第22話 崩落
最前線は様変わりしていた。ブレス攻撃で焼け焦げていた地面には新たに抉られたような穴が点在しており、破裂音が響いている。
「どうなってる……? トリスは?」
足を止め建物から戦場を見下ろすがトリスの姿は確認できない。じわじわと広がる嫌な予感を振り払おうとスライに呼びかけるがユゥさんからも返事はない。
『おぅ! きつね憑き! 来たかッ!』
『ゼロ……?』
思わぬ相手からの通信に面食らいながらゼロの誘導に従いその姿を探す。すると
『
『トリスとユゥさんが⁉ 大丈夫なんですか⁉』
『落ち着けよ。他の連中に
『で、でも……!』
『ゴチャゴチャ言うな。モタついてると二人は死ぬ。残ってる連中はそうそう遅れをとらねぇヤツらだ。だから――
ギュオオォォ……‼
交信を遮るように
「旦那様、アレを」
「なんだ……?」
ヨウコが指差す先では
高まりきった宝石の光が消失すると
「まだです」
「なに⁉」
思わず飛び出しそうになった俺の肩をヨウコが叩く。促されるまま敵を見ると、ヤツは再び火球を放とうとしていた。冒険者たちは脚で回避したり、魔法で火球を逸したりして攻撃をやり過ごしているがこのままじゃ厳しいのは明らかだ。
『ゼロ! ゼロ!』
『……っと、繋がったな。きつね憑き! 準備はいいか⁉』
『ああ! 指示を頼む!』
『オーケィ……!』
彼は
§ §
ゼロによる作戦はシンプルだ。彼の合図とともに
二人は現在、近くの民家のなかで気を失っている。
回収は体格の問題からユゥさんを優先。家屋付近に待機させたスカウト三名に彼を引き渡し次第、俺達はトリスを担いで逃走という段取りだ。
「くそ、まだか……!」
段取りは決まっているのに決行の合図はなかなか訪れない。回収目標が敵の近くにいるためタイミング取りは慎重に行う必要があるとはいえ、かなり焦れる。
「力押しで行こうなんて考えないでください」
「……分かった」
ああ、ヨウコの言う通りだ。さっきからすぐ頭に血が昇ってる。ビビッてるだけじゃない。頭がごちゃごちゃしてる。何も出来ない、何もしないうちに望まない方へ物事が進んでしまう。そんな悪い予感が自分の中身を
落ち着け、深呼吸だ。
いまヘタを打てばヨウコも死んでしまう。トリスも。ユゥさんだって。
これは長い待ち時間じゃない。集中するための限られた時間だ。最大値はともかく俺は他の人よりもリソースは豊富なんだ。それを活かすには余裕が必要だ。四枚の切り札も同時に使えるのは三枚まで。選択を間違えてはいけない。
「状況確認……」
閻魔天の死の予知は発動していない。この
再び
『待たせたな、行けッ……!』
『了解……!』
『気をつけろ! ヤツはくたばっちゃいない。くそ、アレで脳天ブチ抜けば俺達の手柄だったんだがな……!』
俺みたいにスキルに頼らなくてもここまで対策できるゼロの手腕に舌を巻く。けど、いまは感心して呆けてる場合じゃない。
「
韋駄天の能力を発動、そのまま建物から飛び降りる。
さあ、二人を助けに行こう!
§ §
ゴォォ……ッ‼
爆炎と煙に包まれたまま
これなら奴に気づかれることはないはず。そう思いながら走る背筋が凍った。
「……なん、で……?」
見られた。いまも、見られている。
加速した状態のままで思わず疑問を口にしてしまう。
『気付かれました……?』
『みたい、だ……』
『ゼロに一報します』
『そうだな』
『死の予告は?』
『ない』
『……了解』
ヨウコが頭をコツンと当てながら交信してくれて助かった。まだ作戦の変更や中断を考えるような事態じゃないんだ。現に仲間たちは目くらましも兼ねて高威力の魔法を
トリスが激突した際に出来たであろう穴から家屋へ飛び込むとすぐに二人の姿は見つかった。
「トリス‼ ユゥさん!」
俺の叫び声に壁際に倒れたトリスが
『焦らず、迅速に』
『わかった』
韋駄天の能力があれば人を担いでもこの距離ならすぐ往復できる。大丈夫、トリスも助けに戻れるんだ。そう自分に言い聞かせて家屋から飛ぶ出す。
その瞬間、死の予告が脳裏に響く。
――
「またかよ……!」
さっきから
着地した俺達に駆け寄るスカウト達に獣の
「来るなぁ! 後退ッ‼」
スカウトが反応するよりも先に
『カバー! 次のは潰すぜ!』
続いてゼロの指揮によるものか、二射目の火球は突如吹き荒れた竜巻に絡め取られて爆発を起こすも影響はない。あとは最後の一発をやり過ごせばトリスの元まで行ける。
ギュオオォォ……‼
「……え?」
そんな俺の思惑をあざ笑うかのように
「おい、止めろ……」
さっきまで俺達を狙っていたのが嘘のように
「トリスゥゥ……!!」
火球は建物に直撃し、爆発した。
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