストを破壊すれば、勝負は――――――つく!




――――――――――――――――――――――――――――つづく。






―――――――――――――岐阜市でのDDF争奪戦


セクンダー・グラン     DDFピース所持数―――――1

夜調牙百賭          DDFピース所持数―――――4


















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