Episode12 勇気は時を越える

時は、1666年。

悪魔の数字【666】の頭に1を付けたこの年、

キリスト教圏の人間達の間では何か不吉な事が起こってしまうのではないかという

不安のうわさ話が絶えなかった。


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 【666】

 聖書・ヨハネの黙示録において、獣が人間に刻印に刻んだ文字として知られる。

 キリスト教の関係者達は、この数字を

 『獣の数字』『悪魔の数字』『世界を影から支配する数字』等と呼び、

 異常なまでの恐怖を抱いている。

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そう、この1666年――――

誰も彼もが何かが起こると、そう予感していた。確信していた。

しかし悪い予感がしながらも、月日は流れる。

January、February、March、April、May、June、July、August、September、October、Novemberと――――月日は無慈悲に流れていった。

そう…ただ流れていくだけだった……

スコットランド(イギリス)では第二次英蘭戦争の最中であったが、

それもいつもと変わりのない死と生が流れる普通の戦争であった。

今までと変わりない幸福と今までと変わりない不幸の日々――――


December…12月が訪れると、人々は666の事などとうに忘れ、

今年に何か不吉な事が起こると未だに確信していた者は

一部のキリスト教信者や怪しい預言者ぐらいしかいなかった。


―――1666年は、特に何も起こらない―平和な年であったのだ。


ただ一つ、"黒百合の種が残されたという事柄"、それ以外は………


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ある一人の少女の話をしよう。

その少女は、悪魔の年、第二次英蘭戦争の最中の

1666年の11月13日にスコットランドの病院で産まれている。

父は第二次英蘭戦争でイギリス海軍に出兵され1667年に名誉の戦死を遂げているが、

貧困とは無縁の裕福な生活を送れていた。


14歳にまで育った少女は、街では心優しいおっとり系の美人お嬢様と評判であった。

コミュニケーション能力が高かったため、

友達も多く、彼女に情熱的な愛情の視線を注ぐ男子も少なからずいた。

そう、彼女は優しい普通のお嬢さん――――誰もがそう思っていた。

しかし、現実はそうでは無かった。


少女には人とは違う一つの特徴があった。

誰よりもどす黒く、人を恨める才能があった。

余談だが、ここでいう人とは違うというのは"他人とは違う"という意味では無く、

"人間では本来持ち得る事が出来ないような"という意味である。


彼女は他人には決して明かさなかったが、とても恨み深い性格の持ち主であった。

自分に吠える犬、風邪をうつした相手、暴力を振るった相手、

そんな奴らを彼女は決して許しはしなかった。

必ず、度を越えた超絶的な復讐を行うようにしていた。

自分に吠えた犬は罠に捕え、バラバラにして捨てられた。

風邪をうつした相手は、崖の上から突き落とされ、脳みそを撒き散らし死んだ、

自らに暴力を振るった相手は家族もろとも、夜な夜な誰にもわからないよう、

焼き払らわれてしまった。


今の、14歳の時点で彼女はすでに13人もの人間をその手で殺めていた。

戦争に赴いていた兵よりも、多くの人間を殺していた。


しかし、証拠は何も残さなかった為か、普段の優しい振る舞いが幸いしたか、

殺人事件が起きても、誰も彼女を疑う事はしなかった。

彼女は、生ける無敵の殺人鬼であった。


しかし、ある日、彼女の無敵の日々は終りを告げる――――

何ら変わらないいつもの夜に――――


その日の夜、PM20:00

彼女はいつもと同じようにベッドに入り、目を閉じようとしていた。

そう、その時であった。


「キャアアアアアアアアアア――――――――――――――――ッッ!!!!」


台所から、突然母親の悲鳴が聞こえた。

母親の事が心配になった彼女が、台所に飛び出すと、

そこには身長2m以上でレンガを両手に持っていた人間が立っていた。

フードで顔が隠れていたため、顔は分からなかった。その性別さえも。


「た、たすけ……誰か……」


彼女がレンガの者に背を向け走り出す、しかし……


「キャッ!!ああッ……!」

その瞬間、彼女の背首に強烈な衝撃が走る。

レンガの者が右手に持っていたレンガを投げ、少女にぶつけたのだたのだ。

少女が一瞬意識を失い、うつ伏せに倒れる…


レンガの者が一歩一歩と少女との距離を狭めていく。


「ど、どうしてこの私がこのような結末に……!?

 嫌ッ……嫌ァァ!!!

 何も悪いことしていないのに、死にたくな―――――――――――――」


レンガの者が左手に持ったレンガを振り下ろしドンゴン!!!!!!

少女の生は――――――――14歳で終わりを告げた。




                  少女の名はイリーゼ・ライシャワー。

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しかし、しばらくするとイリーゼは意識を取り戻していく。


「え――――」


目を開けると、まず目に映ったのは変わり果てた自分の姿であった。

その姿は腕と足が無く、黒く光り輝く物体であった。


次に目に映るのは、無数の流れる物体。

自分と同じ形をしていたが。輝きの色は自分とは違い、白、または灰色であった。


そう、ここは――死後の世界。言い換えれば呪いの鏡<カース・ミラー>の中の世界。


呪いの鏡<カース・ミラー>が、イリーゼを含む辺りの死者の魂を吸収し、

呪いの技術<カース・アーツ>となるのにふさわしい魂を選別しようとしているのだ。

光り輝いているのは、人間の魂だ。


白い魂は――――

死の直前に後悔、恨みなどの負の精神エネルギーを纏っていなかった―――

カース・アーツの媒体としてはふさわしく無い魂。

この空間からは、真っ先に退場していく。


灰色の魂は――――

悔いのある魂。カース・アーツの媒体としてふさわしく、

中々この空間からは退場しようとはしない。


―――そんな事を知らない、知りようも無いイリーゼは、

ただ、生前の事を想い――――自らの憎しみを増大させていく。


      『あのレンガ殺人鬼、クソ野郎が――

       この私に恐怖を味あわせやがって!!

       でも、あれを味わってない人間が

      この世界にはまだまだいるのよね………

       なぜ私だけがこんな目に!!!』


    『私より幸せな全ての人間を殺したい――――!!

      私はあんな辛い思いを味わって死んだのに、

   それを知らず生きている人間どもが憎い、憎すぎる!』


      『ここが何処で何なのかは分からない―

         でも、私は蘇りたい。

      生き返ってすべての人間を殺したい!!!』


イリーゼの魂が更に黒く変色していく。

この空間の中で、誰よりも濃く、光り輝く光になっていく。


黒色の魂は――――

常人を遥かに超えた、憎しみや悔いを持つ人間の魂。

カース・アーツの媒体としては最高級。


イリーゼの形が―――変わっていく。

人型だ――――2m30㎝ほどの、巨体、両手にはレンガを持っている。


家族を目の前で殺され、強姦され続け死んだ女性や、

10年の拷問をされ続けた囚人でも、ここまで黒く濁った魂にはなりはしない。


彼女は、その恨みの才能のみで、誰よりも濃い黒さを持つ魂へと変貌していった。

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1733年、彼女はカースアーツとして、復活する。

そして、莫大な恨みのエネルギーで一瞬にして使用者の体の人格を乗っ取り、

大量殺戮を開始する。


そして、彼女は4万人もの人間を殺したが、

100人をも超えるカースアーツ使い達と対峙して、両者相打ちとなり、

レンガで不意をつかれ、2度目の人生を終えた。


しかし、彼女の魂は滅びない。

通常使用者が死ねばその者が所持していたカースアーツの魂も滅びる筈なのだが。

イリーゼは使用者の魂に取りついていたため、

再度呪いの鏡<カース・ミラー>に回帰する事となった。


このように、使用者を乗っ取って、再度呪いの鏡<カース・ミラー>に回帰する現象は

一部のカースアーツ使いに『渡り』と呼ばれている。

『渡り』を行ったカースアーツは、他のカースアーツよりも強力な能力を

兼ね備えていることが多い。


何度死のうが無限の渡りを行うイリーゼ……

彼女はこのカースアーツ使いの世界において、知らず知らずのうちに

災厄、災害のような存在となっていた。


そして、1969年。イリーゼ…レンガ・ウーマンは、

黒霧四揮の体を乗っ取り、再度災害としてこの世界に君臨する。

そう、全ての人間をレンガで殺す、ただそれだけの為に――――――


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

レンガ天国!!!!!!!!!!!!!!!!

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


最期の日―――AM11:25 廃デパートガレージ横のコンクリート広場。


怪盗エクス・クロスと、レンガ・ウーマンが――――――対峙る。

距離は5m。


(レンガ・ウーマン………

 その正体は、黒霧四揮の人格を乗っ取った―――

 自己強化特化型のカースアーツ『イリーゼの恐怖<イリーゼ・フィアー>』。


 その能力は、

 ①――――身長が230㎝まで大きくなり、凄まじい身体能力を手に入れる。

 ②――――レンガを両手に出現させる。

 ③――――自分より強い相手と遭遇した時、戦いの中で成長する。

      レンガで砕けないものでもいずれ砕けるようになり、

      スピードで追いつけない相手にもいずれ追いつけるようになり

      同じ攻撃を二度受ける事は無い。

 ④――――死因がレンガによる殴打でない時、蘇生する事が出来る。

      この能力は、自分以外にも使用する事が出来る。

 ⑤――――何らかの条件で、戦った相手の能力をコピーする事が出来る。

 ⑥――――短距離を瞬間移動できる能力を持つ。連発は出来ないようだ。


 この六つ!!

 そして問題は―――三つ目の、戦いの中で成長していく能力!

 貴様は今どこまで成長しているッ!?


 攻撃力、ニーズエルのボディを切断できることから私を一撃で殺せるレベル。


 俊敏性、素早いが、それほどまでには成長していない。

 せいぜいニーズエルと同じ時速5、60㎞程度と言ったところか。


 そして肝心の防御力。銃弾が効かないのは知っている。

 そして、ニーズエルとの戦いを経たことによって恐らく炎と衝撃に対する

 強い耐性も獲得している………)


レンガ・ウーマンが前に進み、エクスとの距離を狭めていく。


4.7m――――――4.4m―――――――4.1m―――――――――


(――――今私が持っている…奴への有効打は――――斬撃だ。

 PNGによって極限にまで薄くなったトランプの刃なら、

 奴の体を切刻むことが出来る。


 私は―――

 トランプで奴を足止めし、奴の頭にレンガを叩きこむ!!!)


3.8m――――――3.5m―――――――3.2m―――――――――


エクスが立ち上がり、構えるが―――


「グッ………」

(内臓が、焼けたような感触ッ…!)


「完全に蘇生させたんじゃないのよぉ。

 あくまでとどめをレンガにするための蘇生。

 だからダメージはそのまま、最低限の生命エネルギーを

 与えたにすぎないの。


 どうかしら?あのお仲間の化物の持っていた

 炎のブレスによる攻撃によるダメージ。」


「――――化物?貴様と一緒にするなよ…

 ニーズエルは人間だ!」


2.9m――――――2.6m―――――――2.3m―――――――――


「どうでもいいわ、さっさと死になさい。

 貴方達はそれだけの事をしでかしたのだから………」


レンガウーマンが両手を振り上げ大きく構える。

レンガ撲殺の構えだ。


2m――――――1.7m―――――――1.4m―――――そして――――


ついに――――ついに―――エクスが………

レンガ・ウーマンの攻撃範囲1.5m以内に入ってしまう!!!


エクスが右手にPNGを具現化させその刃を自分の左腕にあてる。


「さぁレンガをどうぞ………」


シュンバ!!!!!

それと同時にエクスが自分をPNGで切りつけ極限まで体を薄くさせる!!!


そして振り下ろされるレンガを回避するッ!!!


そして―――――――腕に取りついていた機械から、トランプを数枚取り出し、

指にはめる。


「フフ――」


「何を笑っているのかしら~?」


怪盗エクス・クロスは――――後悔と言う名の呪いに囚われていた―――

『シルバーの父である怪盗アルゲントゥムや祖父の怪盗アルギュロスが死ぬとき、

 自分が何も出来なかったこと―――その場にいなかった―――』

その後悔―――あの時、ああしていれば、助けられたのではないのか…?

なぜ間に合わなかった…?


怪盗エクス・クロスは親友アルゲントゥムの言葉を思い出す。

『DDFとこの僕の運命に、エクスを巻き込みたくない』

私は何だ?私には運命を変える資格などないのか?

私はただ御前達の運命を傍観するしかないのか?


否!怪盗エクス・クロスは傍観を否定する。

呪いを解くため、後悔しない為、今度こそ――――運命を変える為!!!


今こそ勇気を持って目の前のこの化物を打ち滅ぼしてやる―――!!!

そう!例え命散らそうとも、コイツの秘密を暴き、運命を変えてやる!!



「そりゃ笑うさ――――今度こそ、運命を変えられるかもしれんしな…


 行くぞ……レンガ・ウーマン―――!!!

 これがこの私の――――最後の攻撃<ファイナルアタック>だッ!!!」


「うふふ――――」


レンガウーマンが左腕を振りかぶると同時に左手のレンガに赤い稲妻が走る!!

そして二人の距離0.8m!!


(奴は成長している。

 次の攻撃は、恐らく―――体を薄くしても回避することは不可能だろう。

 確実に私が避けきれない速度までスピードの攻撃をしてくるだろう。


 ならば―――――――)


レンガウーマンが左腕を振り下ろすッ!!!

しかしレンガウーマンの腕とレンガは縦にさけるッ!!!!


「――――!?私の腕が切断される?!」

「PNGトランプカッター。貴様の腕を切断した。

 私のPNGで切り付けた物質は分子より薄くなる。

 つまり能力で薄くなった物質の側面を相手の方に向ければ、

 相手はその物質を視認することは出来ないッ!!」


エクスが右手に持ったレンガを振り下ろすが―――


ドンゴン!!!

レンガウーマンの右腕がエクスの体を貫く…


「ガッハ…」


「アー――ハッハッハ!!!

 私の頭にレンガをぶつけようとしたのだろうけど、

 隙がアリアリなのよ。」


エクスレンガを振り下ろす前に攻撃された!

だがしかし!!!!


「それをすると思ったぞ―――」


「―――!」


「片腕を破壊して、レンガを撃ちこもうとすれば、

 必ずもう片方の腕で反撃してくる―――――

 振りかぶる暇も無い筈なので、頭にレンガを振り下ろす形じゃなく、

 こうやって私の腹を貫いてくる―――

 

 わかりきっていたことだ。

 だからこそ覚悟が出来た………」


「何を言っているのかしらぁ、このダメージは貴方にとって致命傷ッ-――」


「そう―――まだ致命傷だッ…!!私は生きているッ!!!

 くたばれ、レンガウーマンッ!!!!!!!!!!」


エクスがレンガをレンガウーマンの頭に向かって振り下ろす!!!

それを見たレンガウーマン、ぐちゃぐちゃに切断された右腕で頭を防御!!!


ドッグッジャ!!!!


「KUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」


レンガウーマンの右腕が焼けるように爆発したッ!!!!

あまりの痛みで腹に刺さっていた左手を抜き出す!!

エクスから距離を取り後退する!!!


「ダ、ダメージは確実に受けたようだが、ヤ、ヤれていない―――

 クッ……クソ……

 うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」


エクスがレンガを投げ、レンガウーマンの左脇腹に命中させるッ!!!

するとレンガウーマンの左脇腹が爆発し炎上する―――


だが、レンガウーマンは倒れない………


「くっ―――――――――――

 奴の弱点はレンガ―――――――それは間違いないッ-――

 だが、当てる場所が悪かった――――――

 頭に――――命中させなければ――――――――――」


ブチッ-――――――

エクスの中で――――――

何か、大切なものが――――――――切れる――――――――


「フフ……フ………エクス………とか言ったかしら……

 この私をここまで………追い込むなんて………クズだわ。

 

 だけど、この私も成長する………

 レンガの脅威は誰よりも知っているから――――

 頭の防御は何よりも徹底的にする………!」


ドサッ………


エクス、あおむけになってその場に倒れる。


「から、だが………?」


「――――フフ……フハハハハハ!!!!!

 アーーーハッハッハッハ!!!」


「あ―――が――――」


エクス、痙攣する――――


「…………貴方はもう決して助からない。死ぬ。

 そして、もう体は動かない、もう何もできないのよ――――」


   死――――――――――――――――――――――


  エクスはもう――――――――――――助からない。


   しかし彼はまだ―――――――絶望の表情をしていない。


      彼はまだ――――――戦うつもりなのだ。


(どうした―――怪盗エクス――――


 それでいいのか―――――?

 良い筈がない―――――。

 まだ運命は変わっていない………

 ――――そうだ、私にはまだ、やれることがある……)


「でも、生きているからしっかりトドメは刺してあげる。

 腹より後頭部のほうが確実なる恐怖を与えられるわ。」


「DDF。レンガウーマン……

 貴様はDDFを探している……………」


「……?


 DDFがどうした?

 フフ、まさかあなたが持っているのかしら―――?」


「その反応、やはりお前さんはあの黒い宝石を探し求めていたようだな―――

 だが、あれはもう無い―――――」


「――――?」


「奪われたのだ、マレフィカルムのグレトジャンニ――――

 奴によって―――」


「グレトジャンニ………」


「どうする……そうこうしているうちに奴は百賭の所まで

 DDFを持っていくだろう………

 情報屋によれば、奴は今DDFを4/5揃えている―――

 5つ集めて願いを叶えてしまうのも時間の問題だぞ―――」

(今のシルバー達ではこいつは倒せない!!策を練る時間が必要だ―――

 そしてをコイツとグレトジャンニとぶつけ、

 そのついでに、その時間を稼がせてやるッ…!

 百賭がすべてのDDFを集める事も阻止してやる―――)


「まぁいいわ。取りあえず、御礼にレンガを差し上げましょう。」


レンガウーマンがレンガを振り下ろす―――しかし。


「そこまでだッ……レンガウーマン―――!!」


ニーズエルの声ッ!?


「ッ………!?オオッ!!」


レンガウーマン唐突に吹き飛ばされるッ!!!

そして、レンガウーマンとエクスが、声の発生源の方を向くと、

そこにはシルバーとニーズエルがいた。

睦月とエクサタは恐らくどこかで身を隠している。


「エ、エクスッ………あの傷ではもう助からない――――

 そして――――レンガウーマン………」

「あの傷を見るに―――エクスさんはやはり、敵の弱点を見つけていたわ!!

 あの煉瓦女には――――弱点があるッ!!!」


「――――――」


レンガウーマンが起き上がる。


(――――屈辱だけど、弱点を知られている、そして百賭けの元に

 DDFは集まる寸前。

 故に―――今この状態で"4人"を相手にして、負ける事は無いにしても、

 時間切れになる可能性がある―――――)


ソオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

レンガウーマンの周りを黒百合が囲む。


「レンガ…ウーマン………!」


「次は殺しきれるほどのレンガを持ってきてやるわ――――

 全殺しの皆殺しよ~~!」


ドキュン!!!!!!!

レンガウーマンが大ジャンプして、その場を離れる――――


スァ――――――――――――ッ!!!


「行った――――のか――――?


 い、いや今はそんな事より……」


「フ―――フフ――――」

エクスが笑う。

そしてシルバーとニーズエルがそこに駆け寄る。


「エクス――――

 駄目だッ…もう助からない。

 呪増酒のおかげでなんとか正気を保てているが――――

 この傷ではもう――――」


「フ……フフ………


 シルバー……私はもうダメなようだ―――」


「――――クソッ…」


エクスがスーツの内ポケットに手を入れ、ボイスレコーダー を取りだす。


「お前との約束、果たさせてもらうぞ。

 

 ほれ、こんな事もあろうかと―――

 私とお前の両親、そして百賭との――――過去、運命についての話を

 記録したボイスレコーダーを用意しておいた。

 ………受け取れ、シルバー。」


シルバーがボイスレコーダーを受け取る。


「―――くそ。私たちがもう少し早く来ていれば―――」


「フッ―――覚悟の上での行動だ。後悔はしておらん。

 それに、あの化物の弱点も見抜けたしな……

 後頭部、後頭部を自分の持つレンガで殴打されると死ぬ、それが奴の弱点…

 それであの探偵を倒す事が出来る……」


「推理したのか……奴の弱点を……」


「――嗚呼、そうだ。策を練れ―――策が無ければあの化物は倒せん…………」


「わかった、任せろ。これで次奴が現れても、きっと倒せると思う。」


「フフ、有難う……健闘を祈るぞ―――

 それとニーズエル………

 おい、こっちを向かんか―――」


ニーズエルは涙を流し、横を向いている。


「ゴメン、今の私に、涙を流すヒマなんて無いのにね……」


ニーズエルが涙をぬぐい、あおむけに寝そべっていたエクスの顔を見る。


「エクサタと睦月君はいないのか?」


「レンガウーマンが退却したところを、ダークウォーカーで見た筈だから、

 もうすぐこっちにやって来ると思う。」


「そうか――――でももう時間が無いな………」


「エクスさん……―――その―――私達―――これからどうすれば―――」


エクスが左手をニーズエルの頬に添える。


「………お前さんはいつも、自分の事を人間の倫理観を失いかけている

 汚らわしい化物だと、そう言っていたな。


 私は、そうは思っていなかったよ。

 この私を兄のように慕い、おしゃべりで明るい陽気なムードメーカーで

 ―――フフ…お前には何度も元気づけられていたし、

 事あるごとに人間らしさを感じる奴だと、いつもそう思っていた。

 

 お前さんは人間だ、だから、お前さんの思う事をすれば、いい―――」


「――――エクスさん……」


「フフ、だが、臨機応変にいけよ―――


 二人共奴は今―――恐らくDDFを持っている

 グレトジャンニを追って移動している…

 奴を倒すなら―――グレトジャンニを追え………」



―――その後、彼は一言も喋らなかった――――

32秒後にやってきた睦月とエクサタを見て、笑いはするものの、

何も話す事は無かった――――


そして、その丁度4分後――――

彼は、4人に見守られながら、静かに息を引きとった。



怪盗エクス・クロス ――――――――――――― 死亡。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

追憶「エクスの遺したボイスレコーダー」


私とお前の父プラズマスは、同じウィザーズの怪盗だった。

出会ったのは、かなり昔になるな。

互いの評判を聞きつけ、ロシアのブラックヘブンにて面会を行ったのが

初めて顔を合わせての出会いになるか………

あやつは気ままでマイペースで―――どこか雲の掴めないような男だった。

あの後、私とプラズマスは、互いに意気投合し、

共に怪盗として生きる戦友、そして親友となっていった――――


暫くすると、あやつは君の母親、怪盗リイーヴと出会い、2ヶ月で結婚し、

その数か月後にお前さんが生まれる。

早すぎじゃないか―――とは思ったが、まぁ、アイツらしいなと思い、

素直に祝福してやった。


「パパとクロスは、私が生まれる前から友人関係にあった…―――――………」


そうだ―――


―――そして、そこから7年、お前さんがまだ7歳半のころだったな。

丁度彼に異変が起きた。

ロシアのモスクワでDDFの一つが発掘されたという噂が流れ始めたのだ。

その後、プラズマスはお前さんやアルギュロスと同じように、

神<GOD>の幻覚を見るようになり、"DDF"という黒い宝石を、

何が何でも手に入れなければならない―――その使命感に囚われる事となる。


そしてその同時期、

待ちのデパートで買い物している時に私はあの百賭と出会う事となった――――


――――――――――――――――――


当時の彼女は―――見た目はどうだったかな。

今と同じく銀髪ショートで赤い目…

V字に切り揃えられ、眉毛が見えないほどに濃い前髪という特徴は今と同じだが。

なんというか、闘気を纏っておらず、カリスマ性を感じられない風貌だった。


性格もなんというか―――今のような歪んだ絶対正義を目指すような

イカれた性格では無く―――ただ、若々しく純粋で―――

自分なりの正義を持っている少女―――と言った感じだった。


彼女はしっかりしているようで、何処か抜けていて、カースアーツの能力なんかも

あっさりとこの私に明かしてしまったよ。


『この地域で活動している、あの悪名高き怪盗アルゲントゥム(プレムの父)を

 何とかして捕えたいんです。でも、あんまり情報が無くて……

 すみません―――何か、詳しい情報とか……』


彼女は我が親友プラズマスを捕えようと、

日本から派遣された天才エージェント探偵だという事を私に明かした。


「…」


その後、彼女となんだかんだ仲良くなり、。

しかし、当時の私は、所謂傍観主義者でな―――

こういう他人同士の問題は、そいつら同士が解決するもんだと思っていたので、

彼女とプラズマスの間に深くかかわるようなことはしなかった。

プラズマス側に百賭側の情報を流し、百賭にウソの情報を流すだけ、

其れ以上は関わるまいと徹底していたな。


「傍観、か………」


でも、それは間違いだった――――

私が百賭と出会って一年後。

プラズマスとその妻リイーヴは

スクワで発見されたDDFが今、ライハートラスと言う名の大富豪の家にあるという

情報を突き止め、私に内緒でそこへと向かっていった。


なにか異変を感じた私も直ぐに二人を追いかけたが、

目的地に到着する頃にはもう、二人は百賭に、殺されていた……


彼女は悲しみの表情を私に見せ、その場から霧のように消えていった。


絶対正義とは何なのか―――その疑問の言葉を、残して―――



そして、1年後、メディアで見た時、彼女は一変していた。

絶対正義の為なら、手段を択ばない――天使の皮を被った悪魔に成り果てていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

トコン……トコン……

ガチャッ……


シルバー達が階段を上り、鉄の扉を開く……


最期の日―――AM11:50 近くのビルの屋上


空に悪雲が広がっているが、雨は降ってはいない。


「明日―――そう、明日の天気は雨。

 この私、ストーン・トラベルの、

 能力を最高に引き出す事の出来る環境になる筈だった……


 だがあの百賭は、それを事前に予測し、

 直前であるこの日に三羅偵による攻撃を仕掛けてきた。


 そして―――あれを見ろ、みんな。」


「な、何――――あれ………」


VAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaa―――――――――


4人が空を見上げると、街の上空には、

100mほどの大きな弯曲した光の十字(紫色)があった。


「この波長、カースアーツだ、何者かがカースアーツを発動させたのだ。」


「レンガウーマンの位置を探るために屋上まで来たのに、今度は何!?

 あんな巨大で禍々しいカースアーツは見たことが―――


 まさか、あれが百賭の!?」


「いや、それは違う。エクスによれば百賭の能力は、

 時の記録と再生を行う道具召喚型カースアーツ………

 これはどう見ても―――ちょっと、言葉には表しづらいな。

 この私の常識をも超えている――――


 ただ、あの規模、恐らく…レンガウーマンに勝るとも劣らない

 強大なエネルギーを秘めている可能性は少なからずありそうだ……」


「クッ………百賭!レンガウーマン!グレトジャンニ!!

 そしてこの弯曲十字のカースアーツを操る奴!

 少なくとも強敵はあと四体いる!!


 奴らも相当気合入ってますね――――


 さて、グレトジャンニとレンガウーマン……奴らの位置を

 探し出さないと―――」


「……」


「シルバー?」


シルバーが他の三人を視界に入れる為、3歩程後ろに下がり、

少々うつむく………


「ニーズエル、それに睦月とエクサタ。

 お前たちは、これからどうするつもりだ?」


「!」

「どうするって、そりゃアイツらを探し出してDDFを…」


「単刀直入に言おう。

 引き返すのは今からでも遅くは無い。」


「ッ!」


シルバーが屋上の入り口に背をかける。


「私は、在日アトランティスの運命、DDFを破壊するという神の意思に

 従わなければ生きていけない――――そういった宿命を持つ人間だ。


 だから、この戦いからは逃げられないし、

 奴らと何が何でも戦わなければいけない。


 でも、お前たちは別だ。

 お前たちは、本来ならこの運命から逃げる事が出来るんだ。

 この全く勝ち目のない負け戦からな…」


「―――一人で戦えると思っているの…?」


「戦えなくてもだ。勝てなくてもだ。

 この私は行かなくてはならない。なぜならそれが

 アトランティス最後の生き残りであるこの私の唯一の生きる道だから…


 ―――正直言って手は借りたいさ。

 その方が、勝てる確率は上がるからな…


 でも、ここまで巻き込んで偉そうなことを言う用だけど、

 手を貸してほしいと強制はしない。

 こんなゴミのような私の為に、」


ニーズエルが、横を向く。


「シルバー、それは愚問よ。

 さっきエクスさんが言っていたように――――

 私達も何もやらずに後悔なんてしたくは無い。


 私は、みんなと違って自分の願いを叶える度に

 このDDF争奪戦に参加してきた―――


 正直言って、シルバー、ここまで凶としておいてなんだけど、

 今も貴方とは半分敵対の関係にあると思ってる。

 でも、それでも、半分敵対の関係にありながらも、

 私は貴方の事を見捨てたくはない。」


「死ぬぞ―――私なんかの為に…」


「シルバー、あんたは自分の事を存在価値のない人間だとか言ってるけど…

 私はそうは思わない。

 だって貴方は良い人だから――――


 さっきまで自分が化物だとか悲観してた私が言うのもなんだけど…

 私は、そいつが"いい奴"ってだけで存在価値、

 生きる価値ってものが生まれると思ってる。

 少なくとも私は貴方の事を生きる価値のある人間だと思っている。」


ニーズエルがシルバーの肩を翼でPONとたたく。


「と言う訳さ。私は戦うよ。」


「………そうか。」


シルバーとニーズエルがエクサタと睦月の方を見る。

するとエクサタもそそくさと歩きだし、ニーズエルの側に駆け寄る。


「……」

「エクサタは私に付いてくるってさ。」


「そうか……」


残るは睦月……


「睦月、お前はどうする。

 お前はこの中で一番闇の世界へ足を踏み入れた期間が浅い。

 そして、お前だけが、義理だけでこの戦いに参加している。」


「……言うまでもないよシルバー、私も、

 既に引けないところまで来ているのさ。」


「引けないところ?

 そういう言えば睦月お前、百賭は絶対に、DDFを5つ集めることは出来ない…

 そう言ってたよな―――

 あれ、どういう意味なんだ?」


「………――――それは……私が、今さっき、博物館に蟻を派遣して

 DDFを一つくすねてきたから………」


「――――馬鹿な!大丈夫だったのか!?」


「警報も何も鳴らなかった………恐らく、バレてはいないと思う。」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

最期の日―――AM11:50 岐阜市宝石博物館。


Voooooooooooo…


2Fにつながる階段の先に、探偵王・夜調牙百賭が立っている。


そして、その背後のガラスの中に、二つのDDFが………


(あと5分。あと5分でグレトジャンニがシルバー達から奪ったDDFを

 ここに届けに来てくれる………)


PLLLLLLLLLL!!!!

百賭の携帯端末が音を上げる!!!!


-―――――――ピ!


『百賭様!!ついに奴が……あの"依頼人"が弯曲十字の能力を発動させました!!』


「クックック!なるほど――――ついに尻尾を現したか!

 規模は?」


『弯曲十字の高さ―――詳しくは分かりませんが………およそ100m程!!』


「100mなら、攻撃範囲は……………

 この街―――いや、岐阜市全域までに及ぶか。」


トコン…トコン………

誰かが階段を誰かが駆け上ってくる。


「―――早速"依頼人"が"使者"を寄こしたようだ。切るぞ。」


ピ!


トコン…トコン……

階段を一歩一歩踏みしめる――――その姿……

黒いマント――――黒い短髪で、顔は吸血鬼のように白い。


VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO―――――――――


そいつは、黒マントの男。依頼者さんID2855285。DDF捜索の依頼人。


「DDF集めは順調のようだな。ク―――――クックク――――――――」


男が口をむき出しにする、その顔面――――まさしくキチガイ!!!!!


「………そうですね、このオレがこの博物館に罠として配置した二つのDDFピース、

 そしてグレトジャンニがシルバーから奪ったDDFピース、

 そして、アンタの持つ残り二つのDDFピース………

 これで全てのDDFが集まり、願いを叶える事が可能になりますよ。」


「そうだな、それでこの我が一族の願い――――

 『3500年前に怨敵"オルゴーラ・グラン"によって討たれた

  最強の魔術師―――"クロイツェン・ママゴンネード"の復活』

 そして、『新アトランティス帝国』の夢も目前と言ったところか。

 クーーーククク!!!面白い!!!面白すぎる!!!笑い死ぬ!!!!」


パチパチパチ

百賭が拍手をする――――

だが、彼女は黒マントの男を豚を見るような目で見下している。


なぜなら彼女の目的は……

DDFで『すべての人間が、この私を絶対正義と崇めるようにしろ』と願い、

自らを究極なる絶対正義になる事なのだから………

依頼人の願い叶える気ナッシング!!!!裏切る気アリッシング!!!!


「して、黒マントの依頼人よ。なぜカースアーツを発動させた?

 この岐阜県岐阜市の上空に輝く弯曲十字の光……」


「ならなんでお前は、わざわざこの戦いにこれほどまでの探偵を持ち出した?

 もしやあの怪盗共と戦うために用意したわけではあるまい?



 ――――この私……いや、ボク………アトランティス最後の生き残り………

 『ゴッフォーン・グラン』の子孫であるこの『セクンダー・グラン』様を

 始 末 す る た め ダ ロ ォ ?」


百賭がハンドガン"M1911"を構え、黒マントの男の頭を撃ちぬく。

男は階段から転げ落ち、脳汁を吹き出し死んだ。


黒マントの男―――――――――――――――――死亡。


しかし同時に天井から複数の声が放たれる!!!


「ク―――――――――――クククク!!!!!!!!!!!

 それはボクの操り人形だ………そして、

 括目せよ!!!我が能力―――――

 

 『弯曲十字の聖歌隊<バッドコントロール・クルセイド>』を!」


声が発されると同時に、博物館内に大量の人間が流れ込んでくるッ!!!

50人ぐらいか!?

正面玄関を潜り抜け、階段の先にいる百賭を目指す!!!!


「弯曲十字を打ち上げ、それを見たカースアーツ使い以外の

 あらゆる生物を―――自由自在に操る能力……」


『クックック………』

(操るのではない……信じさせ―――正義と思わせるんだ……)


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

岐阜県岐阜市――――上空

マレフィカルム所有戦闘ヘリ――――AH-64 アパッチ。


「グレトジャンニ様…

 もうすぐですね……もうすぐ、百賭様の長年の悲願が

 達成される――――」


「あと3分で博物館に到着で―――――――――」


ドンゴン!!!!!!!!!!!!


「何ごと!?!?!?!?!?!?!?!?

 操縦士<パイロット>、何が起こっている――――――――!?

 これは―――――!!!」


カラスだ!!!大量のカラスが、アパッチの周りを囲み、

視界を阻んでいた!!!


「―――――――――――ま、まさか―!!!これがあの黒マントの男の!?」

「だ、駄目です、カラスが死に物狂いで内部に――――うわああああああああ」


ヘリの操作が狂い、ビルにぶつかってしまう!!!!!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」


ドドンゴ!!!!!!!!!!


ヘリが墜落し、炎上する――――そして、その中からグレトジャンニが現れる。


「――――クッ……小賢しい真似を……

 パイロットと一緒に乗っていた探偵は全員死んだか…」


グレトジャンニDDFを持って走り出す―――――!!!しかし!!!


「う――――」


周りから、無数の人間が走って追いかけてくる!!!!!!!!

鎌や!!!!鉄パイプを持って!!!!!!!


依頼人!!セクンダー・グランが操っているのだ!!!!!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!

 マイティ・ガードオオオオオオオオオオオおお」


しかし無意味………

マイティーガードが防げるのは、一方向からの攻撃のみ。

360度から襲い掛かる洗脳された住民たちの恐竜のような攻撃を

防ぐことは出来ない。(RexBox360といったところか)


グレトシャンニが殴られる!!!刺される!!!焼かれる!!!!


「うがあああああああああああああああああああああ

 百賭様ああああああああああああああああああああああああ」


マッレウス・マレフィカルム日本支部 ID.001

グレトジャンニ――――――――――――――――――――死亡。





ザっ……ザっ……


岐阜市の街内にいるほとんどの人間が、セクンダーの能力で操られている。

目は白目をむいている!!口を常に開けている!!


歩道と車道の区別もつかないまま、

ある目的地に向かってゾンビのように歩いている!!!


-―――――――――――――――――――――――――――――――――――

最期の日―――AM11:53 岐阜市宝石博物館。


-―――――――――――ピ!!


「グレトジャンニめ、やられたか………

 これで私が二つ、貴様が三つと言う事……」


『何回もの渡りをさせ、強化しまくったこのカースアーツ………

 ただのカースアーツ使いでは手も足もデナイヨ。』


依頼人の奴隷たちが百賭けに向かって走ってくる!!


(クックック…中世時代!キリストの十字の下に他人を殺す事、あらゆる虐殺、

 無実の人間を狩る事は正当化されていた!絶対的な正義とされていた……!


 この『弯曲十字の聖歌隊』が司るのはそれだ。

 この私自身を、私の命令を磔刑されたイエス・キリスト。

 キリスト教の象徴である十字架を盲信させ、

 あらゆる命令を正義と思い込ませ、自由自在に操る事……!!!


 さぁ!!この岐阜市にはどれほどの人間が生きている……!?

 5桁か!?6桁か!?すべて操ってやる……!!

 この私の使い捨ての手駒として……奴隷として……!!!)


『さぁ!!襲い掛かれ我が手駒共!!!』


博物館内にセクンダーの操る人間の声が響く!!


そしてセクンダー<依頼人>の洗脳された奴隷たちが百賭に襲い掛かる!!!

しかし―――――――――その瞬間、百賭の姿が消滅する!!


『!?』


「『ディテクティブ・マスター<探偵マスター>』…時の再生を停止した……」


『ッ………――――!!!』


その声の方向、博物館の三階右側の通路横の手すりに、百賭が立っていた。


(貴様らが今見ていたのは――――ディテクティブ・マスターで再生していた

 この私の動きの記録。そして………)


パチン!!!百賭けが指を鳴らすと、博物館一階・二階が炎上する!!!

そして、セクンダーが操っていた奴隷たちが次々と焼死する!!!


『アハハ……流石は探偵王。一筋縄ではいかないね――――

 でもォ―――――』


「やめておけ。

 まだわからんのか、何故このオレがこんな辺境までDDFを持ち出したのか……

 その意義が………」


天井が割れ、5人ほどの人間が百賭けの上に落下してくる!!


『上からの攻撃は対策出来てるかなーーーー』


「岐阜県の人間のマレフィカルム支持率が低い、

 マレフィカルムにとって重要人物が住んでいないからどれだけ殺しても

 かまわない………と言う理由もあるが


 いちばんの理由はここ、

 岐阜県が東京よりも遥かに人口密度が少ない都道府県だからだ――――

 人口が少ない為貴様の能力の本領を発揮できないからだ……


 そう、貴様の能力はすでに……『対策済み』だ。」


しかし――――――

天井から降りてくる人間が突然爆死するッ!!!!


『な――――――――』


その中の死体のうちの一人が、百賭に話しかける。


『今の能力………さっきとは違うね―――時を操る能力では無い……

 なるほど百賭、君は二重能力者<デュアル>だ。

 能力を――――『二つ』持っているね、フフフ。


 あの怪盗大裁判のよーに―――!!

 

 でもそれではこのボクに敵わない。

 なぜならお前には操っている本体であるボクの位置を特定することは

 出来ないから…』


「言った筈だ、対策済みとな……そして、自分……

 本体のいる場所の周りを見てみるといい――――」


『ッ………!これは………』


--------------------------------------------------------------------


弯曲十字架の真下……戦闘ヘリが複数機飛んでいる。


パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ

パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ

パパパパパパパパパパパパパパパパパパパぺパパパパパパパパパパパパパパパ

パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ


マレフィカルムの戦闘ヘリだ。


中にいる探偵たちが、下にいる洗脳された人間たちに向かって叫ぶ。


「我らは絶対正義の代理人!!!

 探偵王・百賭の元において、セクンダーッ!!!

 貴様の洗脳尖兵共を一網打尽にしてくれるッッ!!!!」


5機のヘリが機銃を地上に向け、乱射する!!!!!!!!!


そして死ぬ!!!セクンダーに操られた一般人たちが――――

死ぬ死ぬ死ぬ!!!!!!!


--------------------------------------------------------------------

博物館


『馬鹿な――――探偵王!!

 貴様なかなかやるじゃないか!!!』


「お前があの弯曲十字を自分の真上から上に向かって放つのは知っている―――

 そしてあの弯曲十字が出現したのは11:39分今より数分前だ…

 だからお前はまだ、弯曲十字を放った位置から対して移動出来ていないはず。

 フハハハハ!そして私は考えた、

 だからあの弯曲十字から半径数㎞以内の人間を皆殺しにすれば……

 貴様を殺す事が出来るッッ!!!!」


『そうか―――考えたね……ならこれはどうかな!?

 心があるなら殺せないよねぇぇーーーー!?』


--------------------------------------------------------------------


「え、これは――――なんだ!?この死体はッ!?」


セクンダーが能力を解除し、一部の人々の洗脳が解ける。

そして、上空に飛ぶ戦闘ヘリを見て、怯える。


そして、ヘリの中の探偵たちがそれを見る。

「フン!!!

 洗脳がとけたからと言って我々が攻撃を止めるでも思っているのか!?」

探偵がマイクを取り、大音量のスピーチをする!!!!


「ゴミクズ共!!!!今から現行犯裁判を開始するッ!!!!

 被告岐阜県民!!!!!罪状、マレフィカルムに対する支持率が低い!!!

 よって死刑!!!!!!!!!現行犯天罰だ!!!!!!!!

 死と言う名の百賭様の裁きを受けるといい!!!!!!!!!」


ババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババ(銃弾の音!!!!)


「うわああああああああああああああああ!!!」

    「きゃあああああああああああああああ!!!!!!!」

  「やめろ!!!やめてくれーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

「ええええええんおがあざあああああああああああん゛」


「死ね死ね死ね死ね反逆者のゴミども!!!田舎のカスども!!!!!!

 これがマレフィカルムに逆らったゴミどもの末路だッ!!!!!

 死ね!!!死んで耕せ!!!!!!」


--------------------------------------------------------------------


『なんて、奴らだ―――洗脳された人間をも撃ち殺すなんて……!!』


「成長するに置いて大切な事は『始める事』―――――

 最初の一歩を踏み出す事という精神論を並べる奴がいるが……

 俺はまた、別の考えを持っている。」


--------------------------------------------------------------------

「ぐわあああああああああああああああああああああ!!!」

     「むんやああああああああああああああああああああ!!!!」


ミサイルドンゴン!!!!!!!!!


血の海だ!!!血の海!!!血の海―――――血の海!!!!!

--------------------------------------------------------------------


「俺は『終わらせる』事こそが、成長に置いて最も大切な事だと思っている。

 『新しい事をしよう』と思う事ももちろん大切だ……

 だが終わらせる意思がなければ、

 次第に心に迷いが生じ、何ごとも長続きしなくなる。

 終わらせようとする意志、目標に辿りつこうとする意志さえあれば、

 人はやがて、納得できる一つの終着点にたどり着く事が出来る。

 もし辿りつけなくても、自分に何が足りなかったか――見つめ直す事が出来る。


 逆に『終わらせたくない』という意思は……堕落を招く――――

 何も終わらせることのできない自分自身を自己嫌悪し、心が腐っていく。」


--------------------------------------------------------------------

血の海!血の海!血の海!血の海血の海血の海血の海血の海血の海血の海血の海

内臓内臓内臓内臓内臓内臓内臓内臓内臓内臓内臓内臓内臓内臓内臓内臓内臓内臓内臓内臓内臓内臓脳脳脳脳脳脳脳脳脳脳脳脳脳脳肉片肉片肉片悲鳴悲鳴

--------------------------------------------------------------------


「だからオレはお前を『終わらせる』。

 貴様を地獄に送るという作業を――――『終わらせてやる』。」


『奴隷のゴミどもがいくら死のうと構わないけど………このままではマズいね…』


-―――――――――――――――――――――――――――――――――――

最期の日―――AM11:58 近くのビルの屋上



「な、何をやってるんだ――――あいつらは――――!?」

「これではまるで戦争………」


ニーズエル達が戦闘ヘリと操られた人間達が戦っている惨状を見て―――

唖然とする。


「あの十字架を見た途端操られたように歩く人間達………

 ――――恐らく、あの十字架の能力は、

 自分を見た者を洗脳する能力なのよ。」


「でも、私達には、何の影響もないよ――――」

 

「恐らく、カースアーツ使いに対しては効力が無いのだろう。


 そして、マレフィカルムの戦闘ヘリが、あの十字架に操られた人間を

 操っているという事は………

 このカースアーツの使い手は、『コミュニティ』にも

 『探偵協会』にも属さない、DDFを狙う新たなる第三勢力。」

「くっ……頭がこんがらがって来たよ、

 DDFを奪い去ったグレトジャンニ、あたりに徘徊するレンガウーマン、

 人を洗脳しDDFを突け狙う第三勢力の人間、

 私が博物館からDDFをくすねて隠した場所――――

 どこに向かえばいい――――どこに……」


「………」


ニーズエルが少し考える。


「二手に分かれる――――というのはどうかな?」


「――――!ニーズエル!!」



「シルバーと睦月のチームがDDFをくすねて隠した場所にまで行って、

 DDFを回収する。

 私とエクサタのチームが、グレトジャンニのいる方向に向かい、

 奴からDDFを回収する。


 これでDDFが二つ回収できることになるよ。」


「―――――エクスの情報によれば

 グレトジャンニのいる方にはレンガウーマンがいる確率が非常に高い。


 両腕が無いのに――――戦える?」


「――――心配無用さ、パワーが落ちているわけじゃ、無いからね。」


「――――――わかった、でもニーズエル………

 一つだけ言っておくことが、ある。」


シルバーが、二人の方を見る。


「死ぬなよ。必ず生きて帰ってこい。」


シルバー、そして睦月が二人に向かってサムズアップをする。


「――――アハハ、そっちこそ。」


「………」


それを見たエクサタもまた、サムズアップを返す。

ニーズエルは腕がなかったのでウインクを返した。



さぁ、DDF争奪戦の――――始まりだ。


――――――――――――――――――――――――――――つづく。




―――――――――――――岐阜市でのDDF争奪戦


探偵協会           DDFピース所持数―――――1

レンガ・ウーマン       DDFピース所持数―――――0

セクンダー・グラン      DDFピース所持数―――――3

シルバー&睦月チーム    DDFピース所持数―――――0(1)

ニーズエル&エクサタチーム DDFピース所持数―――――0


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