第2話 DDDD.童貞が童貞(仮)を経て脱童貞へと至る道程
これは四ヶ月ほど前の俺とヨウコの出会いの記憶だ。
「知らない天井だ……って、うぉぉぉいっっ⁉」
どこだ、ここ⁉ まさか人
けど、縛られたりはしていないしココはベッドの上。全裸の女も寝とる。
「ぜっ⁉ ぜ、ぜぜ全裸の女うぇぇぇ⁉」
俺は童貞!
それがどうして裸女と寝てるんじゃい⁉
「
アイムチェリィボォイ! カツト=コバヤシ! フロムジャパン!
ダメだダメだ、逃げちゃダメだ。何かあった時に自分の内側に
「ハイ指さし確認ー!」
ベッド、俺裸、隣の女も裸。ケモ耳ついとる! 尻尾もあるぞ。
「よーし! ケモ耳よーし! ケモ尻尾よーし!」
ちょっと抜け毛もあるがふっさふっさやん!
ふさふさわしゃわしゃ――キュン!
「トキメいとる場合かぁ⁉」
ああ! これはきつね系だ。素晴らしきふさふさ感だ。トキメキを抑えられない素晴らしいものだ。キュンキュンしてしまう。こんなふさふさ、キュンキュンだキュン!
「ぬぁぁっ……⁉」
俺が頭を抱えてうなりだすと、隣で眠っていたケモ耳女がぱちりと目を開けた。頭が真っ白になって固まる俺の隣で気だるげに身を起こし伸びをすると女、ヨウコはにんまりと笑った。
「おはようございます。昨晩はお楽しみでしたね、旦那様♪」
彼女の言葉と状況からしてどんでもないことになった……ハズなんだけど。
「あっ、はい」
美人さんのおっぱいに目が釘付けで俺はただ生返事を返すので精一杯だった。
§ §
「責任、とってくれますよね? 旦那様」
「…………」
やっべぇ、なにこれ? 超怖いんですけど! なに? どういうこと? 美人の笑顔ってこんなに血の気が引くものだっけ? わかんない。僕、童貞。童貞こういうことよくわかんない!
というより、なにがどうしてこうなった?
「な、なにが目的だ……?」
腹に力を入れて極力震えた声を出さずに尋ねる。しかし無意識のうちに俺は両手を上げて無抵抗のポーズをとっていた。弱いぞ、
「ん~?」
俺の質問を軽く流してケモ耳女はニヤニヤしている。なにトボけてんだと言わんばかりだ。まずい。これは本格的にまずい。相手は美人、となればこれは
しかし、ここは異世界。ファンタジー世界といえば聞こえはいいけど、法と秩序とモラルがファジーなヤバい世界。脅しや
「ぷっ、あははは!」
そんな疑問符を吹き飛ばすようにヨウコが突然笑いだした。見た目に反した豪快な笑い声をあげて腹を抱えた彼女のきつね尻尾がぶんぶんと揺れる。
「やっぱり旦那様はピュアなんですね。あはは……!」
「どういう、ことだ……?」
ひとしきり笑ってからヨウコはことのあらましを語り始めた。
昨晩ギルドの食堂の端っこで独りで酒を飲んでいた俺を発見した。うん、昨日は飲んだ覚えがある。なにかと辛い異世界暮らしに酒は必要不可欠だからな。
近くに座ったヨウコは俺からの視線を感じた。そりゃ、美人だしきつね耳きつね尻尾付きだからな。
ヨウコは俺に声をかけ、意気投合。ふたりで酒盛りした後ヨウコ宅にて、
「ダウト、嘘乙」
「ええ~?」
「俺が女子からフリートークを振られたことなんてなかったし、酔ってたからといってあんたみたいな美人とおしゃべりする話題なんてないし、まして一夜の純愛とかハードル高過ぎだし俺童貞だし、非モテのオタク童貞がモテるとかS〇Xとか、ラノベですか? 異世界ファンタジーよりも
「あはは……昨日と同じようなこと、言ってますね」
「……あれ?」
思い出せませんか、と小首を傾げるヨウコ。その仕草を引き金に記憶の断片が逆流してくる。酒の
「……あっ、れぇぇぇ?」
嘘だろ、おい?
いやいや、あり得ないって! 俺は小林克人、童貞(仮)で一応はチート能力持ちの異世界転生者だ。けど、剣と魔法のファンタジーで活躍できるような凄いチカラは持ってないし、イケメンでもなければ財力もない。普通にモテない。ましてこんな美人に相手にされることなんてあり得ない。
「それが一体、どうしてこうなった?」
「それはきっと運命です、旦那様」
「ひぃっ⁉」
受け入れがたい事態を運命だとのたまい身をくねらせるヨウコ。怖い。運命という言葉をこんなに重苦しく感じる時がくるなんて童貞(仮)は想像もしていなかった。
「い、いやぁ……どうしてそう思うのかな、キミは? それに旦那様って……」
「それはヨウコが運命を確信したからです! 旦那様」
「いやいや。たった一晩、だ。そんな確信的なコトなんてそうそうないって」
「そんなことはありません。後ろから羽交い絞めにされて耳を
「無茶苦茶してんな⁉ 昨日の俺!」
「そう、あれは四回戦目でのことでした!」
「無茶苦茶シテんな⁉ 昨日の俺!」
酔っちゃってヤッちゃった。
こうして俺、小林克人は転生先の異世界で童貞を卒業した。
そして謎のきつね耳の亜人、ヨウコと強制的にコンビを結成したのだった。
「責任、とってくださいますね旦那様?」
「……はい」
この出会いが俺のしょうもないチート能力を開花させた事実をこの時の俺はまだ知らないのだった。
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