Episode16 ストーン・トラベルは終わりを告げる その①

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

<突然の現状解説!!!>

シルバー   「現在ビルの2Fで百賭と交戦中!百賭を倒してDDFを手に入れる!」

百賭     「現在ビルの2Fでシルバーと交戦中!

        シルバーを倒してDDFを手に入れれば

        記録の再生によって全てのDDFを揃え願いを叶える事が出来る!」

睦月とエクサタ睦月「シルバーのいるビルの中に潜伏し、ロルと通話しながら

        シルバーをサポート中!」

ロル睦月     「どこか遠くから睦月の位置から150m内の状況を

        睦月たちに無線で知らせているぜ!」

エメラルド  「シルバー達がいるビルの300m先にある建物の屋上から

        銃弾の軌道を制御できるスナイパーライフルで

        シルバー達を狙撃するぜ!位置もわかる!」

ゴールド   「どこかに潜伏中。」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

<バキュン!!!バキュン!!!>


 俺の名はエメラルド・スペード。ゴールド様の為だけに生きる四天刃の一人。

 とはいっても、そんなに窮屈な人生は歩んでいなかった。親父の資産がかなりあったので比較的自由な生活が出来たし、武器、メシ、バイオリン、仲間、欲しいものは何でも手に入った。

 

 だが、一つだけ手に入らなかったものがある。

 そいつは、女だ。アイツは、青天の下に咲く桃色の桜の花びらのように可憐で、オオルリの鳴き声のように俺の心を躍らせる。


<バキュン!!!バキュン!!!>


 だが、この恋は認められない。性別と言う概念を汚らわしいとしている新アトランティス人の掟では恋なんていう下等な行為は許されない、それが宿敵であったらならなおさらだ。それに今、これ以上の栄誉があるか。俺の活躍によって、ゴールド様は5つのDDF全てを手に入れる直前まで来ている。


<バキュン!!!>


 だから、この銃弾が俺の気持ちだ。


<バキュン!!!>


 この銃弾が花束だ。


<バキュン!!!>


 この銃弾が愛だ。


 ――――……

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 血まみれのシルバーと百賭。

 互いに片腕が千切れ落ちている。満身創痍と言ったところだ。


 シルバーは百賭のいる部屋から一歩出て、壁にもたれかけ、携帯端末を耳に当てている。


「ハァッ……!!ハァ……ッ!!

 睦月―――この敵は今どこにいる?ロルのサーチ範囲内か?」


『う、うん、"ロルさん"によればこのビルの屋上からライフルを撃ってるみたい…』


「このビルの屋上だと…?」


『うん、だから、今私とエクサタ君はそこに向かってるの。』


シルバーの背後を二発の銃弾が通り抜ける。

弾丸の軌道が曲がり、二弾とも百賭に向かって飛んでいく。


百賭はそれをホワイト・キネシスで弾き飛ばす。


「ゲホッ……

 気を付けろ―――スナイパーは恐らく、エクサタやニーズエルを襲った、

 『四天刃』とやらの一人―――いや二人かも…」


『ふ…二人?』


「弾丸の軌道を自由に制御できる能力…

 だけどその弾丸の軌道…私達のいる部屋にたどり着くまでは

 正確な動きをしているんだけど、動いている物体には確実には命中しない。

 高確率で動く前の位置に命中する。おそらく、弾丸自体には"目"が無いんだ。

 とはいっても、なんとか急所へのダメージは避けられるぐらいで

 余裕はないがな……」


『何か別の方法で位置を探っているとか…例えば――

 ロルさんの『ザ・レーダー』のように…』


再度シルバーの背後を銃弾が通り抜ける。

弾丸の軌道が曲がり、二弾とも百賭に向かって飛んでいくが、

ホワイト・キネシスで全て弾き落とされる。


「銃弾の軌道を操る能力者とサーチ系能力者のコンビの可能性もある。

 なんにせよ――慎重に行かなくてはならない。」


『―――わかった。シルバーの方は、大丈夫なのか。』


「大丈夫だ。"スナイパー"の狙いは、どうやら私では無く、百賭の方らしくてな。

 ―――取りあえず、電話切るぞ。」


シルバーが、百賭の方を向く。


(百賭も、銃弾の動きに対応してきているな。


 奴はホワイトキネシスを動かすエネルギーに100%のパワーを使っている。

 つまり、今奴は時を再生する能力を発動できない。)


瞬間、シルバーが殺気を感じる。

百賭の現状を確認すると、姿が見えない―――いや……


「ふーっ!ふーっ!」


シルバーが一歩退く、すると……


ドンゴンッ!!!!


二人の間を遮る壁が爆発ッ!!!砕けた壁の散弾がシルバーに襲い掛かるッ!!

来た!!

ついに百賭が攻勢に周ってきた!!!


ガキンッ!!


シルバーがデモニック・スカーフで散弾をすべて叩き落とすッ!!


「クッ……」


ガッ!!!!

デモニック・スカーフとホワイトキネシスがぶつかり、互いに押し合う!!

シルバーと百賭が最後の対峙をする――――!!!


「押し込めない!バカな、パワーは私の方が、いや…!」

「お前のデモニック・スカーフのいなし方、分かってきた。

 パワーは貴様の方が上だろうが…やはり経験。

 長い戦場での経験で得た精密さとコントロールがあれば

 貴様のスカーフにも十分対応できる。もうその悪魔の刃は

これ以上押しこめん……」

「…!だが、アンタの白槍もこれ以上

押し込めないようだな…」


ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ!!!!!!!!

4つの槍と剣がぶつかり合う火花ので、血まみれの光と影が距離を狭める。


「超常の力は同一だぞ――――

 これではカース・アーツも悪魔の力も役に立たない……

 ならば、ここで勝敗を決するのは―――」

「肉体の力―――」


百賭が自分の上着に手をかけ、引きちぎって無理やり脱いだ。

内側から黒い無地の長袖のシャツが露出する。


「いや、意志の力だ!!!」


ドンゴン!!!!

二人の拳は交差し互いの顔面に重き一発が!!!!


「ぐおおおおッ!(マズい、パワーは百賭の方が高い!)」

「皮肉だなシルバー!こうしてカース・アーツの頂点を極めた能力者同士の

 最期の対決が、ガキのケンカだとはな!!」


シルバーの全身が前後に揺れている…

そしてしばらくすると前に倒れて百賭けの服の襟をつかみ―――


「フーッ!フーッ!おおおおおおっ!」


肩を殴るッ!!!


「生涯の宿敵・夜調牙百賭!!!私が会いたいのはアイツなのに

 お前はそれを邪魔しやがる!!!ならば殺すしかない!!!」

「いいぞその目その顔その気迫!!

 だが貴様の体は所詮3500年前の旧産物!!

 この百賭が一歩リードしておるわ!!!」


バキュン!!!バキュン!!!

エメラルド・スペードの撃った弾丸がシルバーと百賭に近づく―――

しかし、シルバーがそれをデモニック・スカーフで叩き落す!!!


その隙を見て―――百賭がホワイト・キネシスを

シルバーに叩き込もうとするが――かわす!!


「ニィ…」

「………」

「ヌアアアア―ッッッ!!!」


百賭がナイフを取り出し、シルバーの頭に向ける。

それを確認したシルバーを手の甲を百賭けの方に向ける。動脈を刃で切られないように構えたのだ。


「ハァッ!!!!」


力の限りを尽くしてシルバーに向かってナイフを突きこむ!!!!

しかしシルバーはそれを腕で受け流してかわす!!!ナイフはシルバーの背後にあった壁に刺さり砕け散る!!!

そして―――二人は互いの服の襟をつかみ、互いに強烈な頭突きをかます!!!


「「……ッッッ!!!」」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「馬鹿な――――外れたッ……」


―――岐阜県、シルバー達のいる場所から300m離れたビルの屋上。


「ま、まただ………防御された………」


汗をかいて焦るエメラルド・スペード。


「ふーっ……ふーっ……落ち着け……」


エメラルドが自分の胸に手を当て深呼吸をする。


「――――片や、仲間のサポートがあったとはいえロンカロンカとレンガ・ウーマンを知略で倒した銀の怪盗。

 片や、マッレウス・マレフィカルム最強のカースアーツ使い。

 当たらない……アイツら……既に俺達のスナイプを完全に見切ってやがる。

 俺如きが付け入る隙など無いという事か……?

 だが、落ち着け……まだ打つ手はある………」


―――岐阜県、シルバー達のいる場所から300m離れたビルの屋上。


「ねぇ、どうなってるの。

 なかなか、決着がつかないようだケド?」


空を飛ぶオウムが、エメラルド・スペードに語りかける。


「奴ら想像よりかなりやるみたいですぜ。ですが大丈夫です御大将、既に――奴らを倒す法はある。」

「ふぅん。」


エメラルドの肩にオウムがとまる。


「まさか奴らのどちらかが倒れるまで粘った所で銃弾を命中させて漁夫の利を得ようとする作戦ではないよね。」

「まさか、もう銃弾は通用しませんよ。この能力は長距離攻撃は出来るが攻撃パターンが限られている。既に動きは読まれているでしょう。」

「それがわかっているならまあイイ。そんな事より―――ボクもそろそろ動く事にする。」


 キュイーン!

 Z戦士が他作品のキャラを犯しているクロスオーバーエロ画像を初めて見た時のような驚きショックがエメラルドの心を襲った。瞼を大きく開き、正面を見据える右目の向きをそのままにしながら、左目で肩に止まったオウムを注視する。


「なんですって……王<キング>―――ゴールド様が直接動くのですか?」


「二人がくたばった後、近くにいる睦月やエクサタはDDFを回収するために必ず先手をうってくる。そうなると厄介だ。指導者を失ったネズミは何をしでかすかわからんからな。」

「成程、追い詰められたネズミは猫をも噛む…

 ですがそれならゴールド様直々に向かう事もないでしょうよ、

 洗脳兵を送りこめば…。」

「いや、奴らでは力不足だ。

 人間の限界を無視した動きが出来るとはいえ

 バフボトル(増呪酒)を飲んだあいつらに比べると足も遅い。それに―――――」

「それに…?」

「例の…東結金次郎が、この決戦の地に向かってきている。」

「な………」


Vooooooo…!


「馬鹿なッ!!あの男は脚をやられ再起不能になっていたはず!!」

「ああ見えてもアイツは三羅偵だ。何かしたのだろう。

 取りあえず東結は今、ボクの洗脳兵を氷で束縛しながらこの決戦のバトルフィールドに一歩一歩近づいてくる。まだ君の"サーチ範囲外"ではあるが……」


 スゥッ……っとエメラルドが息を吸う。


「奴の能力の弱点はわからない。奴と怪盗共の戦いはボクが十字を発動させる前に終わったからね。ここにきて本当に予想外だよ。99%当たる宝くじでスカを引いた気分だ。ハッキリ言って今は百賭やシルバーより警戒すべき相手だ。」

「ふうむ―――それならば直接向かうのも納得が出来るな…。

 どうします、『ビショップ・オブ・ヘルスナイパー』を持っていきますかい?」


 エメラルドが両手に持った銃についている紫色の装飾を手で掴む。


「それが無ければ君は狙撃が出来ないだろ。」

「しかしゴールド様…」

「大丈夫さ、先祖様達の事を考えると、体に熱いパワーが沸いてくるんだ。弯曲十字とこの体だけでも十分やれる。いざとなればシルバーのような奥の手を使えばいいしね。」


「……わかりました、御大将の意のままに……。」

(しかし、東結か……!!本来ならオレが戦うはずだったが……)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

百賭の蹴りを受け、シルバーがその場に倒れる!!


シルバーが倒れる――――やはり生身での戦いでは最強の探偵を生み出す研究の過程で生み出された百賭の方が一枚上手なのだ。


「………この俺を相手にしてここまでよくやった、というべきか………」

「――――――」


VOOOOOOOOOOOOOOOOooooooooooooooooooooooo


「絶対正義の下となれ!!シルバー!!!」

「――――――――

(あの女は、絶対に折れなかった。誰よりも強い精神を持っていた。)」


百賭が倒れたシルバーの顔面目掛け殴りかかる!!!

しかしシルバーは直撃する寸前に手を掴んでそれをガードする!!!


「何……?」

「第二………ラウンドだ――――」


鷹のように、悪魔のように、

そして鋭くとがった目で――――銀の怪盗は敵の瞳の奥を見据える。


「馬鹿な、お前にはもう、そんなパワーは残っていないはず――

 それにその絶望を知らぬ鷹のような目―――まさか」

「――――――」


シルバーが手を離し、百賭けに向かって歩き出す………


「――――!!!これは!!!」

「――――――――――――

(あの化物は、誰よりも強い殺意を持っていた―――!!!)」


シルバーが血が出るほどに拳を握りしめ、百賭にアッパーをかます!!!


「この憎しみが込められた攻撃動作――――――!!!」

「おおおおおおおおおおおおお――――ッ!!」


命中した!!百賭吹き飛ぶ!!!


「乱渦院論夏とイリーゼ・ライシャワーッッ!!!!」


(………ならアイツらを心の底から心底憎む私も

 ――勝たなければならない―――!!!)


 百賭がふわっっと着地し、シルバーの顔を見る。


「……!」


 ―――先ほどまでのようなロンカロンカのように鋭くとがった目は、



シルバーが吹き飛んだ百賭に回し蹴りを横腹にかまし、

取り出した石のブーメランを百賭の右肩に突き刺す!!!!


「あの闇の者どもにさえ敬意を払うのか…!」

(――逆境になればなるほど、強くなるこの精神力―――

 決して許せない憎き強敵さえにも敬意を払うその力への渇望―――

 本当に面白い人間だ。次はどいつに敬意を払う……?

 東結か…?この俺か…!?それとも百賭か…!?)


百賭がナイフを取りだし、シルバーの腹を突き刺す!!

シルバーは瞬時に刺された部分を石化し、ナイフを固定するッ!!


「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ」」


「ブッ殺してやる!!!」

「死ねい、シルバー!!!」


ブシュウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!


・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


銀の怪盗が、脚を崩す。


「ぐっ……………!!」


ドサッ……

―――――――ブーメランを掴んだまま、両膝をつく。


「あと少し……あと少しなんだ―――」

「馬鹿な、まだ生きている―――なんだお前は……」


 百賭が、シルバーの顔を見る。

 未来ある子供の用に奥行きと輝きのある瞳。それでありながら強い勇気と哀しさを感じられる顔つき。ロンカロンカとも、レンガ・ウーマンとも、ましてや自分ともにつかない顔つきであった。見覚えのない顔つきであった。


「今のお前は、誰だ?誰の動きを模倣している――?誰に敬意を払っている?」


 ドクン―――ドクン―――百賭の心臓が高鳴る。


「さぁな……」

「怪盗シルバーか……この俺をここまで追い詰めたのは貴様が初めてだ…」


 白衣の天使も、体のバランスを崩し、仰向けになってその場に倒れる。


「ハァ……ハァ……

 百賭、何故トドメを刺さない…何が目的だ……ここに来て、アンタほどの精神力の持ち主が、勝利の余韻ってわけでもないだろう………」

「さぁな、大量出血で頭がどうかしているようだ―――。」

「―――」

「……シルバー…俺は―――百賭じゃあない。

 お前が気づいた通り、俺は…百賭が作りだした、2つ目の人格……」


 フフッ……と百賭が笑う。


「エンゲル……だ。」

「……白衣の……天使…………」


「フフ……」

「ククク……」


百賭けが、そおっとシルバーの持つDDFに手を伸ばす。



ドンゴ!!


エンゲル顔面を蹴られ吹き飛ばされる!!


「どおおお!?」

「フッ……バーカ…探偵王ともあろうものが隙を見せやがって…」


シルバーがエンゲルのポッケからDDFを抜き出す!!!

DDFを懐にしまったシルバーがデモニックスカーフを発現させ、黒い刃で地面を刺しながら、地面を這いずり回る。


「シ……シルバー!!」


「この戦いには、勝てなくてもいい……勝ちたいがそれは目的ではない…

 私には…まだ先があるんだ…DDFで願いを叶えるっていう最終地点がな…

 悪いがアンタとここで一緒にくたばるなんて御免中の御免……」


シルバーがビルの外に出る……


(このまま逃げられれば……

 だけど、レンガ・ウーマンに続き百賭との連戦なんて……

 予想外だ……体ももうぼろぼろ……勘弁してほしいよ…

 でも、なんで私にとどめを刺さなかった……)


<ヒュン!!ヒュヒュヒュン!!>

弾丸の風を切り裂く音がシルバーの上方を通りすぎる。


(今の弾丸の軌道、百賭、いやエンゲルを狙ったものではない―――)


―――――――――――――――――――――――――――

<ビル内>


エンゲルが、壁にもたれて座っている。


(……―――大量出血のせいか、頭が、おかしい……

 物事を考える力が落ちているのを感じる……)


エンゲルの瞼が――落ち始める……

肉体の疲労とダメージの影響か、頭は知れぬ眠気に支配され始めていた―――


しかし――――――――

彼女は血が出るほどに手を強く握り、痛みの力で自我を取り戻していく。


エンゲルは、再び立ち上がる――――


<ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン>


「弾丸が風をきる音か――――」


百賭がホワイトキネシスを出現させ、銃弾を叩き落とす体制に入る。


<ガンガンガンガンガンガンガン!!!!!>


しかし銃弾は百賭の方には向かわず、百賭の見えない場所で、

何か別のものに命中した!


「ん……銃弾が何か硬いものに命中した……?いや、これは――」


<ガンガンガンガンガンガンガン!!!!!>


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……………!!!!!!!!!


何たることか…

揺れている―――建物全体が、めっちゃ揺れ始めている!!


「……!

 まさかあのスナイパーめ、俺達への攻撃をもったいぶっていると思ったら、

 こういう事だったか。


 先ほど、シルバーとの戦いで俺はビルを崩すために2階のあらゆる箇所を

 爆破していた。そう、後一針で崩れると言ったところまでな………

 なるほど、奴はそれを利用して、この私を圧殺するつもりだな……」


天井が崩れ、百賭に向かって崩れ落ちる。


「ぐ………あああッ!!!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「だ――――誰もいないぞ――――――!?

 それにこの揺れッ!!!」


睦月とエクサタがロルと通話しながらビルの屋上に出る。

しかし、無人。ロルから聞いていた情報とは違い、人影は無かった。


「ロルさんッ!!これは一体!?」

『入れ違いだよ。』

「えっ……」

『先ほどスナイパーがそこの最上階から飛び降り、1階に下りたのを

 ザ・レーダーで確認した……遅かったな……』

「まさか―――」

『つい先ほど、百賭とシルバーの嬢ちゃんが1階で殴りあって、

 同時に倒れるのが見えた。

 恐らく、敵さんはこのビルが崩壊する前にDDFを回収するつもりだぜ。』

「そ、そんな――――」


「睦月……どのッ……!?」


「そんな!!!!!!!!」

―――――――――――――――――――――――――――

<ビル内・シルバー視点>


 シルバーの視線は、石がグルグル崩れ去る感じの轟音を立て小刻みに揺れる、背後のビルにくぎ付けになっていた。目を大きく開き、口を閉じることは出来なかった。


「………エンゲル。」


 シルバーが傷口に手を当てる。

 

「悪魔の力は……母体であるこの私が死なないように、魂の寄生先であるこの体が死なないように、私の傷を徐々に再生させていく。(ちぎれた腕はもう戻らないが…)」


 携帯端末を取りだし、耳と肩の間に挟む。

 歩き出す――――一歩一歩前へ……


「睦月……聞こえるか?」


『シ、シルバー!!大丈夫なのか!?』


「ああ……なん、とか………そんな事より、お前等の方はどうだ?」


『だ、大丈夫だよ……スナイパーは、屋上にいなかったみたい。

 今は隣の建物の中にいる。』


「――――そうか。それはよかった。でも警戒はしてね。」


 銃を取り出す。そして、口を閉じ背後に向く。


「そういえば、睦月……レンガウーマンが持っていたあのDDF、

 拾うのを忘れてしまっていたんだけど……持ってるか?」


『ああ。渡そうと持ってたんだけど……』


「――――いや、それはお前が持っていてくれ。」


『えっ…』


「えっ、ってなんだよ。」


『いや、シルバーの事だから、すぐにでも渡せって言うのかと……』


「――――私はさ、この10年間、ずっと一人で戦ってきたんだ。

 大切な人を失う痛みを知っていたから、

 誰かと組むというという行為をひたすらに避けてきた。」


『…』


「ロル……あいつとは7年の付き合いがある。

 何度も助けてもらったことがあるし、信用もしてるが……

 彼は私がどんなに危険な目に合っても、安全な所で私を見守るだけだ。

 責任を共有できるような関係ではない―――」


シルバーが足を崩す。

そして、にやりと笑う。


「今回が初めてだったんだ。睦月やエクスそしてとニーズとエクサタ。

 互いの命と責任を背負うような闘いをしたのは……」


『シルバー…私は……』


「今日一日、短い間だったが、御前達の事は本当に頼もしい奴らと思っていたよ。


 ――だから睦月、私は死なない。必ず生きて帰ってこようと思っている。

 だがもしも、私の身に何かあった事を察知したなら――

 そのDDFは、お前とエクサタに任せる。


 ここを離れて、パスポートを作ってハワイに行け――――

 そして、キラウエア活火山の火口に重りを巻いたDDFを投げろ。

 それで、時間稼ぎにはなる。

 その後は顔と名前を変えて奴らやマレフィカルムから

 逃げながら生きていくんだ……

 ロルも頼ってやってくれ。」


『それって………』


「まぁ私も頑張るさ―――体はもうボロボロだが、そうならないよう

 精一杯あがいていくよ。」


『――――初めて、自分のやってきたことが、報われた気がするよ。

 きっと、私はずっと待っていたんだ。』


 睦月の声が、荒げる。


「……いつから。」


『凶羅たけしの襲撃―――いや、お前に初めて出会ったとき……

 9年前、同じ11歳なのに――既に怪盗になっていたお前の背中を見た時から……』


「そうか、懐かしいな…。」



<ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!!!>


 上部から、3発の銃弾が落ちてくる。


<キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!!!!>


 それをデモニックスカーフで、すべて叩き落とす。


「ロルと直接通話がしたい―――すまないが、電話、切るぞ。」


『わかった。シルバー、私もお前の事を信頼している。』


「―――ああ。」


ピ!!!!!!!!!!


そしてシルバーロルに電話かける。

そして、辺りを見回す、辺りには、無数の洗脳兵がいた…

シルバーはすでに囲まれていたのだ。


「ロル……」

『………嬢ちゃん。』

「敵の位置……スナイパーの位置を教えてくれ……」


 ジョッ!!!!!!

 シルバー血を吐く。


「ゴホッ…ゴホッ…」

『シルバー、大丈夫か…?』

「五月蠅い馬鹿…時間が無い、さっさと教えろ……」

『シルバーの嬢ちゃんよ、アンタは俺の事をどう思っている。

 俺とアンタはもう7年の付き合いだ。』

「―――何の話だ。」

『アンタはさっき、この俺の事を―――

 ただ安全圏から見守ってるだけの男だと言った。』

「……聞こえていたか、気に障ったならすまない。

 だが、さっきも言ったが、お前の能力とお前の事は誰よりも信用している。」

『そうか………すまないな。』


 通話先から、息を吸う男が聞こえる。


『スナイパーならすでに俺のサーチ範囲外だ―――だが……

 気を付けろ、一人、変な奴が近づいてきている。』


 周りの洗脳兵達が、一斉に真上を向く。


『方向は4時。』


 洗脳兵の顔を踏みつぶしながら一つの影が近づいてきている。

 シルバーは目を大きく見開き、息をのんだ、なぜなら、そいつの顔が、自分と瓜二つであったから……そう、エクサタの話はウソでは無かった。シルバーは洗脳兵の頭を踏みつぶしながら歩いてくる影を―――洗脳兵達を指揮し、ニーズエルを殺したエンペラー・ゴールドだと一瞬で理解した。


「テメェがニーズエルを…………」

「宿敵、オルゴーラ。その子孫――――プレイマー・グラン。」


 ゴールドがシルバーを見下すように見る。


「ボクは王。キミは兵士。なら王と兵士の違いとは、なんだ。」

「……」


 シルバーが銃を構える。


「兵が人を殺すには力が必要だ。

 武器を振るったり相手を殴ったりする体力や腕力。

 逆境を切り抜ける知力に判断力。


 だが王は違う。例えばこのようにするだけで――――」


 ゴールドが右手を頭の高さまで上げる。


「……なんの力も使わず、殺したい奴を殺せる。」

「…!」


 4発の銃声が聞こえるいずれも、自分の方向に向かってきている。


『嬢ちゃん、上からだ。銃弾が上から2発やってくる。』

「銃弾の軌道なら、読める。教えなくてもいい。」


 シルバーは、ロルの支持通り……デモニック・スカーフで上方を防御する。

 しかし――――――――――


 バッ………!!!!!!


「え――――――」


 シルバーが背後から2発撃ち抜かれる。


「ロ、ロル……上からじゃ――――」

『嬢ちゃん………次は、右から二発。』


デモニック・スカーフで右方向をガードする――――


しかし、銃弾は左からやってきて、シルバーの喉と胴を貫いた。


「ロ……ロル………」


シルバーが倒れる。

そして、そのそばにゴールドが駆け寄る。


「常識とは、プライドを殺す剣<つるぎ>だよ。」


しゃがみこみ、シルバーの持っていた二つのDDFを回収する。


「君には感謝してるよシルバー。これでマレフィカルムは戦力を失い、DDFも4つ揃える事が出来た。もう僕たちを止められる者は誰もいない。」

「か、感謝…だと…?」


―――――――――――――――


「我々がDDFを集めるにあたって一つの懸念点があった。

 マッレウス・マレフィカルム、世界最大の探偵協会にして

 最多数のカース・アーツ使いが集まる巨大組織だ。

 厄介な事に奴らもDDFを必死に集めていてな、

 正直僕たちがやられるのも時間の問題だったんだ。」

「な、何を…」


ゴールドがシルバーの後頭部を踏みつける。

頭が狂う。


「がっ…!」

「そこでだ、僕は宿敵である君に賭けてみる事にしたんだ。

 四天刃エメラルドに7年間見張らせていた君にね。」

「7年…まさか…」

「今頃気づいても遅い。無線サポート怪盗ロルは僕の最大の腹心

 四天刃エメラルド・スペードだったんだよ。

 あいつがお前に協力的だったのは全てこの日の為だったんだよ。」

「なんだって…」


シルバーが左手を伸ばす…ゴールドはその手をもう一方の足で無慈悲に踏みつける。


「作戦は簡単にして単純だった。

 お前かアルギュロスに、DDFをわざと盗ませて、

 マレフィカルムと衝突させる事。

 DDFをもつお前達とマレフィカルムがぶつかれば

 ロル経由で三羅偵や百賭の能力情報が我々に入ってくる。

 その情報があれば僕達はマレフィカルムを倒す事が出来る。」

「まさか、新潟宝石博物館のDDFは…」

「あのDDFは、君達を誘き寄せるために僕がわざと提供したものだ。

 フフ、感謝しろよ、なぜマレフィカルムはDDFを追っていたのに

 新潟に三羅偵を派遣しなかったと思う?ガバガバだったからではない!

 我々が必死になって奴らの交通手段を妨害したからだ!ロルにも協力させた!

 君は僕達がいなければこの戦いの舞台に足を上げる事さえ出来なかった!」


ああ、頭が狂う…


「全て…貴様らが仕組んだことだったのか…!」


「フフ、もしや自分の実力で手にいれられたというストーリーの方が

 君にとってはよかったかな?


 しかしここまでの成果を上げてくれるとは思わなかったよ

 君は予想以上の働きをしてくれた…


 そして…無様だねシルバーw

 君は神のために戦ってた筈なのにいつの間にか僕たちのために戦っていたんだ…」


「ゴ…ゴールドォォーーー!!!」


「アハッ…アハハハハハハハッ!!!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ゴゴゴゴゴ…………!



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……………!!!




ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……………!!!!!!







■  ■■               ■         ■

■  ■         ■      ■■        ■

■            ■            ■   ■

■■■      ■■■■■■■          ■   ■

■ ■■        ■■           ■    ■

■          ■ ■          ■     ■

■         ■  ■        ■■       

■        ■  ■■      ■■        ■

(ゴン)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

             最期の日 PM1:56 

               ビル・倒壊


         シルバーと百賭の生死――――不明

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ビル倒壊・NOW!

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


  1


 公園に時計台が立っている。時計の短針は2時の方向。いつもなら、人がにぎわうこの岐阜県岐阜市だが、全ての人間が洗脳されている為か今日はしずかであった。

 ビルの瓦礫の中の柱に、怪盗シルバーが十字に張り付けられている。半目のまま、地面の方をずっと見据えている。死んではいないようだが、何か、無気味だ。

 磔の4m前には瓦礫の玉座に脚を組んで座るエンペラー・ゴールド。そしてエメラルド・スペード。


「ゴールド様、位置が少しズレてしまってる。

 そのまま奴隷たちを八時の方向に進ませて。(エメ)」

「……(ゴ)」


 指示を聞くとゴールドは、瞬きの一瞬だけエメラルドの足元を見て、目を狐のように細めながら頬杖を突きはじめる。何を考えているのかは、誰にもわからない。

 暫くすると、彼女(彼?)の表情に変化が生まれる。2度の息を吐いた後であった。目は大きく見開かれ、口角が若干上がりはじめる。

 そして頬杖をつくために握っていた拳を緩やかに開き、胸の前に付きだし、勢いよく振り上げる。


 すると、目の前の瓦礫が崩れ、人の群れが飛び出してくる。全員血まみれで、目の焦点はあっていない。


「ぬあああああああああああ!!!」


 一番先頭の人間の右手には、虹髪の女の首が握られていた。絶望と恐怖の表情をしている。


「フ…これでマレフィカルムの生き残りは全て始末した。フフ、やっぱり役に立つねェ――君のその、特定位置から100数m内のあらゆる物質の位置を完全に把握できるそのサーチ系能力………」

「フフ…これ以上ない褒め言葉ですよ。で、どうします?

 俺の能力、『クイーン・オブ・ヘルレーダー』は、既に最後のピースを捉えてますぜ。」

「慌てるな、奴らに逃げ場所は無い。」


 ゴールドが左腕を掲げ、親指の先を背後の柱に縛りつけられたシルバーに向ける。


「だから必ずやってくる。」



 同時刻。

 とある一軒家のコンクリートガレージの中に、二人の男女が立っていた。シャッターは閉ざされている。

 女は俯きになりながらガレージの壁に手を添え、男は腕を組みながらその横の壁にもたれている。

 睦月とエクサタだ。二人とも、ビルの倒壊から逃れる事が出来たのだ。


 睦月が左手に持ったDDFをぎゅうっと握り締める。そして右手でガレージの壁に触れる。エクサタが耐性を低くして睦月の顔を覗く。睦月は体を小刻みに震わせ汗をかいていた。口を強く閉じ、目を細めていた。


「シルバー………。」


 睦月が顔を上げ、左手を前に突き出す。すると、ダークウォーカーの能力が発動し、石床の手の影がかかっている面に無数の蟻が出現する。左手の中指をガレージ内の車の前に突き出すと同時に、蟻たちはその方向に走っていった。


「……」

「ダークウォーカーの目を通して状況を見ていたが、状況はさらに悪化。奴らはついに4つ目のDDFを見つけてしまった……シルバーも人質にとられてる…」


アリが車の中から折り畳み傘を持ち出し、睦月の服のベルトに挟み込む。


「エクサタ君、協力……してくれるか?」


聞くとエクサタが携帯端末を取り出し、ポチポチとボタンを押し始め、画面を睦月に見せつける。


<―――……睦月殿、一つ疑問がある。>


「?(落ち着いたのか、また喋らなくなったな…)」


<何故…シルバー殿を助けようとしているのだ?

 彼女は何れ死ぬ。DDFで誰かが願いを叶えた時点で、その命は燃え尽き果てる。>


 ぱちくりと目を開け、自分の頭を撫でる睦月。


「なら、どうしろと。」


<DDFを集める事、それが我々が何より優先すべき事だ。>


「……私は、シルバーをあのまま死なせておく事なんて出来ない……

 死は単純じゃない…死にも格差がある…

 絶望の中一人ぼっちで死ぬのと、暖かい腕の中で看取られ

 笑いながら逝けるのとではどうしようもない程の差が…」

「――――!」


 互いに相手から視線を反らす。


(ニーズ………)


「?」


<―――いい案がある。

 DDFはどんな望みでも叶えられるなら……その伝説が真実なら、

 何より優先すべき事は………DDFの全回収……

 そして、肝心なのは、その願い……>

「?????????????????????????????

 何を考えている――――エクサタ君。」


PLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLLL!!!!!!!


「あっ、ロ、ロルさんから!!」


 睦月が携帯端末をポケットから取り出し、耳に当てる。


「ご、御免なさい、通話、切れちゃってたみたいで……」


『いや、こちらから会話は聞き取っていた。

 そういえば睦月の嬢ちゃん、シルバーはクラーケって悪魔に取りつかれていたと

 そう言っていたな。』

「うん、レンガ・ウーマンは確かにそう言っていた。」

『なるほど、それなら…』

「ん?」

『後睦月、お前達の潜んでるガレージだが…そこに潜むのは

 マズイかもしれん。』

「…何かあったのですか。」

『耳を澄まして辺りの音をよく聞き取れ…車が突っ込んでくる…』

「!!!」


ンキュップィイィィィ―――――ッッン!!!!

ドンゴン!!!


ガレージのシャッターがひしゃげた!!!!!


「――――く、車も操れるのか!?いや、人間を操作できるのなら、

 人間の乗り物は何でも操れるのか!!」

「…」


ひしゃげシャッターと地面の間に20cmほどの隙間が出来、間から洗脳された人間たちが強引に入ってくる。

二人が静かに後ずさりながらガレージの裏口に近づく。


「裏口はガレージの上の家に繋がっている。ロルさん、状況は?」


『家の中には洗脳された人間が30人。待ち伏せているぜ。全員武器持ちだ。』


「…」

(何より外に出れば弾丸の起動を操るスナイパーの狙いうちにされる…)



 場面は再びゴールドたちの方に移る。


「タイミングもぴったりですぜ。例の東結がついに感づいたようだ。」

「作戦通りか。フフ、この逢う瀬を待っていた…

 これで睦月たちと東結は逢う瀬する…」

「…そしてそれこそが、我々の目的。我々の勝利への第一歩!!」

「フフ、我々新アトランティスの民はゴッフォーン様の意思の道具だが……

 彼等はまさに道具の道具だよ。」



 キュイイー――――――ン!!!!!

 睦月たちの目の前、シャッターの下にいる洗脳兵を氷のツタが包み込む!!!


「……!?」


 別の氷のツタが、シャッターを持ち上げる。すると、一人の男の姿があった。

 その男、外見は40代ぐらいのファッションセンスがゴミのオッサンだった…

 睦月が咄嗟にDDFをそいつに見えないように隠す。


「だれっ……いや、貴方は……東結金次郎!!!!」


「――――俺を知ってるのか?」


「テレビで見たことがある……」


「成程ね。」


 東結が、ライターを取りだし、タバコに火をつける。

 睦月たちが、一歩下がる。


「その間合いの取り方、アンタらカース・アーツ使いだな。

 しかしマレフィカルムの探偵じゃない。顔を見たことが無いからな。

 そっちのイケメンなんかは一度顔を見たら絶対に忘れるこたぁねぇ。

 シルバー達の仲間か。」


 東結が睦月に向かって指を指す。


「……!!」

「そいえばそっちのアンタ、俺がここに入る時咄嗟に何かを隠したな。

 黒っぽい何かだ。俺も見覚えがある何か……

 DDFだな。」


 トコン…………

 東結が一歩歩く。ガレージの影の中だ。


「それ以上近づくなッ!!」


 睦月が壁に手を当てる。エクサタが足を構える。


「………」


 東結が、睦月たちに背後を見せ、ガレージの外に出る。

 そして右腕を伸ばし向かって右側の方に指をピンと刺した


「こっち側だ。この場所から逃げるなら。こっち側がいい。

 洗脳兵は、あらかた俺の氷で封じてある。アンタらの能力なら、

 なんとかこの悪魔の街から逃れる事が出来るだろう。」

「どういう意味だ…DDFはいらないのか。私達を殺さないのか。」

「殺すならとっくにやってるさ。それに、俺は願いが如何とか、

 そんなものには興味はねェよ。」


 東結が左側に歩き出し、姿を消す。


「じゃあな。おっちゃんは健闘を祈ってるぜ。」


「なっ―――そっちは、ゴールドのいる方向……」


――――――――………


「な、何なんだアイツは……何がしたいんだ?」


「睦月殿……」


 睦月がエクサタの顔を見る。


「エクサタ君?」


「エクス殿は……あの廃デパート内で、東結と戦った時の事を、

 俺やニーズに話していてくれていた。

 エクス殿は、彼の事を、一般人の限界と知恵、倫理観、正義を持つ、

 普通の探偵とは違う人間だと言っていた。

 だから生かしたと言っていた。」


「…………」


 睦月たちはガレージの外に行き、東結の姿を確認する。

 彼は洗脳兵達に囲まれていた。しかし彼はそんな洗脳兵達を一切傷つける事なく、氷の能力で一人残らず拘束していた。


「―――こ、殺していないのか……?」

『ああ、さっきからアイツ、一人も殺さずにここまで来てたんだぜ。

 ホントおかしな奴だ。三羅偵なのに、他の奴らとはまるで違う。

 行ってやったらどうだ、睦月。エクサタ。』

「――――!!」


「睦月殿…俺はエクス殿を信頼している。」

「…シルバーの言っていた奴の能力情報が確かなら、

 奴に気があれば私達はガレージ内で簡単にやられていた筈だ…

 つまり、奴に気が無い可能性が無いのは確か…

 それにもう時間がない、私達はなりふりかまってはいられない。」


 睦月とエクサタが東結を追いかける。


「待ってくれ!」


「フ!着いてくるのか!ここから先は地獄だぜ!」


「その言葉は親友に言われなれている。

 そんな事より―――なんだ、お前は!何が目的なんだ!」


東結が氷で捕まえた洗脳兵の型を掴む。


「そんな事言うまでも無いだろ!俺の目的は誰もが思う事さ!

 こいつらを操ってる奴をぶん殴ってこいつらを助けてやる!

 それ以外には無ぇ!」


「―――!!」


「………アンタはこの先に何の用があるんだ?DDFを集める為か?」


「………親友が囚われている。助けに行きたい。」


「フ……そうか、やっぱり、おめぇら、悪い奴じゃないな。

 あのガレージの中でも洗脳兵達とも、

 なるべく戦わないように立ち振る舞っていた。」


「……」


「来るなら好きにしろ。敵は強大にして邪悪だ、俺も仲間が欲しい。」


「どうやら、本当に私達と戦う気は無いんだな。」


「俺は穏健派だ。

 そもそも俺がてめえらを襲ったのは百賭様に四揮を解放させない為であってな…」


 東結の横に、エクサタと睦月が並び立つ。

 東結が、エクサタの顔を下から覗きこむ、すると……彼の顔が真っ赤になった。


「(睦月)!?…東結……どうした?何をしているんだ?」


東結がエクサタ首の後ろに腕を回し肩を組む。


「????????」

「な、何を!!エクサタ君に何をするつもり……」


「いい顔だ―――お前、エクサタっつーのか…なんておれ好みの顔なんだ……

 犯してェ……なぁ、エクサタ、女装に興味は無いか?

 良い男ほど、心の中に女がある…

 だから、イケメンほど女装をするべきなんだ…わかるな?」


「(犯すとは????????????????????????????)」


(シルバーは、東結金次郎がオカマだったと言っていた。

 つまり、こいつは―――多分、いや、間違いなく、そっちの気がある…!!

 このままではアナルセックスが始まってしまうのでは……!?!?)


 がばっ!!

 睦月がエクサタを東結から引きはがす。


「お、おいおい…良い所だったのに!」

「あ…怪しい動きはするな!私達はまだお前を完全に信頼しているわけではない!」

「………」


「ところで東結、一つ気になる事が…」

「なんだい?」

「何故走らない?何か理由でも…」


「先のシルバー達との戦いで足を負傷した」


東結がズボンをめくる。


「なっーー!」


そこには、半透明の義足があった。


「1ヶ月程度で完治出来る傷だったがこの惨状を見て、

 いても立ってもいられない気持ちになってな…。

 足を切断して、氷の義足を作る事でなんとか戦線復帰してやったぜ…

 へへっ…」


睦月とエクサタは、この目の前にいる男が只者で無いと再認識する。

東結が苦い笑いをする。氷の義足と肉足の境界は醜く赤く染まっている。


「…」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

<ゴールドとエメラルド>


「フフ……来る……計画通りだ……東結金次郎の能力は…

 僕たちにもまだ未知な所がある。

 だから、奴らがここに来る前に見破る必要がある。

 エメラルド、しっかりと見張っておけよ……私の能力で攻撃を仕掛け、

 キミの能力で―――奴の弱点暴くんだ。」


「しかしゴールド様、奴に弱点なんてあるんですかね……」


「ある、必ずな………

 だからこそシルバー達は一度奴を倒す事が出来たのだ……!

 そして恐らく奴の能力のタイプは―――条件攻撃型だ。」





――――――――――――――――――――――――――――つづく。


―――――――――――――岐阜市でのDDF争奪戦


睦月/エクサタ        DDFピース所持数―――――1

セクンダー・グラン      DDFピース所持数―――――4
























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る