第35話
「というか、アスモウラは今どこで何をやっているんだろう」
こっちは結構大変だったってのに……と、温まったフライパンに油を敷く。
リミリーと随分と話こんだせいか、帰った頃にはすっかり夕方で、もうお腹がペコペコだ。ということで、今日は久しぶりに料理をすることにした。
リミリーには、売り言葉に買い言葉でインスタント好きと豪語したが、実際はたまに食べるくらいがちょうど良いと思っていて、食べる前に味が分かってしまうくらいには飽き飽きしていた、というのが哀斗の本音だった。
「明日にでも鹿跳神社に行って、色々とはっきりさせるべきか」
リミリーに言った、願いを破綻へと導く発言。それを聞いたヒロインは、無理やり哀斗を好きでいさせられている影響で中身が空っぽであるためにヒロインとして、哀斗の願いを叶えることができない状況になってしまう。脳が感情の祖語を感じ取って『好き』だけど『好きじゃない』という矛盾で頭の中がぐちゃぐちゃになってしまうのを避けるための防衛行動が、結果的に哀斗の記憶だけをなくす、という結果に落ち着く理由なんじゃないんだろうか、と哀斗は推測している。
リミリーにそれが起きなかったということは、哀斗のことを『好き』なのが、本心ということだ。つまり、哀斗の願いによって感情操作されているヒロインでないということ。
ヒロインの空虚性を認めることができたからこそ、ここまでの推測を固めることができたし、そう考えさせるきっかけは間違いなく、リミリーの存在あってこそだった。
「そっかあ、リミリーは俺のことマジで好きなのかあ……。って、あれ、あれあれれ」
いやいや、ちょっと待とう。ということはなんだ。リミリーはガチで恋しちゃってくれているというわけだろうか。心の底から。好きでいてくれているという……、俺のことを……?
金髪碧眼の街を歩けば、誰もが目を向けてしまうくらい美少女が――?
「あっつっ!」
考えごとに夢中で、油を加熱しすぎていた、急いで火を弱める。
「駄目だ、顔、あっつい」
手で触れる。頬に飛んだ油のせい、というわけでは……ないらしい。
心臓の鼓動がうるさいくらいに聞こえる。
「これが、恋というやつ、なのか……な?」
声に出すと、尚更恥ずかしくなってくる。
頭の中で、リミリーに言われた好意が巡り巡る。ぐるぐると……。
晩飯を食べ終えた頃には、哀斗も落ち着いていた。窓ガラスに反射して映った自分の気持ちの悪いにやけ顔を見たおかげだった。ペンキでも塗ってやろうかと思った、冗談だけど……。
できるだけ、キリッとした顔を心がけながら、食器を洗う。鼻歌混じりなのはご愛嬌だ。
普段よりも短い時間で皿を洗い終わったことで、気づいた。
「そういえば、姉ちゃんいつ帰ってくるんだろう」
自室に戻り、スマホの電源を入れる。ふさぎこんでからずっと電源をきっていたのだ。
『不在着信:3件』
と表示されていて、一つは花火、一つはリミリーからだった。しかし、問題の残り一つの電話番号は、名前の表示が無かった。
見る限り、携帯の番号ではなく、固定電話の番号だ。着信時刻は一週間前、電源を落とす寸前くらいだろうか。
試しに掛けなおしてみると、少ないコール数で応答される。
『お電話ありがとうございます。比鹿島病院、担当佐藤がお受け致します』
「お電話頂いていた、零細ですけど……」
どうして病院から? と思いつつ、名乗る。
『零細哀斗さんですか?』
「はい、そうですけど……」
電話相手は、やっと繋がりました、とほっとしたように呟いてから。
『落ち着いて聞いてください。お姉さんの零細哀果さんが昏睡状況です、もう丸々1週間目を覚ましていません』
「……は?」
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