幕間 真珠色の蕾
「……ロゼッタ、服を注文してくれ──カワイイやつだ」
「はあ」
もう──。陛下のご命令は、いつも突然。
魔王城に新しくやってきたマコちゃんのお洋服を一通り揃えてほしいだなんて……。
確かに、いまお城にある大量の服はもともと彼女の為に用意したものではないのだけど──マコちゃん本人があまり興味ないみたいなのよね。
……陛下の趣味を押し付けるわけにもいかないし。
彼女は、今日も中庭で魔法の練習をしてる。……ほんとに熱心だわ。
声をかけるのは、休憩のタイミングがよさそうね。
「ねぇ、マコちゃん。お洋服の好みって、あるかしら?」
「へっ!? 服……ですかぁ。特に──えっと、動きやすいやつがいいです」
彼女が選ぶのは、いつもシャツにローブに……サイズが多少もたついても気にしていないみたい。
本当はもっと可愛い服を着せてあげたいのにな。でも──それをしてしまったら、陛下と同じだわ。彼女が着たい服を選ばせてあげるのが一番良いに決まってる。
「あのね、マコちゃん。実は陛下からあなたの日用品を揃える為に予算を頂いているの。ここにカタログがあるから……ちょっと選んでみない?」
「そ、そうなんですか。うーん……なんだか恐縮です」
「いいのよ、遠慮しないで~。陛下がそうしたくてそうしてるだけなんだから」
どうも、マコちゃんは引っ込み事案というか、私たちに対して気を遣いがちなところがある。もう少し心を開いてくれたら、嬉しいんだけどな──大体陛下のせいのような気もするけど。
けれど、彼女のしっぽは硬い表情とは裏腹にそわそわと揺れ始めてる。ふふふ、これは……ちょっぴり期待と楽しみを感じている時の動きかしら。
マコちゃんは、真剣にカタログをめくり始めた。服をじっくり選ぶ姿は、やっぱり年頃の女の子って感じがするわ──彼女なりの、こだわりがあるのかも。
「それじゃ……これ……どうでしょうか」
彼女は丈の短いパーカーを指差し、照れ臭そうにしている。
「あら、同じようなの持ってるじゃないの」
「だって──ボクにはこっちのフリフリしたのは、似合わないと思いますし」
マコちゃん、もじもじしてる……顔をこんなに赤くして──あぁ、かわいい。彼女は知らないのだわ──自分のポテンシャルを。
「そんなの、思い込みよ。新しい服にチャレンジしてみるのって、とっても楽しいのよ? もしかしたら、いつもと一味違う自分を発見できるかもしれないわ」
それに……陛下のご命令は”カワイイやつを買え”なのよねぇ。また前みたいに、買うだけ買っちゃおうかしら。
「でも、怖いんです。もし、そういう可愛い服を着て──なんだか、似合うなとか……自分がそれを気に入ったりしちゃったら」
「どういうこと?」
「あ、いえ──ボクには、まだ早いかなって」
「ふふ、少しずつ慣れていったらいいのよ、マコちゃん。一気にジャンプする必要なんてないわ。小さな一歩も踏み出して見たら、思ってた以上に景色が変わったりするものよ?」
「そういうものですかねぇ……考えて、みます」
……決めたわ。彼女に似合いそうなカワイイ服……やっぱり私が揃えちゃおう。さりげなく引き出しにいれておいたら──いつか着てくれるかもしれないし。
それにしても、陛下ったら──自分で本人に聞けばいいのに。
そんなに照れ臭いのかしら。
いいえ……もう、失敗したくないのかもしれないわね。
* * * * * * *
今日は、五階の廊下。
息を吸って、
この魔法はよく使ってるから、そこまで頑張って集中しなくても大丈夫。
『
──サラァァ……!
廊下の汚れがペリペリと音を立てて端から剥がれて集まっていき、窓の外に飛んでいった。これを見るのがクセになっちゃうのよね。
「おい、ロゼッタ。そんなに
後ろから……陛下の声だわ。
「陛下、すみません。一日に
「だがな──そろそろ頼みたいんだ」
「あらま、もうそんなに経ちました?」
「いつもならまだ
「そうですか……
もう──。陛下のご命令は、ほんとに突然だわ。
しかし、彼には大恩がある。少しでも恩返しができるなら……私は、何も惜しまない。
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