第28話 復活
ヨウコからの魔力の供給を断たれた黒い繭は
開かれた視界の先には暴君の名にふさわしい巨大な竜が君臨している。改めてその全貌を目の当たりにする。
長い首と胴体、尻尾を支える短く太い四肢。俊敏に動くことは叶わないだろうがブレスと火球に加えて首振りによる攻撃のリーチは圧倒的だ。まるで待っていたとばかりに
ギュオオォォ……‼
「カツト! ヨウコ!」
「ニカさん!」
駆け寄ろうとしているニカさんと再会を喜び合いたいが、
「考えがあります! ニカさんは先に!」
「分かりましたわ!」
ニカさんはヨウコに笑いかけてからブレスから退避するべく駆け出した。隣のヨウコに大丈夫かと尋ねると彼女は頷いた。
さあ、せっかくだ。俺達のチート能力で
§ §
「どうして私を捕まえたときに能力使わなかったんですか?」
「ヨウコがいいって言う前に使うのは、なんか違うだろ?」
「律義ですねぇ」
俺の左肩を撫でながらクツクツと笑うヨウコの姿に安心感を覚えると同時に複雑な心境になる。俺はヨウコに拒まれる覚悟だってしていたのに、と拗ねたくなってしまう。けど俺が怪我したせいで暴走させてしまったんだ。そこは黙っておこう。ヨウコがにやにやしているけど、黙っておくのが漢だ克人。
「耳と尻尾、どちらにします?」
「お前の好きな方で」
「ええ~?」
なんでこんな状況で焦らされなきゃいけないんだろうな。まあ、心配させた挙句大怪我するわ、迎えに来たと思えば我儘を押し付けられたら意趣返しくらいはしたくなるだろう。うん、今回は素直に答えよう。
「お前の好きな方が良いんだ。改めて……触れる、わけだし」
「ふふっ、では、耳でお願いします」
満足気に笑い身体を預けるとヨウコが瞳で促してくる。右手で頭を撫でながらヨウコのきつね耳に触れる。暖かくもこもこでふかふか、それでいてコシのある感触はいつ触れても気持ちがいい。また触れることが出来て嬉しい。いまになって両手で触れないことに後悔の念が芽生えた。
そんなことを思っているとヨウコと再び目が合う。なにか察したのかニヤッと笑ってからヨウコが軽くキスしてきた。抗議する前に『この方がらしくていいでしょう?』と甘く囁かれ勢いを削がれてしまう。
まあいい。この戦いが終わったら思う存分耳も尻尾も両手でモフッてやる……!
チート発動
ゲームのシステムボイスのように女神の声が頭に響く。食い千切られた左肩を
光は止めどなく輝きを放ち、やがて
世界の理を捻じ曲げる女神の奇跡が行使される。
ガアッァァァ……⁉
つまりヨウコがいれば俺は正真正銘、不死身のきつね憑きになれるってことだ。
「どうだ、デカブツ? お返しの味は?」
授けた女神に『眺めるだけで何もしてこなかったアンタにお似合いの能力』と言わしめた微妙な能力がこの街の驚異に牙を剥いたのだった。
§ §
「やった……!」
「……直った!」
チートで復活した左腕にヨウコが抱きつく。戦闘中だしまずは諸々の感触を確かめたいところだが、ヨウコが嬉しそうだから好きにさせよう。それに腹に穴を開けられて
ギィィ、ィヤァァァッ‼
俺の余裕を一瞬で吹き飛ばすような痛みと怒りに彩られた咆哮を
「……嘘だろ?」
広目天の眼で敵の動きを観察する。どうやら敵は発射体制に移ろうとしているようだ。
「っ、ブレス撃てるみたいだな」
「……え?」
狙いが外れた。どうやらドラゴンブレスというのは腹の中から出てくるものじゃないようだ。チート使って一泡吹かせて格好までつけたのに絞まらないな。
ガアッァァァァ‼
「とにかく逃げるぞヨウコ!」
「は、はい!」
韋駄天の脚ならいまからでも逃げ切れる。スキルの反動もヨウコがいればチートですぐ回復可能だ。
ならばとヨウコを抱えようとしたその時――
「その必要はない」
凛とした声を響かせその人は威風堂々と現れた。いつものように。
結わえた少し癖のある金髪と青マントの大きな背中。
「
彼女の命に六枚の大盾が召喚され、その周囲をひとりでに回り始める。放射状に配置されたそれはまさに盾の花だ。
「ここは私に任せてくれ、きつね憑き」
そう言ってベアトリス・リーゼはニッと笑った。
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