Episode6 太陽が黒色に輝くとき その①

AM11:25 鳥取


「あの人―――グランさんが心配だ――

 もう一度会って――――顔が見たい。

 詳しく話を聞きたい。」



右堂院義弘が探偵を目指したのは、誰かの役に立ちたいから。

子供のころ―――テレビのニュースで何度も話題になった―――

あの探偵界の若き王にして、日本経済を急成長させたカリスマ的存在…

――――乱世探偵冥王・百賭(らんせいたんていめいおう・びゃっか)

あの人のように、人の為に生き、人の役に立つ人間になりたかったから―――

ただそれだけであった。



しかし彼はマレフィカルムの試験を受け、現実を知る――――

現代探偵界における、"闇の世界"を。



(あの試験を受けて僕は―――カース・アーツという力を手に入れた。

 カース・アーツは死んだ人間の呪いエネルギーを増幅させ作られたと言われる

 後付けの超能力らしい。

 僕のカースアーツが持つ能力は、ダメージの"交換"――――――

 自分の身を犠牲にして―――触れた物を修復したり、

 右手に持ったものと左手に持ったものの壊れ具合を反転させる――

 そんな事が出来る能力。

 あまり役には立ちそうにない能力かもしれないけど……

 この人智を超えた力、僕はもはや人間では―――ないのかもしれない。)



右堂院がシルバーの家の住所を尋ねようと、

道行く人たちに声を掛けようとする………しかし。



「それにしても、僕が試験を受けて、この街に帰って来てから、

 やけに人が少なくないか……?何か、あったんだろうか……」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――

AM11:30


ガ―――――ガガガ――――――――――――

え―――――天気よほ―――――――つかごから台風がせっき――――――

ガ――――――――ガガガガガガ


埃が舞い、炎は雄叫びを上げ、壊れたラジオの音声が鳴り響く―――――

爆発で半壊したプレムの家は、

スカベンジャーが群がっていそうなゴミ山のような情景と化していた――――


ガ―――――――ガガ――――――――――――――

――――ヴォイ!!ヴォイーーー!!クソが晴れろォーーー!!―――――

ガ――――――――――――ガ――――


ドンゴン!!!!


ラジオが爆発する。



――――ゴミ山の中から、一人の少女が這い上がる。

怪盗シーフ・シルバー(プレイマー・グラン)だ。

全身から出血し、脇腹には木の棒が刺さっている。


「……ハァ、ハァ――――敵…だな……

 今のはカース・アーツによる攻撃か………?


 とっさに耳をふさぐことが出来たので、

 鼓膜はやられなかったが――――

 どうも頭がクラクラする……」


シルバー脇腹に刺さった木の棒を強引に抜く!!!


(ストーン・トラベル―――傷跡から噴き出る血を石化する。

 取りあえず、応急処置だ。)


傷口を石化した彼女が、身をかがめ、

水が噴き出ている場所に近寄っていく。

かつて洗面所があった場所だ!



キョロキョロ

――――――――シルバーが辺りを見回し、

近くにいる人間の情報を確認する!



遠くにデブのスーツ男がいる、仲良く歩くパリピっぽい女子高校二人も見える。


「ククク…ワシにとっての人生最大の楽しみ―――――

 それは可愛い女の子がワシの横を通り過ぎた時、

 チャージしたオナラを向かって発射する事!!!

 ワシの匂いをしみつかせてやる事………よし今だ!!発射するぞ、オイ!!」

――――ブゥホッ


「もしもし警察ですか、今ゴミクズにセクハラされてます。」

――――ピポパ


「インスタ映えしそうなクソゴミよォォォ―――――!!!!」

――――パシャパシャン



近くには、5歳ほどの子供を連れた夫婦が見える。


「今度はいったい何!?ば―――爆発!?

 いったい、いったいここで何が起こってるの!?

 この近所に住む私の両親と急に連絡が取れなくなるし―――!!」


「―――!!あの爆発した家!!誰かいるような!!」


「ママとパパが凄い焦ってる…」



考え込むシルバー

「………敵は何処だ――――?

 あの家族か…?向こうにいるデブと女子高生二人……?

 それともこの住宅街と言う地形のどこかに潜んでいるか――――


 ―――!!!―――デブとあの女子高生二人が消えた!?」



デブと女子高校二人の姿が突然消える―――いや、消滅した。


「何が起こったんだ………」


「―――!あの爆発した家の中に褐色肌の子供がいるぞ!!

 だ、大丈夫か――君!!!」


5歳ほどの子供を連れた夫婦がシルバーに近づく!


「こ、こっちに来るなァァ――――!!

 ココから離れるんだッ!!何か並々ならぬ事が起きている!!!」


タッ



VOOOOoooooooooo…

夫婦の背後に―――一人の女性の影があらわれる。


「――――まぁ、あの程度の爆発では死なない事は予想していたんです。


 なんせ、あの伝説の怪盗シルバーですからね。

 爆弾による危険は常に警戒していてもおかしくない。」


「―――!!」


金髪ツインテールに鷹のように鋭い眼――――身長は170㎝ほど。

その女は右手に持った黄金の剣を大きくふりかぶり―――

夫婦とその子供を―――斬った!!!そして斬られた三人が世界から消滅する。


「ちなみに先ほどの爆撃は、貴方を殺す事が目的ではないのですよ。

 貴方に死なない程度の重傷を与えるだけで良かった――――」


そしてその次の瞬間―――その金髪の女の持つ

剣の剣心に先ほどの夫婦と子供、女子高生二人とデブの頭が出現する。

そしてそれを、シルバーの家の崩れ燃える灼熱の崩れた床に叩きつける。

「「「「「「ギエエエエエエエエエエエエエエエエエ」」」」」」


「なっ――――」


「ならば、なぜ生かしておいたのか?

 理由は簡単です――――貴方から、"DDF"の在り処を

 聞き出す為だ。」

VOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!


「テメェ……"三羅偵"ロンカロンカかッ……

 イカれて―――――やがる!!」

(DDFだと……!?

 探偵協会の人間があの宝石を探している―――?)


「目撃者がいると後の始の末が大変な事になりますからね、

 この6人には取りあえず死んでもらいました。

 それにしても君がシーフ・シルバーですか?

 幼稚園児みたいなツラを…しやがる。(にやり)」

シルバーは童顔である。だがそんな事はどうでもよかった。


二人が対峙る。


(あの傷を見るに奴の能力は水分・液体を石化する事――――

 そして奴の目の動き……

 私が推理するに奴の能力範囲は

 プロメテウスと同じく―――己の視界のみ―――――)


(奴の能力は斬ったものを封印する剣。

 つまり近接特化の能力――近づくのは危険だ。

 剣の長さと能力を加味して―――

 奴の危険区域<デンジャーゾーン>はおよそ5mといったところか。)


ロンカロンカがシルバーに近づく、

シルバーが近くの水が噴き出ている場所を挟み、敵との間合いを取る。

そして――――


「ぐっ……!?」


シルバーロンカロンカがまばたきした瞬間に瞳の粘膜を石化する!!

そして―――ワン!ツー!スリー!

シルバー所持していたリボルバーから三発の弾丸を射出する!


「そうか―――まばたきで湿った目の表面をも石化させるのか!!

 そして3発の銃音!取り出せッ!!エンプレス・プリズンッ!!」


ロンカロンカの目の前に二人の男が出現する!!

「あがッ!ふぐっ!ぐっ……!!」


そして男は倒れ噴水のように血が上に噴き出す。

ロンカロンカはその噴出した血が頭に掛からないよう、左腕を頭の上に差し出した。


「なんて奴だ――――鉄板とかならまだしも――

 封印した人間を盾にしやがった!!」

(だが奴の左腕は血に濡れた――――血は水分だ。液体だ。

 私のストーン・トラベルで石化することは可能!!)


クルッ

ロンカロンカが左腕をシルバーに見えないよう体で隠す。


「うっ……こいつ!!」


「フフ」

(あの反応を見るに、やはり石化できるのは視界に映る液体のみ。

 確定だ。これで遠慮なく――――奴に近づける事が分かった!)


ロンカロンカがエンプレスプリズンから包帯を取りだし

血に濡れた左手をグルグル巻きにする。

―――そして走る!


「さて!宝石の在り処を吐かせるために拷問してくれます!

 そしてその後貴様のジジイと同じ地獄に送ってくれる!!

 目には目を!歯には歯を!怪盗は死ね!」


「目が石化されて何も見えないはずなのにこちらに正確に向かってくる!!

 くッ――――私の近くの水場の音を辿っているのか!!

 いや!!!それにしてはあまりにも正確!!!」

(ジジイは………死んだか……クソッ………)


シルバーコートの内側に入れていたブーメランをロンカロンカに投擲する!!

しかしステップで回避される!!


「難しい理論や能力とかそんなじゃない―――

 こいつ、聴覚―――いや、気配を察知する能力が凄く高いんだ!!

 まずい―――7m―――6m―――!!」


「クックック……」


しかしロンカロンカの眼前には、水たまりが広がっていた―――!!

水源シルバーの近くから噴き出ている水だ!!


「なるほど、ここから先はキミの結界と言うわけですか――――

 ならば……」


エンプレスプリズンの剣先から巨大な鉄骨が半身だけ取り出される!

"工"の形をした、長さ6mほどの巨大な鉄骨!

そして――――!


彼女はエンプレスプリズンごと、その鉄骨をシルバーのいる場所へと振り下ろす!


「くッ………!!なんというパワー!!!」


「間一髪で避けましたか………

 ならば、横薙ぎならどうですッ!?」


右から左へと鉄骨&エンプレス・プリズンが薙ぎ払われる!!


ドッゴ!

シルバーの左腕が完全に粉砕される!!!!


「がァァァッ!!!」


「更にもう一発!」


ドッゴ!ゴキュッ!!!

シルバーの両足が完全に粉砕される!!!!


「ギッッ……!!」


ドサ。

シルバーその場に倒れ伏せる!!


「フフフ……爆発で重傷を負っていたせいで―――

 攻撃を避けきれませんでしたか?」


ロンカロンカが水たまりを踏まないよう

瓦礫の上を辿りながらシルバーの元へと近づいていく!


「さて、そろそろこのゴミを剣の中に封印しておきましょうか?」


「――――ロンカロンカ……と……言ったか……

 もう勝った気か―――?舐められたもの……だな……

 既に勝利への布陣は出来上がっている……」


ショバアアアアアアアアア!!!

ロンカロンカ背後から水を放たれる!!

水源は―――先ほどシルバーの近くに会ったあの噴水だ!!


「うっ――――――これは!?

 シルバーの近くに会った噴水が

 私に向かって射出されている……!?


 何故だ……!先ほどまでは上方に向かって放たれていたはず……」


「私の能力は、水を利用する能力―――流水なら更に使える。

 噴水から噴き出る水を石化して、射出口に蓋を作り

 ―――放たれる水の方向を制御した!!」

--------------------------------------------------------------------------

[図解]

                 □→水→

  ↑↑↑         □□□→↑水↑  ロンカロンカのいる方向→

  水水水         □水水水□ 

 ■↑↑↑■       ■↑↑↑■

 ■水水水■       ■水水水■

 ■↑↑↑■       ■↑↑↑■

 ■水水水■       ■水水水■   ※■=射出口

                     ※□=石化された部分

先ほどまでの噴水の状態  現在の噴水の状態

------------------------------------------------------------------------------

更に水が噴き出る穴が石化によって小さくなっていたことにより、

水の噴き出る勢いが結構増していた。


「ストーン・トラベル!!奴の周りの水を石化しろ!!」


ガっ!!ガっ!!

顔面と――――左腕を石化!!足元の水を石化して動きを固定!!


「フッ、よくも人の家をブッ飛ばしてくれたな―――

 ローンの代わりはその命で払ってもらうぞ!!」


「……エンプレス・プリズン!!」


カランカラン!

ロンカロンカの姿が消える!石化した服を残して!

自らを暗黒の異世界に転送したのだ!!!!


「―――!!こいつ、自らを切り裂いて―――」


「勝利への布陣は出来上がっている―――フフ。

 そっくりそのまま同じ言葉を返させていただきます。」


地に落ちたエンプレスプリズンから黒い服を身にまとったロンカロンカが

出現する!


(なっ………!?む、『無敵』か……こいつの能力……!!)


そして水の当たらない場所へと移動し―――


ブンッ!

横なぎに払われたエンプレスプリズンから手足の無い子供たちが投げ捨てられ、

シルバーの横に投げられる!


「う……ああ……」

「なッ……」


そしてその瞬間、シルバーが横を向いたその瞬間……

ロンカロンカがエンプレスプリズンでシルバーを縦切りにし、

暗黒の異世界に転送する!!

そして剣心からシルバーの肩より上の部分だけを取り出す!!


「しまっ………」


「この瞬間を待っていました。

 キミと私の関係が―――女帝と囚人になるこの瞬間を。

 こうなればどんな行動すら無意味ですよ、

 貴様は牢につながれたのですッ!」


エンプレスプリズンに繋がれたシルバーが瓦礫に叩きつけられる!


「ガッ…」


「さぁ、DDFの在り処を話すのです。」


(ば、万事休すか……)


今度はエンプレスプリズンを近くの炎で火あぶりする!


「ぐああああああああ!!」


「クズ虫の存在は私の癇に障りますが、

 鳴き声だけは本当に心地のいいものです。


 ですがまだ弱い――――

 もっと更なる悲鳴を所望する!

 "モーツァルトのレクイエム「怒りの日」"のような絶叫を!!」


サディストである。


「―――――ハァ…ハァ」


「…………どうした!ほら叫べ!?

 それとも例の宝石について話すつもりになったか!?」


(―――『ロンカロンカ』、お前の勝ちだよ……。

 正直言って、ここからお前に勝てるビジョンって奴が全く見えない…

 ―――だがな、貴様のようなゲス野郎だけにはあの宝石の在り処は絶対に言えん…

 無関係のカタギの命を己の利益だけに利用するような外道にはなァァ)


「――――フン。ならば蠱毒の材料にしてやりましょう。」


エンプレスプリズンからムカデやゲジゲジ、カエルのバラバラ死骸が地面に落ちる。

―――しかし。


「―――?貴様……その口の血……舌を噛み切ったのか!!」


(くそ……だが……これでいい………

 これで奴は私からDDFの在り処を聞き出せない……)


エンプレスプリズンから拳銃が取り出される。

そして………


バンバンバンバン!!!

シルバー頭を銃弾で撃ち抜かれる!!しかも4発!!!


「フン、自分で探しますか。」


エンプレスプリズンからシルバーの全身が投げ捨てられる。


怪盗シーフ・シルバー

(プレイマー・グラン)―――――――――――――死亡。


「やはり、知性―――知性のあるものが戦場で生き残るのです。

 怪盗シルバーにプロメテウス……

 私の見たところ、キミ達のIQはおよそ180~250と言ったところ。

 私のIQは全人類最強の『503』。3歳のころに両親を殺すほどの最強知性です。

 最初から君たちに勝機など無かった。


 しかしこうやって探すのは嫌ですね…

 誰かに目撃されるかもしれませんし。」


ロンカロンカがエンプレスプリズンの柄頭の部分にひもを括り付け、

ぶん回し始める!!!

あらゆるガラクタ、金庫、箪笥、トイレなどが

エンプレスプリズンに取り込まれる!!


「まぁこれぐらいでいいでしょう、さっ……退散退散。

 ―――ん?」


「ひ、ヒィィィィィ」


「目撃者がいるな……フン、走って逃げたか。」


エンプレスプリズンからモーターバイク・ドゥカティが現れる。

ブッキュウ・オオオン!!!

バイクに乗って目撃者に迫りくるロンカロンカ!!!


「う、うわあああああああああああああああ!!!」


ドンゴン!


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

探偵協会マレフィカルム――――日本支部。


「おっ、ロンカロンカからメールだ。」


ふわふわソファーでくつろぎ端末を取り出すその男、

「三羅偵」東結 金次郎。


「ふむ。アイツ、殺ったみたいですぜ、

 あの伝説のシーフ・シルバーを……

 ま、予想通りだな。」


 〇――――――――――――――――――――――――――――〇

  件名:シーフシルバー殺しました。

  差出人:ロンカロンカ

  宛先:探偵王百賭様

  cc:東結金次郎、黒霧四揮、依頼者さんID2855285


   シーフ・シルバーの頭部に弾丸を4発撃って殺しました。

   死体は彼女の自宅に放置。

   以下証拠の死体画像。

            [添付画像1][添付画像2][添付画像3]

 ○――――――――――――――――――――――――――――○


「画像は―――どーせグロ画像だから見ないようにするぜ。

 あいつ趣味悪いからねぇ~~ヘヘ、ゴミ箱に転送っと」


Vooooooooo………


「……怪盗を殺したのはいい。問題は、

 アイツがDDFを見つけるのにどれほど時間がかかるか―――だな。」


百賭は冷静にメールを見ている。


(……ク……フッフッフ!!在日アトランティス人どもが死んだ!!

 これで私の邪魔をする者は誰一人としていない!!!!

 願いかなえるぞーーーーーーーーーー!)


黒マントの男……歓喜………!!


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 『おれは怪盗島風!!』         『探偵王・百賭』


    『全身をこたえさせてくれるパンジー』


        『プレムは私の作るホットケーキが大好きだものね』


『貴方にはDDFを守るという使命がある。』


        『私、試験を合格して…いい怪盗になれるかな?』


   『ワシが如何かしたのか……プレム?』


       『キミと私の関係が―――女帝と囚人になるこの瞬間を。』



意識が…ある………――――今までの人生の軌跡が見える……

走馬灯だ……


どうしたんだっけ、私は…


あのロンカロンカにあっけも無く殺されて………

使命も果たせず、無様に死んだ………


『………さん!プレムさん……!!!……っかり!!』


声が聞こえる…


誰の声だっけ……もう死にかけているのか………

脳の細胞が朽ち果てていくせいか……何も思い出せない……


というか、

まだ、ギリギリ生きてたんだな……

これも在日アトランティス人のもつ超人的な身体能力のおかげか……?


でも、心臓は完全に止まってる…

頭に4発の弾丸……もう助かる見込みは………


『――――プレムさん……!!』


この"男"の声はとても聞き覚えがある……

多分、私ととても仲が良かった人だ……

でも何か違和感があるんだ……呼び方だ。

彼は私の事をプレムじゃなく―――グラン…って呼んでた。


でも、彼、何かすごく焦ってるな……


『プレムさん』


「そうだ……思い出した……ヨシヒロ君だ……

 最期に会うのは……君か……ふふ、良かった。

 でも、なんで君がここに……?

 それに、記憶が…知性が……修復されていくような……」


死の世界のプレムの目の前に、右堂院の姿が半透明で現れる。


『ぼくも、良かった。

 プレムさん、"最期"に―――貴方に会う事が出来て。

 でも安心して、"最期"が訪れるのは僕だけだ。

 貴方は……貴方の命は間一髪。ぎりぎり助かった――――

 銃を4発も受けてまだかすかに生命が残っているなんて……』


「何を……ちょっとまって……最期……?

 な、何を言い出すんだ―――!」


『僕の能力は"等価交換"。貴方の傷は僕が受ける。』


「……!」


『ずっと、ぼくは頭の中で想い描いていたんだ。

 "理想の探偵"というものがある。

 人の為に生き、人の役に立つ――――

 自分の護りたいもの―――

 最愛の人をあらゆる脅威から守り抜く……

 それが僕の思い描く理想の探偵。』


右堂院の体の透明度が徐々に上昇していく。


『そしてその理想の探偵になれるなら、

 僕は命だって差し出すよ。

 これでいいんだ…僕は夢を叶えられた――――


 だから、泣かないでプレムさん……

 そして―――さようなら………』


「よっ―――――――――ヨシヒロ君ッ!!!待って!!!」



―――――――――――――――!!!!


プレムの視界が、光に包まれる。

太陽が眩しい!!現実の世界に戻ってきたのだ!!

………そして……

そして、彼女は静かに起き上がる。


「私の………家だ………

 ―――――!!!」


彼女が隣にある者を見てしまう………

右堂院義弘の―――死体だ。

頭に4つ、脇腹に一つの穴が開き、右腕と両足が破壊されていた。

頭部に少し火傷したような跡が見える。


『恐らく、これが彼のカースアーツの力だったのでしょう。

 ダメージを転移させる……そういう能力……』


神が分析する。


「―――そんな事は……どうでもいい……」




「…う………ううう………

 ばかっ……泣かないわけ……ないだろッ……!!」


涙を流すシルバー……


『………心が落ち着いたら、

 すぐにDDFを回収しに行きましょう―――

 あのロンカロンカはまだあれの在り処に気付いてはいない筈。』


私立探偵・右堂院義弘―――――――――――――死亡。


――――――――――――――――――――――――――――――

怪盗の死、すなわち私やプロメテウスのジジイの死は、

ある意味自分から厄介毎に突っ込んだゆえの自業自得ともいえる。

だが、彼、右堂院の死は何から何まで不運なものであったと思う。


私とさえ出会わなければ――――彼は死ななかった。

私が怪盗でなければ――――彼は死ななかった。


そう、彼を殺したのは、この私も同然なのである。

私が彼を運命に巻き込んでしまった。

胸が張り裂けそうだ。


だが、私はここでくじける訳にはいかない。

涙を石に変えてでも前に進もう。

血を石に変えてでも前に進もう。


私は――――運命の使者なのだから。


私はまず、ジジイの遺言の通り、

変装して鳥取ネオ八番街のA-R地下倉庫に向かい―――

DDFを再度回収した。

それにしても、どいつもこいつもなんでパスワードを誕生日にするんだ?

安直すぎるだろ………

バカジジイ………死にやがって……



あのクズ<ロンカロンカ>を倒したいのは山々だが、

正直―――"今"の私では絶対にかなわないだろう。

だからここは"機"を待つ――――――


貴様を確実に殺してやる。

右堂院やジジイの為―――それに、これ以上被害を増やさない為に……。


取りあえず、私は近くのホテルへと向かい、奴を倒せる機を待つことにした。

奴もDDFを見つけるまではこの街を離れようとはしないなだろう。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

PM5:21

ホテル・鳥取。


ブルルルルルルルルル――――!!


「でん…わ…か………?

 誰だろ………

 もしもし――こちらシーフ・シルバー。」


「睦月だ。」


睦月――――!?


「何の用だ?」


「シルバー、君の家……ニュースで、君の家が爆発してるのを……見たぞ。

 それに、君の街で、300人ほどの行方不明者が出ているとも。

 いったい何が起こっているんだ?」


――そうか、ニュースにも………。

それに300人ほどの行方不明者―――ロンカロンカの仕業だな……

くそ、人が少なかったり警察がやけに多かったのはそのせいか!


「何かあるなら手を貸そうか?今丁度、野暮用で鳥取向かってるんだ。」


「――――!!」


『彼女は味方につけた方がいい。彼女のアリの能力は

 奴のエンプレスプリズンと相性がいい。』


………睦月がここに来たら、どうなる?

奴<ロンカロンカ>は今うも街の人間を無差別に拷問し、

情報を得て推理をしているだろう。

その巻き添えになる可能性がある……

それに……


「駄目だ―――睦月の実力じゃ……かえって足手まといになる」


「――!足手まといだって?

 フフン!シルバー、君は何か勘違いしているようだな。

 能力を得てもう二週間は経ってる。

 もう素人じゃない、前より練度はかなり上がっているぞ。」


「駄目だ!!

 お前を――――お前を私の運命に巻き込むわけにはいかない!!」


通話が静かになる。


「……わ、私は………」


「―――?」


「私は―――キミの役に立ちたいんだ………!!!


 今、君の身の周りでとんでもないことが起きてるんだろう!?

 声で分かるよ!!

 キミはコミュニティの入団試験の時や父親が死んだとき―――

 私の心を絶望の地の底から救い上げてくれた!!

 こんどは私が君を救いたい!!

 今何が起こってるか全部話してくれ!!!!!!」


「全部……」


睦月………お前は………

でも――――


「睦月……私とお前の関係は……そんなに長くは無いよな。

 数年に一度、会うかどうかと言ったところだ。」


「――――!」


「でも、そんな短い時間の間でも、お前とは深い関係に慣れたと思っている。


 睦月――――私はお前の事が好きだ。

 ライクの方だがな……

 歳も同じだし。本当に気のあう、いい友人だと思っている。

 さっきの言葉もお前をカヤの外にしたり、お前が嫌いだから故の発言では決してない……


 睦月―――私を、信頼してくれ。」


「でも……危険なんだろ……!」



「約束してやる、必ず生きて帰ってくると…。」


「………わかった、よ。」


「睦月……ありがとう……」


「キミの事だから心配はないと思うけど―――無茶だけはするなよ。」


「フッ……さっきまで無茶を言ってたお前にはあまり言われたくないなぁ。」


「もうっシルバー……キミはホント冗談が好きだな…

 ――――わかった。でも、私はいつでも待っているからな。」


「ああ、ありがとう。」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

同時刻。別のホテル。


そこでは、ロンカロンカによる拷問が始まっていた。

人間火あぶりだ。


「ギャアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーー!!!」


「ふぅむ、あのプロメテウスじじいが本日の朝に

 ネオ八番街のなんとか倉庫に何かを安置した――――という目撃情報ですか。

 まぁ、調べてみる価値はありますか。


 エキサイティング&ジェノサイディック…」


――――――――――――――――――――――――――――つづく。


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