第29話 金花のベアトリス
俺達の前に立つトリスが操る六枚の盾が回転の速度を上げていく。その回転が目で追えないほどの高速に達すると同時、
「カツト、ヨウコ、無事ですか?」
トリスがブレスを防いでいると今度はニカさんが現れる。あの後すぐに合流できていたようだ。バッチリですと復活した左腕を見せるとさしものニカさんも目を丸くした。
「あらあら、どうして左腕が生えているのですか?」
「そこは『不死身のきつね憑き』ですから!」
「なっ、なに⁉ 治っているのか? きつね憑きが⁉」
ブレスを防いでくれているトリスがソワソワとこちらを窺おうとするが、ニカさんがそのお尻をピシャンと叩く。
「トリスは集中ッ‼」
「うっ、 ッ~~‼
回転しながら突撃してくる盾の槍を
グギィアァァァ……‼
「はい、よく出来ましたわ♪」
「ヒドイぞ⁉ ウチの団員はどうして皆、団長の尻を叩くのだ!」
「あら? あちらでも? 私の教育の賜物ですわねっ♪」
「ニカ⁉ お前が吹き込んだのか⁉」
トリスの抗議もどこ吹く風なニカさんがよくやったと彼女のお尻をぺしぺしと叩く。痛みに咆哮し暴れ出す
「ええ、トリスが不甲斐ないときは尻を叩きなさいと教えています。さあ、ここからどう動くのですか? 市の騎士団団長『金花のベアトリス』?」
白刃のような光を宿した瞳でニカさんはトリスを見つめた。もう不甲斐ない真似は許さないと言わんばかりのニカさんにトリスは嘆息し彼女に応える。
「指揮権はゼロに移譲してきた。私とニカが最前線を形成、ヤツを交戦予定地点に引き付ける。援護は随時合流予定、出し惜しみなしの全力で叩くぞ、ニカ……!」
「あらあらあら~? 全力のトリスと?
全力で、というトリスの言葉にニカさんは目を輝かせ身をくねらせる。だけど、仕草に反して浮かべる笑みは獰猛そのもの。滾る闘志がドロリと溢れ出てくるのが目に見えるようだ。
続いてトリスが俺達を見て口を開きかける。するとヨウコが前に進み出た。
「私達も一緒に戦わせてください。トリス」
「ヨウコ……?」
突然のヨウコからの申し出にトリスは目を丸くする。それから彼女は俯きかけたがヨウコと向き直り力強く頷いてくれた。
ギュオオォォ……‼
ついにこちらへ向かって動き出した
「よくってよ、きつね憑き! トリス、合わせなさいっ!」
「ああ! きつね憑きは後から参戦してくれっ!」
「「了解!」」
§ §
「
トリスが放った盾の槍による牽制攻撃を
二人の戦いを見守る俺の横ではヨウコが異能の力で俺からMPの補給を始めている。吸い上げは激しく、ヨウコの頭をときおり撫ででチートを発動しないと卒倒しかねない程だ。
ギュオオォォ……‼
敵は牽制してきたトリスに気を取られかけたが、結局突撃してきたニカさんへと吠え額の宝石を輝かせ始めた。
「
トリスが号令し、腕を振る。盾同士が連結し壁を作ると、それらが三つニカさんの前方を浮遊し始める。展開した壁に隠れニカさんが
『トリス、火球を撃ってくるよ!』
『了解した!』
ギュオオォォ……‼
一撃は微々たるダメージでも何度も斬られ傷口を抉られては巨大生物でも堪らない。苛立たし気にニカさんに咆哮し噛みつこうと
「……
ニカさんに迫るドラゴンの顎はしかし巨人の拳に捉えられた。真横からの大盾四枚による一撃は確実に
トリスは懐から魔力回復薬を取り出し一気飲みすると眼前の敵に宣戦布告する。
「悪いが手荒くいかせてもらう。お前には借りがあるし、不甲斐ないと散々尻を叩かれているのでな……!」
§ §
俺達が参戦してから何度目かの攻防で再び盾の拳がタイラントの顔面を捉えた。
「後退!
『『『了解‼』』』
すかさず発せられるトリスの号令で俺達は
ヨウコは自力で離脱し、俺はニカさんを担いで走る。逃げる俺達目掛けて発射される火球はトリスの盾が防御してくれている。
『トリス、飛ばし過ぎです。少し温存なさい』
『ニカこそ、脚がもたなくなるぞ』
『カツトが私の脚になってくれていますから、問題ありませんわ♪』
『二人とも本隊合流の前にはしゃぎ過ぎです。逃げますよ』
アタックを終えた俺達は
トリスとニカさんのコンビネーションに
『さあ、カツト、走りなさい♪』
『はいはい』
肩に担がれるまま、ぐでぇと伸びたニカさんが俺の尻を叩く。こんな状況でよくここまでリラックス出来るなこの人は。そのまま走っているとヨウコが並走してきた。空いた手でその頭をわしわし撫でればチートでこっちは全快だ。
『ヨウコ、そっちの体力は?』
『私も全快しています』
『OK、俺達で出来るだけ二人を温存させるぞ』
『わかりました』
黒く染まった髪とフレアマントをなびかせ走るヨウコは息切れひとつしていない。ヨウコは魔虫に
ギュオオォォ……‼
けど、トリスとニカさんはそうはいかない。それに
『皆、集まれ。アレは全力でないと止められない』
魔力の高まりを感知したのかトリスが集合をかける。敵が大口を開き巨大な火球を練り上げ始めた。あれじゃ避けたところで爆発に巻き込まれて終わりだ。それにそんなものを街に向けて撃たせる訳にはいかない。
「
特大火球を防御するべくトリスが構える。俺達はトリスを支えるように身を寄せ盾の花の防御圏に収まる。ヨウコは爆発音に備えて耳を両手で押さえつけカバーしている。
ガァァァッッ‼
獣じみた咆哮と共に火球が放たれる。速度は大したことないが明らかにヤバい。思わずトリスに触れている手に力が入ってしまう。いけない、と彼女を見るとただ前を向いてトリスは笑った。
「大丈夫だ。任せておけ」
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