第4話 ログハウス
シャルはそう言うと、台所の方に行く。台所も同じ部屋の中にあるので、今風に言えば、この場所はダイニングキッチンと言う事になる。
土を固めて出来た竈と石で出来たシンクがある。水道は蛇口なんかなくて、隣の部屋から木で出来た雨樋のようなものを伝って、水が来ている。
その雨樋に板があってそれを取り除く事で、流し台に水が落ちる仕組みだ。
現代人の俺から見ると、かなり昔の時代だ。
竈には、木があって、先端は炭のようになっている。
シャルは竈に水を入れた鍋を置くと、竈の中にある木に向かって左手を出した。
「ファイヤ!」
シャルがそう言うと、左手から火が出て、木に火が点いた。
それを見た俺は目が丸くなった。これは魔法ではないか。
だが、ここで騒ぐと、不審に思われてしまうかもしれないので、なるべく平常を装う。
しばらくすると、鍋の水が沸騰し出した。
俺は、そこにインスタントラーメンを入れた。
「すいません、丼があれば貸して下さい」
「ど、丼って?」
「あ、失礼。深皿があれば貸して下さい」
シャルは深皿を2枚持って来た。
俺は鍋で作ったラーメンを2つの深皿に入れた。
「どうぞ、召し上がれ」
テーブルに2つのラーメンが入った皿が並ぶ。
「えっと、これは?どうやって食べるのですか?」
「これはラーメンという私の国の食べ物です。それと、これをお使い下さい」
俺は割り箸を渡した。
「これは、こうやって使います」
俺は割り箸を割って使い方を教えた。
シャルも見様見真似でやっているが、中々上手くいかない。
だが、それでも慣れて来たのか、どうにかラーメンを食べている。
「あっ、美味しい」
「そうでしょう。日本のラーメンは世界一美味しいと言われています」
シャルは物覚えが良いのか、ラーメンを食べ終わる頃には箸の使い方も問題なく出来るようになっている。
「美味しかったです。また作って下さい」
だが、一泊のつもりで来た俺は余分な食料は持って来ていない。なので、今ので最後だ。
「すみません、あの2食が最後でした」
「そうですか。残念です」
シャルはそう言うと、肩を落としたが、無い物は出せない。
お昼を食べると腹が膨れた俺は眠くなった。昨夜も一睡もしていなかったので、睡魔が襲って来るのは仕方ないことだろう。
「琢磨、眠そうですね。それではここで寝て下さい」
「はい、それではお言葉に甘えさせて頂きます」
俺は寝袋を出すと、床に敷き、その中に入った。
「琢磨は中々面白い物を持っていますね。それで寝るのですか?」
「はい、こうやって寝ると中は暖かいのです」
「では、私は仕事がありますので、ゆっくり休んで下さい」
シャルが出て行くと、俺の瞼は重くなった。
「ギィー」
扉の開く音で目を覚ました。
まだ、頭が覚醒していないが、それでも身体を起こすと、目の前にシャルの姿がある。
「あっ、お帰りなさい」
「まだ、寝ていても良いですよ。お疲れでしょう」
シャルは頭の上の耳をピクピクさせ、背中に竹籠を背負っている。
「いえ、そんな訳にも行きませんので」
俺は起きたが、起きるとトイレに行きたくなった。
「あのう、トイレを貸して貰えないでしょうか?」
「ええ、あの奥です」
シャルが出入り口と反対にある扉を指差した。俺は、寝袋を出て、その扉に向かう。
扉を開けると、そこには、風呂があり、更にその先の扉の奥にトイレがあった。
驚いたのは風呂もシャワーのような風呂ではなく、石で作られた風呂があり、岩の間からお湯が出ていた事だ。
どうやら、そのお湯は温泉のようだ。そして、そのお湯は雨樋にも流れているので、これが隣にあるキッチンにも流れているのだろう。
俺は用を足すと、リビングに戻った。
テーブルを挟んでシャルと向かい合う。
「お世話になりっぱなしで申し訳ありません。明日、街に行った時に何かしら仕事を見つけて、ここを出るようにしますから」
「琢磨は、どこか行く予定があるのですか?」
「いえ、特にありません」
「それと、聞きたい事があります。あなたには耳がありませんが、何族なのでしょうか?」
「私の居た世界では、これが普通です。私は人間と呼ばれています。私も同じ事を聞きたいのです。何故、あなたには耳があるのですか?」
「明日、街に行けば分かると思いますが、こちらでは私のような者の方が普通です。反対に耳がない人の方が居ないのです」
シャルを見ていると、頭の上の耳が動いていて、まるでメイド喫茶にいる感覚になる。その時のシャルはとても可愛い。
「そうですか、どうやら私は異世界と言われる場所に来てしまったようです。先ほどあなたは火を点けるのに魔法を使いましたが、私の世界には魔法はありません」
「そうなのですか?こちらでは魔法を使える人がいます。特に魔法力が強い人は軍に魔法兵として従軍します」
シャルの魔法力はどうなんだろう?軍に従軍していないという事は、火を点ける程度の魔法力は誰でも使えるという事だろうか。
そうしていると、陽が傾いて来て空がオレンジ色に染まっている。
「それでは、夕食にしましょう。お昼はご馳走になったので、今夜は私が作ります」
シャルはそう言うと、台所の方に行った。
「あっ、私も手伝います」
俺も同じ台所に行く。
当然の事だが、冷蔵庫とかはない。シャルは棚に置いてあった野菜を取り出すと、包丁で野菜を切り出した。
肉とか魚は冷蔵庫がないので、無理だろうなと思っていたが、シャルは傍らに置いてあった袋の中から、肉を取り出すと、その肉を調理し出す。
「シャル、その袋は?」
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