第3話
「すいませんすばる先輩。お待た――、……どうしたんですか?」
再びスマートフォンしまった所で、雲雀が戻ってきてすばるにそう問いかける。
「大したことじゃないわ」
すばるはややツンとした口調でそう言い、雲雀へ自分の隣に座るよう促す。
「だた
彼女が隣に腰掛けると、すばるはため息交じりにそう言いつつ、雲雀に寄りかかってその肩に頭を乗せた。
「……すいません。
「いいのよ。あなたは私の事を思ってやったんだもの」
雲雀から自然に抱き寄せられ、すばるは
「帰って寝ますか?」
「そこまで疲れては無いわ。この分なら――」
「ケーキ食べたら、は無しですよ」
「ぬ……」
完璧に先回りされてしまい、すばるは捨てられた子犬みたいな顔を見せる。
「そんな顔をしてもダメですよ」
「ケーキ……」
「また明日にして下さいね」
「分かったわ……」
飲み物を飲んで一息ついてから、2人は自分達の部屋に帰った。
すばるは戻るなり、窓際のカウチソファに腰掛けると、自らの経営する
その周りで雲雀が、すばるが昨日散らかした服や下着をカゴに入れ、あちこちに転がっているぬいぐるみを片づけていく。
数回やりとりした後、すばるは深々とため息を吐いて、ソファー前のローテーブルにスマートフォンを置いた。
「何かトラブルですか?」
「それ程のことでもないわ」
スケジュールがちょっと押していただけよ、と雲雀に答えたすばるは、横に置いてある隅っこで体育座りする猫のぬいぐるみを抱きしめた。
洗濯物を詰めたカゴをドア横の回収ボックスに入れた雲雀が、その空いたスペースに収まった。
「ねえ雲雀」
「はい。なんですか、すばる」
「あなた、何か嫌な思いとかしてない?」
顎をぬいぐるみの頭部に乗せ、すばるはそう訊いてきた。
「なんですか。
「ほら、大前派閥の連中あたりから、つまらない嫉妬で嫌がらせでもされてないか、と思って」
「今のところそういうのは無いですよ」
「そう……。それなら良かったわ」
ひとまず安心した様子でそう言ったすばるは、くれぐれも何かあったらすぐ言いなさい、と続けた。
ちなみに
ただ、大前本人もその『妹』達も性格が良くは無く、すばるに絡んだつり目達もその派閥に所属する。
「というか、嫌な思いしたのってすばるじゃないですか?」
「そんな事はないわよ」
「別に隠さなくてもいいんですよ」
と、すばるがごまかそうとした事を見抜いて、ああいうときは、大抵、私への悪口を聞いたときですからね、という雲雀は、隠そうとされた事に不満げな様子で言った。
その事に
「放っておけば良いんですよ。どうせ、その程度止まりの連中ですから」
似たような事が少し前にあったので、またか、といった
「そうだとしても、私はあなたを否定されるのが何よりも嫌なのよ」
ムスッとした顔ですばるがそう言うと、
「……それは、どうも」
彼女が自分のために怒ってくれた事が
「何なのかしらね。本当」
1つため息を吐いたすばるは、ぬいぐるみをその辺に放って立ち上がる。それから雲雀の脚の間に膝を突いて、彼女を肘掛けのある方へゆっくりと押し倒す。
「私が
目を細めてそう言うすばるは、全く拒む気配を見せない雲雀の眼鏡を外し、自身の顔を彼女のそれに近づける。
「雲雀……」
後数センチで2人の唇が重なる、というタイミングで、ドアをノックする音と、お邪魔するよ、という吹雪の声が聞こえた。
「おや。お楽しみ中だったみたいだね」
ドアを開けてその光景を目にした吹雪は、わざとらしく少し目を見開いてから、薄く
「……何の用かしら」
すばるはその体勢のまま顔だけ動かして、実に迷惑そうな顔で吹雪へそう訊く。
「ははっ。その対応は
あんまり意に介していない様子で、ドア枠に左手をついて吹雪は苦笑する。
「無いなら早くドア閉めて貰える?」
「ああいや。ちょっと雲雀君に手を貸して欲しくてね」
右脚に体重をかけ、左脚をそのくるぶしの上辺りでクロスさせてそう言った吹雪を、すばるは雲雀への独占欲全開で
「別に、君から取ろうとしてる訳じゃ無いから安心してくれ」
そんないじらしいすばるを見て、吹雪は子を見る親みたいな目をしてそう言う。
「じゃあ何なのよ?」
「いやね? ボクの
「買えばいいじゃない」
「ボクの作ったものの方が喜ぶんだよ。彼女達はね」
君だって、雲雀君の手作りの方が嬉しいだろう? と吹雪に訊かれ、すばるは一瞬たりとも迷わずに頷いた。
「ま、そこまで急ぎじゃ無いし、お楽しみが終わるまでは待つよ」
そんじゃごゆっくりー、と清々しい笑みを浮かべて、吹雪は下品にならない程度に素早くドアを閉めた。
「続き、します?」
「……ええ」
下敷きになっている雲雀にそう訊かれ、すばるはムスッとした表情で答える。
それが終わって、雲雀が部屋から出てくるまで、おおよそ30分もの時間を要した。
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