第3話 銀髪の少女
「あなたは、何処から来たのですか?」
「私は、日本という国の神奈川県から来ました」
「それは、どこにあるのでしょうか?」
「地球という星にあります」
話の内容から、もしかしたら俺は、異世界に紛れ込んだかもしれない。
その証拠に相手は日本を知らないし、俺の答えに相手も黙った。
もしかしたら、たまたまこの人が知らないのかもしれない。
それを確認するためにも、他の人に訊ねてみる必要がある。
「この近くに街はありませんか?そこまで行ってみます」
「街はこの道を半日ぐらい歩けばありますが、途中魔物が出る可能性もあるので、行くのはお勧めしません」
えっ、今、魔物と言ったか?それって、本当に異世界じゃないか。
「魔物が出るんですか?」
「はい、大型の魔物は出ないと思いますが、小型のラビットキル、シンベア、ハードマウスが出現する可能性があります」
「それは困った。どうしよう。武器もないし」
正直、魔物は想像がつくが、ラビットキル、シンベア、ハードマウスというのが、どれ程危険かは分からない。
だが、武器を持っていない俺としては、出会わない方が良いのは理解できる。
「武器を持っていない!?」
扉の向こうから驚いた声が出た。
「はい、武器を持っていません。なので、魔物と出会った場合の対処方法がないのです」
俺は不安となっている事を正直に言った。
「ギィー」
音を立てて扉が開いた。
そこには、肩まで伸びたきれいな銀髪の少女が立っていた。俺は不覚にもその女性に見とれてしまう。
「あのう…」
「えっ、はい」
その子の声で現実に戻された俺は、もう一度、目の前にいる少女を見た。
服は中世の女性のような服を着ている。長いスカートは足首まであり、草木で染めたと追われる生地は黄土色をしている。
だが、色は白く、その中にある赤い唇がとても蠱惑的だ。
しかし、一番驚いたのは、その子の頭には耳があった。異世界に出て来る獣人そのものだ。
その耳が飾りでない証拠に時々、ちょこちょこと動いている。
「取り敢えずお入り下さい」
その子に言われて、家の中に入ると、ログハウスのような作りになっていて、広くない部屋の中にテーブルと椅子があった。
俺は中に入ると、キョロキョロと中を見渡した。
「あのう、何か?」
「あっ、良い家だなと思って…」
「ありがとうございます。これは父と母が残した家なんです」
テーブルに椅子が三脚だけあったのは、家族で住んでいたということか。
「と、言う事はご両親は?」
「はい、亡くなりました。今は私一人で、この家に住んでいます」
「そうでしたか。変な事を聞いてしまって申し訳ありません」
「いえ、いいのです。それで、先程、武器を持っていないと言われましたが、それでどうやって旅をして来たのですか?」
やはり、ここは異世界に来たと思った方が良いだろう。今は、この世界で生き延びる事を優先しよう。
「私の国では、一般市民は武器を持っていません。なので、旅をするにも武器などは持ちません」
「そうなんですか。何という平和なお国なのでしょう。ですが、どうやってここへ来られたのですか?」
「それが、私にも正直、分からないのです。この荷物を持って、先ほど言った駅というところから歩いていたら、ここに来てしまったのです。
私も出来る事なら、その駅に戻りたいと思っているのですが、どうしたら良いか分かりません」
「…そうでしたか。私もその駅という場所がどこにあるか分からないので、お力に成れず申し訳ないと思っています」
「いえ、いいのです。しかし、街に出れないとなると、どうしたら良いものか…」
「あのう、明日でしたら、私も街に行くので、ご一緒出来ますが…」
「でも、魔物が出るのでしょう?」
「はあ、ラビットキル、シンベア、ハードマウスぐらいでしたら、私でもどうにか出来ますので、心配はいりません。
父親の残した剣もありますので」
剣さえあれば、この少女でも対応出来る程度の魔物と言う事か。それなら、俺も剣を手に入れればどうにかなるかもしれない。
小学校、中学校と親に勧められて剣道をやって来たから、それなりに腕には自信がある。
ただ、高校では弓道部に入ったので、ブランクが3年ほどあるが、一度身につけた技術は、そう忘れるものではない。
「そうですか、もし、良ければ、剣を貸して貰えれば、私も一緒に戦います」
「それは明日、お貸ししましよう。ところで、お名前は何と呼べば良いのでしょうか?」
「これは失礼しました。私は、『霧子 琢磨(キリコ タクマ)』って言います。霧子でも琢磨でも、お好きなようにお呼び下さい」
「私は、『シャルロッテ・アーゼルベルグ』といいます。霧子さんがお名前なんですね」
「いえ、私の名前は琢磨になります。霧子は家系の名です」
「では、琢磨さんとお呼びします」
「シャルロッテさんが名前ですよね。私はシャルロッテさんとお呼びしますね」
「シャルでいいです。シャルロッテは呼び難いでしょう」
「では、シャルさん、明日はお願いします。それでは、朝までは庭をお貸し願えませんか。私はそこで、寝起きします」
「シャルでいいです。私も琢磨と呼びますから。庭で寝起きすると夜、魔物が来る可能性がありますので、この部屋にお泊り下さい」
「それでは、お言葉に甘えてこの場所をお借りします。えっと、シャル」
俺は何故か、照れながら名前を言う。
「はい、それではお昼を作りましょう」
「あ、私が作ります。鍋があったら貸して下さい」
俺はリュックの中からインスタントラーメンを2つ取り出した。
「はい、では火を起こします」
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