第15話
それから、コミュ力の乏しい二人は花火におもちゃにされるうちに昼休みは過ぎて行った。もちろん、当初の目的だったはずの憧子へのPC教室はまた次回ということに。
哀斗としては、美少女と称してもなんら嘘は無い憧子と話せる良い理由なので、願ったりかなったりだ。
足早に図書室から教室へと戻り、午後の授業開始のチャイムと同時に席に着く。
「(次の授業は、化学かあ)」
億劫になりながら教科書を出そうと引き出しに手を突っ込んだところで、ふと思いがけない感触。薄くしっかりとした……まるで、封筒の角のような……。
ちらりと前を見やると、教師は既に教卓に立ち、教科書の何ページを開け、と黒板を見ながら声を挙げている。
教室の後ろから2番目に座る哀斗は、とりあえず教科書を出して指定のページを開いてから、右手にシャーペンを持つ。
そうして、空いた手で件のブツを手前に引いてみる。
「(な……)」
すると、可愛らしいピンク色の封筒が出てきた。表には『哀斗へ』と書かれており、裏を返すと桜の花びらのシールで封されていて、右下には『星羅リミリー』と差出人の名前があった。
「(これはもしや、あれか。……いや、待て早まるな。死ぬぞ、騙されるなよ)」
はやる気持ちを抑えて、左手だけで器用に且つ慎重にシールを剥がして中身を取り出す。
『哀斗へ
今日の放課後、教室で待ってるわ。
以上。
PS.……気持ち伝えたいから、ほんとのほんとに大事な用事がなければ来なさい。いや、でもどうしても外せない用事があればしょうがないと思うから、来なくてもいいわ。というかやっぱ気が向いたらでいいわ』
「(星羅さん。手紙の書き方知ってる? これ、PSがほぼ本文だよね?)」
――って、待て待て。
「(気持ちを伝えたいってことは、これ……。ラブレター的なあれなのか……?)」
できるだけ自然に、あー首こったなーみたいな素振りで振り向くと、金色の跳ねっ毛と目があった。というか、リミリーに一部始終をガン見されていた。
「「……!」」
哀斗とリミリーは目が合うと、湯気が見えそうなくらい赤面。
眩く翡翠色の瞳を見ながら、哀斗は思い出したのだった。
そういや星羅さん、転校生ヒロインだった……、と。
□
毎日、変わり映えのしない日常を送っていた教室。
沈みつつある太陽に鮮やかに彩られた教室は、最適な背景といえよう。
確証が得られないうちは、告白イベント(仮)とでも称すべきだろうか。
――恋愛シミュレーションゲームを御存知だろうか?
平凡で、何一つ変わることのないはずの灰色の高校生活に、色が差し込んだ。
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