第39話
そして、今。
凄まじい量の情報が濁流となって頭の中を巡ったせいか、頭痛は続いていた。哀斗は頭を何度か振ってから目を開ける。
「姉ちゃん……」
哀果が哀斗の幸せを願った経緯、そして自分が受けていた虐待についても全て思い出した。記憶が封じられていた理由、それは虐待の記憶を辛いと判断した哀果の脳内がそうさせていたのだろう。
『哀斗に幸せな人生を送らせたい』と叶えるに当たって、この過去はあまりに重い。小学校低学年の哀斗に背負わせるには厳しすぎると哀果は考えたのだ。
「リミリー大丈夫?」
そう声を掛けながら、頭をあげるが、
「……いない?」
さっきまで目の前に居たはずのリミリーは居なくなっていた。
本殿周りをぐるぐると周ってみるも、リミリーの姿は見当たらない。
「俺が頭抱えてる間に帰ったのかな」
リミリーの性格上、そんな状態の人を置きざりにするとは考えずらいが、そうとしか今は思えない。少なくとも、鹿跳神社に居ないことは確かだからだ。
「記憶を見せられたはいいけど、結局解決策はわからずじまい、か」
昏睡状態の哀果を目覚めさせる手立ては、哀斗の忘れていた記憶の中には無かった。
となれば。
「今ある情報からどうにか探るしかない」
哀果が哀斗のことを、あれほどまでに思い、自身の寿命を投げ売った事実。それを知った以上、まだあきらめるわけにはいかなかった。
試しに、本殿に向かってアスモウラの名前を呼ぶも、出てくる様子はない。リミリーと同じく、この場所には居ないようだ。
「そうだ、時間……」
暗がりの中、スマホがぼんやりと光る。もう面会時間は終わっていた。それ程の間、記憶の渦にもまれていたらしい。
「とりあえずまた明日、調べるしかないよね……」
病院にこっそり侵入するという案もあるが、見つかって出入り禁止になったら最悪だ。
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