Episode2 銀の怪盗シーフ・シルバー

新潟宝石博物館の正面玄関から一人の女性がガニ股で外出する。


「フッ、俺にとっての仕事しごととはゲーム…

 そう、繰り返される無限のサイクルの中で如何に上手くサボるかを競うゲーム…

 世の中には"仕事こそ人生の本分"とか言う奴もいるが、アレはカスだ」


彼女は新潟宝石博物館の受付嬢。

もう定時17時なので、残業せず退勤しようとしているようだ。



「チッ――――ポストにゴミが入ってやがる。

 銀色のゴミだ…ポストは燃えないゴミを入れる箱じゃないんだぞッ」


「受付嬢君!ポストの前で何をしてるんだね!!!」


新潟宝石博物館の館長がそこに現れる。


「ポストに銀色のゴミが入ってんすよォォォ~~どうしますかコレ~~~」


「ゴミ…いやこれはゴミじゃないよ、封筒のようだ。それも銀箔で包まれた封筒。

 とても珍しいね…」


館長は銀色の封筒を手に取り、腕力で破いて中身を確認した。


「内容は……ふむふむ。……!?」



館長の顔が目に見えるように青ざめる。

口はむき出しになり、体は震え、目が飛び出ている。


「館長大丈夫っすか!?」


「―――――――――――受付嬢君、

 退勤したスタッフを今すぐ全員連れ戻し、新潟警察と新潟探偵事務所に電話せよ。」


「え――――――――」


「ヤバいんだよ博物館が!

 というか銀色の封筒を見た時点で博物館がヤバい事を察しろ!」


―――――――――――――――――――――――――――――

銀の封筒の送り主<シーフ・シルバー>は、博物館前の電柱の陰から、受付嬢と館長の焦りっぷりを笑いながら見ていた。


「私もすっかり人気者になったな…喜べばいいのやら、悲しめばいいのやら…

 なぁ…無線サポート専門怪盗ロル?」


シルバーは電柱に隠れながら無線機のマイクを口に当てロルと言う男と通話している。


『いいじゃねぇかいいじゃねぇか!嬢ちゃんが有名になったのは実力が認められたって事だろ?もっと誇るべきだぜ』


無線サポート専門怪盗ロル――――

金次第で他の怪盗を無線サポートで手助けする怪盗。

表向きは陽気でフレンドリーな男だが、その実…己の正体に関する情報は一切明かさない慎重派。

シルバーは彼と7年の付き合いがあり彼と自分が熱い絆で結ばれていると思っているが、そんな彼女でさえロルの本名、顔から本当の声まで一切知らない。


「ま、有名になったらなったで、その有名っぷりを盗みに利用させてもらうだけなんだけどね。」


『明日の被害者さん達は挑戦状を受け取ったのか?全く、毎度なんであんなものを送りつけるんだい?黙って盗めば警察や探偵を呼ばれずに済むのに。』


「呼ばれた方がスリルあっていいじゃん。最近の日本の探偵なんてマヌケばっかりだし大丈夫だよ。そんな事より、明日のサポートしっかり頼むよ。」


『OK!!』


―――――――――――――――――――――――――――――

午後8時、新潟探偵じむしょ。


新潟探偵事務所は新潟最大の探偵事務所で

事務所専属の探偵はなんと50名を越える。

ちなみにこの事務所の探偵には3つの階級がある。



「フッ――――ついにシーフ・シルバーがこの新潟に出現したか………」


「フフフ――――面白いですな。」


「フム――――そうですね。」


「フハハハハ!!!我々新潟探偵事務所団が支配するこの新潟と言う地で怪盗行為を行うとは!!!奴の命運も尽きたな!!!!」


4人の探偵が談笑している。

彼等は、この探偵事務所で二番目の階級―――"四天王"の称号を持つ、4人の凄腕探偵。

通称新潟フォースナイト。



「でも、相手はあのシーフ・シルバーですよ~~~~~~~~~~!!!!!!!!」


「「「「騒ぐな第三階級!!!!!俺達を誰だと思っていやがる!!!!!!!!!」」」」


「ハッ……」


「俺は惨殺丸―――かつて15人もの怪盗を殺した凄腕探偵だぜ?」

「儂は銀髭―――呪いの力で人の心の内側を見破り、誰が犯人かを正確に当てる事が可能。」

「僕は魔介―――記憶力が高いのが特徴で、TOEICで950点を取ったいう経歴を持つ。」

「俺様はジャンゴAC!力ですべてを解決するパワー系の探偵だ!!!!!」


「すごい!!これならシーフ・シルバーだって!!!!!」


トコン…


「で?それがどうしたカスども。そんな事よりシーフ・シルバーの詳細を教えてくれ魔介。」


「アンタは…」


4人の前に黒いローブを身にまとう男が現れた。

目の白黒が反転しており、筋骨隆々の体型をしている。


「夢 天耀さん…なんでここに…」


夢 天耀!!!!!

彼こそ新潟探偵事務所の社長にして最強階級<夢天耀>の称号を持つ男…


「いいから教えてくれ魔介。」


「えぇ…と」


ノートPCを膝に乗せた魔介が喋り始める。


「シーフ・シルバー…十年前突如この日本に現れた凄腕女怪盗。

 白色の服装とマスク、銀色の美しい髪と瞳が特徴。

 そんなところですかね。

 それと謎の超能力を使い、とても手ごわい怪盗とも聞きます。

 身長は150㎝ほど。それ以外は何もかも不明。

 あと盗みを働く際、かなりの確率で挑戦状を送りつけてくるらしいです。

 今回の挑戦状には、明日午後8時に"黒い宝石"を盗みますと書かれています。

 どうします天耀さん。」


「超能力か――――

 こいつはきっと手ごわいな、推理作戦を立てよう。魔介、何かいい案あるか。」


「あの博物館にある黒い宝石を調査しました。ブラックホールダイヤモンド、

 宇宙の神秘、黒き夢、DDF、ブラックパールなどがあるらしいですよ。一体どれが本命なのか…」



「ブラックホールダイヤモンドだな!!奴の本命は!!

 裏世界では高値の取引がされているからな!!」

ジャンゴACが吠える。


「くだらん。正面玄関で待ち構えてそこでシルバーを抹殺すればよかろう。」

「作戦などいらん。心を読めば犯人は一瞬で特定じゃ。」

惨殺丸と銀髭は自信満々のようだ。


「この中で一番頭の良い私にいい案があります。

 奴が犯行を行う午後8時までまだ時間があるので、

 全員今日は家に帰って、プライベートの時間でそれぞれ

 推理の作戦を考えましょう。

 そして奴が犯行を行う二時間前に博物館前で落ち合い、

 全員が家で考えてきた作戦を出しあって一番いい作戦を多数決で決める。

 これでどうでしょう。」


「俺は夢天耀だが、魔介の考えるその案がベストだと思う。

 社長命令だ。魔介の案の従い四天王のみんなはもうタイムカードを切って家に帰れ。」


「「「「解散!!!家で最高の推理作戦を考えてくるぜ!!!」」」」


そして夢天耀以外家に帰った…




「フッ――――シーフ・シルバーか…面白い………面白すぎる……

 明日8時…是非この新潟最強の探偵、夢天耀様を楽しませてくれい…!!

 フッ…フフフ…フハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」


―――――――――――――――――――――――――――――

決戦の日、午後7時50分。新潟宝石博物館玄関前。


「シーフ・シルバーの奴が来るまであと一時間。」


13台のパトカー、警察25名が博物館を囲うように警備してやがる…


「しかしなんでだ?あの探偵団(新潟探偵事務所の奴ら)、6時に来るとか言ってたのに、まだ来ないじゃないか」


「そうですね署長――なんででしょう…」


「どうするんだよ――――

 相手は怪盗、ましてやあのシーフ・シルバーだぞ!俺達警察じゃ相手にはならん…

 探偵じゃないと奴は捕まえられない!!」


「署長!探偵達の家に派遣した使いの警察から伝言です!」


「なんだと!?内容を簡潔かつ的確に言え!!」


「探偵たちはまだ家から出ていないとのことです!!」


「何ゆえ!!」


「わかりません!!ドアは鍵が閉まってるしインターホン押しまくっても反応が無いとの事です!!!」


「なにやってるか気になるな――――

 よし!!家の玄関を爆破してでも中の様子を確認して来い!!!

 遊んでたら今すぐこの場所まで連行しろ!!修理代は国家権力が支払う!!」


「分かりました!!爆破しろと言ってきます!!」




(あの探偵―――新潟探偵最強の男、夢天耀は、ある作戦があると言っていた…

 もしかして、家にいる事が、奴らの作戦なのか!?

 でも家に居ながら、事件を推理なんかできるのか!?

 わからん!!何もわからん!!

 だが信じよう―――夢天耀を信じろ…!!

 アイツは最強の探偵だ…!!シーフシルバーもきっと捕えてくれる…!!)


―――――――――――――――――――――――――――――

午後8時10分。新潟宝石博物館地下2階。


「さて――――怪盗の時間の始まりだ。」


シーフ・シルバーの潜入はすでに始まっていた。


『それにしても、上手くやってきたようだな。』


「ああ、新潟最強の探偵夢天耀とその配下の新潟フォースナイトは

 …既に"始末"した。」


『怪盗の天敵は探偵。その探偵を最も無防備状態であるプライベートの間に叩いて無力化する。

 なんて合理的かつ冷酷な作戦なんだ…流石、伝説のシーフ・シルバー』


「これも探偵VS怪盗の心理戦の在り方の一つさ…

 さて、DDFは地下12階――――」


さぁ、本格的な潜入の始まりだ。

見たところ新潟宝石博物館地下には様々な罠がある…

不法侵入者を問答無用で焼き殺す火炎放射器、動くレーザー、毒ガス等など…

流石は警戒レベル86と言ったところか…


「だが、そのトラップを無効化出来る筈、もしくは抜け道がある筈なんだ

 じゃなきゃ、DDFをここの地下に

 安置することなんて到底できないからな――――当然の理論よ。」


『シルバー、そこのトラップはパスワード入力及び、

 お前が事前に館長から盗み出したカードキーを使えば簡単に無効化出来る筈だ。』


「パスは全部1015――――館長の誕生日だったな。すごいマヌケね。」


『怪盗にとって事前の調査は基本中の基本…。

 探偵が来なけりゃ確実にDDFを入手できるな。』


潜入は順調に進んでいた…


―――――――――――――――――――――――――――――

一方その頃――――博物館玄関前


「署長――――

 派遣した警察隊が新潟探偵事務所のみなさんの家の玄関を爆破し、

 中に入ったようですが…」


「どうなっていた?」


「全員寝てました。」


「は?」





「寝てただとォォォォーーーーーッッッ!?

 ふざけんなッ!!!寝坊したとでも言うのか!!!!

 あいつら学生気分で探偵やってんのかコラァァァーーーーーーーッッ!!!!」


署長の心臓が煮えたぎる。怒りが天に達した。


「そんなに怒らなくても

 ――――あっ、夢天耀さんが署長に伝えたい事があるらしいですよ。」


「なんだ!!夢天耀さん!!!」


『おわあああああああああ!!!!!!怖い!!!怖い!!!!!!!!

 何も見えないよおオオオオオオオオオオオおお!!!!!!!!!』


「は――――?」


―――――――――――――――――――――――――――――

一方その頃――――シルバーたちは地下12階まで潜入していた。


「あれが

 ――――DDF……むっ!?」


シルバーの背後に4mほどの大きな人型の影が迫る。


『シルバー気を付けろ!後ろから誰か迫っている!』


「わかっている!!!」


4mの巨影がその巨大な腕をシルバーに向かって振り下ろす。

しかしシルバーが真横にステップを踏んでそれを回避…


どごぉん!


「ううッ…この衝撃波――――!!!貴様何者だ!」


「ウホ」


「うっ…その毛むくじゃらの風貌…貴様人間じゃないな!!」


「御名答、彼は人間では無いパンジー。」


シルバーの背後から枯れた声が発せられる。

シルバーすがさずその方向に振り向くが、二人の人影が行く手を阻む。

一つは先ほどと同じく、4mほどの毛むくじゃらの大男。

もう一人は、恐らく声の主。1m弱の小さな老人であった。


「ようやく、手ごたえのありそうなやつらが出てきたな。

 これだから盗みは面白い。」


「俺はこの博物館の副館長パンジー。

 手ごたえがありそうとはずいぶんナメ腐った発言をしてくれるパンジー。

 手どころか全身をこたえさせてくれるパンジー。」


1m弱の小さな老人は変な語尾を付けて喋る。


「まさか博物館の地下にこんなプチ動物園があるなんて思いもよらなかったよ。

 おい、そこのワクワクさんみたいな顔したオッサン、

 そのゴリラみたいな2頭はなんなんだ?」


「ガーディアン・チンパンジー&ガーディアン・ゴリラ!!!

 動物園にいたゴリラとチンパンジーを私が盗み出し――――

 博物館守護用に品種改良した最強の霊長類だパンジー。

 しかし、DDFが狙いとは

 まさかあのバカみたいな伝説を信じたわけではあるまいパンジー?」


「そのゴミのような語尾どうにかならない?」


「シルバーよ、貴様は確かに素晴らしい身体能力と知恵を持っているようだ――――

 だがそれは人間基準の"素晴らしい"でしかない。

 猿最強の種、チンパンジーとゴリラには敵わないパンジー!!!」


「そうか、なら死ね!!」


ワン!ツー!スリー!!

シルバーは腰に刺したリボルバーを瞬時に取り出し、1m弱の小さな老人に向け、

三発の弾丸を発砲する。


「遅いわ!!人間ならともかくゴリラに見切れないスピードでは無い!!

 ガーディアン・ゴリラ、弾を全て弾くパンジー!!!!」


「ゴリッ!!」


ガギガガゴン!!

ガーディアン・ゴリラが3発の弾丸を全て叩き落とす!!



「はっはははははーーー!!その程度かパンジー!!」


「…………ハハハハ!!悲しいね!!」


「は?何を余裕こいてるんだ?

 貴様は今絶望的状況なんだぞパンジー!?」


「サル類最強か……確かに生物としては最強かもしれんが、私には敵わない。」


「ははーん、わかったぞ怪盗、貴様確か超能力を使うとかいわれてたな?

 どんな超能力なんだパンジー!?見せてくれパンジー!?」


「見せてやるから、よーく括目しな。」


―――――――――――――――――――――――――――――

署長はまだ夢天耀と会話している。


「夢天耀さん、何があったのか説明を!!!」


『見えないだ――――!!奴の目を見たら…何も見えなくなるッッ――――!!!

 見えなくなるんだあああああああああ!!!!!』


「何を言ってるんだいったい何を…」


―――――――――――――――――――――――――――――

「ぐあああああああ!!!!!何も見えない!!!

 何も見えないパンジー!!!!!!!!!!」

「ウホオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

「ウキイイイイイイイイイイイイ!!!!!!」


「よーく見えたか?――――これが私の超能力さ。」


『相変わらず恐ろしいぜ!!

 目に見えた液体、触れた液体を瞬時に石化させる"呪い"の能力………!!』


「そうだよロル。これが『石の旅<ストーン・トラベル>』。

 この能力で貴様らの瞳を覆う微量な水分を――――石化させた。

 次に私が能力を解除するまで、もう何も見える事は無い。

 せいぜい暴れるだけ暴れるがイイさ。」


「パンジー!!!!見えないパンジー!!!!!!」


「うるさいな、耳障りだからちょいと黙っててくれない?」


シルバーは懐からペットボトルを取りだし、

中身の水を三人の口にぶっかけて………それを石化させた。


「喋れないように口の周りの水を石化させた。

 鼻の穴は封じてないから窒息死の事は考えなくてもいいよ。」


「んーーーーーーー!んーーーーーーーー!」


「舐めてかかってたのは貴様らの方だったな。

 怪盗を殺していいのは探偵だけだ。

 さて―――DDFを頂くとするかな…」





―――――――――――――シルバーによるDDF窃盗事件。

死亡者…0人

損害…新潟宝石博物館―DDFを失った 

勝者…シーフ・シルバー―無傷で生還、DDFとを手に入れる。





・後日談 博物館館長室で起きたもうひとつの事件。


新潟宝石博物館館長の前に黒いマントを羽織った男が立ちはだかる。

身長2mを越える大男だ。


「君が、この博物館の館長かね」


「いかにも!新潟宝石博物館にようこそ!」


「DDFという宝石がこの博物館にあると聞いたが」


「いや~ごめんね、あれ、怪盗シルバーに盗まれちゃったんだよ~

まぁここにはあんなガラクタより高価な宝石があるよ、ほら、ブラックホールダイヤモンドとか…」


「怪盗シルバーか…」


パンッ


瞬間、館長の腹に大きな風穴が開く。

内蔵が垂れ、大量出血している。


「どッーどしえ~~~~~~~~~~~~!?」


「怪盗シルバー…か…フフ、DDFの回収に成功したか……ならば持って行け……

 DDFと共に、一杯の絶望を……」


黒マントの男は館長室を後にする。部屋には醜い死体だけが残った。


                               つづく。

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